ミュージカル『ウェイトレス』主演・高畑充希に聞く~4年ぶりの再演に懸ける思いとは

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インタビュー
舞台

高畑充希 (撮影:五月女菜穂)

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ミュージカル『ウェイトレス』が2025年4月から東京・日生劇場ほかで再演される。

本作は、映画『ウェイトレス〜おいしい人生のつくりかた』(2007)をベースに製作されたブロードウェイミュージカル。2016年3月にブロードウェイにて上演が始まると、瞬く間に記録的興行成績をあげ、全米ツアー公演及びロンドン・ウェストエンド公演も大盛況となった。グラミー賞ノミネート歴を持ち、楽曲を手掛けたサラ・バレリスを始め、脚本、作曲、演出、振付の主要クリエイティヴをすべて女性クリエイターが担当したこともブロードウェイ史上初の出来事として注目を集めた。

2021年の日本初演で、主人公のジェナを演じたのは高畑充希。今回も同役をつとめる彼女に、4年ぶりの再演に挑む思いを取材した。

ーー 再演にあたっての今のお気持ちからお聞かせください。

前回の上演がコロナ禍の真っ只中で、(観劇中の)お客さんの声を制限することも多かったですし、稽古中もマスクをしていたりと、割と壁の多かった中での初演の立ち上げでした。今回は、やっと普通の状況の中で上演できるというのはすごく嬉しいです。前回とはまた違った熱気を感じられるのかなと思うと、楽しみです

ーー 高畑さんはブロードウェイやウェストエンドで本作を何度も観劇されるほど、本作がお好きですよね。初演を経て、改めて本作のどんなところに魅力を感じますか?

とにかく楽曲がいいなと思います。初演から4年が経って、最近また曲を聴いているのですが、全然色褪せなくキャッチーだなと思います。私の周りにいる、あまりミュージカルを観慣れていない方たちからも、「聴きやすい曲だね」と言われます。やはりポップスということもあって、楽曲はこのミュージカルの大きな魅力ですね

あとはストーリーも、女性が集まっていて、「女性のための」……というわけでは必ずしもありませんが、「悩める現代女性を全力で応援する」と言われる作品です。私も海外でこれを観たときは「新しい!」と思ったのですが、ここ3、4年で日本の状況もちょっとずつ変わってきて、この作品のテーマ性が、それほど新しくはなくなっていること。それが「いいな」と思ったりもして。とはいえ前回、来てくださった“おじさま世代”の方々も意外と気に入ってくださったんです。だから、性別や年齢問わず楽しんでいただけるのかなと思います。

ーー 前回はコロナ禍の中での製作でしたが、稽古場やカンパニーはどんな雰囲気でしたか?

前回はコロナ禍ということでの大変さはもちろんありましたが、一番感激したのは、初演作品を作るのって、こんなに大変で楽しいんだなと。日本語訳から俳優たちも脳みそを寄せ合って作っていったんです。特に前回、(宮澤)エマちゃんはバイリンガルなので、例えば、ジョークについても「字面で読むとこうだけど、感覚的にはこうじゃないか」などと意見してくれて。すると台本の読み取り方が真逆になったりしたのです。彼女にはすごく助けられました。

私も自分の英語の先生と一緒に訳詞を考えたり、スタッフの皆さんとも相談しながら、言葉を選んでいきました。再演だと決まった演出や訳詞にハマっていくことが多いですけれど、初演の立ち上げはそれとはまるっきり違っていて!

時間がなくて大変でしたけど、みんなで作り上げたものを沢山のお客さんに観てもらえたので、みんなが一致団結して頑張って良かったなと思っています。海外スタッフもリモートで参加してくれて、日本初演を成功させようという気持ちが強い、作品愛の強い現場でした。

加えて、いつ公演が中止になるかも分からない中、最後まで上演できたことも、本当に良かったと思います。地方で一切外に出られなかったのは辛かったですけど……今回はパワーアップして、もしかしたら劇場でパイが売られたり、パイの匂いが漂う劇場が出来上がるかもしれません。私がかつてニューヨークで体験し、感動した状態を皆さんにも体験してほしいと思っています

ーー それは楽しみです。高畑さん、やはりブロードウェイなどの海外での観劇体験に衝撃を受けられたんですね。

そうですね。劇場では甘い香りがずっと漂っていました。ブロードウェイの劇場は日本よりも小さい劇場が多いので、客席の一体感があって。笑うところはみんな爆笑するし、例えば、DVする旦那さんの場面だと、その役者さんにブーイングを言ったり、ジェナがそれに対して気持ちを言い放ったりすると「イエーイ!」と盛り上がったり。本当に体験型アトラクションみたいになっていたんですよね。日本の観客の皆さんはシャイで、自分もなかなかそういう風な反応はできないですけど......そういう環境で観ると2倍も3倍も面白く感じます。

