【インタビュー】『受取人不明 ADDRESS UNKNOWN』水田航生×鯨井康介~往復書簡でつづる二人芝居に挑む

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インタビュー
舞台

(左から)水田航生、鯨井康介 (写真:交泰)

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マックス役の水田航生、マルティン役の鯨井康介は、ミュージカルや2.5次元舞台など大きな劇場で活躍している。そんなふたりが約150席の赤坂RED/THEATERで二人芝居『受取人不明 ADDRESS UNKNOWN』(2025年7月4日~7月21日)に挑む。往復書簡でつづる激動の物語に、どう向き合うのか? 膨大なせりふと格闘するふたりに聞いた。

――小劇場で二人芝居をやってみたいと思われた理由を教えてください。

鯨井 戯曲を読んだ時の衝撃ですね。作品の持つパワーや心を動かす何かが、自分が今、表現したいものと合致したんです。しかも、二人芝居。何か普段していないチャレンジをしたいというのがずっとありました。幅を広げたい、やれることを増やしたいという思いもあり、二人芝居の贅沢な環境に身を置き挑戦したいと思ったんです。

水田 まずは、戯曲を読んでシンプルに「これ、面白い!」と思ったんです。手紙のやりとりだけではたして演劇が成立するのだろうかという純粋な疑問から読み進めていくうち、「こうなるのか!?」と展開の面白さにやられてしまった。ぜひ、挑戦してみたいと思いました。

――おふたりとも挑戦という言葉を使われていますね。実際に稽古をしてみて、手ごたえはいかがでしょうか?

鯨井 自分の方法論として持っていなかったものを、演出の大河内(直子)さんはじめ、先輩たちの芝居からすごく学ばせていただいています。これを今、手に入れておかないと、俳優として先がないぞと思うぐらい。まさに挑戦の繰り返し。稽古はすごく苦しいし、すごく楽しいです。

水田 これまで経験したことがないせりふ量で、しかも会話ではなく手紙をしゃべるというスタイルは挑戦であり、稽古に入ってぶちあたった壁でもあります。せりふを覚えてからさらに、演劇として舞台上でどう表現へと転化していけるか模索中です。大河内さんは役者が出すものを許容して、それを伸ばしていこうという演出をしてくださるので、あとは、どれだけ自分たちの中から出していけるかですね。

鯨井 読んで想像していただけとの違いがたくさんありましたね。時代背景や、身を置いている環境を調べたりする中で、マルティンの表層ではないところを感じてきたんです。最初、彼は時代に流されていてその変化をどう演じるかだと思っていたのですが、その中に当たり前のようにあったであろう恐怖や、時代に翻弄されながらの思いが見えてきた。彼の2層目、3層目を感じてきたので、さらにどんどん潜って、きっと4層目あたりから見えるものがあるだろうと思います。僕とは違う存在だったマルティンという人が、身近になってきて、僕の中にもマルティンのようになり得る可能性があると気付いたとき、恐怖を感じました。

水田 単純に悪い人かいい人では語れない。もはや、何が善で何が悪かわからないような時代。そこに身を投じている彼らがプライベートな書簡を通じて会話をしているのは、現代の自分とは違う状況かもしれないけれど、心が動く部分はとてもリアリティがあります。マックスの痛みや苦しみが、康介くんの熱を持った生きた言葉を聞いたときに改めて心に響き、引っ掛かり、新たな感情が生まれてきました。戦後80年、世界の情勢をみても、現代のお客さまにもリアリティを感じていただけると感じます。

水田航生

――おふたりは初共演ですね? お互いの印象は?

鯨井 もう、最高です!

水田 逆に「初めてだった?」というぐらいの親しみが、読み合わせの段階からありましたね。感覚も近く、引っ掛かるところや表現したいものが、言葉を多く交わさなくても同じだと稽古序盤から感じられました。

鯨井 顔を合わせたことはあるし共通の知人もいましたが、板の上でこんなにノンストレスでいられる存在で、びっくりしました。うれしいです。

水田 一緒に舞台上にいて気持ちいいです。

――3チームの上演ですね。先輩方の稽古を見ていていかがですか?

