TENSONG、現体制ラストシングル「ゼロ」そして現体制ラストワンマンへの想いを訊く
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TENSONG
「一人一人に寄り添った楽曲を届けたい」という共通の思いで繋がり、2020年4月に大学の同級生で結成された、Vo.たか坊、DJ.アルフィ、Gt.拓まんの3人で構成される音楽ユニットTENSONG。今年10月に発表されたのは2025年1月のなんばHatchでのDJ.アルフィの脱退。11月1日にリリースとなった現体制ラストシングル「ゼロ」、そして来年1月12日(日)と迫ってきた現体制ラストワンマンへの想いを語ってもらった。
──10月15日にアルフィさんの脱退が発表されましたが、そこに至るまでの経緯を聞かせてもらえますか?
アルフィ:僕からその話をしたのは8月で、その日に辞めるっていうことが決まって。ただ、メンバーの間では僕の中でやりたいことがあるっていう話はずっと前からしていたんです。自分の中でも辞めるか辞めないか、悩みに悩んでいたんですけど、3人で何度も話し合って、最終的にスタッフを含めたミーティングの機会を設けてもらって、そこで決めました。
たか坊:僕はずっと「辞めるな」と言っていたんですよ。だけど、最後に事務所スタッフの前で辞めるって言ったときは、本当に彼にやりたいことあるんだろうなっていうのが見えたというか。今までは3人で音楽をすることに意義があると思っていたので、誰かひとりでも欠けたらTENSONGを辞めようと思っていたし、アルフィの話題が上がってきたときも「お前が辞めたら俺も辞める」みたいなこと言って、彼に対して責任を被せていた気がするんですよ。ただ、自分の中でも時間の経過とともに心境の変化があって、何があっても歌い続けるってことをちゃんと心の中に決められたことで、彼のやりたいことを応援するべきかなと思えるようになって、背中を押せたのかな。
拓まん:以前からアルフィは辞めるとは言わないものの、「自分の思う音楽をやりたい」という意思がすごく強く伝わってきて。STAFFとのミーティングのときも一人ひとりがしっかりと考えて、TENSONGとして続けていくという流れになったものの、その瞬間アルフィの表情が若干曇ったので、僕が「お前、本心をちゃんと言え」と振ったんです。別に無理に続けてほしいとは思ってなかったので、「続けるのか辞めるのか、はっきりしろ」と言ったら「辞める」と。そういう意味では、僕が背中を押しちゃったのかもしれないですけど、アルフィの人生、僕の人生、たか坊の人生がそれぞれあるので、だったら無理にTENSONGとして続けなくてもいいんじゃないかと思ったんです。僕は無理をするよりもやりたいことを優先して、充実した人生を送ったほうがいいと思うし、僕自身はTENSONGとしてまだやりたいって思いがあったし、おそらくたか坊もTENSONGで歌い続けたいという気持ちがあっただろうから、だったらアルフィを送り出そうと。なので、特にそんなマイナスな思考にはならず、お互いに頑張りましょうよっていうポジティブな捉え方をしています。
アルフィ
──そもそもTENSONGって、音楽活動をしたいから集まったのではなくて、それ以前に友達としてスタートした3人ですものね。その絆は、別々の道に進んだからといって途切れるわけではないですし。
拓まん:そうですね。僕は大学入学前にはアルフィと出会っていたし、たか坊とアルフィもTENSONG以前からのつながりがあったので、だからこそ本音で話してその意思を優先してあげるべきだと思ったんです。まあTENSONGから離れても普通に友達だしね、だったら後押ししたいなっていう。ただそれだけですね。
──やりたいことをどこまでやり通すか、どこまで我を通すかって、バンドやグループの中ではそのバランスが難しくもあります。実は、ここ1年くらい皆さんとお話していて、アルフィさんの中に迷いがあるんじゃないかなと感じる瞬間が何度かあったんです。
アルフィ:自分の中ではTENSONGでやるっていうことはまず重要なことだと考えていたので、それはちゃん全うしようという思いで続けていたんですけど、その一方で何年か先に自分がやりたかったことができなくなる怖さも感じるようになって。そこで、先のことを考えて「どうしよう?」みたいな思いはずっとありました。
