Billyrrom 国内外の大型フェス出演を果たし急成長を続ける6人の好奇心、“Chapter II”のスタートを飾る1stアルバム『WiND』インタビュー

2024.9.27
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音楽

Billyrrom 撮影=森好弘

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“トーキョー・トランジション・ソウル”を掲げ、めきめきと頭角を現してきた東京・町田出身の6人組、Billyrrom(ビリーロム)。『FUJI ROCK FESTIVAL '23』を皮切りにこの1、2年、ライブハウスを飛び出して、国内はもちろん、アジア圏の大型フェスティバルにも出演するようになった彼らが、2020年の結成時には、メンバーほぼ全員がバンドはおろか楽器初心者だったことを考えれば、いかに急成長を遂げてきたかがわかっていただけるだろう。
その彼らが待望の1stアルバム『WiND』を9月25日にリリース。
自ら“Chapter IIのスタート”を謳ったメンバーたちのステートメントを思わせるタイトルを持つインストナンバー「Walk in New Directions」を含む『WiND』の全11曲が物語るのは、新たなことに取り組むメンバーたちの好奇心と、まだまだ止まることを知らない、さらなるバンドの成長だ。
まさにBillyrromの“今”を、若いバンドならではの勢いとともにとらえた『WiND』をどんなふうに作り上げたのか、バンドのバックグラウンドを振り返りながら、メンバーたちに聞いた。

――アルバムについて聞かせてもらう前に、Billyrromがどんなふうに始まったのか聞かせてください。2000年にRin(Gt)さんが「3年後に『FUJI ROCK FESTIVAL』(以下、フジロック)に出るから就職しないで」と言って、Mol(Vo)さん、Taiseiwatabiki(Ba)さん、Shunsuke(Dr)さんにバンド結成を持ちかけたとウィキペディアには書かれていますが、それは事実なんですか?

Mol(Vo):事実です。

――その時、Taiseiさん以外はバンド経験がなかったそうですね?

Mol:そうです。でも、Taiseiも高校の軽音でどれくらいやってたっけ?

Taiseiwatabiki(Ba):1年とか、2年とか。それも部室でゲームをやってただけだからバンドじゃなかった(笑)。

――そんなに真剣にやっていたわけではない?

Taiseiwatabiki:全然ちゃんとやってなかったです。

――それにもかかわらず、3年後に『フジロック』と言われて、誘われた3人はどう思ったんですか?

Mol:ふざけてるだけだろうって思ってました。だから、こっちも軽い気持ちで「いいよ」みたいな感じで、遊びで始まったんですけど。Rinは最初から根拠のない自信があると言っていて。

Rin(Gt): 傍から聞いたら無責任な発言だと思うかもしれませんけど、自分は本気だったし、自信もありました。それなりに根拠もあったんですよ。

――そういうRinさんもギター初心者だったんですよね?

Rin:そうでしたね(苦笑)。

Mol:僕は大学でRinと同じサークルに入っていたんですけど、バンドを組むってなってからギターを買いましたからね(笑)。

――何のサークルだったんですか?

Mol:音楽系のサークルです。

――あ、じゃあ、バンドを組む前からMolさんは歌を歌いたいという気持ちはあったんだ? 

Mol:ありました。バンドのボーカルになりたいと思ったことはなかったけど、昔から歌うのは好きでした。だから、「ボーカルやってよ」と言われて、「うん、いいよ」って、ほんと軽いのりで始まったんですよ。

――Shunsuke(Dr)さんは電子ドラムを買わされたそうですね?

Shunsuke(Dr):Rinとは中学から友達なんですよ。だからMolとは逆に、誘われた時からRinがけっこうマジだってわかってたから、付き合えねえよと思って、ずっと断ってたんですけど……メルカリのURLが送られてきて。

――あー、電子ドラムの。

Shunsuke:Rinに押し切られました(笑)。

――Rinさんは、なぜ3人に声を掛けたんですか?

