「僕はまだ何も諦めたくない」the shes goneが新体制初のミニアルバム『AGAIN』に秘める、エゴと決意と衝動

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インタビュー
音楽

撮影=ハヤシマコ

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the shes goneが、2025年3月26日(水)に約2年ぶりにミニアルバム『AGAIN』をリリースした。2023年9月よりサポートベースとして参加していた松田ナオトを新たにメンバーとして迎えて活動を始めた彼らの、新体制初のアルバムには、2023年〜2024年の既発シングル5曲に加え、aikoの「カブトムシ」やback number「水平線」などを手掛ける島田昌典がプロデューサーをつとめた「ひらひら」、新曲の「アゲイン」と「何者」の全8曲が収録された。the shes goneの現在のモードはどんなものなのか。兼丸(Vo.Gt)に約2年ぶりに話を訊いた。

悪いことも、良いことに繋がるためにあった。
バンドとして今が1番良い状況

ーー前回のインタビューの後、サポートを経て松田ナオトさんが入られて、新体制はどんな感じですか?

たぶん、今がバンドとして1番良い状況です。もちろんメンバーチェンジはすごく大きなことだったけど、自分たちの中で「あまり変わらないように」というのを意識してやってきて。ベースの松田が、変わらないで僕らの音をちゃんと咀嚼してやってくれる部分と、彼の持っているエッセンスを、エゴの塊ではなく、すごく浸透させるように入れてくれる部分があって。リハーサル、制作、ライブ感や雰囲気も含めて、どんどん良い調子になってると思います。

ーー「タイムトラベラーと恋人」で、クレジットに松田さんの名前が入っていますね。

2023年の「きらめくきもち」はタイアップで書き下ろしなのでまた別なんですけど、2024年に出した「タイムトラベラーと恋人」のほか「エイド」と「LONG WEEKEND」はセールス関係なく、音楽的にやりたいことをやろうというところで進めていたので、「こういう楽曲をやりたいけど、どうやったら歌詞が立つんだろう」と、スタジオで全員でミーティングセッションしながらアプローチしていく形で、アレンジに加わっていただきました。「タイムトラベラーと恋人」に関してはイントロから鳴っているシンセや電子音も一緒に制作したので、クレジットではアレンジとしても名前が入っていた感じですね。

ーーMVにも松田さんが映っていたり、当時からメンバーのような感じで?

もともと僕が4ピーススタイルのギターボーカルに憧れがあるので。今はドラムやベースレスの色んなバンドがいますけど、やっぱりthe shes goneとしては4ピースが1番カッコ良いスタイルだと思っているんです。なのでMVからもバンド感が伝わればな、みたいなところで映像にも参加していただいていましたね。

the shes gone「タイムトラベラーと恋人」Music Video

ーー2024年の終わりに、兼丸さんがInstagramの投稿で「心の筋肉がモリモリだから」と書かれていましたが、バンドの状態の良さもその一言に入っているのでしょうか。

僕自体、心も身体も線が細い人間だったので。2023年の下半期に初めてメンタルが落ちた時がありましたし、ライブも「ちょっとしんどいな、無理だな」という時期があったんです。けれど、今は​自分でもそれを乗り越えたと思っていて。新体制の話もそうですけど、悪いことが起きても良いように考えるしかないというか、「全て良いことに繋がるためにあったんだ」と思うように生きていくしかないと思っているので。身体と心のバランスを崩してそれを乗り越えた2024年、ライブでもそれをちゃんと口に出せて、腹を割ることができて、「痛みを知ったからこそさらに強くなれたぞ」という部分が「心のムキムキ」みたいなワードに繋がっているんだと思います。「ライブで得たパワーを循環して2025年に返していきますよ」という気持ちをぎゅっとした感じですね。

ーーそのマインドが、今作にも繋がっていたりしますか?

そうですね。その投稿で「期待して待っててね」と書いたんですけど、今回の収録曲でいうと「アゲイン」と「何者」を同時に制作・レコーディングしていまして。レコーディングが終わって、仮のミックス音源を2駅分ぐらい歩いて聴いてたんですけど、「これで大丈夫だな」と思えて。自分たちが作り上げたもので自信を持てたことが、そういうマインドにも繋がりましたね。

ーーそれは2024年のいつ頃ですか?

