勝地涼と河合優実が語り合う 岩松了の不思議な世界をどう演じるか、M&Oplaysプロデュース『私を探さないで』インタビュ―
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M&Oplaysプロデュース『私を探さないで』
かつて突然姿を消した少女との再会から蘇る、あの日の記憶。深まる謎を解き明かそうとする男のたどり着く先は果たして——。
2025年10月11日(土)~11月3日(月・祝)本多劇場にて、M&Oplaysプロデュース、岩松了作、演出『私を探さないで』が上演される(大阪、富山、愛知、広島、岡山と全国へ巡演)。
岩松がスティーブン・ミルハウザーの短編小説『イレーン・コールマンの失踪』にインスパイアされ、背景を現代の日本へと置き換えたサスペンス劇で、勝地涼と河合優実が高校の同級生役を演じる。
帰省した故郷で過去の記憶と向き合う古賀アキオ(勝地)。同級生の三沢アキラ(河合)は謎の失踪を遂げていた。
映画、テレビドラマ、舞台、コメディからシリアスまで幅広く活躍を続ける勝地と、主演映画『あんのこと』(入江悠監督 24年)で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞を受賞するなど、いま注目の新鋭・河合。感性の鋭そうなふたりの化学反応がどうなるか期待が膨らむ。
アキオとアキラの高校時代の担任で、現在は作家になっている大城ユイ子役は小泉今日子。2016年、『家庭内失踪』以来の岩松作品参加となる。ほかに岩松作品3作目の出演となる富山えり子。俳優活動のみならず、バンド「貉幼稚園」でギター・ボーカルおよび作詞・作曲も務める篠原悠伸。岩松作品に多数出演している新名基浩と、実力派が集結した。
人間の曖昧模糊とした心を見つめる岩松の不思議な世界をどう演じるか、勝地涼と河合優実が語り合った。
M&Oplaysプロデュース『私を探さないで』
ーー先ほど、「はじめまして」と挨拶されていましたが、まず、お互いの印象を教えてください。
勝地涼(以下勝地):映画『アンダードック』(20年)にお互い出演していますが、現場では会っていないですよね。ただ、同じ現場を味わった同士であると勝手に親近感を抱いています。
河合優実(以下河合):ありがとうございます。
勝地:『私を探さないで』で河合さんが演じるアキラは失踪してしまう役で、そういう役が似合いそうだなと思います。掴みどころのない不思議な魅力がありますよね。
河合:そうですかね(笑)。岩松さんが「河合優実という女優が、この失踪者であると思ったとき、私の中でドラマが動き始めたのは、ふと姿を消し我々を不安に陥れる何かを彼女の中に見たからでしょう」というコメントをしてくださっていました。私が今までやってきた役柄や、自分で意識していないものがそう感じさせているのかな、と思うのですが。
勝地さんは大先輩で、出演作も拝見しています。すごくいろいろな面を表現される方だと思っていて、岩松さんの作品はもちろんですが、宮藤官九郎さんの『高校中パニック!小激突!!』(13年)も大好きです。人を笑わすことができるのってすごいと思います。
勝地:僕は面白い役のイメージが強いみたいで。唯一、岩松さんだけが真面目な役で使ってくれるんですよね(笑)。宮藤さんが僕のコメディアン的な面を広げてくださったのですが、最初は真面目にお芝居している人が真面目に面白いことをやるから面白いのであって、喜々としてやるようになると少しがっかりするときがあるんだよなという話を聞いて、飽きられたらどうしようと悩んだこともありました。そういうとき、岩松さんの舞台に出ると違う面を出せるので嬉しいのですが、そういう話を岩松さんにしたら「俺の作品に出ているだけじゃ世間のイメージを変えることはできないよ」と言われました(笑)。厳しいことも言ってもらえてありがたいです。
ーー(取材時)まだ台本ができあがっていないそうですが、岩松さんの構想を読んでどう思いましたか。
