新国立劇場 2025/2026シーズン バレエ&ダンス ラインアップ説明会レポート~『くるみ割り人形』新制作ほか吉田都 舞踊芸術監督の指針を反映した充実の作品群

2025.2.16
レポート
クラシック
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吉田都 新国立劇場 舞踊芸術監督 撮影:阿部章仁

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新国立劇場 2025/2026シーズン バレエ&ダンス ラインアップ説明会が2025年2月13日(木)午後に開かれた。舞踊芸術監督 吉田都によるラインアップ説明と質疑応答、フォトセッションが行われた。新国立劇場主催の2025/2026シーズン バレエ&ダンス公演は全部で9演目73公演、「こどものためのバレエ劇場」は2演目10公演を予定する。

■『くるみ割り人形』ほか新制作に注目!

バレエの新制作は3つ。2025年12月~2026年1月の『くるみ割り人形』<新制作>(オペラパレス 18回公演)は、英国の振付家ウィル・タケットによるオリジナル版となる。美術・衣裳はコリン・リッチモンド。「トラディショナルな2幕もの」であり「家族みんなで楽しめる、明るく、楽しい、カラフルな作品にしたい」とタケットに要望した。「ウィルさんも、楽しい夢のような作品にしたい、最後には心にジーンと何かが残るようにしたいとおっしゃっています」。また、「今まで使われていなかったチャイコフスキーの1、2曲を新しく入れるかもしれません」と明かす。2024/2025シーズンの『くるみ割り人形』は18公演で27,000人を動員し、年末年始の風物詩として定着していることを踏まえ「長く皆さんに親しまれる作品にしていきたい」と意気込む。

『くるみ割り人形』コリン・リッチモンドによる美術模型

なぜ今のこの時期に『くるみ割り人形』の新版を制作するのかを問われると「公演数が増えるなかでリフレッシュしたい」と話す。今季まで8シーズン連続上演したウエイン・イーグリング版は「振付がとても難しい」と語る。「ダンサーたちは強くなってスタミナも付きました。コール・ド・バレエのダンサーでさえもパートナーリングが上手になって勉強になりました。でも、制作された当時とは公演回数が全く違います。ダンサーの体の負担を考える意味もありますし、私のなかで今のタイミングなのかな」と真意を述べる。

『A Million Kisses to my Skin』撮影:鹿摩隆司

2026年2月の「バレエ・コフレ 2026」(オペラパレス 4回公演)では、20世紀の珠玉の名作を三本立てで披露。『A Million Kisses to my Skin』と『ファイヴ・タンゴ』<新制作>それに『テーマとヴァリエーション』に関しては、就任1シーズン目に「吉田都セレクション」として上演予定だったが、感染症禍の影響で演目変更となった経緯がある。新制作の『ファイヴ・タンゴ』は、ピアソラのタンゴにのせて踊られる洒落た味のある逸品で、吉田も「大好きな作品」と語る。2023年にレパートリー入りしたデヴィッド・ドウソン振付『A Million Kisses to my Skin』では、前回に続きドウソンも来日して指導に当たる予定。ジョージ・バランシンの名作『テーマとヴァリエーション』は「フレッシュ・キャストになるのではないか」と新鋭の起用も念頭に入れる。

『テーマとヴァリエーション』 Theme and Variations, Choreography by George Balanchine, © The George Balanchine Trust. 撮影:鹿摩隆司

2026年7月の「新国立劇場バレエ団ダブル・ビル」(中劇場 4回公演)では、新旧のオリジナル作品を上演。宝満直也『ストリング・サーガ』(仮題)<新国立劇場バレエ団委嘱作品・世界初演>に関しては「満を持して」依頼したと喜ぶ。新国立劇場バレエ団の中から振付家を育てるプロジェクト「NBJ Choreographic Group」から羽ばたき現在フリーで活動する宝満に「ぜひ新国立劇場に戻って、昔の仲間と一緒に創ってもらえたらいいなという気持ちがずっとあったので、実現してうれしいです」と顔をほころばせた。久石譲の音楽を用いた「日本的な作品」だという。同時上演は2014年に世界初演され好評を博したジェシカ・ラング振付『暗やみから解き放たれて』。

『暗やみから解き放たれて』撮影:鹿摩隆司

 

■レパートリー作品、ダンス公演なども充実!

