久本雅美、松竹新喜劇の藤山扇治郎&渋谷天笑に、ある「伝統」をリクエスト━━正月恒例『お年玉公演』の見どころも
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右から藤山扇治郎、久本雅美、渋谷天笑 撮影=井川由香
2024年1月2日(火)より京都・南座で幕を開ける『初笑い! 松竹新喜劇 新春お年玉公演』。今回も久本雅美が客演で登場し、華を添える。2023年5月、松竹新喜劇は藤山扇治郎、渋谷天笑、曽我廼家一蝶、曽我廼家いろは、曽我廼家桃太郎の5人が新リーダーとして、劇団を引っ張る立場となった。今回は新体制での初めての南座公演とあって、リーダーたちも気合いを入れている。SPICEでは藤山扇治郎と渋谷天笑、ゲスト久本雅美の座談会を実施。気心の知れた3人だけに、座談会も笑いが絶えず、和気あいあいとした雰囲気に。その楽しそうな様子に、ますますお正月公演が楽しみになった。
下段右から渋谷天笑、藤山扇治郎、久本雅美、曽我廼家一蝶、上段右から曽我廼家いろは、曽我廼家桃太郎
座談会の前に、大阪市内で行われた取材会では、藤山扇治郎、渋谷天笑、曽我廼家一蝶、曽我廼家いろは、曽我廼家桃太郎、そして久本雅美が登壇し、次のように意気込んだ。
藤山扇治郎:Aプロの「小判掘出し譚(こばんほりだしものがたり)」は個人的には初めてさせていただくお芝居で、36年ぶりに上演される演目です。Bプロの「蕾(つぼみ)」はわかぎゑふさんの作品で、初めて松竹新喜劇でさせていただきます。今回も久本さんにゲストで出演していただきまして、しかもAプロ、Bプロの両方に出ていただけるということで、本当に感謝でございます。
渋谷天笑:「小判掘出し譚」では大西という藤山寛美先生のお役をやらせていただきます。今から緊張でいっぱいですけれども、僕なりの大西を作り上げていきたいと思います。どうぞよろしくお願いいたします。
曽我廼家一蝶:渋谷天外さんが勇退されて、新体制になって初めての南座です。我々5人を中心にさせていただくので頑張っていかなあかん。「蕾(つぼみ)」で私は初めて女性の役をさせていただきます。私の中のおばちゃんの部分を一生懸命引き出して、「こんなおばちゃん、どこかにおるな」と思ってもらえるような役作りができたらと思っております。もう一つ、新たな試みとしまして、AプロとBプロのどちらかを観ていただいたお客様は、次回を半額で観られるというリピーター割引をさせていただきます。
曽我廼家いろは:2024年のスタートとなる公演を1月2日(火)から南座でさせていただけることを、本当に嬉しく思っております。私は「蕾(つぼみ)」では未亡人の役で、「小判掘出し譚」ではちょっとおかしな専務のお役ということで、最近は娘役から少し離れたお役をさせていただくことが多いのですが、重厚感をもって演じたいです。
曽我廼家桃太郎:私は去年の1月は別の公演の稽古に行っておりまして、参加することができなかったので、2年ぶりの南座公演。また、久本さんと共演させていただけるということで、個人的に非常にウキウキしております。このウキウキした感じが皆様に伝わるようにお芝居をしていきますので、どうぞよろしくお願いいたします。
久本雅美:京都の南座での松竹新喜劇はもう8回目になります。いつもいつも呼んでいただいて、大変光栄に思っております。今回はAプロの方でちょこっと出させていただいて、Bプロは老舗の料亭の長女の役と、Aプロ、Bプロの両方に出演させていただきます。若手の皆さんが中心となってお正月公演を盛り上げるということで、私はどう考えても彼らのお母さん的な感じだなと思っているわけでございますけれども(笑)、彼らと一緒に面白い作品を作れるように努力して、頑張っていきたいと思っております。
続いて、藤山扇治郎、渋谷天笑、そして久本雅美による座談会の模様をお届けしよう。
「扇治郎くんも天笑くんも立ち方が安定してきた」(久本)
――松竹新喜劇は、2023年5月に若手5人がリーダーの新体制になりました。南座での松竹新喜劇公演には2016年から出演されている久本さんからご覧になって、扇治郎さん、天笑さんのお芝居など、この8年で変わったなぁと思われることはありますか?
