マーティ・フリードマンが語るタンゴの革命児・アルゼンチンの鬼才ピアソラとの出会いから挑戦への想い

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インタビュー
音楽
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マーティ・フリードマン

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「ROCK界のレジェンドがクラシックホールでピアソラに挑む!」――この夏、ロックとクラシックとタンゴの境界線をぶち破るライブが実現する。8月22日に大阪・あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホールで、9月5日に東京・王子ホール(銀座)で開催される「Marty Friedman Plays Piazzola And More-Concert Hall 2025」は、日本在住の世界的ロック・ギタリスト、マーティ・フリードマンが、タンゴの革命児と言われたアルゼンチンの鬼才・アストル・ピアソラ(1921-1992)の楽曲をプレイする画期的音楽体験だ。SPICEではこのライブを全面支援するべく、世界中を飛び回る多忙なマーティをリモートでキャッチ。ピアソラとの出会いから、今回のライブにかける意気込みまでを熱く語ってもらった。あなたの音楽観を変えるかもしれない特別なパフォーマンスを、ぜひ現場で体感してほしい。

――マーティさんが、最初にピアソラを聴かれたのはいつ頃ですか。

それは、わりと最近です。僕がピアソラのことを全く知らない時に、僕の奥さんがピアソラの音楽を聴いていたんですよ。彼女はチェロを演奏していますので、結構いろんな場所でピアソラの曲をやったことがあるんです。それをたまたま僕が聴いて、「これ何ですか」って聞いたら、「これはピアソラですよ」と。初耳だったんだけど、なぜかその瞬間でお気に入りになって、それってなかなかないんですよ。僕の音楽のレーダーはかなり広くて、音楽に対して結構何もかも知ってるつもりなんですけど、なぜかピアソラは知らなかった。そこで、僕の音楽のセンスにピッタリだと思って、大ファンになって、ピアソラの音楽を勉強したんです。だからその後、僕の音楽の中に、ピアソラさんのセンスが結構出てくるんですよ。僕のアルバムを聴いたら、何かピアソラに影響なくはないって感じと思いませんか?

――思います。ピアソラはジャンルで言えばタンゴですけど、ジャズっぽいこともやるし、クラシックの要素もあるし、時にはロックだと感じたり、いろんなものが入ってるところと、メロディの美しさが、似ているような気がします。特に最新アルバム『ドラマ』のメロディアスな感じには、共通するものを感じたりします。マーティさんにとってピアソラは、どんなジャンルなんですか。

おっしゃる通り、何かちょっとジャンルレスですよね。アルゼンチン・タンゴと言っても、アルゼンチンではピアソラさんは、反逆者みたいな存在なんですね。純粋なアルゼンチン・タンゴと全く違うんです。結構ルール違反のことをいっぱいやっていますし、ルールを破ってるところが面白いと思います。そしてメロディセンスがポップで、ポップのバラードに似ているような切ないセンスとか、ところどころあるんですね。その融合がとてもオリジナルで、僕のストライクゾーンのど真ん中に入ってるから、とても僕のための音楽だと思ったんですね。僕は純粋なアルゼンチン・タンゴはそんなに興味ないですし、ジャズにもそんなに興味ないんですけど、ピアソラはそういうジャンルの中の、僕の好きな部分だけを濃縮して、融合してくれている。僕はピアソラを聴いて、僕のために音楽を作っているような存在だと思ったので、色々取り入れて、自分の音楽に入れました。

――マーティさんとピアソラとの関係というと、2015年にブエノスアイレスで「ピアソラ・トリビュート」のコンサートに出演しましたよね。しかも、アストル・ピアソラのお孫さんの、ピピ・ピアソラさんのバンドと一緒に。あれはどんなライブだったんですか。

ピアソラ本人の国で、本人の民族の前で、家族のピピ・ピアソラさんと一緒に、フルライブをやりました。90分とか、本当にがっつりピアソラの曲をやって、僕の曲も何曲かやりました。そのライブ・パフォーマンスの直前、僕はブラジルにいて、20か所ぐらいのツアーをやりました。南米には、マーティ・フリードマン・バンドはよく行っているんですが、その時ちょうどタイミングが良くて、「せっかくマーティが南米でツアーしてるんだから、ピアソラ・トリビュートのライブに出ませんか」と聞かれて、あまりに光栄の気持ちが溢れてきました。

