長澤まさみ×森山未來 約14年ぶりの共演作、舞台『おどる夫婦』インタビュー
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長澤まさみ、森山未來
共演した2本の映画、『世界の中心で、愛をさけぶ』(2004年)と『モテキ』(2011年)は大ヒット、今なおこれらで演じた役の印象を鮮やかに残している長澤まさみと森山未來。ふたりが『モテキ』以来14年ぶりに共演を果たすのが舞台『おどる夫婦』だ。
作・演出を務めるのは、数々の演劇賞を受賞している蓬莱竜太(※「蓬」は正しくは一点しんにょう)。現在まさに脚本を執筆中とのことだが、内容は「とある夫婦の約10年間の軌跡を描く」ものになると発表されている。1月時点の情報では、長澤まさみ扮する妻・キヌは舞台衣装デザイナーで、外から見ると売れっ子だが現実は仕事をこなすことに必死、さらに母との確執、難病を抱える弟もいて、結婚してからは「現実との戦い」を強いられている女性。森山が演じる夫・ヒロヒコは、もともと「人は何故生きるのか」という思考を持っていたが、結婚直前に震災で母を亡くしたことでよりその問いが深まり、金を稼ぐだけの生き方に虚無感を持ち就職ができない、常に「心の戦い」を続けている男性、とのこと。
まだ全貌は蓬莱の頭の中、この物語がどう転がっていくのかは長澤、森山も楽しみにしている状態で敢行された取材当日、「ご無沙汰しています」と挨拶を交わした二人は、本作出演へどんな期待を抱いているのか。また、過去の共演でどんな印象が心に残っているのか。話を聞いた。
――14年ぶりの共演だそうですね。
森山:『モテキ』がもう14年前!?
長澤:ええええ……。
森山:めちゃくちゃ久しぶりですよね。『モテキ』から会っていないですもんね。……そんなことない? どこかで会ってる?
長澤:会ってないです。今までは映像でしか共演してなかったので、今回、舞台で共演できると聞いて、私は「そうか」と思いました。たしかに舞台でご一緒したことはなかったから「なるほど」と。
森山:(笑)。
長澤:初めて森山さんにお会いした時、私は16・7歳だったのですが、当時から森山さんは舞台をやっていらして、現場でもその話をされていた。その後も舞台というジャンルでご自身の進む道を開拓している森山さんと、舞台という場所でご一緒できると思っていなかったので、嬉しかったです。ご一緒できることも、一緒にいられる自分になれたんだということも、それを楽しみだと思える自分になれたというのも、嬉しい。森山さんとの共演は、自分の成長過程を感じるバロメーターになっているので、感慨深いです。
森山:『世界の中心で、愛をさけぶ』も『モテキ』も、長澤さんは僕が演じた役柄にとって象徴的な女性として存在しているんです。加えてシャイだったりもするのかな、16歳の長澤さんとは一切しゃべらなかった(笑)。その時々で、すごく大事な作品でお会いする特別感を抱きながらも……長澤さんご自身のことは“知らない”んですよ。
長澤:ですね(笑)。
長澤まさみ
森山:象徴的な存在というイメージのままずっと来ている。でも舞台では稽古含め、4・50日一緒にいることになります。しかもずいぶん密なコミュニケーションが必要になりそうな脚本だったので、楽しみだけど、まだちょっと、どうなるのか想像がついていないです……。
長澤:まだ途中までの脚本しかいただいていませんが、男女の間でよくあるような、“そうなっていく可能性のあるような”日常的な会話から始まりますよね。そういう親密な関係性が森山さんとの間にはないので……(笑)。
森山:ふふふ(笑)。
長澤:“恋する心”とかからは生まれない、積み上げた信頼のある深い関係性じゃないと発展しないような日常的な会話だったので、どうなるんだろうと思っています。しかも、映画っぽい台詞だなと私は感じました。これを舞台でやるとどうなるんだろう。こういう会話劇、私は初めてかもしれません。
森山:あまり大声を出す感じじゃなさそうですよね、現時点の脚本では。ザ・スズナリでやりそうな。
長澤:たしかに。でもこの脚本を、今まで関係性があるようでなかった(笑)森山さんとやるというのは、すごくいいことなんじゃないかな、と感じています。
――お互いの俳優としての魅力はどう感じていますか。