10月〜11月のレコーディングの時にそれを感じました。結局「アゲイン」は先行配信として出したんですけど、例えばリード枠ではなくアルバム収録曲の枠だった​としても、このクオリティで書けたし、全員で作れたことがまず大きな一歩というか。メンバー間で口には出さないけど、多分自分たちの中で暗黙で一致してる部分です。「とりあえず自分たちで及第点がついてるから、絶対お客さんに聴かせても大丈夫だ」みたいな。筋肉がついてきたことをその2曲で感じたというか「大丈夫だぞ!」と思えましたね。

「もう一度」という言葉に込めた意味と想い

ーーアルバムタイトルは、今お話いただいた「アゲイン」から来るところもあるのかなと思いますが、「もう一度、諦めないでやってみよう。自分達の為に音を鳴らしてみよう」というライナーノーツを読むと、それだけではなさそうな意味合いも感じます。今のthe shes goneを見せるのに『AGAIN』というタイトルに行き着いた理由は?

『AGAIN』の意味合い的には、ライナーノーツの言葉は作り手の想いで、お客さんに対しては「また聴きたくなるアルバム」ですね。1周聴いて、また1曲目から何となく流しちゃうようなイメージ。そういう2つの意味の「アゲイン」があって。アルバムを『AGAIN』という名前にしようかなと構想を練っていた時に「アゲイン」も同時進行で作っていたので、このアルバムの顔じゃないですけど、「自分たちで口にせずとも、わかりやすく今のthe shes goneが伝わるものが1個あったらいいな」というふんわりした想いとタイミングが重なって。歌詞を書いていく中で、今までは結末が悲しいままや幸せなままの曲が多かったんですけど、「アゲイン」では「このままだともうダメだな、終わりだな」から<やり直そう>という単語が出てくるんですよ。物語の中の人間たちにもう1回チャンスをあげることで、現実の人間も希望を持てたらいいなという部分がありましたし、そういう話があってもいいんじゃないかなと思って作っている中で、<やり直そう>という言葉がアルバムのタイトルに一致してきたんです。「僕らももう一度やり直そう」じゃないですけど、「もう一度」という別のアゲインの意味と重なってきたので、この「アゲイン」という曲を軸にアルバム曲を並べたいなということで、表記だけ変えてタイトルを重ねてみました。

ーー新体制になって「ここからもう一度」みたいな意味合いもあったりします?

今回、完全に4人で全曲を作ったので「一瞬諦めかけてた場所やイメージをもう1回この4人でやるぞ」みたいな部分は、僕の青い炎としては入ってますね(笑)。

ーー青い炎は静かに燃えるけど、1番温度が高い炎ですね。

僕、全然赤くないんで。1番だるい奴ですよ。熱くなさそうに見えて、「こいつ熱いのかよ!」っていう。

ーー触れてみたら意外とね。

それも曲として表には出さないですけど、そういう想いを熱苦しくなく入れるとなると、「アゲイン」という言葉だったり。ダブルミーニングが好きなので、アルバムタイトルに引っかけてはいます。

ーー「アゲイン」は本当にストーリー性のある楽曲で、ストーリーに応じて楽器が細かく変化していくのがドラマチックだなと思いました。サウンド面に関してはどんなふうに作っていかれましたか?

また大枠の話になっちゃうんですけども、2024年までの既発曲が「やりたい曲をやる」というもので、2025年以降の先行配信も含めたアルバム曲たちは「自分たちのアイデンティティをもう1回探る」作業をしまして。俯瞰的に見て、「お客さんはどういう音をthe shes goneだと思うんだろう」というのを僕がメンバーと話し合って作ったのが「アゲイン」と「センチメンタル・ミー」です。だから僕らの初の全国流通盤の1stミニアルバム『DAYS』のアプローチに近い音の重ね方、フレーズの出し方、フレーズの譲り方にしようと結構話し合いました。僕は全員の演奏録りが終わってからようやく歌詞を書き上げるタイプで、歌詞が1番最後なんですけど、「アゲイン」は弾き語りのスタイルで、最初に歌詞ができた状態でみんなに渡して作っていたので、メロをなぞるよりも、寄り添う演奏のアプローチになってると思います。だからドラマチックと感じていただけたんじゃないかな。

ーー前半の綺麗な高音のギターが分厚くなっていくところや、2番頭の<気がついた 僕は前から仕方ないと思い込んでいた>のハッとさせるような雰囲気のアレンジが好きです。

イメージとしては、映画『スター・ウォーズ』の画面のカット割りです。画面がバッと変わるんじゃなくて、ひゅーんと左右に流れたりして変わる。お客さんが「場面変わったんだな」とわかるように音で表現しましたね。

ーーコーラスは英語ですか?

