福岡で27年ぶりにフィッシュマンズがライブ、『CIRCLE'25』初日はサニーデイ、Original Loveら熱狂のステージに

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レポート
音楽

『CIRCLE’25』 写真=『CIRCLE』提供

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『CIRCLE’25』2025.5.17(SAT)福岡・海の中道海浜公園

今年も『CIRCLE』の季節がやってきた。2025年5月17日(土)。博多ポートタワーが目印の博多港から市営渡船に乗って、西戸崎渡船場まで約15分。そこから海の中道海浜公園に入り、野外劇場まで徒歩約20分。会場が海の中道海浜公園と言うからには、今年も海を体感したいと思って、3年連続で迷わず市営渡船に乗る。船で海を感じながら行けるフェスというのは、改めて本当に稀有だと想う。9時40分発の船に乗ったので、10時過ぎには海の中道海浜公園内に到着していた。船でも電車でもバスを含む車でも市内から全く遠さを感じずに訪れられる。フェスではあるがピクニックなどのレジャー気分で気軽・気楽に訪れられるのが、『CIRCLE』の何よりの利点。やはり都市型フェスの安心感は何とも言えない。

当たり前だが、野外ではあるので、その安心感は天気に大きく左右される。福岡を拠点に活動するラジオパーソナリティの栗田善太郎がCIRCLE STAGEで前説として挨拶をした時に、「晴れた~!」と思わず叫んでいた。今年は何よりも、このひとことに尽きる。関西在住の私も1週間以上前から天気予報とにらめっこをしていたが、両日共に雨というか大雨の予報だった。多くの人が大雨に挑む気持ちで入念な大雨対策準備をしていたであろう。それが杞憂に終わったのである。特に初日はピーカンと言って良いほどの大晴天に。『CIRCLE』のライブレポートは4回目の担当となるが、今年も出演者全組を詳細に記録するレポートというよりは、私の膨らんだ記憶を辿りながら、全体的に感じたことを綴る紀行文だと思って読んでいただけたらと思います。

Answer to Remember

11時・CIRCLE STAGEには、去年はくるりのサポートドラムとしても出演していた石若駿率いるAnswer to Rememberがトップバッターで登場。佐瀬悠輔(Tp)・MELRAW(As、Gt)・中島朱葉(As)・馬場智章(Ts)、若井優也(P.Key)・海堀弘太(P.Key)・マーティ・ホロベック(Ba)・Taikimen(Per)という大所帯バンド。即興のように鳴らされる演奏は超絶で、これだけの大所帯を観られるのは貴重だと思っていたら、やはり初めての九州でのライブとのこと。


石若いわく「みんなで集まってご飯ができるのも珍しいんですけど、それが九州でできて、めっちゃ幸せです」。出る側も観る側も九州・福岡の地で開催されることへの特別感や喜びを持っているのが素敵である。Juaやermhoiといったゲストが参加して、声がプラスアルファされることで、より立体感が増す。この日、Taikimenが28歳の誕生日を迎えたので、急遽「HAPPY BIRTHDAY!」と演奏されたこともあり、初っ端から誠にハッピーな空間となった。

『CIRCLE』には、ひとつの場所に大勢の人々が一気に集まるのに、あまり窮屈さや混雑さを感じさせないハッピーな雰囲気がある。子ども連れの観客が多いというのも、その要因のひとつ。今年は「コドモディスコ」というキッズエリアが増設されたのも大きい。自動シャボン玉マシーンや射的で、子どもたちが戯れている。大人だけでなく子どもも共存して楽しめる場に真の多様性を感じたりもした。

LAUSBUB

その横にあるKOAGARI STAGEのトップバッターで登場したのは、Answer to Rememberと同様に初福岡となる北海道出身のLAUSBUB。ギターとシンセサイザーとマニピュレーションを務める岩井莉子と、ボーカルとベースを務める髙橋芽以による2人組。ニューウェーブを感じさせるテクノポップを鳴らすが、真昼間から聴くダンスビートには、心身共にとろけてしまう。