Rin:そもそも友達とバンドをやってみたいというのが先に願望としてあったので、この3人に声を掛けました。楽器の上手な人を集めてやりたいという考えはなかったですね。

Mol(Vo)

――Billyrromは実際、結成の3年後に『フジロック』に出演しているんですけど、ふと思ったんですよ。「3年後に云々」は伝説を作ろうと思って、後からでっち上げたエピソードなんじゃないかって(笑)。

Mol:いえ、本当に言われたんですよ。バンドを始めてすぐRinが予定表を作ってきたんです。そこに、1年後に渋谷WWWでワンマンをやる、2年後はどこそこ、3年後は『フジロック』、みたいに東京ドームまで予定が書かれていて。最初は何を言ってるんだって思ってましたけど、WWWワンマンも『フジロック』もその通りになったので、最近、怖くなってきてます(笑)。もしかしたら、Rinの根拠のない自信に突き動かされてる部分もあるのかもしれないですね。

Taiseiwatabiki:でも、WWWとか、『フジロック』とかって言われても、絶対無理だろみたいな気持ちには、たぶん、みんなあんまりなってなくて。WWWも全然、集客ないのにとりあえずハコを押さえちゃったんですけど。常に目標を先に決めて、そこに向けてがんばるみたいなことの繰り返しだったので、最近は何を言われてもそんなに非現実的な感じは正直しないですね。

――なるほど。ところで、バンドを始める時に音楽性を含めたバンドの方向性について、Rinさんはどんなふうに考えていたんですか?

Rin:なんとなくブラックミュージックを中心にしたバンドをやりたいと思ってました。全員共通して好きなジャンルだったんですよ。

Mol:ただ、最初はRinと僕の2人しかいなかったから、右も左もわからなかったというか、こういう曲を作ろうという話をしたわけじゃなくて、その時の感覚でばっと作ったのが1曲目の「Babel」で。だから、最初から、自分たちがやりたいと思うものを作ってただけなんです。それが同じだったというか、お互いに「いいね!」ってなるものが近かったというか。それはたぶんいまもそんなに変わってなくて、安っぽい言葉を使ったら、メンバーみんなのバイブスが上がる曲をずっと作りつづけてるような感覚はありますね。

――RinさんとMolさんの音楽の趣味が一緒だったわけですね?

Mol:どうなんだろう? 細かく言ったら、6人とも全然違うんですけど、重なってる部分とか、一緒にいるうちにお互い好きになっていった部分とかもいっぱいあって。なので、6人とも違うんだけど、6人とも一緒みたいな。具体的に言うのはちょっと難しいんですけど。

――参考までに、それぞれのモースト・フェイバリット・アーティストを教えてください。

Mol:僕はマイケル・ジャクソンですね。

Yuta Hara(DJ/MPC):僕はジャミロクワイ。

Taiseiwatabiki:子供の頃から聴いてたのは山下達郎さんです。

Leno(Key/Syn):僕はレディオヘッドです。

Shunsuke:スティーヴィー・ワンダーです。

Rin:僕はマック・ミラーです。シンプルに彼のラップが好きなんです。初期から後期にかけて音楽性が変わっていくんですけど、その変遷はすごく彼自身の内面と結びついていて、その表現の仕方も素晴らしいと思います。もちろん1曲1曲良いんですけど、俯瞰的に見た時に彼のアーティストとしての人生が彼自身を表現している。すごく好きなアーティストです。

――なるほど。Lenoさん以外はブラックミュージックという共通点があるわけですね。

Mol:でも、別にLenoもモースト・フェイバリットがレディオヘッドなだけで、ブラックミュージックを全然聴かないわけじゃない。

Leno:もちろん、ブラックミュージックも聴きますよ。

――逆にLenoさん以外の5人もブラックミュージックだけに限らず、ロックも聴くしということですね?

Mol:そうです。

 

――ところで、さっきおっしゃっていた「Babel」のMVを作ったのがYuta Haraさんだったんですか?

Yuta Hara:そうです。

――その後、Rinさんに言われて、いつの間にかメンバーになっていた。

Yuta Hara:あぁ、そうでしたね(笑)。「Babel」のMVを撮った2ヵ月後ぐらいのライブの帰り道だったんですけど、「おまえはもうメンバーだよ」って言われて、これはもうメンバーになる流れなんだって思って、そこからバンドに加わりました。

――バンドの結成当初からYuta HaraさんはMVを含めたビジュアル面のディレクションを担当していたそうですが、DJ/MPCの経験はあったんですか?

Yuta Hara:それがまったくなかったんです。DJをやりたいと思ったのは、自分が聴いてきた音楽はDJが入っているものが多かったからなんですけど、普通の楽器が増えてもおもしろくないというのもありました。

――そして、Yuta Haraさんの紹介でLenoさんが加わって、現在の6人が揃ったわけですが、Lenoさんはクラシックピアノをやっていたんですよね?

