What’s FAVOY ~ルーツと今を紐解き“ふぁぼい”を知る~ 第1弾:水槽

2025.4.7
インタビュー
音楽

水槽

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『FAVOY』ー それは細分化されたネット音楽を網羅するために立ち上がったプロジェクトである

その第1章となるライブイベント『eplus presents FAVOY TOKYO -電鈴合図-』が、2025年8月7日(木)・8日(金)にZepp Shinjuku(TOKYO)にて開催される。
イベント名である『FAVOY』とは、FavoriteをFaveと略して推しと解釈する海外の若者文化に、2010年代に日本のSNSで流行した「ふぁぼる(いいねを押す)」を掛け合わせた「ふぁぼい(推せる!いいね!)」という造語。インターネットを超えリアルで推しを実感し、新たな推しとの出逢いに繋がるきっかけになってほしいという意味が込められている。

SPICEでは本イベントの開催に向けて、出演者であるSou、超学生、缶缶、DAZBEE、水槽、Empty old City、キービジュアルを担当したイラストレーター・萩森じあにインタビューを実施し、バイオグラフィを紐解く。
第1弾となる今回は、水槽が登場。活動の原点やネットカルチャーと触れあうことになったきっかけ、いまの“ふぁぼい”など、たっぷりと語ってもらった。


──『FAVOY TOKYO -電鈴合図-』の出演オファーが来たときにどう思われましたか?

“い、いいんですか……?”と思いました。自分の認識としては、今回の出演者の中で一番追いかける側だと思っているのでありがたかったです。

──水槽さんが出演されるDAY2には、Empty old CityとDAZBEEさんの2組も出演されますが、親交はあったりします?

DAZBEEさんとはまだ交流はないのですが、Empty old Cityとは共演がすごく多くて仲もいいんです。新譜もめちゃくちゃかっこよかったですし。自分は単発でいろいろな方とコラボしたりはしてますけど、ユニットとしてkahocaの声前提でトラックを作る、そこに全力で乗っかっていくというのがカッコいいし、自分には真似できないことだなと思ってます。

──当日の共演も楽しみですが、水槽さんとしては昔からライブは好きでしたか?

昔からではないですね。好きになったのはここ3〜4年とかです。

──初めて観に行ったライブって何でしたか?

Galileo Galileiです。彼らが『閃光ライオット』で優勝したときからずっと聴いていたんですけど、自分、地元が福岡で、解散前最後のアルバム(『Sea and The Darkness』)のツアーで福岡に来てくれたときに初めて観に行って。これからいっぱい観に行くぞと思っていたら解散を発表されて、その後の武道館にも行きました。

──どんなところが好きなんですか?

自分は元々Jロックばかり聴いていた人間だったんですけど、シンガーだからやっぱり歌がうまい人が好きですし、歌がうまいフロントマンがいるバンドが好きなので、やっぱり尾崎雄貴さんだったんだと思います。彼のソングライティングと声、ボーカルですね。

──Galileo Galileiは好きで観に行ったけれども、いろんなライブに足を運んでいたタイプというわけでもなかった。

そうですね。その頃はまだ音楽をやっていなかったし、ガリレオはリスナーでありファンだから行ったんですけど、“ライブの良さ”というものをあまり分かっていなかったんですよ。そこから大学に入って、中村佳穂さんの『うたのげんざいち』という、2021年にあったツアーを観に行って。運良く4列目とかで観れたんですけど、中村佳穂さんのライブって、セットリストはあるんだけどMCも歌ってるんですよ、ずっと。ステージに出てきてすぐ、言葉なのか歌なのか、その間みたいなものをピアノを弾きながらやっていらっしゃる姿を見て泣いてしまって。もしかしたら歌い始める前から泣いてたかもしれない。すごい笑顔で出てきて、彼女がまとっている何かなのかよくわからないんだけど、これはライブじゃないと絶対にできないことだと思いました。あと、大学に入ってから残響レコードが好きになったんですけど、そのなかでもcinema staffが一番好きで。シネマのライブに行ったときも、衝撃があって。ライブがひたすらカッコよかったんです。​だから、中村佳穂さんはライブと音源は違うものだと思わせてくれて、cinema staffはライブに対する認識を変えてくれた存在ですね。​

撮影=タカギユウスケ

──水槽さんがインターネットカルチャーに触れたきっかけについてお聞きしたいんですが、最初は何でしたか?

