市村正親「全国にパワーとドラマを届けたい」 ミュージカル『屋根の上のヴァイオリン弾き』ゲネプロ&囲み取材レポ-ト
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1964年にブロードウェイで初演が行われ、トニー賞ミュージカル部門の最優秀作品賞をはじめとする7つの賞を受賞、8年間のロングランを達成した『屋根の上のヴァイオリン弾き』。
日本では1967年に初演を行い、テヴィエを演じた森繁久彌は通算900回の上演を行った。1994年からは西田敏行が主演・テヴィエを演じ、2004年からは市村正親が役を受け継いだ。市村にとって7回目となる今回の公演で妻・ゴールデを演じるのは、2009年より同役を務める鳳蘭。さらに、美弥るりか、唯月ふうか、大森未来衣、上口耕平、内藤大希、神田恭兵、今井清隆と、続投キャストから新参加のキャストまで実力派が集結している。
開幕を前にゲネプロと囲み取材が行われ、取材会には市村正親、鳳蘭、美弥るりか、唯月ふうか、大森未来衣が登壇した。
初日を前にした意気込みを聞かれると、市村が「2004年から始まり、今回で7演目を迎えます。新しい仲間も増え、いいお芝居を皆様にお届けしたいと思っています」と話し、鳳は「この役は代々宝塚の先輩方が演じてきました。とても光栄に思っています」、美弥が「長年愛される作品に初めて参加させていただき光栄です。素晴らしいパパとママの娘になれて本当に幸せです」と語る。唯月は「楽しく笑いの絶えない家族の一員になれてとても幸せです。心を込めて皆さんにお届けしたいです」と意気込み、大森は「初めてこの作品に参加させていただきますが、あったかいパパとママ、お姉ちゃんたちに囲まれて幸せな日々を送らせていただきます」と笑顔を見せた。
今回が初めてとなる明治座での公演に対して、市村は「僕はこの劇場がまだ木造だった頃に立ったことがあります。その時は付き人をしていましたが、こうして53年経って初めて明治座に立ち、錦が立ったような感覚です。のぼりは恥ずかしくてまだ見ていません」と笑う。
続いて稽古場エピソードはあるかという質問が出ると、美弥は「稽古場でお二人(市村・鳳)を見られることに感動していました。今まで客席で拝見してばかりだったので、こんなに気さくにお話しして、アドバイスなどもくださるんだなと。食い入るように稽古場を見てしまいました」と振り返る。唯月は「家族のシーンを稽古した時に、帰ってきたなという感覚がありました。ホーデルもそうですが私自身もエネルギーをいただいていました」と両親役の二人に感謝を伝えた。さらに大森が「娘たち5人で焼肉に連れて行っていただき、楽しくお話ししながらご飯を食べました」と明かし、市村は「一緒に食べたり飲んだりすると空気がほぐれるから」と、稽古以外でも家族らしい空気を作るための工夫をしたと話す。
また、2009年より本作で共演している市村と鳳。市村は「ツーカーの仲で、息が合うので楽」と話し、鳳も「板の上では甘えたり頼ったり、妻の立場を味わっています」と笑顔で頷く。この作品がどんな存在かという質問には、市村が「テヴィエ家の物語は架空のことですが、自分のことのように喜んだり悲しんだり。実際に体験している感覚を得られる、大好きな作品です」、鳳は「同じです。曲を聴くだけで涙が出てくる」と思いの深さを語った。
最後に市村は「明治座で1ヶ月の公演を行った後、全国にすごいパワーとドラマ、いい音楽を届けに行きます。今回は7年目ですが、長年やっていると新たな発見もあります。以前とまた違う、新たな『屋根の上のヴァイオリン弾き』をお届けしますので楽しみにしていてください」と締め括った。
ゲネプロレポート
本作の舞台は、架空の村「アナテフカ」。帝政ロシアの時代、変わりゆく世界や価値観に翻弄されながらも強く生きるユダヤ人一家を描いた作品だ。
市村演じるテヴィエは、お人好しで働き者の酪農家。古いしきたりを大切にする頑固な男だが、一方で娘たちに教育を受けさせようと考えたり、娘たちが愛する相手と結婚することを許したりと、柔軟さも持つ父親だ。ことあるごとに聖書を引用しようとし、困った時や苦しい時は神に問いかける信心深い男を、市村は非常にチャーミングに演じている。信心深いからこその葛藤、時代の変化や娘の思いを受け止めようとする愛情が、シリアスなだけでなくユーモアを交えて描かれているのも楽しい。
その妻・ゴールデ役の鳳は、お人好しな夫と娘たちを引っ張っていく母の気丈さと厳しさ、愛嬌を両立させている。家族に口うるさくあれこれ言う姿は気の強い女性といった雰囲気だが、物語が進むにつれ、頑固な夫をさりげなくサポートしたり、結婚した娘を気遣ったりと、優しさやあたたかさも見えてくる。
市村と鳳は、ちょっとした会話や表情で長年連れ添った夫婦らしい雰囲気を醸し出し、この家族に対する親近感や愛着を掻き立ててくれた。
娘たちも皆個性豊か。長女・ツァイテル(美弥るりか)は、親子ほど歳の離れたラザールの求婚を断り、幼馴染・モーテル(上口耕平)と結婚式を挙げる。口が達者で頭も良い次女・ホーデル(唯月ふうか)が新たな価値観を村に持ち込む学生・パーチック(内藤大希)との対話を通して変化していく姿も初々しく眩しい。そして、本を読むのが好きな三女・チャバ(大森未来衣)は、読書をきっかけに、異なる信仰や文化を持つロシア人・フョートカ(神田恭兵)と距離を縮めていく。
時代を考えると「仲人から紹介され、親が決めた相手と結婚する」という風習を破り、自分が愛した男性との道を選ぶ姉妹たちの行動力に驚くが、気が弱く臆病だがいざという時に行動できるモーテル、社会について考え、誰かのために行動できるパーチック、宗教や人種の垣根にとらわれずに人を見ることができるフョートルはいずれも魅力的だ。彼らと接し、戸惑いながらも娘の選択を信じる両親の愛情も胸を打つ。
今井演じるラザールは、テヴィエと不仲でツァイテルとの結婚も破談になる不憫な役回り。短気さも見えるが、結婚の申し込みをする際は緊張が伝わってくるなど、可愛らしい一面も描かれており憎めない。
また、19世紀を描いた物語だが、現代にも通じるテーマや課題が多数あり、決して古臭さは感じない。村で暮らすユダヤ人たち、テヴィエと仲の良いロシア人巡査部長など、家族を取り巻く人々のドラマも、キャスト陣の芝居はもちろん、魅力的な音楽やダンスによってイキイキと描かれている。
時代の変化に伴う価値観や考え方の多様化、人種・宗教の違いによる対立や対立など、様々なテーマが盛り込まれている本作。初演から半世紀以上が経った今でも色褪せないメッセージ性を持つ作品を、ぜひ劇場で見届けてほしい。
取材・文・撮影=吉田沙奈
公演情報
オリジナルプロダクション演出・振付:ジェローム・ロビンス
日本版演出:寺﨑秀臣
出演:市村正親 鳳蘭
美弥るりか 唯月ふうか 大森未来衣 上口耕平 内藤大希 神田恭兵 今井清隆
会場:明治座
劇場 HP: https://www.meijiza.co.jp/
【全国ツアー公演】
富山 オーバード・ホール 大ホール
広島 上野学園ホール
福岡 博多座