久本:ぶっちゃけ、年に1回しか会ってないからね(笑)。でも、扇治郎くんも天笑くんもこの8年でたくさん舞台を踏んでいるので、立ち方が安定してきたというか。今日も取材会での扇ちゃんのおしゃべりとか、ほんまにしっかりしてきたなぁと思って。ちゃんと要約して言ってたので、しっかりしてきたなと思いましたね。天笑くんも松竹新喜劇をこれから自分らで背負っていくんだという、そういう息吹をすごく感じるので、素晴らしいなと思っています。
扇治郎・天笑:ありがとうございます。
――新体制で初めての南座お正月公演ですね。
扇治郎:僕らは毎月公演をしているわけじゃなく、5月の新体制での公演も、もう1年前に感じるくらい空いています。そういう意味ではまだリーダーの実感が伴わないのですが、公演のチラシを見たときに、こんな真ん中で載せてもらって……と思ってドキッとすることはありました。
天笑:前から載ってるやん。
扇治郎:前から載ってますけど、余計に。
久本:リーダーは5人のうち誰かがじゃなくて?
扇治郎:はい、そうなんです。まだ松竹新喜劇を背負えるような者でもないので、その責任を5人に分配してもらえたのはありがたいなと思います。
天笑:僕ら若い世代が前に出ることによって、同世代の方にも松竹新喜劇に興味を持ってもらえるのかなと思いますし、興味を持ってもらわないとダメだなと思います。同じようにあまりリーダーの実感はないのですが、今は一生懸命、お役をやらせていただくことしかないと思っております。
「Aプロ、Bプロどちらもお正月に相応しい作品に」(扇治郎)
藤山扇治郎
――Aプロ、Bプロの演目の見どころと、ご自身の役で大切にしたいところを教えてください。
扇治郎:松竹新喜劇はお金で心を揺り動かされる作品が多いのですが、Aプロの「小判掘出し譚」もみんなが小判に振り回されるような話で。この作品では、最終的に心が温かくなるような、人の情が出ているいい作品だと思います。今回は村角太洋さんが脚色・演出してくださるので、昭和にできた作品を令和のバージョンに変えて、たくさんの方に喜んでいただける作品になると思います。Bプロの「蕾(つぼみ)」は、元々は「お見合」というタイトルでわかぎゑふさんが上演されていました。家族の話で、長女を中心に人と人との関わりとか、絆とか、そういうものが詰まっていて、松竹新喜劇にもってこいかなと思います。どちらもお正月に相応しい作品です。
天笑:「小判掘出し譚」は「人は見た目によらない」というような話だと思っております。迷惑ばっかりかける大西が最後はどんでん返しをする。実は……とどんな人だったかがわかる展開です。「蕾(つぼみ)」はたくさんのお見合いカップルが出てくる、今の時代に合っている作品だと思います。松竹新喜劇にとって新しい作品ですし、これから5人中心でやっていくにあたって、こういう作品がすごく大事になってきますので、お客様の反応を楽しみに頑張ります。
久本:「小判掘出し譚」では最後の方で少しだけ、顔見せという感じで出させていただくのですが、少しだけ出るというのがまた難しい。出たからには自分のお役の面白さをどーんと出さなきゃいけないと思っていますので、そのへんも自分でいろいろ考えて、ちょっとの時間でも出たからには皆さんに喜んでいただけるように頑張りたいと思います。「蕾(つぼみ)」は、老舗料亭の長女のお役で、最初は怒ってるようなきつい感じなんです。なので、うまいことバランスをとりながら、ハートフルな芝居の一つのピースになれたらと思います。
「新リーダーという立場に気遅れしている場合じゃない」(天笑)
渋谷天笑
――新リーダーが中心の松竹新喜劇ですが、稽古場はどんな雰囲気になるでしょうね。
久本:たぶん、のびのびすると思います(笑)。
天笑:お姉さん(久本)もそうちゃいます?
久本:私は元々、部外者やから、これまでも本当にマイペースでやってたけど、若手はかわいいから、稽古でもちょっとやったら呼んで、「あそこはこうやって……」とか、松竹新喜劇の先輩方がずっと教えているんですよね。その姿を見ているから、今度は私がそれやらなあかんのかな……みたいな(笑)。まあ、それはないんですけども(笑)、扇ちゃんや天笑たちも自分のやりたいこととか、あるんちゃう?
