笑いの求道者たちの、それはおかしな展覧会『笑うアートマンションと10人の住人展』レポート

2024.1.26
レポート
アート

『笑うアートマンションと10人の住人展』展示風景

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『笑うアートマンションと10人の住人展』が、2024年1月19日(金)から2月18日(日)まで、デザインフェスタギャラリー原宿 EAST館にて開催中だ。本展はTOKYO MXにて放送中の『⼩峠英⼆のなんて美だ!』のスピンオフ企画展。ギャラリーをマンションに、そして個性豊かな10人の出展者をその住人に見立てて、めくるめく笑いの波状攻撃を繰り出してくる展覧会である。

参加クリエイターはカズレーザー(メイプル超合金)、さらば青春の光、ヒコロヒー、街裏ぴんく、AR三兄弟、いしかわかずや、スーパーマーケットカカム、ミチル、藤原麻里菜など。タレント、アーティスト、SNSクリエイターなど、多様な業界で「笑い」を追求する彼らによる、“笑えるアート作品”を堪能しよう。

こんな美だ!

展示風景

展示風景

冒頭では、これまで番組内で生み出された多数の作品が展示されている。番組MCである小峠英二を題材にした作品や、現役芸大生アーティスト・池田瑛紗(乃木坂46)による作品も並んでいるので注目だ。

受賞作品たちの鋭い笑い

展示風景

隣では、公募プログラム『笑えるアート大賞2023』の受賞作品を見ることができる。応募総数およそ370件の中から栄誉を手にした“笑えるアート作品” たちは、さすが見応えがある。展示室中央に並ぶ4台の電子レンジが、大賞を受賞した森田直樹《レンチン・シアター》だ。スタートボタンを押したあと「チーン!」と鳴るまでのあの空虚な待ち時間が、ちょっとした驚きと笑いで彩られる。家電メーカー各社はこのアイデアを見逃さないほうがいいとしみじみ思う。

佐々木遊太《タイトルなんてラララ》

QRコードを利用したインタラクティブな仕掛けを持つ、佐々木遊太《タイトルなんてラララ》も面白い。なんとも言えない表情が描かれたキャンバスと、デジタルのキャプションパネルを組み合わせた作品だ。QRコードからサイトにアクセスすることで、誰でもこの絵画のタイトルを変更することができる。なるほど……。キャプションパネルに堂々と明朝体で記されていると、なんでもタイトルとして納得させられしまいそうだし、キャンバスの微妙な表情も“そう”としか見えなくなってくる。ギクリとさせられるような、アート鑑賞に対する皮肉な笑いである。なお、これまでに付けられてきたタイトルが一覧できるシートが用意されているのでそちらも必見。個人的には《最後の餃子が余計だった》こそが真のタイトルだと感じて笑ってしまった。タイトルなんて、それしかないなら何だって納得できるけど、比較するものがあると「もっと合っているものがあるはず」と追いかけたくなってしまうモノなのかもしれない。ああ、タイトルなんてラララ ラララララ。

アイデア満載のマンション2階

展示風景

2階へと上がり、まずはSNSを中心に活動するクリエイター・ミチルの部屋へ。椅子や傘など、何気なく置かれたアイテムひとつひとつにクスッとくる仕掛けが施されている。例えば左手に置かれたちょっとモダンなデザインの椅子は《肝がすわる椅子》。よく見れば背もたれの部分が思いっきり「肝」である。

ミチル《空缶》

《空缶》は、青空模様の空き缶。あきかん、ではなく、そらかん、と読むのが正解だろうか。青空で埋まっているゴミ箱、というのがちょっとマグリットっぽくてグッと来る。SNSに写真をアップしたくなる一作である。ほんの少しだけ、ちゃんと分別・リサイクルしなきゃという気持ちにもなりそうだ。

展示風景

こちらはアイデアクリエイター・いしかわかずやの部屋。興味深いのが、ありそうで無かったアイデアグッズの展示に加えて、その発想プロセスを丁寧に言語化して展示しているところだ。アートというより研究発表に近いものの、鑑賞者にひらめきの種を残してゆく、愛ある展示である。

いしかわかずや《マンタのロッカーキー》

作家の数あるアイデアの中で、特に輝いていたのは《マンタのロッカーキー》。全国の水族館でぜひとも採用してほしい!