そうなんですよ。これも彼の影響で。彼が学生時代をスイスで過ごしてたり、バークリー音楽大学で学んでた時期がありまして、英語が堪能なので。日本語は聴いてて言葉が入ってきちゃうけど、英語はBGMとして捉えられる、そういうのが良いなって。で、ここに関しては爽やかさだけ持ってくれたらいいなというところで英語にしたかったんですけど、彼の力を借りて、音や言葉の鳴りも相談しながら作りました。

ーー松田さんは楽曲制作においてもキーマンですね。

洋楽のエッセンスだったり、やりたかったけどできなかったことを、彼が音に変えて言語化してくれます。

ーー「LONG WEEKEND」も洋楽的アプローチですね。

「LONG WEEKEND」に関しては、ほぼほぼ僕が徹夜で作ったものをみんなにそのままやっていただいてるんですけど。初めての全サビ英詞なので、松田に文法や発音を相談しました。でもお力をいただいてる感覚ではなくて、当時からほぼメンバーというかステージにいる4人として一緒にやってましたね。レコーディングした人間とライブする人間が同じ方が理解力が深まるし、同じ方向を向けてる気がするので。そういう意味でもグルーヴをちゃんと4人で作れてるなと感じてますね。

名プロデューサー・島田昌典との楽曲制作

ーーリード曲「ひらひら」は女性目線で壮大なバラードですが、島田昌典さんがプロデューサーに入られています。

プロデューサーを入れること自体が初めてなんですけど、その中で「じゃあどうするか」と考えました。今まで敢えてセルフプロデュースで、音楽的な変化がつく時に差がないのが嫌で、ストリングスもピアノも入れなかったんですよね。今回はピアノを入れたいねという話から、ピアノ弾きのプロデューサーさんを探してて。紐解いていったら、知らず知らずのうちに聴いてたバンドのサウンドが島田さんプロデュースのものが多かったのですが、オファーしたらなんと受けていただけることになって。島田さんはバラードをちゃんと綺麗にバラードとして出してくれると言いますか。the shes goneとしても、ライブで歌も演奏もごまかしがきかないのがバラードだから、大切に作っていて。2年ぐらいバラードを作ってなかったので「島田さんにお願いするならバラードでいきましょう」と話し合いました。歌詞は女性目線というか、僕は「女性の言葉を借りる」と思ってるんですけど、女性詞もずっと書いてなかったので、今回はそういう形になりましたね。

ーー歌詞も島田さんと相談されながら作っていかれたんですか?

僕らが出したデモに対して、島田さんが「こういうピアノのイントロどうでしょう?」というのがどんどん出てきて、もうオケが素晴らしすぎて「これは絶対に歌詞が負けるな」と思ったんですよ。なので歌録りギリギリまで歌詞を書いて、島田さんに「候補が2パターンあるんですけど」「こっちがいいと思うよ」と相談したり、歌いながら「こっちの方がハマりいいね」という感じで、ボーカルディレクションを一緒にやって決めていただきましたね。

ーー島田さんとの制作は、いかがでしたか?

僕らみたいな若造にもすごく優しく接してくださって。やっぱり僕らもプレイヤーなので、全員ある程度のエゴはあって。島田さんの最初の提案に対して「こういうアプローチがいいです、こっちで弾いてみたいです」って自分たちでフレーズを試してみたりもしたんですけど、そのフレーズが逆に粗になってしまって、せっかく構築されている他の楽器とのバランスが悪かったんですよね。それで結局、島田さんの案に戻ったりして。そこはもう異次元というかセンスの世界なので、島田さんを信じてやってるからこそ「やっぱりすげえな」と思いました。プラス、ボーカルのディレクションですね。普段はセルフプロデュースなので、自分で録ったものを逐一聴いて「もうちょっと明るくやってみます」だったり、マネージャーが「もうちょっと声大きくいける?」みたいな表現をするんですけど、そのニュアンスって実は“声量”ではなく“声色”だったり、分かりやすいようで漠然としていて意外に難しくて。そんな中、島田さんは歌詞も見ながら曲を解釈してくださって、島田さんのゴールが見えていたので、そこに全部乗っかって録らせていただいて。それは本当に気持ちが楽でしたね。6分台の曲なので歌録りは時間がかかったんですけど、疲労感よりも満足感というか、よく見てくださってるので、疲れすぎないように休憩も入れてくださいました。1番印象的だったのは、落ちサビ。結構、繊細に小さな声で歌ってるんですけど。