長澤:初めて会った時から「不思議な人」「何者なんだろう」という印象でした。最初に(『世界の中心で、愛をさけぶ』の)行定(勲)監督に森山さんを紹介された時に「森山くんはダンサーだから」って言われたんです。当時の私は、映画の現場で会う人は“俳優”であり“お芝居をする人”というイメージしかなかったので、違う肩書を持つ森山さんがすごく印象に残りました。そして舞台を軸に森山さんがやってきていることは、日本ではほかの誰もやっていないことだし、ご自身の道を貫く姿が素敵だと思います。今回の脚本でも、森山さん演じるヒロヒコのモノローグが“自分の心の声”のように始まるシーンでは「……踊るのかな?」という期待感を抱いてしまって……。
森山:タイトルもタイトルだし、気になるよね(笑)。
長澤:実際に踊られるのかはまだまったくわかりませんが、森山さんが演じるというだけでそれを期待しちゃう感覚があるし、そういう期待を人に抱かせる存在であることがすごい。でも思い返せば初めからそうだったし、この作品も、森山さんがいるだけで楽しくなるような気がする、そういう特別な空気を持っている人です。
森山未來
森山:僕は先ほど、「長澤さんの演じたキャラクターが象徴的だった」と言ったのですが、それは僕の演じた役柄から見た視点だけでなく、いわゆる視聴者にとって、ずっと象徴的な存在として長澤さんは在り続けている。その覚悟と根底にあるしっかりした存在感は21年前の初共演の時から変わらないなと感じています。そういう象徴性を持ちながらも、現場でのスタッフや監督との関わり合いは芯が通っていて、信頼できる人だという感覚はずっとあります。
――過去2回の競演で、具体的に印象に残っているエピソードはありますか?
長澤:『モテキ』は……ちょっと思い出せないんですけど……。
森山:そうなんですよね! なんでだろう(笑)。
長澤:森山さんと向き合って作ったというより、大根(仁)監督に「ああやって」「こうやって」とすぐ近くから言われて、試行錯誤していたような……。
森山:大根仁に翻弄された作品(笑)。
長澤:そんな感じでしたね(笑)。『世界の中心で、愛をさけぶ』では、テープの中で告白されるシーンがあって、それがテストと本番で、流れてくる内容が違っていたんです。おそらく私の新鮮な反応を引き出すためにそうしてくださったのだと思いますが、サプライズのような演出を受けたのも初めてで、すごくびっくりしたし、ドヤ顔でこっちを見ていた森山さんの顔もよく覚えています(笑)。
森山:『世界の中心で、愛をさけぶ』の時はあまりコミュニケーションを取らなかったし、役柄もあいまって、長澤さんはすごくミステリアスな印象があった。ただ、お墓に友だちと忍び込むシーンがあって、その撮影が深夜だったんです。待ち時間も長く、僕はすごい睡魔に襲われて、椅子に座りながらガックンガックンして倒れたかバランスを崩したかしたんですね。それを見て長澤さんが笑ってくれて。演技じゃない所で初めて長澤さんが笑ってくれた! というのはすごく記憶に残っています(笑)。
――今作で演じる役柄についてもお聞かせください。長澤さんがキヌ、森山さんがヒロヒコ。まだ蓬莱さんの脚本は途中段階とのことですが、現時点でどんな印象ですか。
長澤:今のところ、“成り行き”で生きている人の気がしています。ヒロヒコさんとの出会いは友だちという感じで、もちろん気持ちの流れもあるのでしょうが、どこか人生を自分で決めているというよりふわっと流れに乗っかって生きている人なのかな、と。強い意志があるのか、ないのかが現段階では見えておらず、長いものに巻かれている感じ。それがこの先、意志の強い人になっていくのかもしれませんが。
森山:ねえ、どうなんでしょうね? 『おどる夫婦』というタイトルだけど、現段階では夫婦としての生活もそんなに描かれていない。ただ、お互いのことを理解することを諦めていないやりとりではあるなと感じました。どこかでそれを諦めていく、受け入れていくといった時間の積み重ね方もあるのかもしれないけれど。そういったことを断片的にどう見せていくのか、僕も気になるところです。きっとその関係性や積み重ねをどう匂わせていくのかを大事にしている脚本なのかな、と感じています。
長澤:登場人物の本質的な部分は(今後)物語を通して見えてくるのでしょうね。でも「夫婦の約10年間の軌跡を描く」というのはすごく面白いですよね。夫婦の話ってたくさん世の中にあるけれど、蓬莱さんが10年という長い年月をどう経過させていくのか。興味深いです。
――蓬莱さんとは何かお話されていますか?