夢のような巨大トーストで夢を見る。

展示風景

スーパーマーケットカカムの部屋は、食材をテーマにしたクリエイターらしくキッチンになっている。中央に鎮座するのは巨大な食パン形ベッドだ。トマトにきゅうり、マッシュルームなどのトッピング用クッションも揃っている。靴と照れくささを脱ぎ捨て、欲望のままにふかふかパンへとダイブしよう。レタスそっくりなブランケットをかけて目を閉じれば、幸福感に浸れること間違いなしだ。笑顔が心をほぐすからか、通りがかった人に「写真撮ってもらってもいいですか?」のお願いもしやすい。きっと誰だって、これは撮りたい。

スーパーマーケットカカム《昆布》

パンのほか、キッチン内には他にも《昆布》と《サラダチキン》の展示があるのでお見逃しなく。

解らないという面白さ

街裏ぴんく《「ZEGE展」愛媛県是毛町ー突然消えた小さな町ー》

さて。個人的に、本展で最も心に残ったのは街裏ぴんく《「ZEGE展」愛媛県是毛町ー突然消えた小さな町ー》である。芸人・漫談家である作者による、“消えた架空の町の過去についての研究発表”という形をとった異色のアート作品だ。ジオラマや写真など、展示物はどれも神妙な顔つきをしているが、町も住民も歴史も全てがフィクションであり、根も葉もない。しかも、ちょっとずつ変である。それなのに、見ていくうちに“消えた是毛町”が強烈な実在感とともに迫ってくるのだ。

会場内で流れている音声ガイドもおすすめ。ナンセンスな笑いが散りばめられているけれど、総じてホラーゲームのシナリオを読んでいるような感覚で、鑑賞を続けながら妙なスリルと興奮があった。そしてそんな鑑賞者を嘲笑うように、点と点はつながらないし、伏線のように思われる部分も回収されない。この町に何が起きたのか、謎は深まるばかりだ。私は次なる『ZEGE展』の開催を心から期待している。

タレントさんのおしごと

展示風景

3階にあるカズレーザー(メイプル超合金)の部屋へお邪魔しよう。手前は、ドヤ顔で180°開脚する写真を撮影&アップできる《BETAAAAAAAA》。しゃらくさい……でもちょっと羨ましい……SNSによくある“これ見よがしな”スタイル自慢写真への、そんなモヤモヤを解消させてくれる作品だ。

カズレーザー《タレント心臓握りの刑》

《タレント心臓握りの刑》には衝撃を受けた。モニターに繋がった心臓をギュッと握ると、ワイプ画面にいるカズレーザーに苦痛が伝わるようになっている。「ワイプで表情作ってるだけで金を稼ぐなんて!」と芸能人に対して不満を抱いている人の、ガス抜きとのことである。心臓を握る行為を“罰を与える”と表現しているあたりに痛烈な皮肉が漂う。そして問題提起に満ちた立派なアートでありながら、やってみるとちょっと可笑しい、というバランス感覚が絶妙だ。

そこに、誰かいますか

最後に、芸人・俳優・執筆家など多彩な顔を持つ、ヒコロヒーの部屋へ。薄暗い室内には電話ボックスと、順番待ち用と思われるベンチがポツンと佇んでいる。

ヒコロヒー《テレフォンボックス》

ボックス内は大量のチラシで埋め尽くされている。いかがわしげなリンリン倶楽部や、ココロの110番、キャッシングサービス、バンドメンバー募集など……もう忘れかけていた電話ボックスの風景、入った時のムッとする空気などが一気に思い起こされる。「ボックス内にある電話番号にかけてみてください」とのことなので、大いに悩んだ末、バンドのメンバー募集にかけてみた。すると……