Leno:はい。5歳から10年ぐらいやってました。ピアノをやめてからはトラックメイキングをやっていたんですけど、それほど真剣にやってたわけではなくて。そしたら、Yutaが「最近バンドに入ったんだけど、そのバンドがキーボードを探してるんだよね」って言うから、「おい、俺がいるじゃん」って言って、バンドに入りました。

――Lenoさんがバンドに加わったとき、Billyrromはすでにいい感じになっていたんですか?

Leno:どうだったのかな。バンドに入る前に、まずライブを観ないとと思って、観に行ったんですけど、その時は何人ぐらいお客さんいたっけ?

Mol:20~30人ぐらいだったと思う。でも、あの時は、たまたま友達がいっぱい来てくれたから。

Taiseiwatabiki:あの頃はまだ集客は全然だった。お客さんゼロってライブもあったぐらいでしたね。

――バンドの演奏力はいかがでしたか?

Leno:僕も高校の軽音でバンドをやりましたけど、他のバンドのレベルがどうのこうのみたいなのは、よくわからなかったし、このバンドに入るまではブラックミュージックに疎かったので、ライブを観て、かっこいいとは思ったけど、それがすごいとか、すごくないとかはよくわからなかったです。でも、このバンドに入ったら楽しそうだなとは思いました。

――それにしても結成して4年で、この状況まで持ってくるってすごいと思うんですけど、どこかのタイミングで気持ちが変わって、猛練習したなんてこともあったんですか?

Mol:猛練習したとかはないですけど、やっぱりバンドをやる中で遊びよりも本気の度合いが段々と締めるようになってきた感覚はあって、練習量も自然と増えていきましたね。それと、対バンの存在も大きかったです。こういうジャンルって、同じ世代のバンドがあんまりいなくて、大体、30代の方たちとか、近くても3~4歳上とかなんですよ。だから、みんなすごくうまくて、対バンしても吸収するものがすごく多かったですね。対バンイベントに出させてもらうたびに「あれ、やばかったよな。ああいうのやりたいから練習しようよ」みたいな感じで、もうずっとスポンジみたいに対バンのいいところを吸収しながら、「まだまだ練習しなきゃいけない」ってその繰り返しでずっとやってきた気がしますね。バンド全体として。

Shunsuke:個人的なことを言えば、バンドに加わったとき、まだ何も叩けないのに3ヵ月後に初ライブが決まってたんですよ。だから、叩けるようにするしかなかったんです。そうしないと、全員が恥ずかしい思いをしちゃうから。その繰り返しでしたね。あと、周りの人に恵まれたというか、僕の父親、ベースをやってるんですよ。ジャズなんですけど、ブラックミュージックやリズムに関して知識があったから教えてもらったり、さっきMolも言ってましたけど、ライブハウスで知り合ったスタッフの方だったり、年上の先輩バンドだったりがかわいがってくれたというか、いろいろ教えてくれたのも大きかったですね。

――お父さんとスタジオに入ったこともあったんですか?

Shunsuke:最初の頃はありましたね。いろいろ教えてもらってました。

Mol:めっちゃいいストーリーだ(笑)。

Rin(Gt)

――さて、バイオグラフィーの文字面からは、これまですごく順調に活動してきたように思えるのですが、その裏では挫折とまでは行かないまでも、うまくいかないことや悔しいこともあったのでしょうか?

Mol:それで言うと、これまで一度たりとも100%、自分たちが納得できるライブをしたことはなくて、毎回、何かしら悔しい思いをしてるし、それは今もずっと続いてますね。バンドとして何かすごくでかい挫折に直面したってことはないんですけど、やっぱり元々は友達だったから、バンドメンバーとして、お互いの信頼関係の構築をしていく上でちっちゃいケンカはありました。でも、そういうことを経て、今はもう家族みたいな関係というか、1ヵ月のうち25日は一緒にいるから、何かもう、お互いの良いところも悪いところも、みんな知ってるから。そういう意味でチームとしての解像度は、どんどん上がっていってる感覚はあります。ちっちゃいケンカとか、悔しい思いとかも経験してはいるけど、それはみんなで一度に経験してるから、そのたびにチームが強くなっていってる、みたいなところはありますね。

 

――バンドの活動が跳ねた印象があった昨年からさらに上を目指して、今年3月に「DUNE」という曲をリリースするとともにBillyrromはChapter IIをスタートさせたそうですが、今現在、そんなバンドの状況を、どう捉えていますか?

