はんこと文字で、毎日はもっとカラフルになる!『スタンプフェスティバル・タイポグラフィフェスティバル』体験レポート

2025.8.1
レポート
イベント/レジャー

『スタンプフェスティバル・タイポグラフィフェスティバル』

画像を全て表示(27件)

梅雨明けの空の下、はんこ好き・文字好きたちの熱いお祭りが開催された。この記事は2025年7月19日(日)に東京都立産業貿易センター台東館にて開催された『スタンプフェスティバル・タイポグラフィフェスティバル』の体験レポートである。

『スタンプフェスティバル』『タイポグラフィフェスティバル』共通のエントランス

『スタンプフェスティバル』はおよそ半年前(2024年11月)に産声を上げた、文房具の中でも“はんこ”に特化したイベントだ。初開催時には「とにかく混んでいる!」と来場者の多さに圧倒されっぱなしだったが、第2回目となる今回は会場を変えたこともあり、だいぶゆとりのある場内環境が実現。一つひとつのブースを快適に見てまわることができたと、はじめに力強くお伝えしておきたい。運営さんありがとう!

そして今回は、会場5階の『スタンプフェスティバル』と併せて4階で『タイポグラフィフェスティバル』が初開催されており、同じで両方を楽しめるのがポイントだ。それでは「はんこ」と「文字」のダブル主演で繰り広げられた真夏のドラマの、筆者なりに見つけたハイライトシーンをお伝えしていこう。

まずは初開催『タイポグラフィフェスティバル』に潜入!

タイポグラフィとは、文字や文章を読みやすく、美しく見せるための技術のこと。ざっくり言うと“文字のデザイン”である。商品パッケージやウェブサイトなど、日頃私たちの目にする文字にはほぼ例外なくタイポグラフィが介在しているものの、自分が作り手側にならない限り、それは空気のようなものである。

「おいしいタイポ」のコーナー。課題はドーナツのほか、ラーメンやポテトチップス、クリームソーダなど

タイポグラフィってなんだろう? という来場者のために、エントランス付近には参加型のお楽しみ企画が用意されている。その名も「おいしいタイポ」。トレイに載った食べ物にピッタリの擬音を考えて、自分なりの文字で美味しそうなイメージを表現する、というものである。

可愛い参加者さんがいたので、ご本人・保護者さんに許可をいただいてパシャリ。対象をじっと見つめて一生懸命言葉を探している姿が印象的だった

美味しそうな食べ物のことは、誰だって自分ゴト。老若男女、幅広い属性の来場者たちが作字に挑戦していた。実際にやってみると、文字にデザイン性を持たせる(=崩す)のが非常に難しいことに気付かされる。文字とは、意思伝達のために共有する線と線のお約束事だ。線を変化させすぎると読み取れないし、かといって何もやらなければ普通に文字を書いただけ、になってしまうのだ。

文字ってこんなに面白い

『タイポグラフィフェスティバル』会場風景

さあ、いよいよマーケットにダイブ。フロアいっぱいに主催(手紙社)が厳選したおよそ30の作り手たちが作品を広げ、来場者と和やかに対話しながら販売している。長机にブースが並んでいくスタイルではなく、分割されたいくつもの浮島が配置されたスタイルなので、回遊しやすい。

「Words sandwich」はパン屋さんっぽいグラシン紙の封筒もついて、税込1,870円のところをフェス限定価格の1,210円!

いきなり心を鷲掴みにされてしまったのが、「NECKTIE design office」のブースに並ぶ「Words sandwich」だ。見本を触らせてもらうと、ちょっとふかふかしていた。このパンのカードは通常なら印刷には使わないような分厚いウレタン紙を採用しているそうで、作り手さん曰く「硬いパンは嫌だったので、頑張って印刷しました」とのこと。そのパンの間に、食材を割り当てたアルファベットの活版印刷カードを挟んで、自分だけの “言葉のサンドウィッチ” を作成する……というオシャレすぎる作品だ。ここ一番の大勝負で使おうと、筆者はLOVE(レタス、オニオン、ビネガー、エッグ)のサンドウィッチを購入。作り手さんは制作のきっかけについて「食材を選んでサンドウィッチを作るのってそれだけで面白いし、その先に楽しいことがありそうじゃないですか? そんなワクワクした感じをカードに込められたらなと」と、笑顔で語ってくれた。