たぶんボカロですね。学生のときに有志のボランティア合宿があって、介護施設とか老人ホームに行くんですけど、なぜかそこで一泊するんですよ。そのときに先輩がガラケーで見せてきたのがwowakaさんの「ローリンガール」で、それが初接触でした。曲としても超速いし、自分が知っているロックとかとは全然違っていて。GEOとかに行かないと新しい音楽に触れられなかったのに、探せばいくらでも新しいものが無料で出てくるっていうのがちょっと衝撃で、夢中でディグり始めたのが最初だと思います。

──そういった場所で活躍している人を見て、自分も歌ってみようと思ったりとか?

こうなりたいっていうのはあったかもしれないですね。中学生の頃は歌い手になりたいなって思っていました。

──最初は歌い手だったんですね。

もちろん。でも、歌い手を聴き漁っているタイプではなかったです。どちらかというとゼロイチをやっている人のほうに惹かれるものがあって。だから基本は原曲派でした。

──好きだったボカロPを挙げるとすると?

これは自分の音楽性に甚大な影響を及ぼしているんですけど、トーマさんですね。それこそ残響みたいなマスロックとか、ヒップホップとかいろいろなものを通ってああいう曲を作っていらっしゃると思うんですけど、BPMは変わりまくるし、転調も多いし。特に符割がすごく印象的で、そこはすごく影響を受けているなと思います。

──水槽という名前で活動をし始めたきっかけは?

友達が微妙にネットで活動していて、「お前、歌うまいから一緒に「ロキ」歌おう」って言われて。それが本当の最初です。そこから「もっと本気でやったほうがいい、絶対いけるから」みたいなことを言われて、それならまぁやってみるかって。初投稿は本当にそれぐらいのノリだったので、今みたいなことになるとはまったく思っていなかったし、そんな気もなかったし。“趣味の片手間でちょっとやってみたから聴いてや、友達”ぐらいの感じだったので。

──最初は身内に向けて、みたいな。

あと、ミックスも自分でやったんですよ。元々はnanaっていうアプリをやっていて、モノラルだけど重ね録りはできたんです。それで、初投稿のミックスでGarageBandを使ってみたら、音を右と左に置けることが当時の自分にはすごくおもしろくて。初回から変なことをやったりしてましたね。ハモリが左右に動くとか。で、nanaよりもいい音源ができたと思って投稿したんだと思います。

──そこからトラックメーカーのほうに興味が?

いや、そこから歌い手の期間が1年ちょいぐらいありました。それはそれで楽しかったんですけど、自分のメンタルの問題があって。すぐに人と比べちゃうんですよ。歌い手ってオリジナル曲があって、それをみんなでカバーする文化の形なので、他と比較されるのがちょっとしんどかったんです。それでも1年間は、誰よりも早く上げたら注目されるかなとか、まだ見つかってない名曲を探そうとか、すごい勢いで上げていたんですけど、ちょっとしんどくなってきた頃に知り合ったボカロPの友達から、BTSを教えてもらったのが大きな転換点でした。

──どんなところに衝撃を受けたんです?

「DNA」っていう有名な曲があるんですけど、あの曲ってドロップなんですよね。ポップスなんだけど、サビで歌が消えて、カッコいいシンセの音が出てきて、ちょっと歌うっていう。その流れにびっくりしたし、全然レベルが違うぐらい音がいいトラックにもびっくりして自分もこれをやりたいと思ったことと、人と比べられるのしんどいなというタイミングが重なって、オリジナル曲なら比較対象がいないなと。半ば逃げでもありつつ、挑戦でもありつつ、スティーヴ・アオキの曲をリファレンスにして最初の曲を作りました。

撮影=タカギユウスケ

──水槽さんが初めて世に出したオリジナル曲って「ルーフトップトーキョー」になるんですか?