――すごいことですよね。

ロックの飛び入りじゃなくて、ガチガチのピアソラだから、その責任は大丈夫かな?と思っていて。ブラジル・ツアーの移動中に、ずっとピアソラの曲を聴いて研究して、バスの中で譜面を見ながらギターを弾いていた記憶が、すごく強く焼き付いてるんですよ。で、ブラジルからアルゼンチンに行って、アルゼンチンの皆さんの前で演奏して、ものすごい発散したんです。アルゼンチンではピアソラさんは国宝みたいな存在ですから、いきなり外国の人が来て、ピアソラの曲を勝手にやって、どうなるのか?と思いましたけど(笑)。お客様の反応がすごく温かくて、気に入ってくださって、僕は自信を持てました。多分僕のキャリアの中で一番頑張って、あまりに達成感とか、あまりに満足の気持ちが溢れて、ピアソラの音楽に対しての愛が溢れて、僕の音楽の性格の中の一部になりましたので、絶対縁が続くと思ったんですよ。そのうちに日本でも似たようなことやりたいなと、その時からアイディアがありました。

マーティ・フリードマン

――そして去年の9月、ニューアルバム『ドラマ』にまつわるライブの一貫として、コットンクラブでピアソラの楽曲をプレイするライブを実現させました。

僕がアルゼンチンでピアソラのライブをやったということは、ちょっとクラシック音楽の世界に知られていたんです。で、実は日本に三浦一馬さんという、バンドネオンのトップ演奏者がいらして、それまで僕は知らなかったんですけど、バンドネオンは非常にレアな楽器ですし、とてもとても難しい楽器らしいので、三浦さんみたいなバンドネオン・マスターが、僕が住んでいる日本にいるということで、「絶対この人と何か一緒にしたい」と思ったんです。彼はピアソラの作品をリリースしていますし、僕よりも100倍ピアソラに詳しくて、ピアソラ命の人だから、「とにかくこの人と会わせてください」と僕は周りの人に言って、それを実現させて、とても奇跡な夜になりました。もちろんピアソラの名曲をいっぱいやったんですけど、僕の曲もやりました。バンドネオンとピアノと3人編成で、僕の音楽を演奏しながら、本当に幸せを感じたのと、お客様の反応がとてもとても温かかったので、絶対これをさらにレベルアップして、コンサートホールでやろうと思ったのが、今回やっと実現できます。

――エレクトリックギターでピアソラの曲を弾く、ということ自体が画期的だと思ったんですが、実は70年代のピアソラのバンドとか、ギターがいる編成もあるんですよね。

そうです。ただ、ギターは入ってますが、そのギターはほぼ伴奏の存在感です。だから僕はアルゼンチンでピアソラをやった時に、伴奏じゃなくて、バンドネオンの存在感で弾いていたんですよ。僕はソロが多くて、メロディが多くて、ソリストの存在感でした。なので、今回は、ちょっと同じようなギター演奏しますが、本当のバンドネオンの素晴らしい演奏者がいますんで、ダブルパンチで、多分ピアソラの世界でやったことのないことをやろうと思いますね。ギターもレベルアップして、バンドネオンもレベルアップして、めちゃめちゃ未来的な融合になりましたので、絶対みんなこれを見てほしいですね。

――どんなアンサンブルが聴けるのか、想像がつかないのがすごく楽しみです。

ギタリストはなかなかこういうきっかけがないかもしれないですし、バンドネオンの人たちもきっかけがないから、本当に奇跡の企画なので。僕はピアソラの音楽と縁がありますけど、どんどんそれを増やしたいですし、僕が住んでいる日本はそれを一番やりたい場所ですから、ぜひ皆さん来てほしいです。

――ちなみに、マーティさんの周りのロック・ギタリストで、ピアソラを聴いている人はいますか。

あんまりいないです。普通のロックミュージシャンの中では、あんまり知られてないんですが、例えばクラシック・ミュージシャンの人たちになると、みんなピアソラは当たり前のように知っているんですね。ロック・ギタリストだと、残念ながらそんなに知られてないですから、僕はもっと紹介したいですよ。

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――今度のコンサートのメンバーを紹介していただけますか。まず、ピアノの曽根麻央さん。

曽根さんは、前のピアソラ・ライブを東京でおこなった時に、それが初対面でした。ピアソラの名曲「アディオス・ノニーノ」という曲があって、その曲の前奏は長いピアノ・ソロです。そのピアノ・ソロは、「アディオス・ノニーノ」のテーマがありながら、その演奏者の即興のキャラが出てくるような演奏ですね。その演奏者のタッチとか音色とかセンスとか、もちろん腕も含めて。で、曽根さんの「アディオス・ノニーノ」のピアノ・ソロをリハーサルの段階で聴いたら、もう恋に落ちたんですよ。彼は基本的にジャズの演奏者と呼ばれているんですが、とってもとってもラテンの心、ラテンの情熱、ラテンのメロディセンスをたっぷりソロに入れてくれて、本当に鳥肌が立つようなパフォーマンスだったから、一緒にやるのは光栄でした。