「tomomi_type」のブースにて

「tomomi_type」のブースでは、ワインなどのボトルに文字をハンドペイントしたアート作品を発見。「いつも笑顔で会いましょう」や「ワインは人生のガソリンだ」など、眺めているだけで元気が出てくるような言葉が並んでいる。特に人気の言葉を尋ねてみたところ「LIVE, LOVE, LAUGH, AND BE HAPPY(笑って、愛して、ハッピーな人生を)!」のタイポグラフィが好評なのだそう。なるほど短くて直感的に分かるポジティブなワードが、リズミカルに連続するのが魅力なのかもしれない。タイポグラフィって、目にみえる色やカタチと、目にみえない意味とが手を繋いで完成する複合的なアートなのだと改めて感じた。

「fontdesuka」のブースにて

躍動するフォルムが目を惹くのは「fontdesuka」で見つけたタイポグラフィ作品。何の文字か分からずじーっと見つめていると、作家さんが「ホウレンソウです」と教えてくれた。なるほど! 人の姿にばかり気を取られて気付かなかったけれど、よくよく見たらピンクのうねうねしたラインで「報告」「連絡」「相談」と書かれている。そう思うと、各人物も報告したり相談したりしている姿にしか見えない(走って追いかけて連絡している姿が可愛い)。「ホウレンソウは大事だなと思って、制作しました」と、ニヤリと笑う作り手さん。確かにデスクに「報告・連絡・相談」と書いて貼るより、このアートを飾った方が俄然モチベーションが上がりそうである。

今ここで生まれるタイポグラフィ

会場では、その場でタイポグラフィ作品のオーダーを受け付けている作り手さんも。中でも「なる」のブースは作り手さん自身もびっくりするほどの人気ぶりだったそうで、開場からおよそ1時間の時点でもう受注限界数に達してしまったのだとか。そんなわけで、密かに楽しみにしていた筆者も残念ながら “文字のお仕立て” ならず……。この無念もまた、フェスの味わいというものである。

「なる」のブースにて制作中の作り手さん

オーダー作品を狙う場合は、できるだけ早めの入場がカギになりそうだ。お目当てのものに対する本気度が試されるような、このヒリヒリ感がたまらない。

「Tokyo Negi」のブースにて制作中の作り手さん

「Tokyo Negi」のブースでは、作家さんがハンドレタリングを実演する姿が見られた。アメリカで活動し、現在は東京を拠点にしているという作家のジュンさん。オーダーされる文字はお子さんやペットの名前が多いそうだが、中にはブースに掲げていた「げんきんのみ」の文字のカッコよさに惹かれて、同じ言葉を依頼してくれたお客さんも多いと、と嬉しそうに語ってくれた。

弾むキモチを文字にして

宇田川一美さんの「ゆる文字で、筆跡混色」ワークショップ(税込1,500円)

せっかくお祭りに参加するなら、ワークショップ企画も見逃せない。数ある中から「これだ!」とセレクトしたのは、宇田川一美さんの「ゆる文字で、筆跡混色」ワークショップ。使用するのは万年筆タイプのつけペン。カラフルなインクの中から好きな組み合わせを見つけて、2色が文字の中で混ざり合い、グラデーションとなる「筆跡混色」のテクニックをレクチャーしてもらった。

つけペンを持つのも初めてだったので、「ペン先をインクにどこまでつけたらいいでしょうか……?」の質問からスタート。先生の指導のおかげですぐに思い通りに書けるようになり、数分後にはもうどの色を混ぜようかと夢中になっていた。線の交点にちょんと色をのせて、グラデーションが生まれていく瞬間はなかなかの快感である。

繰り返すうちに「あっ、字が遊び始めましたね!」と声を掛けてもらってニッコリである

言葉をゆるく可愛く見せるコツも教えてもらい、あっという間に時間が過ぎていく。それにしても、自由課題となると何の言葉を書くかもまた悩みどころである。漢字の言葉といわれて筆者は「納期厳守」と書く小心者ぶりを披露したが、隣の参加者さんは「米高騰」と書いていて、お互いに笑ってしまった。そのうちにだんだん心の声が素直に出はじめ、最終的には「書くって楽し〜」と書くに至るのだった。

