「ただいま」「おかえり」という関係性ーー退団を控えたOSK日本歌劇団トップスターの楊琳&舞美りら、互いへの信頼と思い出を語る

2024.2.14
インタビュー
舞台

右から楊琳、舞美りら 撮影=ハヤシマコ

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今年4月に創立102年を迎えるOSK日本歌劇団(以下、OSK)。現在NHKで放送中の、朝の連続テレビ小説『ブギウギ』でも話題を集めるOSKが、4月6日(土)~14日(日)に大阪松竹座で『レビュー 春のおどり』を上演する。そしてこの公演に主演するトップスター・楊琳(やんりん)と、娘役トップスター・舞美りら(まいみりら)が、南座『レビュー in Kyoto』(7月)を経て、新橋演舞場『レビュー 夏のおどり』(8月)をもって退団することが決定した。2007年初舞台、2021年トップスターに就任した楊。コロナ禍を乗り越え、2022年の創立100周年も頼もしく牽引した楊と、同時期に娘役トップスターに就任し、ともにOSKを盛り上げてきた2010年入団の舞美。劇団でも珍しい同時退団という選択をしたふたりに、これまでの思い出や春の公演、『ブギウギ』トークなど色々と語ってもらった。明るい笑顔の中にある信念、涙の裏の覚悟。多くの時間を共有してきたふたりならではの、心地いい空気感がずっと漂っていた。

――1月24日(水)、『レビュー 春のおどり』の製作発表記者会見で、おふたりそれぞれ退団に向けての想いを公の場で伝えられました。その後の率直なお気持ちから伺えますか。

楊:やっと皆さまに言えた! と。退団を発表するまではお客様に嘘をついているような心苦しさもあったので、今は妙にスッキリとした気持ちです。

舞美:私は今日、皆さまにお伝えしてジワジワと胸に迫ってくるものがありました。楊さんのトップお披露目公演が『STARt』というタイトルだったのですが、当時「“スタート”だけれど、ゴールに向かって歩いていくんだな」と勝手に自分で思って……(涙)。

楊:おぉ!?(涙に驚く)

涙が込み上げた舞美りらと、見守る楊琳

舞美:今日(1月24日)も、皆さんにご報告することによって、「卒業というゴールに向かって走り出したんだな」と感じました。

楊:そうなんだね~。

舞美:これまでは道が見えないなかを走っているようで、なかなか実感がわかなかったのですが、今はゴールへの道に光が当たった感じがして、あとはそこを邁進していくだけなのだなと。何も不安はないのですが、泣いちゃってスミマセン。

楊:いえいえ(笑)。

――会見で舞美さんは、「娘役トップスターに就任した時から、いつでも卒業できる準備をしていた」と、秘めた覚悟について語られました。楊さんは、そんな舞美さんのお気持ちを近くで感じることがありましたか?

楊:そうですね、本当にストイックな方なので。自分に一番厳しいところがすごいし、私はそんな舞美さんに支えられ、見本にし、カッコ良いなと思っていました。稽古場でもずっと踊っているし。でもひとりで黙々という感じではなく、いつも明るく劇団員の輪の中にいて、「みんなが笑っているのを見るが好き」という、それこそ太陽みたいな子。

舞美:え!? 楊さんも明るい方ですし、卒業の日まで毎日笑って稽古場で過ごしたいです。

楊琳

――楊さんはトップスター就任の時には、退団の時期を決められていたと仰っていましたね。

楊:私の性格上、ゴールを決めずに進むと、一瞬一瞬を大切にできないのではないかと思ったのです。トップの就任時、「この年に辞めよう」と決めて臨んだ方が、より充実した舞台人生になるのではと思いました。

――舞美さんは楊さんから、「一緒に卒業しませんか」とお声掛けされたと。

舞美:これまでOSKのトップスターさんはおひとりで卒業されるものだと思っていたので、「いいんですか!?」と驚きました。楊さんのご卒業(の重み)が半分になるわけではないですが、「私は添え物でいいんです!」という思いでした。

楊:ハハハ(笑)。

舞美:でもそのお言葉をお聞きできてうれしかったです。私が2年生の頃から相手役を務めさせていただくことが多かったので。

楊:多かったよね! 昔から男役と娘役が踊る場面でもよく組んでいたし。

舞美:最初に相手役をさせていただいたのが、楊さんが初主演された『OSK SHOW in オ・セイリュウ「トレジャー・ダンシング」』(2011年)でした。

舞美りら

――お互い最初の印象は?

舞美:楊さん、覚えてますか!? 私はめちゃくちゃ覚えてます(笑)。

楊:最初!? どんな感じでした?