ーーピアノとボーカルだけになるところですね。

はい。なのでシビアなんですけど、「シビアにやるぞ!」という歌でもなく、どちらかというと感情を込めなきゃいけない中で、ピッチやマイクとの距離について「もうちょっとベストがあるよね」と探ってる時に、島田さんが「ちょっとさ、ストーカーみたいに歌ってよ」と言ってくださって。

ーーへえ!

でもその表現が、僕的にはすっごくわかりやすくて。ストーカーって、勝手なイメージですけど、ちょっとジメッとした雰囲気があって、きっとぼそぼそ喋るからマイクとの距離も近くて。難しいと言ってた声や口の大きさ、雰囲気が、全部その一言に詰まっていて、それを読み取れた次のテイクぐらいでOKだったのが、音源の落ちサビです。アドバイスの仕方も新鮮でわかりやすかったので「すごいな」となりましたね。「島田さんはこの歌詞や落ちサビの良さを、そういうふうに聴こえるのがベストだと思って僕の歌を聴いてくださってるんだ」って。リスペクトと色んな感情がワッときて、興奮しました。

ーーお話されている今も、良い表情されてますもんね。ボーカリストとして得たものはありましたか?

なんだろう。まだ「ひらひら」以降、次の曲のレコーディングに取り組んでいないので、そこでわかることはあると思うんですけど。でもボーカリストとしてひとつわかったのは、自分以上に自分を理解して引き出してくださる方が世の中にいるんだ。その安心感はこんなにも強いものなんだな、ということですね。皆さんがライブに行って「アーティストが代弁してくれた」みたいなのと近いイメージ。島田さんとプライベートなお話は特にしてないですけど、そういう部分で心が通ったといいますか。音楽を通じてわかっていただけた、わかり合えた。そこが気づきですかね。これからライブで「ひらひら」は披露するので、ライブの中で楽曲と島田さんと対話してわかることはいっぱいあると思うけど、今はレコーディングの思い出がほとんどなので。

ーー味方がいてくれることは、兼丸さんにとって大きそうですね。

他のメンバーが味方ではないとか、そういうことではなくて。例えば僕はドラムを叩けないですけど、ドラマーにはドラマーだけがわかる良さやあれこれが多分あるじゃないですか。同じように自分にしかわからないと思っていたことを理解してくれる人がいたんだ!という感覚でしたね。他のメンバーは普段から歌詞もボーカルに関しても僕に一任してくれているので。だからこそ、自分に対しての歌録りの時の責任は強い。真剣になるのはいいけど、深刻になっちゃう時があるんですよ。そこから島田さんが「そんな考えすぎないでいいよー」ってひゅっと引き上げてくれて。結果的に、集中や色んな部分を維持したままレコーディングに取り組めた感覚が初めてでしたね。こんなに長いバラード曲で、こんなにも集中して、感動しながらできるんだなって。

アルバムの核であり、今のthe shes goneのタームを象徴する「何者」

ーー今作で外せないのが「何者」だと思います。自分に鞭打って進む「エイド」は兼丸さんそのものかなと思いつつ、「何者」はもっと生々しいというか。

the shes goneの歌詞でありつつ、かなり僕自身だと思うんですけど。というのも、さっき話した通り「何者」も「アゲイン」と同じ時期に作っていて、この曲も弾き語りスタイルで、家でエレキギターをアンプにつないで、ぶわーっと歌詞を書き出したので歌詞先行なんですよね。ありえないんですよ。いつもの僕だったら、そこから書き直すので。バーッと出てきた言葉はフィルターを通してないようなもので、粗さがあったり「やだな」と思う部分があるんですけど、今回に関しては「これも自分か」みたいな開き直りがありまして。だから吐き出したもの、吐き出ちゃったものに近いですね。でもそれがこの曲の核かなって。「アルバムの核であり、今のthe shes goneのタームを象徴する1曲なんだろうな」と自分でも思って、そのまま歌詞を使いました。

