ピーター・ブルックの『マハーバーラタ 8K 修復版』 息子であり映画監督のサイモン・ブルックへのインタビューが公開
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ピーター・ブルック(左)とサイモン・ブルック(右)親子
2025年7月25日(金)PARCO 劇場にて、『ピーター・ブルックのマハーバーラタ 8K 修復版』の8Kワールドプレミア上映会が開催される。この度、サイモン・ブルックへのオフィシャルインタビューが公開されたので紹介する。
『ピーター・ブルックのマハーバーラタ 8K 修復版』 (C)Brook Productions
現代演劇のすべてを変えたと言われる“舞台の魔術師”ピーター・ブルックは、古代インドの叙事詩『マハーバーラタ』を、1985年のアヴィニョン国際演劇祭で、9時間の野外舞台劇として初演。前夜から始まり、夜明けとともにクライマックスを迎えるという壮大な演出は、演劇史に語り継がれる「伝説」となった。1988年には、銀座セゾン劇場でも来日公演が行われ、翌1989年には舞台をもとにした映像版(173分)が制作された。同作は、舞台芸術と映像芸術を融合させた革新的作品として高く評価され、世界中での上演に至った。
『ピーター・ブルックのマハーバーラタ 8K 修復版』
『ピーター・ブルックのマハーバーラタ 8K 修復版』
「戦争」、「倫理」、「権力」など、現代社会にも通底するテーマを描いた同作を、今日の世界にこそ届けたいという思いのもと、ピーター・ブルックの息子で映画監督でもあるサイモン・ブルックが5年余りの歳月をかけて、8K高画質での修復に取り組み、昨年9月の第81回ベネチア国際映画祭で公開(4K 上映)され、国際的にも大きな注目を浴びた。今回、他国に先駆けて、ここ日本で初めて8Kワールドプレミア上映会が実施される。なお、日本語字幕は、この一度限りの上映のために新たに制作された新訳となる。
『ピーター・ブルックのマハーバーラタ 8K 修復版』
『ピーター・ブルックのマハーバーラタ 8K 修復版』
さらに、本上映に先立ち、特別ゲストとして、サイモン・ブルックと、『マハーバーラタ』の音楽監督・土取利行を迎えたプレトークイベントも実施される。
『ピーター・ブルックのマハーバーラタ 8K 修復版』
『ピーター・ブルックのマハーバーラタ 8K 修復版』
サイモン・ブルック オフィシャルインタビュー
1989年、ベネチア国際映画祭で公式セレクション作品として初めて上映された映像版『ピーター・ブルックのマハーバーラタ』は、その後世界中で公開され、大きな成功を収めました。しかし、音声素材やネガフィルムは複数のラボに散逸してしまいました。激しい闘争や訴訟を経てようやく回収したフィルムや音源を修復し、オリジナル映像の8K高画質化と音声のリマスタリングを実現しました。その修復プロジェクトの監修を務めたピーター・ブルックの息子であり映画監督のサイモン・ブルックに、PARCO劇場でのプレミア上映を前に本作について聞きました。
8Kが照らす5000年の問い——『マハーバーラタ』とピーター・ブルックの眼差し
ーーピーター・ブルックの舞台『マハーバーラタ』は、ちょうど40年前にアヴィニョン国際演劇祭で世界初演されて以来、日本を含む世界中で上演が行われた氏の代表作ですが、そもそも〝映画化〟に至ったのはなぜでしょうか。
サイモン 理由は主に2つ。まず、舞台を観られない多くの観客のため、ということがありました。全9時間におよぶ大規模な作品だけに、望まれたすべての地には赴けず、当時それが父のフラストレーションになっていたのです。映画化のアイデアは、そんな人々の要望に応えるために生まれたものでした。それからもうひとつ、父の中で、舞台とも映画とも異なる第3の表現形態に挑戦してみたい、という想いが強くなってきていたこともあったと思います。
ピーター・ブルック
ーー確かにこの映画は、少年が登場し、ブッフ・デュ・ノール(ピーター・ブルックが本拠としたパリの劇場)のバックステージを通り抜けて舞台にたどり着くところから始まるので、最初は「舞台上演の様子を映像に収めるのだろうな」と思うのですが、そうとは言えないユニークな表現が展開してゆきますね。
サイモン 父は、劇場というのは示唆(suggestion)することで機能する場所と考えていました。つまり、実際にそこには存在しないものを、観客に見せたり感じたりさせることができるのが劇場(演劇)であると。これに対して映画というのは、デモンストレーションするもの。そこに「これ」があるとするなら「これ」の実体を観客の眼前に出してみせる必要があるものと考えていました。この『マハーバーラタ』は、その両方の要素を丁寧に使い分けている点で、舞台でも映画でもない、第3の表現形態を提示し得ていると思います。こうした方法は、その後ラース・フォン・トリアー監督の『ドッグヴィル』などでも試みられていますが、'80年代に、すでに父は成し遂げていたわけですね。さらに今回、8Kで修復を行ったことで、まるでライブ・パフォーマンスのように見えるという現象が実現しました。創り手の頭の中だけにあったものが、技術の発展により具現化したわけで、父が生きていたら、どんなに喜んだことだろうと思います。
サイモン・ブルックと2713本のマハーバーラタオリジナルフィルム
ーー8Kという技術の出現を待つための映画化だった、とも言えるかもしれませんね。さらに描かれている内容も、分断から戦争に至る人間のエゴと残虐性、戦いの空虚さなど、リアルに胸に突き刺さることばかりです。
サイモン 5000年前に書かれた『マハーバーラタ』は「大地が嘆いている」と語り、何世代にもわたる家族の物語によって人間の選択がもたらすジレンマと、壊滅的な結末というものを描いています。当時の人たちは、どうすべきだったのか、その明解な答えを持ちませんでしたが、その後の5000年も争いは絶えず、人間は答えを見つけらずにいます。ただ、それでも人間は、ここまでなんとか滅亡せずに生き続けてきた。そこに希望を感じることができるのも、この壮大な叙事詩の魅力ではないかと感じています。
取材・インタビュー文=伊達なつめ(演劇ジャーナリスト)
公演情報
<PARCO & EPAD 特別上映企画>
ピーター・ブルック生誕 100 周年記念
ピーター・ブルックの『マハーバーラタ 8K 修復版』※8K 世界初上映
[会場] PARCO 劇場
演出:ピーター・ブルック
脚本:ピーター・ブルック ジャン・クロード・カリエール マリ・エレーヌ・エティエンヌ
出演:ピーター・ブルック・カンパニー
日本語字幕: 安宅典子 字幕監修: 大木シエキエルチャック絢深
※本作はピーター・ブルック監督による舞台『マハーバーラタ』の映像化作品で、ライブパフォーマンスの収録作品ではございません。
[入場料金(全席指定・税込)] 3,000円
上映前プレトークイベント開催
登壇者:サイモン・ブルック、土取利行(『マハーバーラタ』音楽監督) 司会:山口宏子(朝日新聞記者)
※18:00 より上映前プレトークイベントをおこないます(30 分程度予定)。若干の休憩をはさみ、本編173分(途中休憩なし)の上映となります。
※本上映回の
※上映が中止となる場合を除き、お客様のご事情による
※未就学児の入場はご遠慮ください。
※PARCO 劇場では「車椅子スペース」及び「ヒアリングループ受信席」のご用意がございます。ご利用を希望されるお客様は、あらかじめ
上映に関するお問合せ=パルコステージ 03-3477-5858 https://stage.parco.jp/