舞美:楊さんは寡黙な方で、『オ・セイリュウ』の公演のときは、ずっと公演の曲を聴いて集中されていたので、「私なんかが話しかけてはいけない!」という緊張感もあって。

楊:いやー、若かったんですよ!(笑)

舞美:楊さんの足を引っ張らないように、と命を懸けてました。楊さんは「全然大丈夫だよ」「何かあったときには言うね」と仰ってくださったのですが、何も仰らないので「私、大丈夫!?」と思ったり。でも楊さんのお顔を見ると、「あ、今日はちょっと違ったんだな」とか、雰囲気で察知できるようになって。楊さん、毎回表情がすごく変わるので。「今のは良かったんだ。明日はさらにその上にいけたら」と臨んでいました。

楊:すごい! 私、上下関係がある時点で、何を喋っていいか分からなくなっちゃうんですよ。なかなか対等な会話って成り立ちにくいし、困らせちゃうことが多いので、だったら黙っていよう、という感じでした。最近自分自身感じるのが、年数を重ねると下級生の頃より物事を大きく俯瞰できるようになるということ。ガツガツ、せかせかせず、落ち着くんだなと思います。

――楊さんは、舞美さんが入団されたときのことを振り返るといかがですか?

楊:もう劇団でもざわついていました。「やっとこういう子が入ってきた!」という感じで、これから抜擢されていくのだろうなと楽しみでした。

舞美:クフ!

■OSK名物の高速民謡メドレーや、華やかな二枚扇の舞も!

楊琳、舞美りら

――おふたり揃って2021年にトップスターになられてから約3年。今ではお互いどんな存在ですか?

楊:やっぱり一番私を理解してくれる、心地いいパートナーという感じです。

舞美:ありがとうございます。私は楊さん以外の方と組ませていただくこともありますが、その公演が終わって、再び楊さんと組ませていただくと「ただいま」みたいな、安心感があります。

楊:「ただいま」(笑)!

舞美:やっぱり相手役の方とは、「どういうダンスの作り方をされるんだろう」とかから始まりますが、楊さんは自分のクセもすべて分かってくださっているので、隣でスポッと、はまるというか。言葉では表せない、故郷のような、ファミリーのような感覚があって。

楊:あぁ、ほんとにそういう感じですね。

舞美:自分を偽らなくていい、素の自分でいられる感覚があります。でもそれが甘えになってしまっているのではないかと思ったときも。ただ、自分を偽らないほうがいいのではないかと思い、今は「最大限に甘えさせていただきます!」という思いでおります。

楊:「おかえり」(笑)。

舞美:!(笑)。

――あらためて振り返って、特に思い出深い共演作は?

楊・舞美:(声を揃えて)いっぱいあるー!

舞美:私はお芝居が特に印象にあります。

――2016年の『ROMEO&JULIET』で、ロミオとジュリエットも演じられていますね。

舞美:そうです!

楊:もう何もかもが印象深くて、「特に」というのは断定できないかも。私は本当に「緊張しぃ」で、自分でもへんに生真面目だと思うんです。そんな私の隣で、いつでも「大丈夫、大丈夫」とドーンと存在してくれる舞美さんに、常に助けられてきました。だからどの公演も印象深いですが、特にというと……次の退団公演がそうなるのではと思います。

楊琳

――ちょうどお話の流れからも、退団公演の一環である『レビュー 春のおどり』について伺いたいなと思います! OSKにとって大阪松竹座での和物レビューは2年ぶりですね。

楊:そうなんです。それを聞いてびっくりしました。私たちは第1部が和物、第2部が洋物というのが通例で、それが本当に贅沢なことだったんだなとあらためて思いました。

――和物レビューは「春楊桜錦絵(やなぎにはなはるのにしきえ)」という楊さんのお名前の入ったタイトルで、山村友五郎さんの構成・演出です。チョンパで始まり、最後は楊さんの荘厳な舞があり、その歌詞を楊さんご自身が担当されると発表がありました。

楊:会見の場で初めて聞いて驚きました! 「入れてほしいワードを教えてください」と言われていたのでお送りしたのですが、「歌詞を書くの!?」と。ちなみに歌詞を書くのは初めてです。作文になってはいけないし、難しいですよね。

舞美:作詞デビュー!

――お稽古はまだですが、ほかに見どころとなりそうなポイントなど教えてください。

楊:今回、OSKの名物と言われる「民謡メドレー」が久しぶりに復活します。本当に高速なんですよ。

舞美:曲も振りも速いんです!

楊:お客様にお見せできるということで、ワクワクしています。

――コミカルなお芝居や、男役さんたちの殺陣もあるそうですね。殺陣はお好きですか?