今、安易にチルアウトなんていう言葉が乱用されるが、このくつろぎこそが本当のチルアウトだろう。まだ20代になったばかりの若きふたりだが、音楽ルーツである細野晴臣の楽曲「Sports Men」がラストナンバーで披露された。初年度の2007年から出演している大御所の細野と初出演の若きLAUSBUBの音楽的繋がりも感じられるのは、『CIRCLE』ならではの現象である。

White Shoes & The Couples Company

初福岡という点では、国内だけでなく国外の出演者に出逢えるのも『CIRCLE』の良きところ。一昨年のMikan Hayashi(ゲシュタルト乙女)、落日飛車、去年のYONLAPAに続き、今年はインドネシア・ジャカルタ発のインディーポップバンドであるWhite Shoes & The Couples CompanyがKOAGARI STAGEに2番手で登場。色鮮やかな衣装に身を包んでいたが、音も色鮮やか。私もだが、初めて聴く人が多いはずなのに自然に馴染めて踊れる。何かを目当てにフェスに来るのも楽しいが、偶然そこで出逢えるのもフェスの醍醐味。歌やMCでも片言の日本語で観客に接してくれる姿は、とても平和な光景であった。

U-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESS

この流れで、KOAGARI STAGEの3番手は、3人という座組では初出演となるU-zhaan×環ROY×鎮座DOPENESS。環ROY・鎮座DOPENESSより一段高いところでインドの太鼓の一種であるタブラを叩くU-zhaan。ふたりがフリースタイルで即興ラップをする場では、何回かやり直したり、初日ヘッドライナーであるフィッシュマンズの「宇宙 日本 海中」と題されたステージ名が飛び出たり、2日目ヘッドライナーであるUAの「リズム」がカバーされたり、その自由な型が観ていて楽しくて仕方ない。

坂本龍一とのコラボ曲「エナジー風呂」、老舗製菓メーカー「ギンビス」についてのラップ、ヒップホップとタブラの歴史を3人で辿ったり、スチャダラパー「サマージャム'95」カバーなど、多種多様なナンバーに良い意味で翻弄される。最後はライブ後に物販コーナーでサイン会をやる旨をフリースタイルラップしたりと、最後まで翻弄させる。観客を楽しませたら何でもありというのは、『CIRCLE』全体に通じていることかも知れない。

角張渉(KAKUBARHYTHM)


角張渉(KAKUBARHYTHM)、ボギー


そういう意味では、毎度楽しみなのがDJブースステージであるKAKU-UCHI Annex。毎年名前を連ねる事務所レーベル「カクバリズム」代表の角張渉など名物DJ勢揃い。福岡を拠点にレーベルやバンドなど多岐に渡って活動するボギーが何に扮して熱唱するかも毎度楽しみであり、今年はお馴染みの岡村靖幸だけでなく、手作りの衣装でデビッドボウイとして現れたのには度肝を抜かれた人も多いだろう。

モンド

何を書いているのか、さっぱりわからない人もいるだろうが、要は地元カルチャー界の有名人によるモノマネショー。そして、まぁ驚くことに、とんでもなく盛り上がる。ちなみにボギーの長男モンド君の似顔絵テントも毎年大盛況で、2日間共に予約が埋まりまくる。今や全国各地にフェスは溢れ返っているが、ここにしかない名物があるというのが、特にローカルフェスの強み。ここでしか味わえないロケーションや出し物があるから、私のような福岡以外の遠征組の観客も多いわけである。

STUTS

さぁ、CIRCLE STAGEに戻ろう。CIRCLE STAGE 2番手のSTUTSは、仰木亮彦(G)・武嶋聡(Sax.Flu)・佐瀬悠輔(Tp)という4人編成。この編成で舞台に上がるのは初めてだと言う。佐瀬は既にAnswer to Rememberとして舞台に上がっており、このようにサポートメンバーが舞台を掛け持ちしている姿を『CIRCLE』で見かけることが多い。ただただ個々の出演者ではなく、それこそ『CIRCLE』ではないが、出演者たちが円のように繋がっているのも良い。