ーーなるほど、吐き出ちゃったもの。

僕もこのアルバムの核になるのは「エイド」だと思ってたんですけど、「エイド」は鼓舞する曲なんですよね。「勝手にここであなたを鼓舞してるから、助けてほしい時はこの曲聴いてね」みたいな感じなんですけど、「何者」に関しては誰かを救う気はないので。「この曲を聴いて救われるなら勝手にしてくれ」ぐらいのものが入ってて。他の人を見てる余裕がない曲。俯瞰してみても「このエゴったらしいエゴの塊みたいなものが自分か」みたいなところがあって、逆にこれは普段どう頭を悩ませて考えても出ない言葉、書こうと思って書けない歌詞で。だからこの曲が“今”であり、今アルバムの核なんだなと気づいたという。

ーー「何者」を書き出したことで、兼丸さんの中で思うことはありましたか。

「僕はまだ何も諦めたくないんだな」というのが「何者」ができてわかりました。「諦めたくないし、ほんとは誰にでも優しくありたい」「でもほんとはエゴったらしくて、ちょっとドロッとした粘度のあるものが自分にもあるんだ」って。「譲りたくない、諦めたくない」みたいなのが『AGAIN』という言葉にすごくハマったので、こいつは『AGAIN』に入りたくて出てきたんだな、と感じました。作りたくて作ったというよりは、「こういう曲調を待ってたよ」って、タイミングを見計らって言葉が出てきたんでしょうね。そういう気分です。

ーー寄り添う曲を作るthe shes goneにとっては、衝動的とも言える気がしますね。

今サブスクで、アルバムから毎週シングルを出してる状況で、その中でアルバムを出しても、多分注目されたりプレイリストに載るのは1曲しかなくて。あとは「アルバム収録曲」と認知されて、みんなの頭の片隅に置かれる。それが嫌で先行配信を多めにしたんですよね。その中で「何者」を先行配信しなかったのは、みんなが思うthe shes goneのイメージではないでしょうし、かといって「意外」と思ってほしくなかったから。でもこれが1番アルバムに残しておきたかった曲なので。そういう意味でも、もしかしたら聴く人しか聴かない曲になるんじゃないかな。だから「(曲の存在に)気づいて、救われる人は勝手に救われてください」みたいな。

ーー独り言の感覚に近いですか?

よく考えてみると、今までも自分たちがやりたいこと、音楽でわがまましてる曲をリスナーが見つけて好きになってくれて。僕らが「好きになってください」と告白してるわけではないので、この曲は「今までだってそうじゃないか」というスタンスの表れですよね。「僕らは僕らの好きなことをやった上で、わがままを言った上で、こういう曲だとしても、それでもあなたが救われたり、助けになればいいな」って。

どう転んでも、the shes goneはライブハウスで生きているロックバンドなんだ

ーー<これは 全て伏線にするんだ>は想いの強さを感じますね。

インタビュー前半でもお話した「悪いことが起こっても良いふうにやっていくしかない」の気持ちです。the shes gone結成より前、高校生の時に初めて付き合った人に振られて、その時は世界が1回全て終わったぐらいの勢いでした。そして大学生になり結成から一年半後、僕はロッキング・オン主催の『RO69JACK 2016 for COUNTDOWN JAPAN 17/18』で優勝できた時にMCの方ににひとこと求められて「あの時振られて良かったですー!」と大声で言ったんですけど、そこに立ち返ってるというか。人生において嫌なことがあっても、それをキッカケにして今を良い方向に変えることができてる。結成してから数年の部分もその一言に入ってますし、おそらく「エイド」を作れた経験があったから「何者」に<伏線>という言葉が出てきているんだ、とも思います。だからこのタームを象徴する一言でもありますよね。この2年お待たせしたのもありますけど、僕らももがいてもがいて「自分らしさって何だ」とか色んなことを勝手に悩んで、「でもこの悩んだ時間を絶対無駄にしないぞ」みたいな。無駄になるかならないかじゃなく「自分たちがそうさせない」という決意。それだけで違うと思うんで、「するんだ」という決意ですよね。