いよいよスタンプフェスティバルにダイブ

『スタンプフェスティバル』エントランス

それではここで、5階の『スタンプフェスティバル』へ移動しよう。レポートも折り返し後半戦である。

「はんこ交換の木」

エントランス付近では「はんこ交換の木」がお出迎え。『紙博』でお馴染みの、来場者同士で持ち寄った小包(今回ははんこ)をメッセージとともに交換する、シアワセの木である。かごの中の小包はどれも丁寧にラッピングされており、誰かに引き継がれるのを待っているような佇まいに胸がキュンとなった。

重ね押しの妙技に感動

「TO-MEI HAN」のブース

まず立ち寄ったのは、フォトポリマー製のクリアスタンプのブランド「TO-MEI HAN」のブースだ。「TO-MEI HAN」は透明なので押す位置の見当が外れにくく、重ね押しがしやすいのが特長だという。常駐している制作者さんに声を掛けると、クリアスタンプの重ね押しを快く実演して見せてくれた。

クリームソーダの重ね押し実演中。アイスクリーム部分はいったん他所に押してインクを落としてから押すとちょうどいい塩梅になるのだそう

みるみるうちにスタンプが重ねられ、クリームソーダができていく。最高に衝撃的だったのは、氷の部分の表現だ。なんと、“氷”のスタンプを“グラスの中の液体”の上にインクなしで重ねることで、その部分のインクを拭い取って氷を表現しているのである。すごい! これぞ逆転の発想と、思わず拍手してしまった。ちなみにこのクリームソーダが作れるセットは大人気のようで、取材中にも続々と売れていた。

心躍るはんこの数々

厳選された50以上の作り手が集まる『スタンプフェスティバル』。以下の素敵なはんこたちはあくまで氷山の一角だが、イベントの雰囲気が少しでも伝われば幸いである。

「鳥の葉工房」のブースにて

こちらは「鳥の葉工房」の軽やかな手書き文字はんこ。制作者さん曰く「イラストに添えたり、日記のサブタイトルなど、ちょこっと添えると可愛いです」とのこと。「お休みいただきます」や「おやつにしましょう」なんかは、会社のデスクにそっと常備しておけば業務が円滑に進むのでは……なんて思った。

「Mon petit artiste」のブースにて

まるでお菓子のようなラッピングがキュートなのは「Mon petit artiste」のはんこたち。パリの街角にある老舗の印刷屋さんのようなお店を目指しているとのことで、ブース全体からフレンチなムードが匂い立っていた。キャンディみたいなミニスタンプは300円台というお手頃さもうれしい。

「tales on the desk」のブースにて

ヨーロッパ風のロマンティックなはんこは会場内に数あれど、個人的にどうしても欲しくなって購入したのは「tales on the desk」の逸品。見れば見るほど、シュールかつアンティーク風なのがたまらない。作家さんにお話を聞いてみると、モチーフは西洋の古い絵本を参考にしているのだそうで、深く納得である。迷いに迷って、「輪回し少女」のはんこを購入した。

海外作家さんたちの作品に心が震える

つるりとした石の持ち手が可愛い、中国ブランド「HANEN STUDIO」のはんこ。

今回の『スタンプフェスティバル』では、日本だけでなく、台湾、香港、マレーシアなどから作り手が参戦しているのが大きな特長だ。日本語や英語がどれほど通じるかはブースによってまちまちだが、はんこという文房具を愛する気持ち、繊細な感性はいずれも共通である。

「山泥泥 Yamadoro」のブースにて

台湾の作家夫婦による「山泥泥 Yamadoro」のはんこの女の子が可愛かったのでぜひ注目を。小さなイラストなのに、空気をたっぷりはらんだスカートが、確かに風を感じさせてくれる。イラスト担当だという奥さまには残念ながら会えなかったが、はんこ制作担当の旦那さまに「とても素敵ですね」と伝えると、「ありがとう!」と最高の笑顔で応えてくれた。やっぱり声掛けが作り手さんのガソリンになるのも、国境を超えて共通である。

