古き良き商店街の物語を2通りの魅力で描く 梅棒 18th “RE”SHOW『シャッター・ガイ』稽古場レポート
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2024年6月21日(金)からスタートする梅棒の第18回公演は、2018年に上演した8th SHOW『Shuttered Guy』の再演となる18th “RE”SHOW『シャッター・ガイ』。ゲストキャストを初演から一新した『シャッター・ガイZ』と、さらに梅棒メンバー&谷内伸也の配役をシャッフルした『シャッター・ガイ改』の2バージョンが上演される。
初日まで約2週間となったタイミングで行った稽古場取材の様子をお届けしよう。
作・総合演出を務める伊藤今人が「今日は取材が入ってるけど、やることは変わんねえから」とわざとらしく体育会系なノリの挨拶をはじめると、キャスト陣からもスタッフ陣からも笑いが起きる。「媚びずにいつも通りの稽古するぞ!」という掛け声に即座に乗っかって「おう!」と返事をするメンバーもいれば、「どこがいつも通りだ!」とツッコミを入れるメンバーも。和やかな笑い声の中で稽古がスタートした。
まずは『シャッター・ガイZ』の配役で殺陣や振付の確認が進む。最初に行われたのは、茜屋日海夏演じるあおいが中心に、キャラクターが入り乱れて猛スピードで展開していく楽曲だ。アクションもダンスも動きが大きく、うっかりするとごちゃつきそうなところだが、個々の動線とユニゾンを丁寧に確認した上で通しを行うと、メリハリのついたポップで迫力あるナンバーが完成する。
メインで進行するストーリーの後ろで各キャラクターが個性豊かな動きをしていたり、ちょっとした絡みから関係性が窺えたりと、どこに目を向けても楽しいのも大きな魅力。ユーモラスな楽曲に合わせたコミカルなダンスのため見逃しそうになるが、きちんと物語を伝えながらクオリティの高いダンスとしても魅せる個々のスキルにほれぼれする。
梅棒の作品はセリフがないノンバーバル。場面に合わせたポップスの歌詞とダンスを中心とした表現で物語の流れやキャラクターの気持ちの変化を伝える必要がある。
伊藤から「ここのともゆきは切羽詰まっているから、伸ちゃん(谷内伸也)はもっと楽しくなさそうに」と指示が出たり、「しげる(だーよし)とジュン(SHUHO)は、このシーンの気持ちをどう作っていきたい?」と演じるキャストの考えを聞いたり、逆にゲストメンバーから「ここはどれくらいの温度感でいたらいいんですか?」と質問が出たり。認識のすり合わせをしながらキャラクターとシーンを深めていく。
キレのあるアクションと表情で見る者に強烈なインパクトを与える茜屋を筆頭に、一人ひとりの表現の豊かさに笑ってしまうと同時に、表情の芝居に頼らない身体表現に圧倒された。
また、確認と通しの間も各自が動きをチェックしたり、「ここの動きって……」と話し合ったり。梅棒メンバーが中心になりつつ、メンバーとゲストの垣根なく作品を作っているのが印象的だった。
曲に合わせた通しと試行錯誤を行って形を整えたあとは、同じナンバーを改の配役で。この時点では衣装がついていないため、演じるメンバーが入れ替わって動きを確認する程度……かと思いきや、「ここまで印象が変わるか」と感じるほどの違いにまた驚かされる。
例えば、どこかお茶目で可愛らしい雰囲気がある櫻井竜彦と、キザな表情が楽しい楢木和也のDr.KC。しなやかで美しい鶴野輝一と、守ってあげたくなるような愛らしさがある天野一輝のさと。古き良き(?)ヤクザの風格を漂わせるオオタを演じる遠山晶司と梅澤裕介、可愛さと生意気さ満点のももか/かなた役の吉原怜那と野田裕貴は、それぞれがシーンに合わせた動きをつけて個性を見せる。
各々が作り上げたキャラクターの違いを見比べられるのも、本公演の魅力の一つとなるだろう。シャッフルキャストの色が違うことで、オオタの弟分・タナカ(福島海太)をはじめ、同役を演じるキャストの反応や印象も変わってくるのが楽しい。