Leno:遊びの延長から、俺たちこれからバンドとして本気でやっていくんだ、というふうに気持ちが変わったタイミングで、新しい音楽性も導入しつつ、今まで以上に新しい色を確立していくぞという覚悟が「DUNE」には現れているという認識ですね。

――なるほど。「DUNE」では、その覚悟を《紡がれる時代 その1ページを担って》という言葉で表現していますが、「DUNE」はBillyrrom初のロックナンバーというところがChapter IIのスタートにふさわしいですね。

Leno:ずっとやりたいと思いながら、何回もチャレンジしてきたんです。それこそ一番の挫折は、これなんじゃないかな。ロックナンバーを作れないという挫折を何回も味わいながら、ようやく形になったのが「DUNE」なんですよ。

Mol:たぶん6人各々の考えるロックが違ったんですよ。でも、トライしてるうちに自然と全員が「いいね」って言えるロックナンバーができたので、そういうタイミングだったのかなと僕は思っているんですけど。だからこそ、壮大なテーマというか、僕たちが見据える、もっと大きなステージを表現したかったというのはあります。

――「DUNE」をはじめ、Billyrromの楽曲は、作曲のクレジットがバンド名義になっていますが、曲作りはどんなふうにやっているんですか?

Leno:RinかMolがデモを作ってきて、それに対して、6人で肉付けしていくんです。

Mol:それが今のところ主流のやり方ですけど、中にはスタジオで作っちゃう曲もありますね。ワンループだけみんなに聴かせて、スタジオでセッションしながら、「この感じ、いいじゃん」みたいな作り方も最近やるようになりました。

――それは今回のアルバムに入っていますか?

Mol:「Sun shower」はそうですね。僕がAメロ、Bメロ、サビというワンコーラスだけの軽いデモを作った時は、けっこう形式ばった感じだったんですけど、データ上で作り上げずにセッションで作っていったことによって、けっこう自由度が高めな感じになりましたね。

――一方、今回、作詞はMolさんが3曲、Rinさんが6曲、担当していますが、ずっとそういう割合でやっているんですか?

Mol:いえ、そこは別に決めてなくて、歌詞は曲を聴いて、書きたいと手を挙げた人が書いてます。

 

――今回、Molさんが書いた歌詞はラブソングで、Rinさんが書いた歌詞はメッセージ色が濃いという印象がありましたが、それはおふたりのキャラクターの違いが表れているんですか?

Mol:おもしろいですね。そういうふうにも解釈できますね。でも、別にそこも決めているわけではなくて、お互いに自由に書いているんですよ。今年の3月から2ヵ月おきにリリースしていった「DUNE」「Windy you」「Once Upon a Night」は三部作って呼んでいるんですけど、言ったら、繋がっているんです。Rinは物語を紡ぐじゃないですけど、けっこうそういう歌詞の書き方をする人で。

Rin:自分は曲というのは本と同じだと思っているんですよ。聴き手がその曲を聴いた時に、曲の世界に入り込むことができるような表現をしたいんです。歌詞という本の内容に対して、いかに合うサウンドというブックカバーを作れるかどうかだと自分は思ってます。と言っても、決してサウンドを軽視しているわけではなくて、サウンドは同等に大切で、うまく言葉と結びついた時に、たった数分ですごく遠い場所に行くこともできるし、聴き手のより内側に入り込んでいくこともできる。なので、サウンドとの関係性からどんなところに行きたいか、どんな光景を見せたいかという部分を、歌詞を書く時はすごく意識してますね。

Mol:そういうところは、メンバーみんな信頼していると思うんですけど、今回、僕が書いた歌詞は、そうだな。おっしゃっていただいたように、確かにラブソングが多いけど、1曲1曲、このアルバムを作る過程の中で、いや、バンドを始めてからここに来るまで、メンバーはもちろん、マネージャーをはじめ、いろいろな人との出会いの素晴らしさに気づかされることが多かったんです。お陰で、このバンドは強くなれたと僕は思っていて、だから、1stアルバムには絶対にその要素を入れたかったんです。今回、僕が書いた「Apollo」「Soulbloom」「Sun shower」の3曲は確かに大枠はラブソングかもしれないけど、その中でピックアップしているところが違っていて。

――男女間の恋愛に限らないと?

Mol:そうですね。もちろん、そういうふうに捉えてもらっても全然いいんですけど、僕の中では、もっと大きな括りで見ているんです。

 

――なるほど。わかりました。ところで、さっき三部作とおっしゃったんですけど、「DUNE」に続いて、「Windy you」「Once Upon a Night」を選んだのは、どんな理由からだったんですか?