そのニューヨークの旅では、確か『ウェイトレス』と『ディア・エヴァン・ハンセン』を観たのですが、どちらもめちゃくちゃ好きで。でも自分がやるとしたら『ウェイトレス』だな、日本でやる予定はないのかな、と思っていたことが始まりでしたね。私は割とクラシカルなミュージカルを観てきたので、『ウェイトレス』のような、ポップシンガーが曲を書いたミュージカルは、ちょうど『ウェイトレス』を観た頃から触れ始めました。初めて観たときから楽曲に感動しました。こういう作品があるんだ!って

ーー 女性の生きづらさや本音を描いている本作。初演は“おじさま世代”にも反響があったとのことですが、周りの女性たちからはどんな反応や反響がありましたか?

私もいろいろなミュージカル作品に出演させていただいてますが、『ウェイトレス』の再演をやるんだと言うと、「前に観たけど、もう一回観たい」と言ってくれる人が多いですね。

題材が重めな舞台もやってきて、「一回観たけれど、もう一回観るのはしんどい」という作品もある中で、『ウェイトレス』は題材やテーマ性はシビアだと思いますが、楽曲のポップさや、本当にパイが出てきて、小麦粉、卵、牛乳があって、ダイナーのみんなの衣装も可愛くて……という世界観だから、「テーマパークに行ったみたいだった」と言ってくれた方がいました。私もニューヨークで観た後に、もう一度観たいと思ってロンドンでおかわり観劇したのですが、そんな風に何回観ても楽しいと言ってくれたことがすごく嬉しかったです。

高畑充希

ーー 再びジェナという女性を演じるわけですが、ジェナのどんなところに共感しますか。ジェナを演じることの難しさや楽しさを教えてください。

ミュージカルのヒロインって、何かがすごく特別だったりキラキラしていたりする印象があると思うのですが、ジェナは普通に一生懸命働いて、旦那からのDVに耐えながら、自分の人生を大きく変えたいけれど、変えるほどの勇気もない女性です。そういう人が中心になって作品が動いていくというのが、とても素敵だなと思いました。「こんなはずじゃない。どう変えていいか分からない。勇気が出ない」と思ったことは自分自身も経験があるし、きっと多くの女性が、年齢を重ねるほど考えることがあるのではないでしょうか​。

そういうときに、ジェナという、ダイナーで働く一人の女性が大きく人生の舵を切る話なので、とても身近に感じていただけるのではないかなと思います。ジェナはそれほど個性が強いわけではないですが、周りを取り巻くキャラクターがとてもバランスがよくて楽しいんです(笑)。

ーー 高畑さんは結婚や妊娠の幻想を打ち砕くような作品への出演が相次いでいるように思えるのですが、そういった作品に出演することの面白さや意義はどのように感じていますか?

いろいろなタイプの俳優がいると思うのですが、私は自分の年齢が上がるにつれて、同世代の女性たちのリアルな気持ちに寄り添える役をやりたいなという気持ちが年々強くなってきている気がします。

私はミュージカルからデビューしているので、現実逃避させてもらえる夢の世界がもともとすごく好き。だからこそ、『ウェイトレス』のように、そういう空気感もありつつ、現実も見せてくれるというか……自分と同世代や、ちょっと上の女性たちって、キャリアも生活もやること多いから大変じゃないですか。そういう人たちが息抜きで観て……いや、現実を見せられても辛いかもしれませんが(笑)、今の自分がやれる作品を届けたいなという気持ちがあります。

恋する乙女でドキドキ恋愛をするヒロインを私はあまり演じてこなくて、どちらかというと自分の足で立っていく女性像が多いのです。それは自分がそれに憧れているからかもしれません。

ーー 初演のとき高畑さんは20代でしたが、4年経って、ジェナと同世代になりましたよね。役や作品への理解度は深まったと思いますか?

そうですね……自分も年々良くも悪くも落ち着いてきて。前回は、この作品を上演できることに浮かれていたところもあるし、なんかウキウキしていたんですよ。それはそれですごく楽しかったのですが、もうちょっと世間を諦めている感じのあるジェナになりたいかな​。

海外で3人ジェナを観てきましたけど、みんな全然違うジェナで、45歳ぐらいでジェナをやられていた方もいたんです。本当、ジェナが変わると、作品のメッセージ性が変わるなと思いました。だからジェナの実年齢と近づいて、少し諦めて、そこから奮闘してスタート地点がちょっとだけ変わり、またちょっと違ったジェナになっていく気がします

ーー 初演を作る楽しさを話されていましたが、一方で再演を重ねていく面白さはどんなところにあると思いますか?