勝地:前回の『いのち知らず』もそうでしたけれど、あらかじめ聞かされていた話と実際にできあがった話が全然違うこともあって。事前に深く考えないようにしています(笑)。
勝地涼
河合:私は岩松さんの舞台に出るのははじめてですが、経験した方からお話を聞くと、思っているものとどんどん変わっていくだろうなという覚悟はしています。だから現時点では、私の役は「失踪した人」だというくらいしか確定したことはないと思うようにしています。むしろ、あまり出てこなかったらどうしようかなと心配しているくらいで。失踪しているから、たまにぼんやり舞台の上にイメージとして出てくるだけだったりして(笑)。
勝地:いや、たぶん、まず冒頭に出てくる気がします。この間、小泉今日子さんとお話しをしたとき、「冒頭に出るのは私じゃないでしょう。河合さんじゃないかな」と言っていました。岩松さんの特徴として、冒頭を大事にしていて徹底的に稽古するんですよね。
河合:早く台本を読みたいです。
勝地:台本はまだですが、女性が失踪したことが周りの人たちに影響を与えるという構想はずいぶん前から聞いていました。『イレーン・コールマンの失踪』も読んで面白いと思っていました。岩松さんが書いたアキラのセリフで「あなたがそうやって私を思い出す時間と、私のことをすっかり忘れている時間はどう違うの? 忘れてる時間がはるかに多いわけでしょう? だとしたらたまに思い出す時間はどういう時間なの?」というものが現時点ではあって。それがどういうふうに自分に影響していくか興味があります。過去の記憶は都合よく自分の中で変わっていくもので、ある種、逃げ場所みたいなところもあるんじゃないかと、ざっくりですが思うんです。誰しも都合よく記憶を改ざんしていることがあるんじゃないかなと。久しぶりに会った人があまりにも変わっていると、過去の自分を忘れなくては生きていけなかったのかもしれないと思いますよね。
河合:記憶がいつの間にか変わっていく経験は私も身に覚えがあります。久しぶりに同級生と会ったとき、昔のことをめちゃくちゃ覚えている子がいて、それに比べて私は全然覚えていないなと実感することがありました。それから、子どもの時の記憶と、誰かから聞いた話が混ざってしまって、自分の記憶を外から映像で見ているような、視点が変わるような、不思議な気がすることもあります。
勝地:岩松さんがよく言うのは、誰しも嘘をついて生きているものだということ。だから「そんなにわかりやすく気まずいセリフを気まずそうに言わないだろう」と。確かにそうで、普段、朝起きて、気分が落ち込んでいても明るく「おはようございます」と本音を隠して生きていく。その隠しているところがとても面白いですよね。岩松さんの戯曲はそんなふうに登場人物が本音を隠しているところが多い気がして。でも、隠していることにかまけて、自分でも本音がわからないまま進んでいくと迷子になる。その塩梅が難しいです。
河合:岩松さんの作品に出た感想が人によって違うのはそういうことなのかもしれないですね。すごく楽しくて発見がたくさんあるという方もいるし、もう難しくて難しくて……みたいな方もいらっしゃいます。
ーー小泉今日子さんとの共演はいかがでしょうか。
勝地:僕は初舞台の『シブヤから遠く離れて』(04年)で小泉さんと共演していて。それも岩松さんの脚本でした。それこそ、そのときの小泉さんの役は、失踪しそうな不思議な役だったんですよね。あのとき小泉さんは三十代後半で、あれから20年以上経て、僕が小泉さんと同じくらいの年になってからまた共演できることが感慨深いです。小泉さんは、河合さんと僕の役の高校時代の担任の役で、彼女が河合さんの役とどういう風に関わっていくっていうか想像するとワクワクします。女優・小泉今日子が年を重ねたいま、若い河合さんのことをどう感じるのか。それが役柄と重なって見えるように岩松さんがおもしろく書かれるだろうなと思います。