Mol:僕ら、シティポップ系のバンドと言われることが多いんですけど、僕ら自身はいろいろなジャンルをやりたいと思っていて、それが僕らの目指すポップスみたいなところがあるんですよ。だから、「DUNE」とか、「Windy you」とかのように、いわゆるファンク、ソウル、ディスコという括りにとらわれていない楽曲もやってみたいという思いもずっとあって、それをChapter IIという僕らのスタンスを表せるタイミングで出したかったんです。でも、三部作の最後には「Once Upon a Night」という本来、僕らが好きだったディスコっぽい曲に帰結する。そういう流れを考えていました。

――「Windy you」は曲を作る上でどんなテーマがありましたか?

Taiseiwatabiki:Rinがデモを作ってきた時は、もうちょっとループミュージックっぽくて、そんなにアレンジされていなかったんですけど、今年の1月に『Music Lane Festival Okinawa 2023 / Trans Asia Music Meeting 2023』っていう音楽業界関係者向けのショーケースフェスティバルに出演するために沖縄に行った時に、みんなで海に行ったら、沖縄はもう暖かくて。夏の空気じゃないですけど、みんなで一緒に感じたその沖縄の空気とか時間とかを、Rinは曲に落とし込みたかったんだよね。

Mol:「DUNE」は決意というテーマを、決意する時の葛藤も含め書いているんですけど。

――《紡がれる時代 その1ページを担って》と歌っていますね。

Mol:「Windy you」はその決意を1人で抱え込む必要はない。なぜなら助けを求めることができる仲間がいるんだから、ということを書いているんです。「DUNE」が向かい風だとしたら、「Windy you」は追い風のイメージで、最後に「Once Upon a Night」でその決意を決行する。「DUNE」からの三部作はそんなふうにテーマ的には繋がっているんですけど、全部、Rinが考えて、僕らにプレゼンしてくれて、みんな、「いいね」ってなったんです。

――ひょっとして、今回のアルバムはストーリー性があるんですか?

Rin:そこまでは考えてないですけど、最後の「Clock Hands」は「Once Upon a Night」で決行した後の話を書いているんですよ。そういう意味では、1本ずっと通じているものはあるとは思います。

TaiseiWatabiki(Ba)

――そんなアルバムを聴いて、さらに上を目指しながら、新たな方向に向かおうとしているみなさんのさまざまなチャレンジが詰まった作品だと感じたのですが、アルバムを作るにあたっては、どんな作品にしようと考えていたんですか?

Leno:作詞、作曲に偏りが出るんじゃないかと考えて、コンセプトみたいなものは決めずに、これまで吸収してきたものを何も考えず、気持ちの赴くまま出した曲を作っていったら、逆にChapter IIに突入した今のBillyrromというコンセプトを帯び始めたというか。だから、コンセプトを決めて作ったわけではないんですけど、ただ曲を寄せ集めただけでもないというちょっと複雑なアルバムになったと思います。

Rin:Billyrromというバンドはまだ年数も長くないし、経験値もすごくあるわけではありません。でも、だからこその出っ張ってる部分、切れ味のある部分や尖っている部分ってあると思うんです。それを削って丸くしてしまうのは別に難しいことではないと思うんですけど、その部分を残しながら、1stアルバムとしてパッケージできたのはすごく意味のあることだと感じています。今のBillyrromというものをうまく保存し、なおかつその後も感じ取ることのできるアルバムになったなと思います。

――ここからは、みなさんのチャレンジを物語る曲について聞かせてください。まず、「Soulbloom」。シンセオリエンテッドというか、シンセの音色が前面に出たという意味で、この曲は新しいのでは?

Leno:ほとんど打ち込みの曲という意味では、そうですね。最初、Molと一緒に僕が考えたワンコーラスを元に、みんなのアイデアも取り入れながら、僕がパソコンをぽちぽちといじって、Billyrromっぽくまとめていきました。ライブでやることはまったく考えずに作ったんですけど、でも、どこかでがんばってやろうとは思ってます。

――そういう曲を作りたかったんですか?