「Sumthings of Mine」のブースにて

マレーシア発の「Sumthings of Mine」は、「瞬間を収集し、創造する」のがコンセプトなのだそう。その日の気分を記録するのにピッタリな「Q. How are you today?」のはんこでは、テンションの単純な7段階評価ではなく「自分なりにベストを尽くしている」や「生き延びてはいるけれど……」といった微妙な選択肢があって面白い。ちなみに隣の「CAUTION」スタンプもユニークで、「人生は時に圧倒的で、心が追いつかないこともあります……(以下略)」という“人生の注意書き”だったりする。

はんこ好きを熱くさせる、恒例のコーナーも

「はんこ押し放題スポット」

『スタンプフェスティバル』のお楽しみ企画のひとつ「はんこ押し放題スポット」は、手帳やスタンプ帖を手にした人たちで今回もやっぱり大盛況! それでも机を細かく分割して配置することで、スッキリとした環境が整っていた。

「はんこ押し放題スポット」

合計700個以上のはんこが押したい放題という、はんこ好きにとって天国のようなこのスポット。今回出展しているすべての出展者さんの代表作も押せるとのことで、探すのはそれなりに大変かもしれないが、飛び込む価値は多いにある。夢中になってスタポン(スタンプポン)している二人組の女子が「これって宝探しじゃん!」と表現していて、本当にその通りだなぁと思った。

「スタンプパッドお試しコーナー」

こちらはシヤチハタ株式会社の提供のもと、同社のブランド「いろもよう わらべ」の全色をお試しできる「スタンプパッドお試しコーナー」。これはぜひとも、さっき購入したはんこにぴったりな一色を見つけたい! と張り切って押しまくるものの……。どれも美しくて決められない。すると隣の来場者さんが「私、以前迷ったときにこれをおすすめしてもらって買ったんですけど、本当におしゃれにキマるのでおすすめですよ……」と、そっと声を掛けてくれた。それがとても嬉しくて、自分ではノーマークだったその「栗色」に決めた。今度誰かが迷っている場面に出くわしたら、自分もおすすめのバトンをつないでいこう。そう思うとニヤニヤしてしまった。はんこや文字の愛好者が集うこのフェスティバルでは、ちょっとした袖のふれあいの物語を愛する人もまた、多いような気がしてならない。

暮らしに持続可能な彩りを

会場マップと戦利品たち。左手前は家族へのお土産の「餅ベーコンのステッカー」(モノガタチレコードのブースにて330円で購入)

帰宅して自分の手帳に、戦利品のはんこを押してみた。考えてみれば初めての、はんこの日常生活への参入だった。すると……〆切や、やらなきゃいけない事だらけの自分の手帳が、見違えるように “呼吸” を始めたのである。試しに、余白に「納期厳守」を自分なりのゆる文字で書き込んでみる。信じられないくらい可愛い。誇張ではなく本当に、自分の時間が自分の手に戻ってきたような感覚があった。

なぜ人は意思伝達ツールである文字を変形させ、おしゃれにするのか。なぜ人はスタポンして、あちこちに絵柄を散りばめるのか。その答えが肌感覚でわかった気がする。ルーティンに向き合うテンションが著しく上がり、日々の体温がわずかに上がるからなのだと思う。

大きなはんこが可愛い『スタンプフェスティバル』のフォトスポット

反復できる挿絵である、スタンプ。言葉のイメージを増幅させて操る、タイポグラフィ。これらは日常にちょこちょこ登場させてこそ、真価を発揮する。花を飾ること、ちょっと美味しいモノをお取り寄せすることなど……暮らしを豊かにする方法は色々あれど、これほど持続しやすいツールも珍しいのではないだろうか。

多くの発見と出会いに満ちた『スタンプフェスフェスティバル・タイポグラフィフェスティバル』。すでに沼にハマっている人が楽しめるのはもちろん、ビギナーの最初の一歩としても、とってもおすすめである。会場の盛り上がりぶりからして、きっとこれからも本イベントは進化を重ねていくに違いない。


文・写真=小杉 美香

イベント情報

スタンプフェスティバル/タイポグラフィフェスティバル ※終了
日程:2025年7月19日(土)・20日(日)
会場:東京都立産業貿易センター台東館 4階・5階展示室(東京都台東区花川戸2-6-5) 
時間:
【7月19日(土)】9:00~17:00
【7月20日(日)】9:00~16:00