河合:小泉さんとの共演は本当に楽しみです。以前、とある授賞式の場でお会いしたことがあって。とても良い方だなとほっとしました。もちろん大先輩なので緊張しますが、温かく迎え入れてくれそうな気がします。「一緒にお芝居できるのが楽しみ」と言ってくださったので、甘えながら頑張ろうと思います。
ーー初共演のおふたり。演じ方について、それぞれの方法論みたいなものを教えてください。
河合:最初に台本を読んで、絵として浮かんできたイメージのようなものから入るほうかもしれません。取り組む中で、その人物のバックボーンを考える段階に入るときもありますが、その人の過去に何があったか、どんな家庭で育ったかなどの履歴書的なことを最優先にはしていないです。岩松さんのお芝居の場合、とくにいま舞台上にいる人たちとの関係を深く考えていったほうが良さそうだと感じています。
河合優実
勝地:僕も育ちが蜷川幸雄さんの演劇だから、理屈よりまず動けみたいなことでやってきました。実際に舞台に立ってみたとき、相手が歩いて向かってくるのか、僕が歩いて近づくのか。その近づき方だったり、立ち位置だったりは現場の空気で変わる。いきなりわーっとまくしたてるように喋り始めるような攻めるところからスタートすることもあるし、静かにはじまっていくこともあります。
ーー勝地さんは『シブヤから遠く離れて』の稽古初日に舞台の一番奥にしゃがみ込んでいて、それを蜷川さんが絶賛していました。
勝地:その時ははじめての舞台でしたし、ただただ感覚でやっていました。役柄の理屈ではなくて、あくまで、いま、このセリフの時は相手に近づきたくないなとか、嫌だからこそあえて近づいたほうがいいのか、みたいなことを探ったのが1回目の稽古でした。それがすごく楽しかったんですよね。もちろん僕もあれから21年分、成長しているので、一か八か的な感じでやることはないですが、立ち位置や距離感はすごく大事だと思っています。今回、相手との距離感が大事になるような舞台になるかはわからないですけれど。いまの時点で聞いた話では、リアルなセットではなく、抽象的な感じになるらしくて。アキラともリアルな距離感ではなくて、学生時代の回想だとか、別の時間と空間がシームレスになるのかもしれないですね。
河合:勝地さんのお話で思い出したのですが、今回は『イレーン・コールマンの失踪』のほかにもう一作、全く同じ造りの街がふたつあるという短編にもインスパイアされているというお話を聞きました。そこから想像すると、ある街ではすごく当たり前の時間が過ぎているけれど、自分だけが変わってしまっているというような感触なのかなあと。アキラは高校の時、あまり誰とも話さないおとなしい人物と周囲の人には認識されていたけれど、誰にも気づかれていない一面や考えがあって、それをアキオにだけは見せていたのかな、なんて想像しています。
勝地:『いのち知らず』の本読みの時に、3分の2ぐらい出来上がったものを、とりあえず読むことになって、「もう少しで書き終わるからちょっと待っていてね、でも分かるよね。最後どうなるか」と岩松さんがおっしゃって。出演者全員、岩松さんはいったい何を言っているんだ、わかるわけないでしょ!? みたいな感じになったんですよ。今回もきっと掴みどころがないまま進んでいきそうな気がします(笑)。これまで以上に難解そうな作品で主役をやらせてもらえることが光栄です。
取材・文=木俣 冬
公演情報
出演:勝地涼、河合優実、富山えり子、篠原悠伸、新名基浩、岩松了、小泉今日子
【大阪公演】2025年11月6日(木)~11月10日(月) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
【富山公演】2025年11月12日(水) 富山県民会館ホール
【愛知公演】2025年11月15日(土)~11月16日(日) 東海市芸術劇場大ホール
【広島公演】2025年11月19日(水) JMSアステールプラザ 大ホール
【岡山公演】2025年11月22日(土)~11月23日(日) 岡山芸術創造劇場 ハレノワ 中劇場
主催・製作:(株)M&Oplays