Leno:いえ、「これ、かっこよくね?」「これ、かっこよくね?」とやってるうちに、こういう曲になりました(笑)。

Mol:どの曲もそうなんですけど、新しいチャレンジをしようみたいのはないですね。

――そうですか。スタジオでジャムセッションしながら作り上げたとおっしゃっていた「Sun shower」は、ジャムセッションしながらバンドの生々しい演奏を長尺の曲に落とし込むという意味で新たなチャレンジだったんじゃないかと思ったのですが。

Mol:2023年9月にリリースした『noidleap』っていう2nd EPのリード曲だった「noidleap」もスタジオでセッションしながら、ほぼ作ったんですけど、「Sun shower」はもっとルーツ感溢れるというか、さらに自由度高く、個々の演奏が立った感じにはなっていて。でも、それもスタジオでチャレンジしてみようみたいなノリではなく、自然と「この曲の良さが生きるのってスタジオだよね」って話になったので、スタジオで作り上げて、レコーディングは一発録りだったんですよ。それもバンドとしてはチャレンジになるのかもしれないけど、僕らとしては、なるべくしてそうなったというか、曲の良さを活かすために一発録りしたという感覚なんです。

――アウトロではMolさんもけっこうシャウトしていますね。

Mol:そういう要素を入れたかったんです。音源としてパッケージングされたものって、耳馴染みが良いとか、さらっと聴けて、すぐに覚えられるとかってことがけっこう重視されがちだと思うんですけど、混じりっけのない5人の演奏が100%出ている楽曲だったから、耳馴染みの良さはもう無視して、シャウトと言うか、いわゆるソウルですよね。そういう魂から出てきたものみたいなニュアンスは、どうしても入れたくて、それこそディアンジェロをちょっと意識しているんですけど、そういうものがかっこいいと思ったので、今回のアルバムの中でも一番、自由に歌わせてもらいました。

Shunsuke(Dr)

――今回のアルバムにはもう1曲、「SERENADE for Brahma」という6分51秒の長尺曲が入っていますが、バンド然としたタイトなアンサンブルだった「Sun shower」に対して、「SERENADE for Brahma」はアトモスフェリックなサウンドになっています。その違いがおもしろいと思ったのですが、「SERENADE for Brahma」はどんな発想から、そういうサウンドになったのでしょうか?

Taiseiwatabiki:この曲はRinがこのバンドを始めてから2曲目に作った曲なんですよ。だから、ワンマンライブではやったこともあるんですけど、最初はここまで長くなかったんです。たぶん、3分から4分くらいだったと思うんですけど、ライブでやっていくうちにファンカデリックの「Maggot Brain」みたいにしようとか、曲の終わりは変拍子にしてみようとか、アレンジがいろいろ加わっていって、結果的に7分近い尺になっているんです。だから、自分たちとしては満を持してというか、シングルは無理だってずっと思っていたので、このタイミングでやっとリリースできたという感じなんです。

Mol:みんなで育て上げた曲ですね。

Taiseiwatabiki:実は一番、Billyrromらしい曲なんですよ。

――なるほど。もう一つ。さっきシンセオリエンテッドなサウンドについて語っていただいた「Soulbloom」は歌詞が全編英語なのですが、歌詞が全編英語って最初にリリースした「Babel」以来ですよね。なぜ、このタイミングで再び全編英語にチャレンジしたんですか?

Mol:そんなに考えていたわけではなくて、単純にアルバムだからできることだと思っていたっていうのもあるし。あとは僕が書いた歌詞を日本だけではなく、やっぱりいろいろな国で聴いてもらいたいという気持ちもありますね。さらに細かいことを言うと、サウンドとのマッチ具合というか、サビはけっこうゴスペル風にコーラスも広がっていくんですけど、それを考えると、英語のほうがばっちりはまるような感覚が僕の中にはあって。でも、一番はこの歌詞を、やっぱり愛という大きなテーマを歌っているからこそ、幅広い所に向けて発信したいという思いがありますね。

――ありがとうございます。いろいろ質問させてもらいましたけど、そんなふうにあれこれと想像が膨らむところがいくつもあるアルバムでした。

Mol:うれしいです。

Yuta Hara(DJ・VJ・MPC)

――それぞれのプレイにもトライがあって、その結果、成長したところもあるんじゃないかと思うのですが。今回のアルバムを作る上で、それぞれにこんなアプローチをしたとか、こんなトライがあったとか、その結果 プレイヤーとしてこれだけ成長したとか、そういう話をおひとりずつ聞かせてもらえないでしょうか? Shunsukeさんからどうぞ。

Shunsuke:結成当初に作っていたファンクのノリから離れて、ロックにアプローチした時期は、いろいろな音楽をインプットしながら、ロックの要素を吸収するのに苦戦はしたんですけど、そこからまた元々作っていたようなジャンルの曲をレコーディングする時、1回離れて、違うジャンルを吸収したからこそ見えたものや気づいたことがあったんですよ。その中で自分のプレイ的な推し曲を挙げるとしたら、「Windy you」ですね。それまでやってこなかったニュアンスの曲ではあったんですけど、リスナーとしては聴いていたニュアンスだったから、きっとできるだろうと思いながら、実際、できた時は達成感がありました。