──それって「どっちを優先したらいいんだろう?」という問題でもないわけですよね。
アルフィ:そうですね。フェーズ1としてTENSONGはTENSONGとしてやりきって、また別のところで一からちゃんとやりたいという考え方でした。ただ、そこでどういう選択をするかって、やっぱり難しいと思うんです。どちらかの気持ちを殺して続けるわけにもいかないし。そういう迷いが、もしかしたら表に出てきていたのかもしれません。
拓まん:僕たちはスタートラインが全員一緒で、音楽知識ゼロからスタートしていった先に自分のこだわりができた結果、こうなったと思うんです。
たか坊:アルフィが一番やりたいことが明確になったんじゃないかな。僕や拓まんは「やりたいことは?」と聞かれたら、もちろん歌いたいとかギターを弾きたいと答えるし、その上でTENSONGを続けたいという思いが強いんですけど、じゃあ「どういう音楽を作りたいのか?」という問いに対しては具体的な答えがなくて。そこに関して一番自信を持って答えられるのがアルフィで、それが気づけばTENSONGとは噛み合わない方向になっていた。僕と拓まんは続けていく中で答えを探そうというタイプだったし、それこそがTENSONGらしさだったから、こういう結果になったのかなと思います。
拓まん:だから、アルフィの決断は全然間違ってないと思うんです。
たか坊
──ここまでお話を聞いて、この決断が双方にとってポジティブなものだということがしっかり伝わりました。
拓まん:それこそ、脱退を発表した5日後にファンクラブ内で配信ライブをしたんですけど、僕たち自身まったく暗い感じではなかったし、変に意識しすぎて「なんかTENSONG、暗くない?」って思われるのも嫌だったから、「かましてやろうぜ!」と思って臨んだら全員がふざけ倒して。「あれ、アルフィが辞めるのって冗談じゃね?」とファンクラブの方々に思われてしまったんです(笑)。
アルフィ:実際、「絶対にドッキリでしょ?」って言われましたから(笑)。
拓まん:ふざけてはいたけど、あれが僕らの本心だったから。なので、最初に発表したときと比べたら僕ら3人がポジティブだってことがしっかり伝わったんじゃないかな。
──この話を聞くことで、今度の新曲「ゼロ」がより強く響くものがあるんじゃないでしょうか。
たか坊:実はこの曲、アルフィが辞めるということを目的として作ったものではないんです。インタビューで言うことじゃないかもしれないですけど、「ゼロ」っていうタイトルだったりこの曲自体がアルフィとの別れを描いたものではなく、たまたま今の僕たちと重なったので、なんとも言いがたいんですよね。
──そうだったんですね。歌詞を読んで、いろいろ深読みしていました。
たか坊:ですよね。いろいろ重なりすぎたんで。でも、今思うと……アルフィが辞めるって言う前から、今年に入ってずっといい雰囲気ではなかったというか、「もしかしたら……辞めるって言うんじゃ……」みたいなことも自分の中で勘づいていて。その間も、僕とアルフィで何度も話したりしていたので、そこで感じたことが表現として曲の中に投影されたのかもしれません。だって、普段は曲を書くときって「ああじゃない、こうじゃない」っていろいろ葛藤するんだけど、この曲は無心でスラスラ書けましたから。
──僕は最初に聴いたとき、AメロやBメロには等身大の3人の姿が投影されていると感じましたし、そこに〈1・2・3〉というフレーズや〈0〉が3回繰り返されることでこの3人が歌う意味が強く伝わったんですよ。
たか坊:みんなそう言いますよね(笑)。実際、そういう深読みをされている方たちのコメントを見て、「……」ってなんとも言えない気持ちになりましたから。
アルフィ:でも、本当のことは伝えたほうがいいよね。
たか坊:そういう空気を感じつつ、いろんな偶然が重なって出てきた言葉とメロディだったんだと思います。なので、結果的には必然だったのかな。今お話していて、確かに〈0〉を3回繰り返したのも無意識のうちにこの3人のことを思い浮かべていたのかもしれないですし。
拓まん
──拓まんさんはこの曲をどういうふうに捉えていますか?
