継承をテーマに新国立劇場で初春歌舞伎公演 初台で初役づくし、菊五郎、時蔵親子三代の華やぎ
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建て替え工事のため2024年は、東京・初台にある新国立劇場での開催となる国立劇場「初春歌舞伎公演」。継承をテーマに上演されるのは、『梶原平三誉石切』『芦屋道満大内鑑-葛の葉-』『勢獅子門出初台』の三演目だ。新国立劇場ホワイエで開催された取材会に顔を揃えたのは、尾上菊五郎、中村時蔵、尾上菊之助、坂東彦三郎、中村梅枝、中村萬太郎。そこで語られた内容をお届けする。
見やすい客席、劇場の可能性
取材会は「2024年、初春歌舞伎はいつもの三宅坂ではなくこの初台でつとめさせていただきます」という菊五郎の挨拶でスタート。
尾上菊五郎
「舞台は国立の小劇場より若干大きく、(廻り舞台の)盆もございます」と語ったのは時蔵で、初めての歌舞伎公演となる劇場での上演に対する心配を和らげた。
中村時蔵
それを後押しするように、「すり鉢状の構造でどの席からもとても見やすい」(菊之助)、「地方巡業などでいろいろな劇場を経験しており、ハコが変わったからといって芸が変わるわけではないので不安はない」(彦三郎)、「非常に見やすそうな客席だというのが第一印象」(萬太郎)とそれぞれに感想を述べた。楽屋の広さに言及したのは菊五郎で「うろうろしちゃってくたびれちゃったよ」と場を和ませた。
『梶原平三誉石切』、『芦屋道満大内鑑-葛の葉-』はいずれも古典の名作でそれぞれに重要な役を菊之助、彦三郎、梅枝、萬太郎が初役で演じるフレッシュな舞台で、『勢獅子門出初台』は出演者総出の華やかな舞踊。個々についての概要を抜粋する。
初役づくしの『梶原平三誉石切』
梶原平三景時:尾上菊之助
『梶原平三誉石切』の主人公である平家の武将・梶原平三を演じるのは菊之助。
尾上菊之助
「懸命に生きる人たちがいて、懸命に生きる人を見てくれる人がいる。その生きざまの美しさ、梶原平三の思いの高さ、深さ、仁と義。智仁勇という日本人が大切にしなければならないことがたくさん詰まった、お正月にふさわしい作品だと思います。(この役を得意とした)岳父(二世吉右衛門)から直接お教えいただくことはかないませんでしたが、岳父が初代(吉右衛門)から受け継いだ刀で勤めさせていただきます」
生前に吉右衛門が誂えながらも未使用のままとなっている印籠を身につけて舞台に臨むという。
平家方の武将が参詣する鶴岡八幡宮を舞台に始まる物語で、梶原に拮抗する役どころとなる大庭三郎を演じるのは彦三郎だ。大庭は父・坂東楽善が何度も勤めている役である。
坂東彦三郎
「(2017年の九代目彦三郎)襲名で梶原をさせていただいた時の大庭も父でした。大庭で一番大事なのは大名らしくあること。舞台での行儀や、『稽古中は謙虚に、本番は大胆に』など、日頃からの父の教えを大切にと勤めます」
大庭に家伝来の家宝の刀を買ってもらいたいとやって来るのが六郎太夫親子で、六郎太夫の娘・梢は梅枝である。
中村梅枝
「梢は私の祖父(四世時蔵)が一月公演で勤めていた役で、その千穐楽の日に祖父は他界しました。祖父にとって最後の役ということもあり、いつかさせていただきたいと思っておりました。源氏と平家の争いを背景とした物語ですが、そこを突き詰め過ぎずに親子の情を大事にストレートに勤めることが大事なのでは、と思っております」