――ありがとうございます。こんなふうにおひとりずつ聞いていきます。Lenoさん、お願いします。

Leno:僕はプレイというよりは、パソコンに向いながら成長できたと思う部分が多くて、このバンドに入る前からDTMをやっていたという意味では、「Soulbloom」はやりたいことがいろいろできましたね。あとは、はっきりと聴こえるシンセとか、ピアノ、エレピとかよりも、裏で鳴ってるストリングスとか、そんなに聴こえないけど、空間を作るシンセパッドとか。その解像度はアルバムを作っていく過程で上がった実感があります。だから、でっかい、いい音で聴いてもらった時に、そこがわかってもらえたらうれしいかな。プレイで1曲挙げるなら、「Soulbloom」の最後のシンセソロは、スランプになって、もうどんなふうに奏でたらいいかわからなくなりながら、シンセのツマミをいじりまくってたら、おもしろいニュアンスが出せて、満足できるものになりました。

――シンセの音色の幅も広がったんじゃないですか?

Leno:そうですね。アルバムを作りながら、シンセがますます好きになって、音作りはけっこうこだわりました。

Taiseiwatabiki:「Clock Hands」ではボコーダーも使ったしね。

Leno:そうだね。いろいろ楽しいアルバムになりました。

――Taiseiwatabikiさんは?

Taiseiwatabiki:レコーディングは全曲きつかったですね。やっぱり、曲ごとにジャンルがあまりにも違うので。それこそ「DUNE」は初めてのロックナンバーを、それまでやったことがなかったピック弾きでやったんですけど、次の「Windy you」のレコーディングでは全然違うノリになるみたいな。やっとできるようになったことが、次の曲ではまったく不要になるみたいなことの繰り返しだったので。それはしんどかったんですけど、その分、成長できてたらうれしいですね。自分のベースプレイという意味では、「Clock Hands」の2番にビートとベースとボーカルだけになるところがあって、Lenoと一緒に考えたそこのベースラインは、今回のアルバムの中でベースが一番動くんですけど、かなりメロディアスになっていて。

Leno:鍵盤で考えたフレーズなのによく弾けるよね。

Taiseiwatabiki:鍵盤で考えたからこそ、指板だと思いつかないような位置に移動するフレーズになっているんですよ。そういうニュアンスがめっちゃ好きで、そこは気に入ってますね。

――「Clock Hands」は、ずっとグルーヴィーに鳴っているベースが気持ちいいですね。

Taiseiwatabiki:最後に録ったのが「Clock Hands」だったんですよ。「最後の曲、どうする?」という話になったとき、もう1曲ロックをやるか、というアイデアもあったんですけど、結局、自分たちが今一番やりたいことを詰め込んだ曲にしようってなって。ずっとノリが継続している音楽っていうのかな。今のJ-POPって、場面転換がけっこう激しいじゃないですか。そういうのじゃなくて、自分たちのルーツにあるブラックミュージックのファンクだったり、ディスコだったり、そういうノリがずっと継続しているものをやりたかったので。ベースも1曲通して、そんなにノリを変えずに、ビートもずっとしっかりキープするという意識で作っていきました。

Yuta Hara:僕はDJとして、アルバムを作るにあたってインプットを増やさなきゃという意識がありました。それはやっぱり1曲1曲、違うニュアンスのDJを入れて、曲を引き立てたかったからなんですけど、DJがけっこう前に出ていいと思える曲もあれば、逆に「CALL, CALL」とか、「Sun shower」とかはミニマルというか。ループ感が目立つ曲だったので、入れるなら一発で耳に残るようなループを作んなきゃいけないと思ってけっこう苦労しましたね。でも、お陰でアルバムを通して、自分のポジションも含め、その楽曲の中の各メンバーの位置関係が掴めるようになったというか、ここは何か足りないから足そうとか、逆にちょっと入れすぎだから引こうとか、そういうのはわかるようになりました。一番こだわったのは「Once Upon a Night」だと思います。普段は割とスパイス的なポイントで入ることが多いんですけど、「Once Upon a Night」は逆に前面に出てみたんですけど、それはけっこう新しい挑戦でしたね。

――Rinさんは?

