木村達成×岡本玲×稲葉賀恵、清水邦夫の名作『狂人なおもて往生をとぐ~昔、僕達は愛した~』に全力で挑む「損はさせません」
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稲葉賀恵、木村達成、岡本玲
日本を代表する劇作家・清水邦夫の代表作の一つ『狂人なおもて往生をとぐ~昔、僕達は愛した~』。とある娼家で始まる家族ごっこを狂気的かつ美しく描いた作品が、気鋭の若手演出家・稲葉賀恵の演出で10月11日(土)~18日(土)にIMM THEATERにて上演される。主演を務めるのは、映像・舞台ともに活躍している木村達成。さらに、岡本玲、酒井大成、橘花梨、伊勢志摩、堀部圭亮と若手からベテランまで実力派が集結している。ビジュアル撮影のタイミングで、木村達成、岡本玲、稲葉賀恵にインタビューを行った。
木村達成
――上演が決まった時、どのように感じましたか?
稲葉:「清水邦夫はある時代をまとっている」ように感じられる方もいると思います。清水邦夫といえば、「こういうイメージ」という理想像が浮かぶ方もいると思います。その中で、ノスタルジーに向かうのではなく今の物語にするにはどういう視座を持ったらいいかを考えました。時代は違うけど、清水邦夫が描いているのは、居場所がない・鬱屈とした想いを抱える若者や、マイノリティ側の血潮。この作品で描かれている「一家心中」は、今の私たちにリアルに通じる感触がありました。あと、いつも言ってしまうのですが私は色っぽいお芝居が大好きなんです。というのも今は演劇でもそれ以外でも即物的な性欲や根源的な欲求をダイレクトに表現できなくなっていると私は感じます。理由のない欲求を語りづらいというか。でもこの作品はそれを「やっていいよ」と言ってくれている。私は俳優が好きなので観劇する時はやっぱり舞台に立っている俳優の魅力な姿を観たいと思うのですが、俳優がむき出しの欲求を持って這いずり回っているのを観にくる上で極上の脚本だと感じます。
稲葉賀恵
木村:まずタイトルに惹かれて本を読み始め、面白さに惹かれ、コメディチックな雰囲気にも惹かれて、あっという間に読み終えました。(娼家の女主人のヒモで“長男”を名乗る)出を演じると決まり、どこか自分に近しいところを探しました。役者はみな多分壊れたことが何回もあるし、僕もその状態になっていることが多いからか気持ちがわかる。あとは、稲葉さんがおっしゃったように、生きづらさを抱えた人間たちがたくさん出てくる印象を受けたので、とてもやりがいがあるし、やっている自分もすごくエンジョイしそうだと思いました。
岡本:個人的に翻訳劇が続いていて、日本語を浴びたいと心底願っていたところに演出が稲葉さん、脚本は清水邦夫ということで飛びつきました。清水邦夫は『楽屋』を演じたことがあり、自主企画のために他の脚本を読み漁ったことがあります。息苦しさもあり、自由でもあり、静かに沸々と血が踊る感覚がありました。今こそ清水邦夫の日本語を浴びたいと思い、楽しみにしていました。
岡本玲
――岡本さんから清水邦夫作品の言葉の魅力というお話が出たので、特に好きなポイントがあったら教えてください。
木村:面白いセリフがいっぱいありますよね。ねずみのくだりとか、「十七回って、十六回の次だよな」とか。
稲葉:十六の次は十七っていうのは、生き死にのごっこ遊びというか。演劇は生き死にを繰り返しているような芸術だと思うので、演劇を揶揄した上で、この人たちは一家心中を何回も繰り返していると考えることもできる。架空の物語だとして読むだけだと「ふーん」で終わるけど、本当に自分の身に起きるとしたらどういうこと? とすごく考えるんです。やっていてムズムズするというか、興奮するセリフが多いですよね。
木村:死ぬシミュレーションみたいなものを家族ごっこで何回もやっているってことですもんね。この作品は、活字から生身の人間を感じられるところがたくさんある。出も、変なやつだけど確かに生きていると感じます。作中で出が精神病院にいた時の話も少し出てくるけど、家族でいるときの方が生きている感じがするんだろうなと思うセリフがたくさんあって、演じるのが面白そうです。
岡本:いやあ、難しいです。どうすればいいんだろう。
稲葉:私は玲ちゃんにこの役(愛子・“長女”)をすごくやってほしかったんです。愛子と(橘花梨演じる“次男”の婚約者)めぐみは対照的なキャラクターで、愛子は粘着質で陰湿な欲望を隠している人。
岡本玲
岡本:稲葉さんから「真逆じゃないですか!」って言われました(笑)。
稲葉:私が知っている玲ちゃんはすごくサバッとしていて竹を割ったような性格。そうじゃない姿、その色っぽさを見たいなって期待しています(笑)。
岡本:きっと、自分が生きる中で「これを見せてしまうと生きづらいな」と無自覚に隠してきたのが女性らしさや欲望だったと思うんです。それは重々承知しているので、30歳を超えた今、そこに改めて向き合って挑戦できる機会を得たのがありがたいです。(愛子は)危ういなと思いつつ、危うさって色気に繋がると感じて。……でも、ずっと造花を持っているのは怖いですよね(笑)。
稲葉賀恵
――岡本さんの愛子が見たかったということですが、他のみなさんに稲葉さんが期待していることはありますか?