六郎太夫と梢を窮地に立たせるのが、萬太郎が勤める大庭の弟である俣野。〝赤っ面〟と称される役どころだ。
中村萬太郎
「大庭がどっしり構えている中で俣野は大庭の手の届かないところに手を伸ばしてあげるような存在。変に遠慮せず突っ込んで憎々しく勤めあげたいと思っています」
「大庭方と六郎太夫、それぞれの心情を受け止めて、日本人と刀、刀というものの意味は(何か)込めて演じたい」という菊之助を中心に華やかな舞台となる模様だ。
『葛の葉』では廻り舞台で三方飾り
女房葛の葉:中村梅枝
陰陽師の安倍晴明が信田の森の白狐の子であるという伝説を題材とする『葛の葉』。白狐の化身である女房葛の葉と、瓜二つの葛の葉姫の二役をやはり初役で勤める梅枝は、「人ならざるものゆえの、深い愛情をストレートに出せればと思っております」と語る。
子供との別れを決意する葛の葉が障子に和歌を書き残す場面での「曲書」と呼ばれる技巧、狐の本性を垣間見せるけれん味ある演出など視覚的みどころも注目の作品で、梅枝はこの役をたびたび演じている父時蔵に習うという。
「技術だけでなく、役に対する姿勢や考え方など心根の部分をきっちりと継承していきたいと思います」
葛の葉の夫である安倍保名を演じるのは時蔵で、『葛の葉』上演に至った一因を次のように語った。
「新国立劇場には盆はないと伺っていたのですがそうではないと知り、せっかくならと使えるものをと思いました。歌舞伎の醍醐味である盆を使っての三方飾りをお見せしたい」
三世代が揃う『勢獅子門出初台』
芸者お時:中村時蔵 鳶頭音羽の菊五郎:尾上菊五郎
菊五郎の鳶頭、時蔵の芸者を中心に出演者総出となる『勢獅子門出初台』は、江戸の祭りの風情たっぷりの舞踊。菊之助の長男・丑之助、甥の眞秀、彦三郎の長男・亀三郎、梅枝の長男・小川大晴らの子役も出演し、未来の歌舞伎を担う世代と共に国立劇場の新たな門出を寿ぐ。
取材・文=清水まり
公演情報
【会 場】 新国立劇場 中劇場
【料 金】(税込) 一般:1等席12,000円 (学生:8,400円)
【料 金】(税込) 一般:2等席8,000円 (学生:5,600円)
【料 金】(税込) 一般:3等席4,000円 (学生:2,800円)
※障害者の方は2割引です(他の割引との併用不可)。また、車椅子用スペースがございます。
鶴ヶ岡八幡社頭の場
梶原平三景時 尾上 菊之助
大庭三郎景親 坂東 彦三郎
六郎太夫娘梢 中村 梅 枝
俣野五郎景久 中村 萬太郎
梶原方大名 市村 竹 松
梶原方大名 市村 光
青貝師六郎太夫 嵐 橘三郎
囚人剣菱吞助 片岡 亀 蔵
ほか
『芦屋道満大内鑑』
―葛の葉―
信田庄司 河原崎権十郎
庄司妻柵 市村 萬次郎
安倍保名 中村 時 蔵
ほか
『勢獅子門出初台』
鳶頭 音羽の菊五郎 尾上 菊五郎
鳶頭 鶴吉 尾上 菊之助
鳶頭 亀吉 坂東 彦三郎
芸者 お梅 中村 梅 枝
鳶頭 萬吉 中村 萬太郎
手古舞 おゆう /若い者 勇吉 坂東 亀三郎
手古舞 おふみ/若い者 文吉 尾上 丑之助
手古舞 おひで/若い者 新吉 尾上 眞 秀
手古舞 おせい/若い者 清吉 小川 大 晴
世話人 松島屋亀蔵 片岡 亀 蔵
世話人 山崎屋権十郎 河原崎権十郎
芸者 お橘 市村 萬次郎
芸者 お時 中村 時 蔵
ほか
主催=独立行政法人日本芸術文化振興会