リアル・トラウム、ヨハン・シュトラウス・ヴィルトゥオーゾとの共演コンサートが決定 高島健一郎出演オペレッタ『メリー・ウィドウ』ツアー初日レポ&コメントも到着
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高島本人も日々のXで伝えている通り、ほぼ毎日ドイツ各地を移動しながら展開されているこのオペレッタのツアーであるが、やっと折り返し地点。ウィーンで編成されたメンバーとオーケストラで、11月からリハーサルを開始し、1か月近くかけてウィーンで練り上げ、本場ウィーンのオペレッタの薫りを冬のレジャーシーンにドイツ全土に届けるというプロダクションなのである。高島自身はなんと3度目の参加となるが、レハールの『メリー・ウィドウ』の色男カミーユ役を務めるのは初めてのこととなる。以前の記事で触れた通り、コロナで一度流れたツアーが実現したものである。
初日のBad Wörishofen(バート・ヴェーリスホーフェン)は、ドイツ南部のバイエルン地方最大の都市ミュンヘンから電車や車で1時間ほどの場所にある温泉地。ミュンヘンはウィーンにも比較的近く、エリザベート皇后がミュンヘン出身で、彼女の一族が済んだレジデンツという王宮やバイエルン国立歌劇場などがあり、世界中から観光客がやって来る。Bad Wörishofen(バート・ヴェーリスホーフェン)は、そんなミュンヘンの草津温泉とでも説明すれば理解しやすいのだろうか、雪の平原や森をDB(ドイツ国鉄)の特急で通り抜けた小さな終着駅の先に、瀟洒なリゾートホテルや映画館、別荘の建物が並ぶ街なのだ。
その中心的な広場に会場となるクアハウス【Kurhaus】があるのだが、クアハウスとは、ドイツ語で療養の家を意味し、温泉周辺での保養、健康増進施設のことで、芸術鑑賞もそうした一貫で捉えられ、リゾート中の家族連れが夕方になると続々とホールへと集まって来るのだ。高島に聞いたところ、実はこの日の早朝にウィーンをバスで出発して、ミュンヘン郊外のホテルに荷物を置いてから、そのまま16時過ぎに会場に到着するという、ハードスケジュールだったようである。
オーケストラ・ピットには小編成ながら20名ほどのオーケストラが登場し、この規模のオーケストラと歌手とダンサー20名ほどのチームでドイツ全土津々浦々にウィーンの薫りを2か月にわたって届けるというこのプロダクションを目の当たりにして、音楽文化の厚みや贅沢さに改めて感心させられた。900人ほどのキャパのホールは開演時間には、老若男女が次第に周辺のホテルや別荘からホールにやってきて、ほぼ満席となった。
『メリー・ウィドウ』とは直訳すると「陽気な未亡人」という意味で、パリを舞台にして、架空のポンテヴェドロ公国の人々が繰り広げる、他愛ない恋愛喜劇である。ヒロインのハンナは裕福な未亡人で、莫大な財産を持っているのだが、それが「ポンデヴェドロ公国の国家予算のかなりの部分」を占めているため、彼女を公国内の男性と再婚させて国内に留めることが、公使ツェータ男爵の使命。男爵はダニロ(ハンナの元恋人)に「ハンナと結婚して、財産を守れ」と迫る。ダニロもハンナもお互いに満更でもないのだが、共になかなか素直になれずにいて、さて二人の恋と公国の運命は如何に?恋の行き違いに一喜一憂できるコメディなのだが、レハールが天才的に美しいメロディーの歌をたくさん書いたために100年の時を超えて愛されているのだ。
「ヨハン・シュトラウス・オペレッタ・ウィーン」の歌手陣は誰もが演技も歌も巧みで魅了された。ハンナ役のネイヴィ・マルティネスは、優れたソプラノ歌手であるだけでなく、ユーモアたっぷりに魅力的なヒロインをリアルな存在に感じさせてくれた。ハンナの相手役ダニロを演じた、マーティン・シュランツも演技派である。
音楽的には、2幕で歌われるカミーユのアリア「バラの蕾が咲くように」は白眉で、初日の舞台でもっとも観客の熱い拍手が寄せられていた。贔屓目ではなく、後半の盛り上がりへ向けて間違いなく音楽的な盛り上がりにおいて大事なターニングポイントとなっていたように感じた。初日ということもあり、正直オーケストラのアンサンブルにやや粗さが目立ったが、確実にこのアリア以降音楽的にまとまりが良くなった。ドイツ語のネイティブではない高島がウィーンのオペレッタ・プロダクションの中でかくも重要な役回りを演じていることに改めて驚かされた。バスに乗って次の街へと移動する高島に少しだけ話を聞いた。
――初日を終わっての手ごたえはいかがでしたか?
