ロベルト・アラーニャ「人生は難しい時もあれば、美しい時もある——それを声で表現していくことが歌い手の使命」~スーパーテノール待望の来日へ 60歳を迎え”大きな挑戦”

2024.4.10
インタビュー
クラシック

広い年齢のキャラクターを演じ、歌うこと

Roberto Alagna (C)Stella Vitchénian

——アラーニャさんは60歳を迎えられたわけですが、ロドルフォのような青年の役から始まり、幅広い年齢のキャラクターを演じ、歌うということにどのような思いを抱いていますか?

今回ロドルフォを歌う際、30年前、40年前に歌っていたロドルフォの姿とはもちろん違うはずです。でも、それは表現の方法や型などにおいての成熟や変化であって、私自身の中では、以前と変わることなく希望と情熱にあふれた一人の若き詩人の姿を表現できたらと思っています。それは『マノン・レスコー』のデ・グリューにおいても、『外套』や『蝶々夫人』、そして『西部の娘』においても、どの役柄においても同じことが言えると思います。

——ほとんど上演されることのない初期作品の『妖精ヴィッリ』や『エドガール』のドラマティックなアリアも歌われる予定ですね。

初期の二つの作品『妖精ヴィッリ』『エドガール』のアリアも含めることで、まさにプッチーニ作品、プッチーニという作曲家のすべてを発見できるように構成しています。『妖精ヴィッリ』は最初期に書かれた作品ですが、内容的にも密度が濃く、オーケストレーションにも厚みがあり、声楽的にもとても難しい作品です。続く『エドガール』のアリアも大変ドラマティックな作品です。この最初の二作品をお聴き頂ければ、若き日のプッチーニの才能の萌芽というものを十分に感じていただけると思います。

インタビューの様子

——数ある役柄の中で、アラーニャさんにとってどの役柄がご自身に近い姿でしょうか?

若い頃はやはり『ラ・ボエーム』のロドルフォに自分を投影していた部分がありますね。それは私が彼に少し似た人生を歩んできたからでしょうか……。最初の妻は私が29歳のときに病気で亡くなり、私も30歳でした。当時、ボエームの日常そのもののようにボヘミアン的な生活をしていて、希望や歌う喜びはあるけれども、お金がなくて。それでもお互いが一緒にいられることに喜びを感じていました。

もう一つは『つばめ(ラ・ロンディネ)』です。『つばめ』はプッチーニ作品において、あまり重要とは考慮されてないことが多い作品ですが、私はとても偉大な作品だと考えていますし、主人公にもずいぶん自己投影してきました。

ちなみに『蝶々夫人』のピンカートンはという役柄は、人間的にあまり評価されていませんが、私は彼のことを“裁く”という気持ちを持ったことはありません。なぜなら、仮に「私が同じ状況に陥ったら、一体どういう行動をとるのか?」ということは、実際にそうなってみないと分からないですからね(笑)。実際、私自身、ある登場人物を歌う際は、まずその役柄を自分自身の姿とオーバーラップさせて同一視しながら、「そういう感情は誰でも持ち得るし、こういう出来事も誰にでも起こり得ることだよね……」とグッと自分自身に寄せながら、その人物の中に入っていくのが私自身の役の掴み方です。

>(NEXT)日本は、世界でキャリアを築くための勇気を与えてくれた

  • イープラス
  • ロベルト・アラーニャ
  • ロベルト・アラーニャ「人生は難しい時もあれば、美しい時もある——それを声で表現していくことが歌い手の使命」~スーパーテノール待望の来日へ 60歳を迎え”大きな挑戦”