拓まん:そもそも曲を作るとき、弾き語りのデモをプロデューサーのWESTGROUNDさんに投げてアレンジしてもらうのか、事務所の作家さんが作ったトラックに対して作詞作曲して提出するのか、今まではこの2パターンしかなくて、アルフィが関わる場所って作詞作曲の部分だけだったんですね。でも、今回は最初で最後の「アルフィが作ったトラック」でレコーディングした曲で。僕もこれまではスタジオミュージシャンの方にギターを弾いてもらうことが多かったんですけど、この曲に関しては自分もしっかり弾いているので、曲に対する思いっていうのはそれぞれがちゃんと込めて作ることができたんじゃないかな。そういう意味では、最後にこういう制作ができてよかったなと思うし、これまでTENSONGは25曲ぐらい発表してきたけど、個人的にはその中で一番好きな曲ですね。
──これまでで一番3人の血が通っている曲になったと。
拓まん:かもしれないです。たか坊もずっと「アルフィが作ったトラックで歌いたい」とか「拓まんが弾いたギターで歌いたい」って言っていたので、それをちゃんと実現できた曲をひとつでも残すことができたのはよかったんじゃないかなと。
──TENSONGとアルフィさんがそれぞれ別の道を進む上でこの曲を世に残すことは、区切りとしても絶対に必要だったんでしょうね。
たか坊:そうですね。しかも、曲調も今までになかったタイプですし、そこでも成長を示せたのかな。ただ、どうせならもっとがっつり歌ってみたかったですね。メロディがずっと落ち着いたトーンで進行するので、自分たちで作ったとはいえ途中で「もっと高いキーに行きたい」と思ってしまって(笑)。そういう意味では、逆に新しい引き出しを見つける楽曲になったのかなと思います。
──3人で最後の楽曲でも安定することなく新しいことにチャレンジできたのは、この3人でしっかり音楽をできていた証でもあるし。
拓まん:そうですね。
たか坊:そこはTENSONGらしいのかな。
──アルフィさんは、トラックメイクに関してはいかがですか?
アルフィ:そもそもデモを作ったのが今年の3月か4月ぐらいだったんですけど、ビート系の曲をちょっとやってみたかったんです。ただ、最初は「これはちょっとTENSONGではナシかな」と思ったりもしたんだけど、たか坊の歌が入ったことで「今までTENSONGではやったことがなかったタイプの曲だけど、逆にそこがいいな」と思えて。確かにたか坊のボーカリストとしての良い部分や従来のらしさはあまり出せていないのかもしれないけど、楽曲としてはすごくカッコいい仕上がりになったと思います。
TENSONG
──前作「THE INSIDER」ではエモーショナルなロックサイドに思い切り振り切りましたが、そことの振り幅含めて「ゼロ」は魅力的だと思いますよ。
たか坊:前作であんなにシャウトしていたのに、今回は真逆ですものね(笑)。歌詞に関しても、今回は……〈電子マネー〉とか具体的なワードも出てくるけど、基本的には抽象的で。それはリアルな心情というか、風景的にもこの曲を作ったときは本当に何も考えずにただ歩いていたんですよ。まあ、電子マネーの残高は90円じゃなかったですけど、本当にこの歌詞のまんま歩き続けて、それを携帯にメモして。僕自身は歌詞のまんまだったから深読みできないけど、聴き手としてはこの抽象的な感じだから深読みしたくなるのかもしれないですよね。
──タイトルの「ゼロ」はどのタイミングで付けたものなんですか?