森山:まだまったく話していないです。ただ、蓬莱さんは信頼している作家さんです。蓬莱さん率いるこの座組でやれるということ、そして何より長澤さんと舞台をやれるということが楽しみで、物語の内容やキャラクター設定は考えず「やりたい」と思いました。蓬莱さんといえば、やっぱりモダンスイマーズの、役者たちがお互いの間をはかり合うようなひしひしとした空気感の芝居のイメージ。一方で2023年に上演された蓬莱さん個人のユニット・アンカルの『昼下がりの思春期たちは漂う狼のようだ』はもっと動的で、色々なものや空間が動き、時間も行き来するものだった。蓬莱さんの現在地はそういう場所なのかなと思って興味深く見ました。『おどる夫婦』は今のところ腰を据えた見せ方も、動的な見せ方もできそうですが、蓬莱さんの多面的なイメージを持ちながら、稽古場でコミュニケーションを取りながら形が出来上がっていくんだろうなと感じています。
長澤:私は蓬莱さんとは2020年に『ガールズ&ボーイズ』でご一緒するはずでした。コロナの影響で公演は中止になってしまいましたが、プレ稽古はすでにやっていたんです。蓬莱さんは俳優の得意不得意を見極めて無理をさせず、ご自身の演出したい方向へ誘導してくださった印象があります。役を押し付けるのではなく、俳優自身が気付いていく方法を見極めてくれる。プレ稽古でしたので実際の稽古に入るとどうなるのかはまだ未知ですが、あの時にやろうとしていた作品の空気感が『おどる夫婦』にも少し入っているのかなと思う節があるんですよ。
森山:『ガールズ&ボーイズ』は一人芝居ですよね。
長澤:そうです。一人芝居って台詞と語りから成る作りが多いと思うのですが、今回も少しそういうところがありません? 物語への関り方が俯瞰的というか。俯瞰の目とその場にいる人の目線が交錯していく感覚があるので、これがどんな演出で作られていくのか楽しみにしています。今までの舞台の稽古とは違う自分の姿が想像できるので、しっかり物語の理解を深めて芝居をしていきたいです。
――お話を伺っていますと、おふたりはこれまで信頼を築き上げながら適度な距離感を保っていらっしゃったように思えます。先ほど森山さんは「実は長澤さんのことを知らない」ということもおっしゃっていましたが、舞台の稽古ではより密な関係性を築くことになるかと思いますが、それは楽しみなことですか? あるいはミステリアスな関係性のままでいたかったりしますか?
長澤:どうでしょうね。ただ舞台の稽古でも「相手を知る」というより「相手の役を知る」でいいですよね?
森山:全然いいと思います(笑)。
長澤:そういうやりとりは、深めていきたいですね。関係性が深いふたりに見えるような芝居の向き合い方、というのはできそうな気がします。
森山:そうですね。演技論を戦わせるつもりはないけれど、お互いのキャラクターを理解していくためのコミュニケーションは重要なので。映画の現場って、特に日本では居合いみたいなんですよね。俳優部だけでなく、それぞれのセクションが各々準備をしたものを持ち寄る。「こういう風にやってみたい」と打合せていくのではなく、その場で手の内を見せ合うような緊張感が面白い。舞台はエチュードなども含めたコミュニケーションを重ねて作品が生まれていきます。映画とはまったくプロセスが違うので、長澤さんと作るその過程はもちろん楽しみたいです。
取材・文=平野祥恵 撮影=池上夢貢