いまはそうなってるんですけど、実は幻の曲があって。歌い手を始めて半年くらいでボカロ曲を出してます。6分の8拍子だか4分の7拍子だかの、すっごいキモい変拍子で5分ある曲(笑)。そこは残響レコードが好きだった流れですね。オルタナ/マスロックみたいな感じで、友達に編曲を手伝ってもらいながら作ったんですけど、恥ずかしすぎて今はすべての場所で非公開に……(笑)。

──まさに幻の曲(笑)。

どこかでリメイクできたらいいなと思ってはいるんですけどね。ただ、その曲は自分が編曲をほとんどしてないんですよ。上モノをちょっと乗せたくらいだったので。ちゃんと自分で編曲までやった曲は「ルーフトップトーキョー」が最初ですね。

──4月9日にリリースされる4thアルバム『FLTR』は、1曲目に「ROOFTOP TOKYO (FLTR ver.)」が置かれていて。そこにはいろいろな意味や意図があると思いますが、今回はどんなアルバムにしようと思っていたんですか?

去年の2ndワンマン『SOLUBLE』のときに、最後のMCで“ラップトップから東京のルーフトップまで”というワードが突然自分の中から出てきて。韻踏んでるしいいやんと思って、そのままタイトルにしたんですけど(『FLTR』=“FROM LAPTOP TO ROOFTOP”)。そもそもルーフトップというのは── 一時期写真をやっていたんですけど、シンガポールとかの高層ビルの屋上のヘリに立って写真を撮るルーフトッパーっていう人たちがいて。あの人たちのカッコいいもののために命を賭すとかでもないんですけど、“カッコよければ他はどうでもいい”という思想が、自分的にはずっと刺さっていて。それで「ルーフトップトーキョー」を書いたんです。

──そういうところから生まれた曲だったんですね。

だから、その当時はラップトップ──家でずっとやっていたものを、いまはすごく開放的な場所でやるようになったんですけど、自分にとってステージはすごく怖い場所だったんです。今はもう慣れたんですけど、昔はライブに出たくないって言って袖で泣いていたこともあって。だから自分にとってのステージは、それこそルーフトップのへりみたいに、恐ろしさとカッコよさが共存している場所としてあって。なので、今回のアルバムは、ラップトップしか無理だった自分がルーフトップに立って、その間を自由に往来できるようになったところまでの軌跡を収録して、4月19日にそのライブをやろうと。

──そういったコンセプトの一番根底にある感情とか思いみたいなものってどんなものになりますか?

今まではずっと自分のために作っていたんですよ。人のことは何も考えてないし、売れるとかもちろん考えてない。けど、あるタイミングで腹を括ったんです。自分のためだけに音楽をやるんじゃない。それがルーフトップに立つということで、内側から外側に向けた音楽を書けるようになったというか。そのひとつの成果発表みたいな意味合いが強いのかな、自分にとっては。

──なるほど。

最後の「点滴」という曲は、過去の自分も含めて人と比べてしまうクリエイターたちに向けた曲なんですけど。これまで出した3枚のアルバムも、最後の曲はちょっと特別な意味を持っていたんですが、基本すごく狭いところで感情を回していたというか。とにかく音楽制作において内向きだったんですよね、思考も視点も。それを外側に向け始めました。だから、今回のアルバムで内省的というか、視点が内側に向いているのは1曲目しかないんじゃないかな。他の曲は他者の存在前提で書いてます。だから、部屋の窓を開けた、みたいな感じですかね。

──窓を開けてみてどんなことを感じますか?

ある意味歌い手のときみたいに、厳しい世界だったんだなってまた気付かされました。オリジナル曲を出せば比較から解放されると思って曲を書いていたけど、オリジナルが比較されないのは作品ベースの話であって、商材として見ている人たちからしたら、全然そんなことない。むしろ歌い手という小さい世界よりもこっちのほうが全然厳しい。でも、自分だけと向き合ってやっていた期間のおかげで、歌い手のときよりは自分の軸を確立できているから、そこまで食らわずにやれていますが、やっぱりひとりで牧歌的にやっていたときよりは全然厳しいと思いますね。コンペなんて最たるものじゃないですか。

──そうですね。たくさんの曲と比較されるわけで。

オーディションやコンペで負けるのが嫌というか、自分に才能がないのを知ることがあまりにも怖かったので、挑みもしなかったんですよ。でも今は、ある意味自分にはそんな大した才能はないと思っているんです。自分には自分が期待していたような特別な才能はない。だけど、努力してきた。積み上げてきたものがある。だから落ちても“才能がないんだ”ってヘコまないんですよ。もちろん(落ちたことに)ヘコみはしますけど(笑)、需要と供給が合ってなかったのかなとか、もっと努力できたところがあったかなとか、現実的な方に目が向くので。そういう空疎なヘコみを受けないとわかっているから挑める。

撮影=タカギユウスケ

──そういったモードでここから活動していくにあたって、挑戦してみたいことや目標はありますか?