稲葉:木村さんとは今日が初めましてですが、2作ほど拝見していて、ナチュラルボーンな狂気があると感じています。
一同:(笑)。
木村達成
稲葉:取り繕っていない素直な方なんだろうなと。出はインテリだけど学生運動に敗れて精神に異常をきたし、理想と現実に混濁がある。理想の高さを隠しきれていなくて、ごっこ遊びを繰り返しています。それを小手先で演じてしまうと、お客様は馬鹿じゃないので「狂ってるフリでしょ」と醒めてしまう。狂っている人って実はとても正気なんですよね。ナチュラルボーンな狂気感を持っている人はすごく稀有ですが、木村さんはそれを持っていそうなので楽しみにしています。
堀部(圭亮)さんはいい意味で変態。善一郎(“父”)はこの作品の影の主役ということもあり、常識人の皮を被っているけどぶっ飛んでいる人で見たいと思いました。(娼家の女主人で“母”を演じる)はなも、普通に見えて実は一番狂気的で陰湿。そのバランスと色気を持っている人と考えた時に、ご一緒したことはないですが伊勢志摩さんだと思いました。
花梨さんからは、めぐみが持っている裸の色気と、みんなが翻弄されて「この子が来たら何か変わるんじゃないか」と思うくらいのエネルギーを感じる。酒井(大成)さんは、お会いした時に「僕、ジェームズ・ディーンが好きなんです」と言っていてなんかとても面白いなと。(愛子の客で“次男”を演じる)敬二はインテリだけど一番青くて、「自分は現代っ子で新人類だ」というエゴを持っている。ジェームズ・ディーンが好きだと言っている人にやってほしいなと思いました(笑)。
一同:(笑)。
稲葉賀恵、木村達成、岡本玲
――木村さんと岡本さんは、カンパニーにどんな印象や期待があるでしょうか。
木村:皆さんと共演できるのがとても楽しみです。酒井くんはご一緒したことがあって、堀部さんはご挨拶だけしたことがあります。あとはみなさん初めましてなので、ご迷惑をかけないように頑張ります!
岡本:いやいや、迷惑をかけ合いましょう。
木村:そうですね。でも、掴んだら早いカンパニーだと思います。
岡本:私も初めましての方が多いですが、恥をかいても笑って終わりそう、それも面白がってくれる人たちかなと思います。堀部さんがいい意味で変態的というのもわかる(笑)。静かな狂気とその色気みたいなものを感じます。前回共演したときはご一緒するシーンがなかったので、今回が楽しみです。
――最後に、楽しみにしている皆さんへのメッセージをお願いします。
木村:全公演、限界を決めずにぶっちぎって全力でやりたいと思っています。みなさんもぜひお見逃しなく。
岡本:刺激を求めている方はぜひ。「損はさせません」と言い切りたいです。
稲葉:こういった直情的で感覚的な戯曲を扱うことがあまりないので、自分の中では勝負作。すごく高い頂だと思っています。観た方が単純に「面白かったね」とほくほく帰るというよりも、何かの芽が蒔かれて植えられて、後に花開くようなものになったら嬉しいです。ある意味劇薬のようなこの戯曲をカンパニー全員で立ち上げ、お客様がひっくり返るような芝居にできたらいいなと思っています。
稲葉賀恵、木村達成、岡本玲
取材・文=吉田沙奈 撮影=大橋祐希