扇治郎:そうですね。いい意味で環境が変わったというか。その分、はっちゃけすぎてあかんふうになる場合もありますので、僕の中では引き締めながら頑張っていこうと。いい勉強になるんじゃないかなと思います。責任もありますけれども、久本さんも見てくださっていますし、みんなで力を合わせて、いい公演にしていきたいですね。初めての経験なので、どうなるか……。
天笑:まあ、気遅れしている場合じゃないなと思いますし、お客さんに楽しんでもらうことが一番なので。姉さんも「まず楽しむことが大事や」とよう言ってくれはって。
久本:そうやでぇ! みんなで「もっとこうなったらおもろなるんちゃう?」とか話し合いながら。演出家を中心に和気あいあいとできたらいいよねと思いますね。
天笑:「小判掘出し譚」も新作のような話ですからね。36年もやっていないお芝居ですから。
「みんなの芝居を見ながら自分も頑張るという視点は忘れたらあかん」(久本)
久本雅美
――ちなみに久本さんから新リーダーに、こうしてほしいとか何かリクエストはありますか?
久本:なんやろう……。あえて言うならば、みんなは劇団員の芝居をちゃんと見るので、そこの伝統はちゃんと守っていった方がいいかなと思います。自分が面白ければいいとか、自分のところだけやったら終わりじゃなくて、せっかく5人の体制ができたので、松竹新喜劇の全体を底上げしていくために、一人一人を輝かせていく。そのためにはどうしたらいいのか、みんなの芝居を見ながら自分も頑張るという視点は忘れたらあかんのちゃうかなって思いますね。でもまあ、私は自分の芝居以外は休憩しますけどね(笑)。
天笑:えー!
久本:いやいや、私も人の芝居をちゃんと見る方なんで。台本通りにはやるんですけど、そこから膨らませたり、削ったりということも現場でやっていくので、そこは一体になってやっていかんと。私も今、責任感じるなぁと思っていて。やっぱり少し先輩ですので。でもね、この子らが偉いのはちゃんと「どない思います?」と聞くんですよ。
天笑:言いやすいですからね、姉さんは。言いやすいし、聞いてくれはるから。
久本:私ね、扉全開なんですよ! 一回も閉店したことがない。シャッター上げっぱなしなんで。「あそこは繋がってないから気持ち悪くないですか?」とかって聞いてきて。二人ともお芝居をちゃんと見ているので、そこが素晴らしいなと思いますし、お芝居が好き、松竹新喜劇が好きだという気持ちがすごいことだと思います。
――扇治郎さん、天笑さんは、松竹新喜劇のどういうところをアピールして、新しくスタートをしたいと考えていらっしゃいますか?
扇治郎:松竹新喜劇は2023年で75周年ですが、僕もまだ劇団に在籍して10年ですし、その中では僕らはまだひよっこな部分もあります。ですが、そういう意味ではこの5人のリーダーになったことで作品も新しく若返るのではないかと思います。技術は先輩にはなかなか敵いませんが、お芝居が若返ったな、新しいお芝居になったなと思っていただけることも多いはずです。なので、この南座公演も若返りのスタートだと思っています。
天笑:僕は今、39歳なんですけど、同世代で松竹新喜劇を知らない人に観に来ていただきたいと思っています。それで僕たちと一緒に年を取っていけたらというのが理想ですね。
――「小判掘出し譚」では村角さん、「蕾(つぼみ)」ではわかぎさんが演出されますが、外部から演出家をお招きする芝居では、どんな刺激を受けていらっしゃいますか?
扇治郎:演出家の先生の存在はめちゃくちゃ大事なので、村角さんとわかぎさんに来ていただけるのはありがたいです。今回は新作のような形で上演しますが、松竹新喜劇は過去の作品をやることが多いので、新しい作品を作っていく作業は勉強になると思っています。
久本:前回の「流れ星ひとつ」(2023年)もほとんどやり直したもんな。台本をブワーッ変えたよね。
天笑:結構いい感じに仕上がって。千穐楽を終えて、姉さんと一緒に東京に帰ったんですけど、新幹線の中で「面白かったな!」と話しました。
久本:髙田次郎さんも観に来てくれて、「うちにこんなええ芝居あったんか」と言って喜んで帰ってくれはったのが最高の誉め言葉やったんで。もう、みんなで「ああでもない、こうでもない」と言って、毎日、毎日、部屋に帰っては台本を変えて、変えて。おかげさまで好評を得たので、2人でめっちゃ嬉しなって。新幹線の中で熱く語り合って。
天笑:いい思い出ですよね。
久本:いい思い出や。それぐらいまたええものを作りたい。
扇治郎:今回もお客様に喜んでいただけるよう、演出家の皆さんと一緒に一生懸命お稽古をして、本番を迎えたいですね。
取材・文=Iwamoto.K 撮影=井川由香
公演情報
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※Aプロ・Bプロ、全ての席種(等級)を半額でご購入いただけます。
※ご観劇前の
※半券一枚につき、
※一度ご購入された