お客様からいい反応をもらえたようなので、まずは無事に1日目を終えられてホッとしました。そして意外とリラックスして、カミーユを楽しく演じられたように思います。
――これから毎日のように本番が続きますが。
そうですね。一日一日とにかく健康に気を付けて、毎日頑張って歌っていきたいと思います。日々カミーユと一緒に成長して、その成果をもって、2月16日に皆さんとお会いできればと思います。
――ヨハン・シュトラウス・ヴィルトオーゾとの共演も決まりましたね。
お話をいただけたことにも驚きましたが、とても楽しみです。ウィーンでもシェーンブルン宮殿でずっと活躍し続けている音楽家の皆さんなので、このレハールのプロダクション同様に、ウィーンらしい空気を皆さんに聴いてもらえると思いますし、リアル・トラウムとどんな化学反応が生まれるのかとても楽しみです。ウィーンは、ヨハン・シュトラウス2世のミュージアムがオープンしたりして、生誕200年の盛り上がりがいよいよ高まっているので、そんな雰囲気もお伝えできるかと思います。
現地での公演の批評は地元アウグスブルグの新聞でも好評で、「(主役二人と並んで)ヴァランシエンヌ役のレナ・シュテケッレとカミーユ役の高島健一郎も、その歌唱とカリスマ性において情熱的かつ説得力を持ち最も重要な役のひとつを演じた」という記事が掲載されていた(https://www.augsburger-allgemeine.de/mindelheim/bad-woerishofen-grosses-schwelgen-in-der-operettenseligkeit-im-kurhaus-104391076)。ドイツ語圏でドイツ語圏のキャストと観客に囲まれて、カミーユを演じる高島の実力を改めて実感できる公演であり、2月のオーチャード、そして5月の葛飾と、リアル・トラウムの公演がますます楽しみに思えた夜であった。
文=神山薫
公演情報
2025/5/30(金) 19:00 開演
かつしかシンフォニーヒルズ モーツァルトホール (東京都)
ウィーン・ヨハン・シュトラウス・ヴィルトーゾ
REAL TRAUM(リアル・トラウム)[鳥尾匠海(テノール) 高島健一郎(テノール) 杉浦奎介(テノール) 堺 裕馬(バリトン)]
J・シュトラウス2世
「乾杯の歌」(オペレッタ「こうもりから」)
「バリンカイの歌」(オペレッタ「ジプシー男爵」から)
「ウィーン気質」(オペレッタ「ウィーン気質」から)
「トリッチ・トラッチ・ポルカ」「美しき青きドナウ」「ウィーンの森の物語」
レハール「君こそわが心のすべて」(微笑みの国)
モーツァルト歌劇「魔笛」から
ほか
オフィシャル先行受付(先着)2/1(土)12:00~2/9(日)23:59
一般発売 2/15(土)10:00~
公演情報
2025/2/16(日) 17:00 開演
Bunkamura オーチャードホール (東京都)
出演:
REAL TRAUM [高島健一郎(テノール) 堺裕馬(バリトン) 杉浦奎介(テノール) 鳥尾匠海(テノール)]
藤川有樹(ピアノ)
友情出演=Budo(ピアノ)
歌唱予定楽曲:
レハール「君は我が心のすべて」(オペレッタ《微笑みの国》より)
新井 満「千の風になって」、オペラ「トスカ」より、オペレッタ「メリー・ウィドウ」より、ミュージカル「ウエスト・サイド・ストーリー」より
etc...