ーー私はサウンドから焦燥感みたいなものを感じましたが、この曲は本当に聴いてしまう。アルバムの核としての存在感があるなと思いましたね。

ロックバンドとして居たいんです。ポップロックも大好きですし、ポップに行きたいんですけど、ふとした時に「やっぱナメられたくない」と思う。「ライブハウスで拳を上げるだけがバンドではないんだぞ」と思いつつも、「吐け口がある場所こそがロックなんじゃないか」みたいな。そして「こういうことができるんだよ」ではなく、「僕らは元々こういう人間なんですよ」って。なんだかんだ丁寧にバラードもやりますけど、僕らはどう転んでもやっぱりライブハウスで生きているロックバンドなんですよ、という象徴のこの曲が、1曲目じゃなくて最後なんだよな〜って感じですよね。

ーー「何者」は共感性が高すぎます。

ほんとですか。やりたいことを多く入れすぎちゃって。「LONG WEEKEND」もそうで、「LONG WEEKEND」は同名の映画を観て作った曲で、「アゲイン」もサビの歌詞の世界観は映画『エターナル・サンシャイン』から要素を少しもらっていて。自分たちの趣味やライフワークも含めて、好きなものを音楽に出していく作業をやってたんですけど、「何者」とかをやると「やっぱそっちの人間なんだな」と思いますよね。

ーー人間らしくてすごく良いですけどね。

でも気を抜くと全部人間臭くなるので、それは自分でも嫌で。すっごいバランスをとってます。音源を気軽にずっと聴けないのが嫌なんですよね。「アゲイン」や「LONG WEEKEND」はふんふんふーん♪って感じで、寝る前も外出する時も、家でも聴けると思うんですけど。だからこそ、たまには「何者」みたいな曲が自分たち的にも必要ですね。

ーー4月25日(金)の『シズゴの日』を経て、5月からは全国ツアー『AGAIN TOUR 2025』が始まりますが、どんなツアーになりそうですか。

今までよりも4人で1つのステージを作り上げているんだという想いと、楽曲に関しても全ての感情の純度が高い楽曲が多いので、ぜひそれを聴きに来ていただきたいです。よくライブの感想で「ドラマを見ているようだ」と言っていただけることがあって、自分たちもそういう感覚でやってたんですけど、今アルバムでは衝動的に作った曲もあるので、その衝動を無駄にしないように、1本1本自分たちでもう1回ちゃんと振り返って噛みしめて、その純度を上げるライブにしたいです。その様を見た後に「もう1回このライブ頭からやってほしいな」と思ってもらえたら本望だなー。

取材・文=久保田瑛理 撮影=ハヤシマコ

ツアー情報

『AGAIN TOUR 2025』
4月25日(金)東京 恵比寿 The Garden Hall ーシズゴの日ー ※ワンマン
Ticket 全席指定5,000円
 
5月24日(土)埼玉 HEAVEN’S ROCKさいたま新都心VJ-3 ゲスト:Conton Candy
5月25日(日)群馬 前橋Dyver ※ワンマン
6月14日(土)愛知 名古屋THE BOTTOM LINE ゲスト:シャイトープ
6月15日(日)京都 KYOTO MUSE ゲスト:TRACK15
6月21日(土)広島 Live Space Reed ゲスト:moon drop
6月22日(日)福岡 DRUM LOGOS ゲスト:moon drop
6月27日(金)北海道 札幌SPiCE ※ワンマン
6月28日(土)北海道 旭川CASINO DRIVE ゲスト:KOHAKU
7月04日(金)大阪 心斎橋BIGCAT ゲスト:35.7
7月05日(土)石川 金沢AZ ゲスト:オレンジスパイニクラブ
7月11日(金)宮城 仙台MACANA ※ワンマン
 
Ticket スタンディング 4,500円(Drink代別)

リリース情報

5th mini album「AGAIN」
2025年3月26日(水)RELEASE
UK.PROJECT UKCD-1237
発売 2,200円(税込)

<収録曲>
1.センチメンタル・ミー
2.アゲイン
3.LONG WEEKEND
4.ひらひら
5.エイド
6.タイムトラベラーと恋人
7.きらめくきもち 【ドラマ「君となら恋をしてみても」主題歌】
8.何者

公式サイト
https://theshesgone.com/

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