STUTSは自らラップをしたり、MPCのパッドを叩きビートを作り出したりしながら、自らがプロデューサーであることも説明するので、初見の人も入りやすいだろう。レポートとしては順番が前後してしまうが、鎮座DOPENESSが自身の出番前にゲストで登場。ひとこえ発しただけで空気を変えてしまう威力は特筆すべきものがあった。STUTSは今年4月に35歳で亡くなったJJJとの楽曲「Changes」も披露。その人は亡くなっても、その音楽を鳴らし続けることで、その人を新たに知ることもできるということを実感した。色々なことがあっても前を向いて音楽を楽しんでいきましょうというSTUTSのメッセージは、確かに我々の元へと届いた。

サニーデイ・サービス

CIRCLE STAGE・3番手はサニーデイ・サービス。3年前にも出演しているが、当時はコロナ禍の影響もあり、マリンメッセ福岡での屋内開催。屋外のサニーデイが一味も二味も違うのは、リハーサルから伝わる。「コーヒーと恋愛」「恋人の部屋」と本編と見間違うくらいに、90年代後半の人気曲が歌われた。1曲目「東京」も96年発表の名盤「東京」収録楽曲だが、私のような当時に青春時代を過ごした若者たちだけでなく、現代の若者たちが口ずさみ体を揺らしている。続く「恋におちたら」「さよなら!街の恋人たち」も同様だが、今や90年代であろうと現代であろうと関係なく、サブスクの影響もあり、同一線上で聴かれる。つまり良い音楽に年代なんて関係ない。

そして、今が最高であることを証明するように、いつ発表された曲であろうと、今日のライブが一番更新された格好良い状態。恐れ入る……。荒々しく重厚であり、どんどん熱量が上がっていく。今から考えたら2日間で一番暑かった時間帯に、最高の熱さをぶちかましてくれた。曽我部恵一が長髪を振り乱してシャウトする。「セツナ」での全身全霊を超えた3人の演奏は凄みしかなく、3人の意識も朦朧としているようにすら見えたし、どう考えても出し尽くしてくれたからこそラストナンバーだと想えたのに、「最後1曲やれる時間あるから、1曲だけやらせて!」と「サマー・ソルジャー」へ。曽我部は「『CIRCLE』、雨が降るかもと言っていたけどヤバいよね。最高の夏にしよう!」と言っていたが、まさしく最高のヤバい夏が一足早く福岡にやって来ていた。

Original Love

『CIRCLE』は緩やか穏やかなイメージもあるが、轟音が爆発する熱狂的瞬間もあり、いつ何時も目が離せない。その流れではCIRCLE STAGEのサニーデイに続き4番手で登場したOriginal Loveも凄まじかった。超越したソウルファンクショーであり、田島貴男がギターだけでなくサックスを吹き鳴らすのにもくぎ付けになる。と思いきや、大名曲「接吻」ではロマンチックでムーディーな雰囲気に、その歌声一発で持っていってくれる。観客エリア柵ギリギリまで身を乗り出してソウルフルにシャウトする。サニーデイもOriginal Loveも3年前のコロナ禍における屋内のマリンメッセでのライブを観ていただけに、完全にコロナ禍が明けて元気に爆発していると再認識ができた。そして、やっぱり何よりも大晴天なのが悦ばしすぎる。

向井秀徳アコースティック&エレクトリック

早くも夕方5時45分。後、2組のライブで初日が終わってしまう。KOAGARI STAGEのトリは、九州・佐賀県出身で初年度2007年から出場している『CIRCLE』の守護神と言っても過言ではない、向井秀徳アコースティック&エレクトリック。「ZEGEN VS UNDERCOVER」「U-REI」などナンバーガール時代の曲が惜しみなくリハーサルから歌われたところで、本番の時間がやってくる。「海中CITY! MATSURI STUDIOからやって参りました! THIS IS 向井秀徳!」という毎度お馴染みの口上が今年も聞けた。和白方面など要所要所で福岡の細かい地域で呼びかけていくさまも福岡でのライブならではの場面。RKBなどのテレビで再放送されるという博多を舞台にした1978年公開の映画『博多っ子純情』をひさかたぶりに観て、「いわせんもんがあるね」というくだりも、実に福岡でのライブならでは場面。