一見、勢いで突っ走っているように見えるが、通しが終わると各々が冷静に分析し、ブラッシュアップを重ねていく。「一瞬のシーンだから・メインで動くキャラクターじゃないからこれでいいだろう」となあなあにせず、全員で丁寧に作り込んでいくからこそ、わかりやすくて楽しい、梅棒らしい作品に仕上がるのだろうと感じた。
続いては、物語終盤のナンバーをZの配役で。コミカルながらカッコよく、シリアスなやりとりも熱い部分もある、盛りだくさんな一場面だ。
先ほどのナンバーでは活躍がなかったセヴン姉妹のミーナ(YOU)とバナナ(楢木)が加わると、また作品の空気が大きく変わる。しなやかでキレのあるダンスと高飛車な雰囲気で圧倒的強者っぷりを見せつけるYOUと、セクシーさと余裕のある佇まいで姉妹のキャラクターを印象付ける楢木の存在感が素晴らしい。
さらに、見切れ席の位置に座った天野やスタッフからの「ここからだと見えない」という指摘をもとに、立ち位置や見せ方の調整も行う。最終的には劇場入りしてからと言いつつ、「見えないからストーリーやキャラクターの感情の流れがわからない」が発生しないように様々な場所と角度からチェックしていく。
目まぐるしくストーリーが展開する中で、曲とカウントに合わせてキャラクターの気持ちを作っていくのはかなり大変な作業だと感じるが、ゲストも含めた全員が、伊藤や振付担当の梅棒メンバーのアイデアや意見をすぐに吸収。音響をはじめとするスタッフ陣も意見を出しながら、効果的な見せ方を模索していく。
セヴン姉妹に対峙するけんや(OH-SE)とひのまる君(山咲和也)、ともゆき(谷内・鶴野)とてつや(鐘ヶ江洸)、ひでき(塩野・櫻井)のドラマについても、梅棒メンバーが先頭に立ってアイデアを出し、やってみて、それをもとに改良。キャラクターにとって重要なシーン、山場に向けた気持ちの作り方に関する試行錯誤を重ねることで、グッとくるシーンへ進化させていた。
全員が良い緊張感の中で真剣に取り組んでいたかと思うと、誰かの発言や行動でわっと盛り上がる、部活動のようなチーム感も梅棒の稽古場の魅力といえるだろう。自主練をするザンヨウコの動きで伊藤がツボっていたり、秘書のサナダ(天野・遠山)が小道具を投げるシーンで嘆息や歓声が上がったり。運動量が多くハードだが、だからこそコミュニケーションを取り、些細なことでも声に出しやすい、和気あいあいとした空気で稽古が進んでいく。
稽古場取材のため同じシーンを繰り返し見ることになるのだが、何度見ても新たな発見があり、全く飽きることなくあっという間に時間が過ぎていった。コミカルで笑えるシーンとグッと来るシーンのメリハリもついており、2曲ぶんの稽古だけでグッと心を掴まれる。また、「ここはどうする?」という確認とそれに対して出されるアイデアにワクワクし、「本番までの間にどこまで進化するんだろう」「どれだけ楽しい作品が見られるんだろう」という期待が大いに膨らんだ。
本作は2024年6月21日(金)~7月7日(日)まで、東京・IMM THEATERで上演。7月12日(金)~15日(月・祝)まで大阪 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、7月28日(日)には愛知 東海市芸術劇場でも公演が行われる。
取材・文=吉田沙奈 撮影=角田大樹
公演情報
【振付・監修】梅棒
【出演】梅澤 裕介、鶴野 輝一、遠山 晶司、塩野 拓矢、櫻井 竜彦、楢木 和也、天野 一輝、野田 裕貴[以上、梅棒]
谷内 伸也[Lead]、茜屋 日海夏[i☆Ris]、鐘ヶ江 洸、OH-SE[電撃チョモランマ隊]、SHUHO、だーよし[TRIQSTAR]、YOU、ザンヨウコ、福島 海太、山咲 和也、吉原 怜那[ダウ90000]
※ 野田裕貴は『シャッター・ガイ改』 、吉原伶那は『シャッター・ガイZ』のみの出演となります
※ 『シャッター・ガイZ』および『シャッター・ガイ改』の配役は公演特設サイトをご参照ください