浅野ゆう子×中村梅雀インタビュー~朗読劇『たとへば君 四十年の恋歌』上演

2025.8.13
インタビュー
舞台

左から 中村梅雀、浅野ゆう子

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ドラマ化もされた歌人夫婦の物語を男女二人の俳優が表現者として歌を詠みあう朗読劇『たとへば君 四十年の恋歌』を、浅野ゆう子と中村梅雀の出演で、2025年9月17日(水)~9月20日(土)新国立劇場 小劇場にて上演する。本作は、河野裕子・永田和宏、歌人夫妻が紡いだ短歌と随筆で綴られた感動の記録、「たとへば君 四十年の恋歌」(文春文庫)を原作としたもの。上演台本・演出は、ドキュメンタリータッチのドラマが定評のベテランの演出家・星田良子。音楽は、中村匡宏によるオリジナル曲で、ピアノ・チェロの生演奏をバックに、心情描写を表現する。河野裕子没後15年の節目となる2025年、二人の実力派の俳優が演じ、表現する、感動の朗読劇について語ってもらった。

永田先生の中で河野裕子さんは生きてらっしゃる

――稽古初日には原作の永田和宏先生も参加されたとのこと。とても有意義な時間だったのでは?

中村:句読点の置き方だけで意味が違っちゃうところもあるとか、色々発見がありました。作中に僕が振り返るシーンがあって、永田先生のお姿を見て、あぁそうかって。先生の所作や雰囲気を拝見することができて、稽古初日にいらっしゃっていただいて良かったなと思いました。逆に梅雀でいける部分も発見ができて、もっと自然に自分の中でできるなとか、あんまり化ける必要はなく安心しました。とにかくゆう子さんを受け止め感じる、それで生まれてくるなと。

浅野:お稽古場で原作者と演出家が話をする姿は見たことがなかったものですから、そういうところをちょっと見せていただいて、とても刺激的でした。星田監督が、永田先生がおっしゃったことを、ああ、なるほどという風にストレートに受け入れていて。それをどう反映していくか考えてらっしゃる姿も見せていただいたので、ほんとにすごいチームワークで出来上がっていく作品なんだなと、あらためて思いました。
永田先生は芝居のことに関してはもちろん何もおっしゃりませんし、ただ歌の詠み方だとか、区切る場所だとか、そういうご指導をしていただいたのですが、そのひとつひとつを伺っていると、永田先生の中で河野裕子さんは今なお生きてらっしゃるということを強く感じました。なので、河野裕子さんを演じさせていただく私は、責任重大だわ!と初日に痛感しました。

――その当時に想いを引き戻す短歌の威力に気づかされます。印象に残っている短歌をお聞かせください。

中村:“動こうとしないおまえの ずぶ濡れの髪 ずぶ濡れの肩 いじっぱり!”、ああぁいい!って、そういう表現をしていいんだと。すごくストレートで普通の言葉じゃないかって衝撃的でしたね。

浅野:私は、病院に行って癌と宣告された時。“何といふ顔してわれをみるものか 私はここよ吊り橋ぢやない”。永田先生と合流したときに、先生がいつもと違う先生だったわけじゃないですか。だけど女心として私を見て!私はここよ!吊り橋じゃない!って。女心の切なさ、人としての心、感情が全部現れていて、歌って凄いなと思いました。

中村:吊り橋って表現がね。

浅野:衝撃でした。

――逆にお互いの歌で印象に残っているものはありますか?

浅野:すごく可愛いなと思ったのは、ほんとに一番最初の大学生の頃の歌、“きみに逢う 以前のぼくに遭いたくて 海へのバスに揺られていたり”。
あなたに会う前の自分のことを思い出したい、自分はどんなだったか自分に会いたくて、海に向かうバスに揺られちゃったりしてて、なんて可愛くて青春の恋心だなって。切ない想いがキュンキュンきました。

中村:僕は“君をすこしわかりかけてくれば 男と言うものがだんだんわからなくなる”
あなたを知れば知るほど、男というものがわからなかった、みたいな、そうだよな~~(笑)。
夫婦の葛藤や生活の匂いが伝わってきて楽しいですね。あと、子供とやたらと比較する君は嫌いだとかね(笑)。

浅野:リアリティがありますよね(笑)。

中村:本当に。なんてリアルなんだろうって。それをお互い見せ合えるところがすごく素敵。

浅野:そうですね、それでアンサーの歌を書いてね、すごい関係性です。

――映像作品ではセリフを覚えますが、今回は朗読劇です。朗読劇の難しさについていかがでしょうか。

中村:短歌が入っているので、喋るスピードがとても大事なんですよね。ふたりで掛け合いの演劇の場合、流れちゃってわからない部分(セリフ)が出るかもしれない。それを制御する力が朗読には残されているのかな。リアルな言葉に聞こえるけども、実はコントロールされて染み入るようなところが、朗読劇の本来のもって行き方かなってすごく思うんです。

浅野:私の場合きっと、覚えちゃったら自分になっちゃうと思うんですね。冷静に歌を読むことができなくなると思うので、それは絶対避けないと。自分のいいように解釈してしまったらダメだと。