私が今までやらせてもらった再演作品は、『ピーター・パン』や『奇跡の人』のように、今まで脈々と続いてきたものを繋いでいくという感じが強くて。これだけ歴史があるものをさらに先に繋げていくような、作品の1ピースになれる嬉しさがありましたが、『ウェイトレス』は初演だったので、この先、自分がやらなくなったとしてもどんどん続いていくための基盤を作っていくような感覚がありました。

ーー ジェナという役へのアプローチは変わっていくのでしょうか。

どうでしょうね、正直まだ分からないです。変わるかもしれないですし、変わらないかもしれない。お稽古が始まったら、何かを感じるかもしれません。とはいえ、前回は振付を覚えたり、やることがすごく多くて、それに気を取られていました。なので、今回は身体が覚えているとなると、プラスアルファで役を掘り下げられるところがあるのかなとも思いますけれど……まずは楽しくやりたいなと思います

ーー 今回はポマター医師役として森崎ウィンさん、ドーン役としてソニンさんが新たに出演されます。お二人の印象は?

ソニンちゃんとはFNS歌謡祭で既に『ウェイトレス』の楽曲を一緒にやらせてもらって。もうソニンちゃんのドーンが始まっている気がしましたね。ソニンちゃんは日本初演も観に来てくれているし、海外でも観ていて、とても『ウェイトレス』が好きなんです。ウィンくんも前回の公演を観に来てくれている。作品への愛が強いメンバーが入ってくださるので、心強いなと思っています

ーー 意外にもお二人とはミュージカル初共演なんですね?

はい。お二人の舞台は結構観ているので、お二人とも素晴らしい俳優さんだなと思っています。ソニンちゃんは前から知っていて、『スウィーニー・トッド』でソニンちゃんが演じていた役や、『ミス・サイゴン』のキムをやらせてもらったり、ソニンちゃんの役を後に受け継ぐことが多くて、あまり初めてな感じはしないです。今回ソニンちゃんのドーンがどういう風になるのかとてもワクワクしています

ウィンくんは、10代の頃に一緒に映画をやったことがありますが、なんてハッピーな人なんだろうと(笑)。超ポジティブだし、陽気。その感じが当時はすごく羨ましかったのですが、そこからお互いに時を経て、まさかミュージカルで共演する日が来ようとは思ってもみませんでした。でも。ウィンくんって、リズムの取り方が洋楽っぽいから、今回のようなポップスをウィンくんの声で聞けるのは楽しみですね。本人は「前回の宮野(真守)さんが素敵だったから超プレッシャーだ」と言っていますが、また全然違うポマター先生になるかなと思って、こちらも楽しみです。

ーー 高畑さんご自身はミュージカルからキャリアをスタートされましたが、改めてミュージカルや舞台に対してはどういう思いをお持ちなのですか?

もちろん稽古が始まると悩むし、「なんで、できないんだろう」と思うのですが、舞台をやっていない時間が続くと、自分を見失うというか、「失って気づく大切さ」を感じるんですよね。映像の俳優さんの中には「舞台は緊張するからやりたくない」と言う方もいらっしゃいますが、私は逆に舞台をやっていないと息ができない感じがします。本当に好きな仕事なんだなと思っています。

高畑充希

取材・文・人物撮影=五月女菜穂

公演情報

ミュージカル『ウェイトレス』

■脚本:ジェシー・ネルソン ■音楽・歌詞:サラ・バレリス
■原作映画製作:エイドリアン・シェリー
■オリジナルブロードウェイ振付:ロリン・ラッターロ
■オリジナルブロードウェイ演出:ダイアン・パウルス
 
■出演:
高畑充希 森崎ウィン ソニン LiLiCo
水田航生 おばたのお兄さん/西村ヒロチョ 田中要次 山西惇
岩崎巧馬 茶谷健太 堤梨菜 寺町有美子 照井裕隆 中嶋紗希 永石千尋
中野太一(スウィング) 中原彩月(スウィング)

■製作・主催:東宝/フジテレビジョン/キョードー東京
■共同制作:バリー&フラン・ワイズラー
 
■日程・会場:
2025年4月9日(水)〜4月30日(水) 東京・日生劇場
2025年5月5日(月)〜5月8日(木) 愛知・Niterra 日本特殊陶業市民会館フォレストホール

2025年5月15日(木)〜18日(日)大阪・梅田芸術劇場メインホール
2025年5月22日(木)〜5月29日(木)福岡・博多座

 
■東京公演一般前売開始:2025年2月8日(土)

■作品公式 WEB サイト https://www.tohostage.com/waitress/
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