「この歌をやりに来ました」からの「Water Front」では、海などの水辺で聴けていることをひしひしと感じた。3年前のマリンメッセでも歌われていたなと思ったり、これも向井のライブでは名物であるスタッフから缶ビールが運ばれるシーンなど、何をやっても絵になる向井に惚れ惚れしてしまう。「夏の始まりっぽい曲をやってみようか」とナンバーガール時代の大名曲「透明少女」へ。気付いたら夏だった……という感想しか出ない大名曲。最後は「福岡の後輩の歌を歌います」とまさかのYUI「CHE.R.RY」カバー。ドスの効きまくった「CHE.R.RY」が堪らない……。「MAGIC LOVE、MAGIC LOVE」と歌いながら去っていったが、大トリのフィッシュマンズを匂わせる去り方は小粋すぎた。

フィッシュマンズ

1999年に佐藤伸治(Vo.G)が急逝して、前年の1998年以来福岡でのライブがなかったというフィッシュマンズ。ツアー『男達との別れ』から27年ぶりに男達との再会となる今回。個人的には2000年代に入ってからも関西ではライブが観れているが、どう考えても27年ぶりにライブを観れるというのは、福岡の人々にとったら待ちに待った最良の日に違いない。茂木欣一(Dr.Vo)・柏原譲(Ba)・HAKASE-SUN(Key / LITTLE TEMPO、OKI DUB AINU BAND)・関口“dARTs”道生(Gt)・原田郁子(Vo/クラムボン)・木暮晋也(Gt/ ヒックスヴィル)と鉄壁のメンバーが揃う。

「最高の天気で迎えてくれてありがとう!」

この茂木の言葉から始まる1曲目「Weather Report」は痺れるしかないし、そこからの「いかれたBaby」は、関西で毎回観ることができている私ですら悶絶したので、福岡の人々も想像を絶する感動であったと思う。「いかれたBaby」のイントロが鳴り出した瞬間のざわめきは凄かったし、茂木のドラムを始めとして鋭い一音一音が脳に心に突き刺さってくる。そんなタイミングで近隣の催し花火が打ち上がる。『CIRCLE』からの花火ではないとはいえ、祝福された気分になってしまう。

翌日に自身の出番も控える君島大空が呼び込まれ、「BABY BLUE」のメロディーをギターで爪弾く。既に今年2月の東京でのライブにもボーカルで参加しているだけあって、相性が抜群である。若い世代のミュージシャンにもフィッシュマンズが歌い継がれるのは幸せなことである。舞台にかぶりついて観ている人々も後ろのすり鉢状の芝生でゆっくり観ている人も皆が幸せそうである。そして、地元福岡出身の原田が「頼りない天使」を歌い、東京でも関西でも歌った事が無い初めてフィッシュマンズを歌うスペシャルゲストが登場! 先程、自身のライブを終えたばかりの田島貴男が現れる。浮遊感あるフィッシュマンズの歌を、田島が豪快にソウルフルシャウトするのは、とてつもない化学反応が起きて胸騒ぎが止まらない。

陽が落ちてきて、あの音が流れてくる。そう「LONG SEASON」。約35分あるロングナンバー。90分セットだからこそ成せる業であり、聴いているだけで吸い込まれてしまうような不思議な感覚に陥る。青く照らされた茂木の姿は神々しく、そのドラムソロを固唾を呑んで見守るのみ。頭も心も全てがとろけきって、どこか遠くに飛ばされてしまうような…もう凄すぎて何でかわからないが涙が流れてくる、そんな状態になる。佐藤の声も聴こえている気がする。宇宙の中で……夢の中で……呆然としてしまうような…………。

ラストはボーカル全員が集って「ナイトクルージング」。すっかり夜になった時間に、これ以上ない曲。舞台から凄い光と凄い音が解き放たれていて、その空間で我々はゆらめくのみ。拍手は鳴りやまない。90分を超えて100分近くあった「宇宙 日本 海中」。こうして初日が幕を閉じて、2日目と繋がれていく。

取材・文=鈴木淳史 写真=『CIRCLE』提供

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