楊:はい、好きです。殺陣は、ライトを浴びると刀身が見えなくなったりして、気を抜くと危ないんですよ。なのでいつもお稽古は特に励みます。

――舞美さんは二枚扇の舞のシーンなどがあるそうですね。

舞美:私に小道具を持たせてはいけない(笑)。本当に不器用で、手先がプルプル震えちゃうのですが、まさかの二枚扇! 一枚だけでも大変なのに左手でも……。

楊:左手の扇は難しいよね。

舞美:最後の最後まで試練を、先生方からの愛を頂きましたが、苦労が多い分、お客様には魅力的に華やかに映ると思うので、楽しんでいただけるよう頑張ります。

舞美りら

――洋物レビューは荻田浩一さん構成・演出の「BAILA BAILA BAILA」。スペイン語で「踊れ、踊れ、踊れ」という意味のタイトルに相応しい、ダンス満載の迫力あるステージとなりそうです。朝ドラ『ブギウギ』で、OSKがモデルになっている「梅丸少女歌劇団(USK)」のレビューシーンも、新たな演出で盛り込まれると伺いました。

楊:『ブギウギ』は毎日観ています。私と舞美さんは出演していないので、その世界に触れられるのが楽しみだよね。

舞美:はい!

――OSKの大先輩である笠置シヅ子さんが主役のモデルとなっているドラマ『ブギウギ』をご覧になって、どんなことを感じますか?

楊:みんなで労働運動、桃色争議を起こしたり、戦時中であったりと、先輩方のバイタリティ、それこそ生命力が、時代的にもより強かったと思うんですよ。生き抜かなければいけないというパワーがある舞台は、どれだけ力強かったのだろうと思います。私たちも劇団の100年史などでは知っていたのですが、リアルに視覚から物語として入ってくるのは違います。今の私たちもやはり力強く舞台を務めなければ! とすごく感じました。

――『ブギウギ』の中で、幼少期の福来スズ子(=花田鈴子)さんに、劇団の先輩の大和礼子さんが「お客様は現実を忘れに劇場にいらっしゃる」、さらに「お客様は現実に立ち向かう力をもらいに来る」と語る台詞がありましたね。

楊:本当にその台詞の通りだと思います。私が頂くファンレターには、「いやなことを忘れられました」「舞台を観るためにお仕事を頑張れます」「活力を頂きました。ありがとう!」とか、そういう素晴らしいお言葉がたくさんあって。私はそのお言葉に見合えているのだろうか、何を返せるんだろうと思いながら、日々お稽古しています。そういうお客様の存在を考えると、生半可な気持ちでは舞台に立てないですし、皆さまによって自分たちが存在し、支えられているので、「ありがとう」という想いしかないです。

舞美:私自身も舞台を観劇するのが大好きで、観客として「すごく魅力的な方だな」と感動することが多々あるのですが、自分自身、舞台人としてそうやって思っていただけるに値する人間なのかと常に考えています。(蒼井優演じる大和)礼子さんは舞台に立つとき、ある意味現実的だからこそ、表現できるものがあるのでしょう。私も大好きなお仕事だけれど、舞台では現実的に考えているところもあるので、礼子さんを見習ってストイックに、でもお客様には現実を忘れていただけるよう、ゆめゆめしくいられたらなと思います。

――おふたりとも長年芸の道を歩み続け、8月に卒業の日を迎えられますが、卒業後も芸の道を続けていきたいなど、何か今の時点で想いがありますか?

楊:私は(卒業後のことは)まだ何も考えていないです。今はただ、8月まで進化し続けよう! 舞台をまっとうし、全身全霊で生き抜こう! と思っています。

舞美:私も同じく、一度しかないOSK人生をまっとうしなければ! という思いでいっぱいです。その後のことは、やりたいことよりも、何が自分にできるのか、何が自分に合っているのか、というところが大きいです。

――最後に、OSKで学んだこと、財産を教えてください。

楊:OSKに入って、たくさんの方々の想いや愛を知ったので、本当の意味での感謝の気持ちを学びました。それは自分の中の財産ですし、かけがえのない宝物です。

舞美:OSKは自分自身を見つめられる場所でした。不器用で未熟な自分から目をそむけず、立ち向かう場所を与えてくれました。だからこそ、卒業する日まで己と闘い続けたいと思います!

最後にイープラスポーズ!

取材・文=小野寺亜紀 撮影=ハヤシマコ

公演情報

OSK日本歌劇団『レビュー 春のおどり』
会場:大阪松竹座
日程:2024年4月6日(土)〜14日(日)
※4月13日(土)はイープラス貸切公演
※最終日には終演後、引き続き、さよならショーを上演いたします。
 
【観劇料(税込)】
一等席(1・2階) 9,500円
二等席(3階) 5,000円
先着先行受付:2月13日(火)12:00~18日(日)18:00
 
『OSK日本歌劇団レビュー 夏のおどり』
会場:新橋演舞場
日程:2024年8月7日(水)~11日(日)
※最終日には終演後、引き続き、さよならショーを上演いたします。
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