中村:しっかり読むところと、会話として話すところと、そこが今回の朗読劇の面白さだね。

愛の深さを感じながら、その愛を届けたい

――初の夫婦役とのことですが、稽古をはじめ、チラシビジュアルのおふたりがとてもよい雰囲気でほのぼのしました。

浅野:元々大らかでいらっしゃるイメージの梅雀さんですので、私がどんな感じであっても大きく受け止めてくださるだろうと。写真撮影でも安心感しかありませんでした。

中村:良かった!家ではね、こんなめんどくさい人って朝から晩まで言われてますけどね(笑)。撮影は気持ちを寄り添うように心がけました。いろんな経験をさせていただいて、いかにやりやすく流れを作るかを教えられてきたので、経験が心地よい方向に生かされることが幸せだなって思いますね。

――ふわっとした笑顔がすごく印象的でした。改めて伺いますが、描かれている河野さんと永田先生というご夫婦の関係性について、どのようなところに魅力をお感じになったでしょうか。

浅野:実は先日、河野さんのお墓参りに行ったのですが、その墓石に、◎◎家じゃなくて、おふたりの名前が並んでいたんです。永田先生はもちろんまだ赤字だったんですけど、ふたりの名前が並んだ墓石というのを見たのは生まれて初めてでしたので、ああ、永田先生はこうしてずっとご一緒にいたいんだというお気持ちが墓石にも出ていらっしゃると、とても感動的でした。その愛の深さを感じさせていただきながら、それをお届けできればと思っています。そこまで愛が深いって素敵なご夫妻ですよね。

中村:墓石の話を伺って思い出しましたが、僕の祖父は、先に妻が早くに亡くなっちゃって、そしたら墓石には《安らかに眠れ◎◎子》と。誰も入いれないじゃん!(一同笑い)
だから永田先生の想いはわかりますよね。本当に素敵だなと思うし、だからこそ、すごい作品ができた。心して演じなきゃなって思いますね。

――ちなみに浅野さんが考える理想の夫婦像をおききしたいです。

浅野:うちはとても晩婚ですから、お互いの生活スタイルを尊重し合っています。互いのやりたいこと好きなことを優先しつつ、記念日もそこまで特別ではなく、たとえば12月は金沢に蟹を食べに行く、2月は温泉に行く。二人の趣味が合うことを決めて行っていますね。いつも自由ですが、ここぞという時は一緒に過ごし、そして何かあった時はそばにいてくれるんだっていう安心感。それが理想です。

――梅雀さんには、家族や仕事場を含め“愛されているな”と思った瞬間をお伺いしたいと思います。

中村:僕の生活に対して妻の厳しい健康管理でしょうか。以前、舞台上でセリフが全く出なくなっちゃった経験があって、原因が食生活。その後回復しましたが、早寝早起き、朝活の習慣をつけてくれたのは、すごく助かっています。ここはこうしちゃいけないとか厳しく管理をしてくれるから、やっぱり健康でいられると思うんですよ。結果的に愛だなって思います。

浅野:すごい深く愛されてる!

――ありがとうございます。最後にメッセージをお願いいたします。

中村:40年間のふたりの恋と、そのリアルな心の叫びが洪水のように怒涛に押し寄せてくる作品は滅多にないと思います。お客さまがどういう反応をしてくださるか楽しみです。ぜひいらしていただきたいなと思います。

浅野:中村匡宏さんによる音楽と生演奏も見どころになっております。私は生演奏の舞台作品が少ないのでとても楽しみです。この作品には、積み重ねてきたご夫妻の命をかけた大きな愛が詰まっていて、きっと心に響く作品になると思います。演じ手も心して演じさせていただきますので、どっぷりこの40年の恋歌の世界にご一緒に入っていただければ。素晴らしい作品になりますので、どうぞお運びください。

公演情報

朗読劇『たとへば君 四十年の恋歌』
 
原作:『たとへば君 四十年の恋歌』(河野裕子・永田和宏 著(文春文庫)
上演台本・演出:星田良子
音楽:中村匡宏
企画協力:文藝春秋
製作:アーティストジャパン
出演:浅野ゆう子、中村梅雀
演奏:ピアノ・西尾周祐、チェロ・中西哲人
日程:2025年9月17日(水)~9月20日(土)新国立劇場 小劇場
料金:S席8,000円 A席7,000円(税込・全席指定)
取り扱い:イープラスほか
お問合せ:アーティストジャパン 03-6820-3500 https://artistjapan.co.jp/
 
【introduction】
たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつて行つてはくれぬか
タイトルとなった河野裕子の歌は、二人の出会いの頃に詠んだ歌。
歌人 河野裕子・永田和宏 二人の出会いは、1967年頃、河野裕子21歳・永田和宏20歳、京都の大学生たちが集まって作った短歌の同人雑誌創刊の歌会だった。やがて結婚、河野裕子が64歳で亡くなるまで、四十年にわたりお互いを恋の対象として詠み合った相聞歌、妻を看取った夫が詠んだ挽歌だけでなく、日常の暮らしの中で普段の言葉を交わしながら、歌で心を通わす夫婦の姿、その葛藤などが赤裸々に綴られた夫婦の物語。
亡くなる直前まで歌を詠み続けた歌人・河野裕子と、看取った歌人・永田和宏 二人の絶唱が、心揺さぶられる感動の朗読劇。
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