Rin:このアルバムは確かにすごくチャレンジでした。ギターという楽器はいろいろなポジションを楽曲の中で担うことができる分、選択肢もすごく多いんですよ。その選択によって、曲の印象ががらっと変わったりもします。以前までの楽曲ではカッティングなどのファンクやR&B的要素が濃く出るプレイがすごく多くて。もちろんその要素はこのアルバムでも出ていますが、その選択というのを安易には取りたくなかったんです。よりたくさんのアプローチをしていくために、今回一つひとつのセクションに対して、より深く考えていきました。その分、ギターという楽器をより俯瞰的に考えることができるようになったかな。推し曲を挙げるとしたら、「SERENADE for Brahma」ですね。この曲での歪みの音作りは、弾くのがすごく難しかったです。ちゃんと自分の音を出せている時は、すごく良い音で鳴ってくれるんですけど、ほんの少しでも甘さが出ると制御できなくなる。この曲がギタリストとして成長させてくれたなと感じています。

――最後にMolさんお願いします。

Mol:聴いていただいたとおり、それぞれに違う持ち味と雰囲気がある楽曲たちだと思うんですけど、ボーカルもそんな感じで。僕的には全曲、歌い方が違うぐらいの気持ちなんですよ。自分の中に声の引き出しがあるとしたら、全曲違うところを使ってるような感覚はあって。僕もボーカリストとして、歌というか、自分の声を操るという意味でけっこう成長できたというか、自然と勉強になったような気持ちもあって、レコーディングは楽しかったですね。自分が知らなかった部分を知ることができたような感覚もあるし、得意なことをやりたい放題やったような感覚もあるし、僕のボーカリゼーションとしても聴きどころがたくさんあるアルバムにできたと思います。曲単位で僕の声の、ちょっとしたニュアンスの違いに気づいてもらえたらすごくうれしいですね。

――その中でも推し曲を挙げるとしたら?

Mol:どうしようかな。でも、自分のボーカリゼーションとしての新たな発見みたいな部分で言うと、「Soulbloom」か「Clock Hands」なんですけど、やっぱり「Soulbloom」かな。さっきもちょっと言いましたけど、この曲はちょっとゴスペルっぽくて、ちょっと野太い、チェストボイスって言うんですけど、いわゆるJ-POP調の突き抜けるようなハイトーンボイスみたいなものではなくて、ちょっと曇った感じの、でもパワフルな印象を受けるような声を初めて使ったんですよ。その結果、サビの力強さも含め、重たいビートに乗っかるボーカルは、自分でもすごく気に入ってますね。

Leno(Key/Syn)

――ありがとうございます。アルバムについていろいろ聞かせてもらいましたが、アルバムをひっさげた『WiND Tour』が2025年2月から始まります。まだちょっと先になりますが、ツアーの意気込みを聞かせてください。

Mol:Billyrromがより一層対外的になってきたというか、お客さんに向けて、伝えたい思いがすごく強くなってきた感覚があるんですけど、それを一番体感してもらえるのは、やっぱりライブだと思います。僕たちのそういう精神というか、どういう気持ちでバンドをやって、音を鳴らしているのか、みたいなところを感じ取ってくれとまでは言わないけど、ライブを観たりとか、このアルバムを聴いたりとかして、何かしら感じてもらえたらうれしいなっていうのは、まず一番にありますね。

Rin:今回作った曲たちは、すでに1曲1曲が生きているので、丁寧に演奏してあげれば、曲が自分たちを伝えてくれると思います。

Mol:あと、僕たちが台風の目になって、新しい世代で何か世の中に提示していきたいというのは、ずっとバンドのテーマとしてあるんですよ。だから、アルバムのタイトルも1曲目のタイトル「Walk in New Directions」の頭文字と、台風の風のイメージを掛けているんですけど、その意味で、ライブを観てくれた人に何かしらのきっかけを与えられるツアーにできたらいいなと思ってます。


取材・文=山口智男 撮影=森好弘

 

リリース情報

アルバム『WiND』
2024年9月25日発売
<収録曲> 
01. Walk in New Directions 
02. DUNE
03. Apollo
04. Windy You 
05. Once Upon a Night
06. CALL, CALL
07. Devenir 
08. SERENADE for Brahma 
09. Soulbloom
10. Sun shower
11. Clock Hands

ライブ情報

Billyrrom Onaman Tour 2025 “WiND”
2025年
2/9(日)名古屋:新栄シャングリラ
2/15(土)仙台:MACANA
2/22(土)福岡:BEAT STATION
2/24(月祝) 大阪:Music Club JANUS
3/1(土)札幌:SPiCE
3/9(日)東京:Zepp Shinjuku(TOKYO)
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