レパートリー作品も充実。シーズン開幕を飾る2025年10月のフレデリック・アシュトン版『シンデレラ』(オペラパレス 全12回公演)は、1999年から再演を重ねる人気の物語バレエだ。「前回(2022年)は(英国の指導者とは)オンラインでのリハーサルでしたが、いいところまで持っていけました。新しく入ったメンバーにもアシュトンの作品を経験してもらいたい」と話す。なお新国立劇場での初日前の10月4日(土)と5日(日)に札幌文化芸術劇場 hitaruで上演予定。

『シンデレラ』撮影:瀬戸秀美

2026年3月には、ドラマティック・バレエの傑作であるケネス・マクミラン振付『マノン』(オペラパレス 6回公演)を上演。前回2020年2月の上演中に感染症禍の影響により一部の公演が中止となっただけに、リベンジの機会となる。今回の見物は、本家の英国ロイヤルバレエが所持するニコラス・ジョージアディスによる重厚で壮麗な美術・衣裳を使用すること。「衣裳・セットが痛むことを心配して、なかなか貸し出しをしてくださらなくなっていますが、今回はロイヤル・オペラ・ハウスのプロダクションをお借りできるのをうれしく思います」とほほ笑む。

『マノン』撮影:瀬戸秀美

2026年4月~5月の『ライモンダ』(オペラパレス 10回公演)は、クラシック・バレエの様式美を確立したプティパ最後の傑作で、新国立劇場バレエ団を躍進させた第2代舞踊芸術監督・牧阿佐美(2021年逝去)が演出・改訂振付。「(2024年7月に行い、吉田都 演出『ジゼル』を上演する)英国ロイヤルオペラハウス公演に持っていきたかったくらい素敵な作品です」と紹介した。

『ライモンダ』撮影:長谷川清徳

2026年6月の『白鳥の湖』(オペラハウス 10回公演)は、2021/2022シーズン開幕作品として新制作され評判になったピーター・ライト版の3度目の上演。クラシック・バレエの代名詞的作品だが、吉田の師でもあるライトによるプロダクションは、英国らしい演劇性豊かだ。

『白鳥の湖』撮影:鹿摩隆司

「新国立劇場バレエ団ダブル・ビル」以外のダンス公演も話題作が続く。2025年12月の伊藤郁女『ロボット、私の永遠の愛』<日本初演>(小劇場 4回公演)は、フランスを拠点に振付家・ダンサーとして活躍し、ストラスブール・グランテスト国立演劇センター「TJP」のディレクターを務める伊藤のソロ作品。伊藤の自伝的三部作の最後の作品だ。2016年3月の『フレンズ・オブ・フォーサイス』<日本初演>(小劇場 5回公演)は、昨年京都賞を受賞した巨匠ウィリアム・フォーサイスがジャンルを超えたダンスアーティストと協働する、実験的なショウケース。

伊藤郁女『ロボット、私の永遠の愛』©Laurent Paillier

「こどものためのバレエ劇場 2026」は2演目10公演を予定。5月のエデュケーショナル・プログラム『白鳥の湖』(オペラパレス 2回公演)は、6月のピーター・ライト版『白鳥の湖』に先立ちマイムや音楽の解説を行ったうえで第3幕を上演する。7月には昨年初演した『人魚姫~ある少女の物語~』(オペラパレス 8回公演)を再演する。

新制作は古典全幕バレエ、現代の名作、オリジナル新作と多彩で、レパートリー作品に関しても演劇的バレエの名作が入るなど、意欲的かつバランスの取れたラインアップという印象である。予算面などとの折り合いを付けるのに苦心していると補足しつつ「クラシック・バレエが多いのは、バレエ団を強くしていくためには古典が大切ということです。『マノン』ですと、もっと表現が重要視されます。宝満さんの新作も、ダンサーたちにとってチャレンジとなるでしょう。幅広く経験してほしい気持ちがあってのレパートリー選びでした」との選定方針を語った。

『フレンズ・オブ・フォーサイス』©Bernadette Fink


 

■公演数が増加、社会貢献活動にも積極的

吉田が2020/2021シーズンに監督就任して以降、公演数が着実に増えている。感染症の影響も脱しつつあり「来シーズンは演目数が従来のシーズンに戻りまして、バレエ6演目、ダンス3演目になります。公演数は76回(※現時点でのバレエ団ダンサーが出演する公演で、「こどものためのバレエ劇場」や全国公演も含む))という、今までで一番多い数になります。年々増やせしていけるのは、バレエ団にとっても劇場にとってもいいことです」と胸を張る。「本番を重ねることによって、ダンサーたちが強くなっているのを実感していますし、ますますいろいろなチャレンジができるのではないでしょうか」と手ごたえを得ているようだ。

吉田都 新国立劇場 舞踊芸術監督 撮影:阿部章仁

企業との協働による社会貢献についても報告。「社会貢献活動を新国立劇場の使命として続けていきたい。ご協力いただいた企業にこの場をお借りして、心から御礼を申し上げます」と語る。