ヒコロヒー《テレフォンボックス》

受話器の向こうには、確かに気だるげなバンドマン(ヒコロヒー)がいた。他の番号にかけると、きっとそれぞれ全く違ったヒコロヒーが出てくるのだろう。喋りが面白くてつい吹き出してしまったが、驚くべきは尺の長さである。こちらから切らない限り、相手は喋り止んでくれないのかもしれない。電話ボックスの順番待ちに並び、どこにかけるか自分で決めて、どこかで自ら電話を切るという、比較的前のめりの参加を求められる体験型アートである。自分で考えて決めるところが多いだけ、心は動く。

すべての番号にかけてみたい気持ちはあったが、後ろに並んでいる人がいるので諦めた。そういえば、電話がみんなのものだった時代はこんな感じだったな、とまた思い出した。

ここでしか手に入らないオリジナルグッズも

物販コーナー

物販コーナーでは、池田瑛紗(乃木坂46)の手がけた展覧会アザービジュアルをあしらったオリジナルグッズが並んでいる。また、人気クリエイター「ピュティフィ」とのコラボグッズも会場限定で販売されているので見逃せない。

展覧会オリジナルグッズ(一部)

ランダムアクリルキーホルダー(全8種・税込880円)の中に、マンタのロッカーキーや食パンベッドを発見して嬉しくなってしまった。展示は無いが、住人のひとりである藤原麻里菜の代表作(?)《オンライン飲み会緊急脱出マシーン》がラインナップされているのも、ツボを心得ている感じがする。

『笑うアートマンションと10人の住人展』は、2月18日(日)まで、デザインフェスタギャラリー原宿 EAST館にて開催中。スタイリッシュで、ちょっと知的。誰かに見せたくなる写真が撮れること間違いなしの展覧会だ。笑いの求道者たちが住まうこのマンションに、ぜひ遊びに行ってみてほしい。


文・写真=小杉 美香

イベント情報

笑うアートマンションと10人の住人展
■会期:2024年1月19日(金)~2月18日(日) ※会期中休館日無し
■開館時間:11:00~19:30(19:00最終入場) ※入館は事前予約制
■会場:デザインフェスタギャラリー原宿 EAST館
(〒150-0001 東京都渋谷区神宮前3丁目20-2)
■主催:株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメント
■参加クリエイター(敬称略):
カズレーザー(メイプル超合金)/さらば青春の光/ヒコロヒー/街裏ぴんく/AR三兄弟/いしかわかずや/スーパーマーケットカカム/ミチル/藤原麻里菜/「小峠英二のなんて美だ!」/『笑えるアート大賞』受賞者
料金 *税込(円)      
・前売券:一般・大学生 1,500円 / 中・高校生 1,000円 / 小学生 500円
・当日券:一般・大学生 2,000円 / 中・高校生 1,200円 / 小学生 700円
■販売情報
[年齢制限:※6歳未満未就学児入場無料]
※本展覧会は平日は日にち指定、土日祝日は入場日時指定制となっております。
入場には電子をスマートフォンで提示する必要があります。
※土日祝日の入場時間は30分単位で分かれており、時間帯ごとに入場できる人数には制限があります。
入場可能時間=記載入場時間から30分以内。入場可能時間内(例:11:30~12:00)にお越しください。
遅刻された場合、当日のみ入場可能ですが、混雑状況によりお待ちいただく可能性がございます。
※入場後の滞在時間の制限はございません。
の変更・払い戻し・再発行・転売不可
※前売り券、当日券ともに購入の際はコンビニ払い、およびクレジットカード決済が可能です。
(セブン-イレブン/ファミリーマート/ローソン・ミニストップ)
※当日券情報は、公式X(旧Twitter)にてご確認ください。(オンライン購入のみ)