たか坊:実は、タイトルは曲ができてもずっと空けたままだったんです。それこそ「1・2・3」にもできたし、どんなタイトルでもいけるなとは思ったんですけど、最終的には「ゼロ」が一番しっくりきたんですよ。きっと「1・2・3」だったとしても前向きさは伝わったとは思うけど、「ゼロ」のほうがそこをより強く表せている気がして。プラスもマイナスもない数字だからこそ、TENSONGもアルフィもどっちに転ぶかは自分次第だよっていう、その自分の道を確立させるためには「ゼロ」が一番ぴったりだったんです。来年1月12日のワンマンライブのタイトルも『ゼロ』ですけど、これはもう今の3人にとって一番相応しいタイトルなんじゃないかなと思います。
──かつて『アーティストミマン』と謳ってライブをしていた3人が、このタイミングに『ゼロ』というタイトルのライブをすることで、ようやくスタートラインに立てたのかもしれませんね。
たか坊:いやあ、どうなんでしょうね? 僕、一生スタートに立てない気がするし、ずっとゼロのまんま進んでいく気もしていて。ただ、いつか自分が音楽を辞めるときに、それが少しでもプラスになっていればいいなとは思います。無理に背伸びしようとするのが人間だけど、そこで失敗したって何度でもゼロからやり直せる。これから2人で進んでいくにしろ、もしかしたらお互いそれぞれひとりで進んでいくことになったとしても、僕はやりたいことをやるだけだし、いつどんなことがあっても「ゼロに戻れるんだよ」って言ってあげられる人でいたい。その気持ちだけは大切にしていきたいなと思っています。
──それこそ、TENSONGとアルフィさんが再び交わる日が来て、再びゼロから始める可能性だってないわけじゃないし。
拓まん:でも、アルフィはもう交わりたくないみたいですよ?(笑)
アルフィ:そんなことないって(笑)。
たか坊:俺、言われましたもん。「引っ越したあとの住所は教えない」って(笑)。
アルフィ:やっぱり独立するとなったら、周りから逃げ道を断つことも必要かなと思って。最初はちょっとがむしゃらに頑張ろうっていうだけの話です。
拓まん:まあ、必要なタイミングが来たら、そのときはそのときって感じですね。
たか坊:今はそうなればいいかなってぐらいの感覚です。
──1月12日のワンマンライブは、ひとまず3人でステージに立つ姿は見納めになるわけですが、どんな感じになりそうですか?
拓まん:(取材時点では)もうセットリストは決まっていて、今から準備に取り掛かるところ。ただ、それまでに予定している路上ライブとかイベント出演が結構あるので、やっぱりライブに来てくれる目の前のお客さんを笑顔にして帰してあげることに集中したいので、1月のワンマンに関して僕はそこまで深くは考えていないです。ただ、アルフィに関しては最後なので、いろいろ考えているみたいで。「ステージに登場するとき、ふざけ倒そうかな?」とか言ってました(笑)。
アルフィ:深夜テンションで思いついて、拓まんのところに「これどう?」って相談したり。
たか坊:僕に関しては、いつも通りにやることがモットーなので。いつも通りにいかない部分もあるかもしれないけど、それをちゃんと全うすることが一番大事なので、最後まで余計なことを考えないようにしてます。考えた瞬間にいろんな感情が溢れてくるので。
拓まん:でもこの間、「最後のライブ、泣くかも」って言ってました。
たか坊:そう言ったら、スタッフから「そんなことで泣く奴はフロントマンじゃない!」と叱咤されたので、「じゃあ泣きません!」と(笑)。
拓まん:3人で最後って感覚、僕はまだ湧いていなくて。
たか坊:ないですよね、ぶっちゃけ。
拓まん:普通に仲が良いからかもしれないけど。
アルフィ:今も毎日一緒にいるし。
拓まん:だから、ライブがどういう空気になるのかがまったく想像できなくて。
たか坊:とかいって、ライブが終わった瞬間に拓まんが一番泣いてる可能性もありますからね。
拓まん:それはないと思う。
アルフィ:ないのかよ(笑)。
取材・文=西廣智一 撮影=大塚秀美
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