先シーズンは新国立劇場こども観劇プログラム・バレエ『アラジン』を実施。一般財団法人カルチャー・ヴィジョン・ジャパンとの共催により、野村不動産株式会社、野村不動産ライフ&スポーツ株式会社の協賛を得て実現した。「劇場に足を運ぶ機会がない、文化芸術にふれる機会が少ない子どもたちをご招待しました。『アラジン』はストーリーもわかりやすいし、いいタイミングでご覧いただけたのではないでしょうか」と振り返る。

今季の『くるみ割り人形』では「バレエみらいシート」を企画。株式会社オンワードホールディングス、チャコット株式会社との協働により、バレエを学ぶ小中学生がダンサーに手紙を書き、その中から公演への招待者が選ばれた。「公演後に主演ダンサーとの交流もあり、池田理沙子、奥村康祐が手紙を読んで、実際に誰に公演に来てもらうかを選んだりもしました」と説明する。

昨年8月には、京王電鉄株式会社の「京王アカデミープログラム」の一環として「新国立劇場でバレエを知ろう!」を行った。「一般の子どもたち向けにワークショップを行いました。『眠れる森の美女』のリラの精とカラボスのマイムを学び実際に体験するプログラムです」と紹介した。

映総配信についても触れた。昨年9月から半年間にわたり<新国デジタルシアター>バレエ公演『アラジン』を配信中だ。「今現在で63万回再生されています。海外からの反響も大きく、新国立劇場やバレエ団を知っていただく機会になっています。続けていけたら」と話す。

『ライモンダ』撮影:長谷川清徳


 

■さらなる今後にむけて

公演数が増え、バレエ公演の入場率が90%を超える観客動員も含めて「とてもいい方向に向かっている」と自負をのぞかせるが、課題から目を逸らさない。

次シーズンの目標として、ダンサーたちの主に表現面の「自主性」の向上を掲げる。新国立劇場バレエ団の「皆で助け合い、カバーしあうチームワーク」や「美しいコール・ド・バレエ」を讃えつつ、個々がより自ら考えて動くことを望む。舞台に対し「真剣に取り組んでいますが、貪欲さが足りない」と指摘。「ダンサーたちと一緒に、それぞれの表現の違いであったりとか、そういうことを模索していきたい。自主性みたいなものが今はまだ眠っている感じなので、呼び覚ましたい」と願う。「まずは形から入るのが大切な部分でもあるんですよ。でも、それを本人たちがどう消化して表現していくのかが、もう少し見えたらいいですね」と叱咤激励した。

『シンデレラ』撮影:瀬戸秀美

キャスティングについては「お客様に楽しんでいただき、そしてダンサーにとっても成長の機会となるベストなキャスティングを、ベストのタイミングで心がけています。ダンサーのコンディションも見ながら、その時々に相応しいキャスティングをしていきたい」と表明した。

3月14日(金)に初日を迎える「バレエ・コフレ」の3演目のうち、ハラルド・ランダー振付『エチュード』とウィリアム・フォーサイス振付『精確さによる目眩くスリル』のリハーサルが行われている。稽古が始まったばかりとはいえ「まだまだ理想には遠い」と語る。しかし、振付指導者が「情熱をもって教えてくれている」状況に接し「基礎」の大事さを今一度噛みしめている。「来シーズンも引き続き、さらなる進歩を目指して、やっていきます」と前向きに語った。

取材・文=高橋森彦

公演情報

新国立劇場 2025/2026シーズン バレエ&ダンス ラインアップ 〈計9演目 73公演〉
 
2025年10月『シンデレラ』12回公演
2025年12月 伊藤郁女『ロボット、私の永遠の愛』<日本初演>4回公演
2025年12月~2026年1月『くるみ割り人形』<新制作>18回公演
2026年2月「バレエ・コフレ 2026」
『A Million Kisses to my Skin』/『ファイヴ・タンゴ』<新制作>/『テーマとヴァリエーション』4回公演
2026年3月 『マノン』6回公演
2026年3月 『フレンズ・オブ・フォーサイス』<日本初演>5回公演
2026年4月~5月『ライモンダ』10回公演
2026年6月『白鳥の湖』10回公演
2026年7月 新国立劇場バレエ団「ダブル・ビル」『ストリング・サーガ』(仮題)<新国立劇場バレエ団委嘱作品・世界初演> /『暗やみから解き放たれて』4回公演
こどものためのバレエ劇場 〈計2演目10公演〉
2026年5月 こどものためのバレエ劇場 2026 エデュケーショナル・プログラム『白鳥の湖』2回公演
2026年7月 こどものためのバレエ劇場 2026『人魚姫』8回公演

【公式サイト】https://www.nntt.jac.go.jp/ballet-dance/news/detail/77_028710.html
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