――先ほどお話に出た、バンドネオンの三浦一馬さん。

三浦さんはピアソラ命です。日本のバンドネオンの世界って非常に狭いと思うんですが、彼のおかげでその楽器の良さをみんなに伝えるし、ピアソラの音楽をみんなに紹介しているし、本当に大事な存在だと思います。日本の音楽界の、ピアソラ代表として、旗を持っている人だと思います。一緒に演奏するのは本当に気持ちよくて、一緒にできて光栄です。

――もう一人、ゲストとしてギタリストの猪居亜美さんがいらっしゃいます。

彼女は今まで一緒に色々やったことあって、トップクラスの世界的なガット弦ギタリストで、僕の憧れの人です。僕はガット弦のギタリストの中で、ロックが好きな人は少ないと思います。ロックは子供の遊びと思っている、タカビーな人がいるから(笑)。ジャズの演奏者とか、ガット弦のクラシック演奏者には、そういう人もいるんですけど、でも猪居さんは逆に、すごくスピリットを持っているガット弦演奏者だから、一緒に時間を過ごすのは楽しい。もちろん演奏するのが楽しいです。

――一つお聞きしたいのが、マーティさんがピアソラを弾く時は、譜面ありですか、なしですか。

僕は譜面で全く弾かない。完全に丸暗記と即興です。もちろんピアソラの曲は、メイン・テーマが有名ですから、それを守りますが、ピアソラをやっているグループたちは、ほとんどそのグループの解釈でやるんですよ。だから僕のコンサートは僕の解釈で演奏しますし、みんなと一緒にアレンジしますんで、その夜しか聴けない解釈になります。そして、東京と大阪の解釈はまた違うんです。

――それは楽しみです。セットリストはもう大体決まってますか。

大体決まってますね。もちろん微調整はあると思いますし、あとライブの当日の気分によって曲が長くなったり、新しいバージョンになると思います。このレベルの演奏者だと結構自由に、その日の気分とか、当日の魂で解釈するタイプだから、いくらリハーサルをしていても、その日の魔法は絶対出てくると思います。

――多分「アディオス・ノニーノ」はやってくれると思うんですけども、あれは本当にすごい曲ですね。組曲みたいにドラマチックな曲なので、毎回解釈が変わるとなると、さらに楽しみが増えます。

人によって変わるんですね。アルゼンチンでやった時に、アルゼンチンのピアニストが「アディオス・ノニーノ」のソロを弾くところ、今でも覚えてます。それはもう生き様を音楽にすることでした。そんな楽器でそんな感動的な音出せるなんて、本当に音楽って不思議だなと思った瞬間でしたので、僕らは僕らなりの解釈で同じように頑張りたいと思います。

――ピアソラの曲ではたぶん最も知名度の高い「リベルタンゴ」も、きっとやってくれますね。あと、マーティさんのオリジナル曲もやりますか。

はい。せっかくこの素敵な演奏者と一緒にやるんだったら、『ドラマ』の曲は、結構この編成でピッタリだと思います。

――お客さんは、マーティさんのファンが中心だと思うんですが、ピアソラのファンの方、各プレイヤーのファンの方も来てくれるでしょうし、いろんな人が多分客席にいると思うんですけど、お客さんにはそんなところを見て、聴いてほしいですか。

もちろん、ピアソラにちょっとでも興味があれば、このきっかけでピアソラさんの音楽の良さを発見してほしいですし、僕を応援してくださる方は、ちょっと違う面で見てほしいですね。これはいつものマーティじゃないんで、何て言うか、本当に不思議な現象が起こると思います。もちろん三浦さん、曽根さん、猪居さんのファンたちは、僕と一緒のやり取りが本当に新鮮だと思いますし、このレベルの演奏は僕はめったにないので、非常に頑張りたいと思いますので、僕のその姿を見てほしいです。

――若いロック・ギタリストにも、来てほしいですよね。「ギターでここまでできるんだよ」と。

ギターに熱心な人たちは、多分びっくりするほどのレベルだと思います。僕のライブも、ギターレベルが高いと思いますけど、ピアソラの曲をやりながら自分なりの解釈をすると、僕でも非常に頑張らなきゃいけないので、やりながら僕も成長するんです。それを楽しみにして、皆さんに見に来てほしいです。


取材・文=宮本英夫

マーティ・フリードマン

ライブ情報

Marty Friedman Plays Piazzolla And More Concert Hall 2025
2025年8月22日(金)大阪 あいおいニッセイ同和損保ザ・フェニックスホール
2025年9月5日(金)東京 王子ホール
 
出演:
Marty Friedman(ギター)
三浦一馬(バンドネオン)
曽根麻央(ピアノ)
ゲスト:猪居亜美(ギター)
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