水田 客観的に見られる時間がすごく有意義です。最年少の現場は久しぶりなのですが、盗む気満々で見ています。ペアごとに色が全く違って、個性も違って、本の読み方も違って、出自も全く違う方々だからこそ、とっても面白い。面白いという言い方だと足りないぐらい。最年少のぼくが、ふっと言ったことも許容してくれて、「うん、なるほど。そういう考えもあるね」と新しいものを拒まずに取り入れて、2025年の『受取人不明』をつくろうとしている。先輩方のその姿勢から学び、尊敬しています。

鯨井 先輩方を見ていて、思わずふたり同時に「かっこいい!」と口に出ちゃう。最年少チームなので、ただただ体当たりしていますね。実は僕はしっかりテーブル稽古をやるのが初めてだったんです。最初はドキドキびくびくしていました。みなさん、いろいろ調べてきて、準備していて、確認して、一緒に話し合って、いい時間だなと思いました。

鯨井康介

――90年近く前に書かれた小説が原作ですが、現代にも力を持った物語ですね。この作品を今、上演する意味を、どう感じていますか?

鯨井 先ほどもお話ししたように、僕もマルティンのようになり得ると感じたことは大きいですね。社会の波や、時代の変化、そして今はSNSもある。集団的に流されていった時、自分をどう保てるか。正解を当たり前のように皆、共有していくけれど、それは誰かの正解であって、自分のものではないことを見失いがち。何が自分にとって正解なのかの判断がどんどん難しくなっている。そういうことを、僕はこの作品で考えています。今回は世代の違う3チームの上演ですが、どの世代でも、どの時代にどこでやってもメッセージがある作品だと思います。

水田 大衆が流されていくことへの恐怖を感じます。その流れに、無意識に加担していたり、無意識に賛同していることは、今もたくさんあると思うんです。でも、それを恐怖だと一概には言えないし、すべてが間違いでもない。この時代の中で、地に足のついた言動を自分の意識下において、どうとっていけるかを考えます。これは、もしかしたら、これから先はもっと必要になってくるかもしれない。辛いことは見たくないし、見ないでいられれば幸せだけど、目を背けてはいけないことがある。こういう出来事があったということを知ってもらうことも、この作品をやる意義で大切なこと。そんなことを、立ち止まって考えてみるきっかけになればいいなと思います。

――最後に、お客さまにメッセージをお願いします。

鯨井 舞台を観て素直に感じたことを、一緒に見た人たちと、いろいろと話して考えてもらえたらと思います。なぜ彼らはこんな道を辿らなくてはいけなかったのかということを、思ったままに、誰かと共有していただけたら、すごく嬉しいです。

水田 今は、舞台を見た後の感想も調べたらたくさん出てきますよね。自分よりも理解している人がいるなとか、考察を見つけたりするのも大事で深みを知ることができる。けれど、この作品ではまず劇場を出たときの素直な感情、自分だけの尊い感覚を大切に家まで持って帰ってほしいです。そして、次の日の夜くらいから、いろんな人とこの作品について話してみてほしいです。

写真:交泰

公演情報

unrato#13『受取人不明 ADDRESS UNKNOWN』

■作:キャサリン・クレスマン・テイラー
■脚色:フランク・ダンロップ
■翻訳:小田島創志
■演出:大河内直子

 
■出演
Aチーム 大石継太×天宮良
Bチーム 青柳尊哉×須賀貴匡
Cチーム 水田航生×鯨井康介

 
■日程:2025年7月4日(金)~7月21日(月・祝)
■会場:赤坂RED/THEATER
■公式サイト:https://ae-on.co.jp/unrato/address2025/
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