……あまりなくて。“これをやってみたい”ってあまり言わないんですけど、それは自分がすぐにやるからなんですよ。本当にやりたいことはすぐに動いてやっちゃうから、長期的な野望、目標みたいなものがないし、フォロワー数、再生数、キャパ何人みたいな、自分の影響下にないものを目標に据えることが一番メンタルに悪いと思っているので。無理して目標を立てようと思えば何かあるかもしれないですけど、そういうものを除外して、自分の力で叶えられるものだけを目標にしたらやりたいことはもうやっているし、やらないことはたぶんやりたくないみたいな感じで仕分けしているから……ないです(笑)。すみません。

──いや、素敵ですよ。やろうと思っていることはもうすでにやっているという。

そうですね。やってみたいなってぼんやりずっと思ってることって、そこまで熱意がないんだと思います。

──水槽さんみたいに歌を歌いたい、曲を作りたいと思っている人たちに向けてメッセージを送るとなると……。

とにかくやってみようっていうことですかね(笑)。

──そうなりますよね(笑)。最後に、水槽さんのいまの“ふぁぼい”(推し)を教えていただきたいんですが、推しっています?

『太鼓の達人』のどんちゃんです。最近いろんなクレーンゲームのプライズにどんちゃんが登場し始めて、それを全部やってたら家がどんちゃんだらけになりました。家にめっちゃデカいどんちゃんがいます。

──どんなところが好きなんですか?

ビジュですね。元々キャラクターって結構好きで。ミッフィーとかアフロ犬とか。

──つぶらな瞳が好きなんですかね。

あ、そうかもしれない。あの目で、あの口の形が好きです。


取材・文=山口哲生

イベント情報

eplus presents FAVOY TOKYO -電鈴合図-
会場:Zepp Shinjuku(TOKYO)
開催日時:
2025年8月7日(木)     17:15開場/18:00開演
2025年8月8日(金)     16:30開場/17:15開演
出演(五十音順):
2025年8月7日(木) 缶缶/Sou/超学生
2025年8月8日(金) Empty old City/水槽[LIVE SET]​/DAZBEE(ダズビー)
U-18限定通し券 9,800円(税込)SOLD OUT/1日券 6,900円(税込)
主催/企画制作:イープラス
制作協力:YUMEBANCHI(東京)
 
【公演に関するお問い合わせ】
https://eplus.jp/favoytokyo2508078/

 
【公式リンク】
公式サイト:https://eplus.jp/favoy/
Instagram:https://www.instagram.com/favoy_eplus/
X:https://x.com/favoy_eplus

リリース情報

4th Album『FLTR』
発売日:2025年4月9日(水)
CD:https://lnk.to/Suisoh_FLTR

<初回生産限定盤>CD+BD
VVCL-2671~2672/ ¥7,000(税込)
仕様:カーソルステッカー封入・トールサイズデジパック仕様

<通常盤(初回仕様)>CD
VVCL-2673 / ¥3,500(税込)
初回仕様:カーソルステッカー封入・クリアジャケット仕様
※初回仕様が無くなり次第、通常盤(カーソルステッカー無し・通常ジャケット)に切り替わります。

01.ROOFTOP TOKYO (FLTR ver.)
02.カルチュラル・オートマティカ・フィーディング (feat. たなか)
03.MONOCHROME
04.SINKER
05.ランタノイド
06.報酬系 (feat. lilbesh ramko)
07.箱の街
08.POLYHEDRON
09.スードニム
10.ロリポップ・バレット
11.点滴

 

『FLTR』通常盤

  • イープラス
  • 水槽
  • What’s FAVOY ~ルーツと今を紐解き“ふぁぼい”を知る~ 第1弾:水槽