生活に「かわいい」をひと匙、思わず童心に返る『紙博 & 布博 in 京都』で出合った紙ものと手芸作品

2025.9.9
レポート
アート

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紙博 & 布博 in 京都 2025.8.9(SAT)~11(MON) みやこめっせ

この会場で一体何度「かわいい」という言葉を口にしただろう。「“かわいい”があるだけで、生きていける。」がキャッチフレーズの『紙博 & 布博 in 京都』が、2025年8月9日(土)から11日(月・祝)まで京都市勧業館みやこめっせ 第3展示場にて開催された。紙とイラストの『紙博』と布にまつわる『布博』、2つの祭典が同時開催された。会場に満ちた“かわいい”のパワーが盆地・京都の気温をさらに上げてしまうのではと思うほどだった。

初日にイープラスとSPICEのアカウントで会場からインスタライブを決行。ライブではわたし、おしゃべりアートライター井川茉代がMCを務め、会場の様子や気になるブースをピックアップ。ここでは、インスタライブで紹介した内容を中心に、盛り上がる会場の模様と、出展者や来場者の声をお届けする。

早起きは三文の得!?朝一番の新幹線で京都へ

最寄りの京都市営地下鉄東山駅から歩いていると、すでに高揚感に包まれた人々でにぎわっていた。会場に到着した9時時点で500人以上が列を作っており、取材スタッフ一同が仰天。話を聞いていくと、6時台に出発して並んでいる人も多いようだ。神戸を朝6時台に出発したという女性は「昨年姉に薦められたのがきっかけで、姉妹揃って足を運ぶようになった」のだとか。「海外のものなど、いろんな紙を組み合わせるのがすごく楽しくて。自分の好きな紙ものを集めて、ブックを作ったりしています」と、笑顔で答えてくれた。

朝一番の新幹線で岡山県・倉敷から訪れた女性は「息子のお嫁さんが『布博』にブースを出すので、初めて来ました。お嫁さんと趣味が合うんです。今日身に着けているバッグも手作り。ネットでクッションとして売られていたものに刺しゅうを施し、カバンに仕立てました」と自作の花模様のバッグを見せてくれた。「近くにある京都市京セラ美術館にも行きたいので、再入場できるのが嬉しいです」と話すように、再入場の回数制限はないので観光も楽しめるのもいいところ。

紙ものが好き! 手作りが好き! 早くお気に入りに出合いたい! そのエネルギーが充満し、予定の開場時間より30分前倒した9時30分、いよいよオープンの時間だ。お客さんたちがそれぞれの気になるブースに向けて、わっと広がっていった。

買い物だけでなく、作り手との会話も楽しめる

文具メーカー、印刷会社、イラストレーター、デザイナーなど、多種多様なジャンルの作り手が集う展示販売イベント『紙博』。手紙社が厳選した紙もの作家たちが国内外から集い、ポストカード、シール、はんこ、マスキングテープ、手帳、包装紙など、バラエティ豊かな商品が揃う。

『布博』は、京都では2023年4月以来約2年ぶりの開催。テキスタイルデザイナー、刺繍作家、ぬいぐるみ作家、洋裁師に手芸店など、布をめぐる様々な作家やお店の総勢60組が集結し、洋服やハンカチ等の製品のほか、はぎれ、毛糸、ビーズ、ボタンといった手芸用品が並ぶ。

9月には東京でも『紙博』の開催を控えているが、これまで東京会場を見てきた取材スタッフが驚いたのは、コミュニケーションの多さ。あらゆるブースで作り手とお客さん、さらにはお客さん同士が会話に花を咲かせていたのだ。なんて関西の特色と合ったイベントなのだろう。また好きな作り手への想いをしたためた手紙を投函できる「ラブレターポスト」を用意するブースもあり、好きなものを求めた仲間が集まっているのだと感じた。ここからは気になった5つのブースを紹介していこう。

雨の日も晴れの日も、かわいい傘で出かけよう

まずは『布博』出展者リストを見た時から気になっていた傘のお店へ。東京にアトリエを構え、関西では年2回の受注会やポップアップイベントなどで出会うことができるイイダ傘店では、イイダヨシヒサさんのイラストをもとにした傘をメインに販売している。スタッフにオススメを聞くと「着物や浴衣で京都散歩を楽しむ方には刺繍の日傘」と、京都らしい提案が。「最近は内側が黒い日傘が一般的ですが、彩りのある傘も良いのでは」と、実際に傘をさしながら一つひとつ丁寧に説明してくれた。

『布博』ならではの商品として、傘を作るときに出る様々な形のハギレも販売されていた。そのほか傘の防水生地を使ったリュックサックや、傘と同じ柄の三角バッグなどをラインナップ。三角バッグはよく見ると傘用のパーツがそのまま使われていておもしろい。傘と同じ柄で揃えるのもおしゃれだ。

瑞々しいアート作品のようなテキスタイル

次は思わず「きれい!」と声に出した、テキスタイルブランド・YUI MATSUDAのブース。シャツやパンツが並ぶなか行く人々の目を引いたのは、透明感のある美しいグラデーションの生地たち。百貨店などでは手に入れられないカットクロスが用意され「服作りで余った生地をパックで販売しています。大きさや素材や柄の違う色々な生地があって、バッグやポーチなどを作るのに最適です」と松田さん。

これらは伸子針と呼ばれる竹の道具で布をピンと張り、絵画のように描いていく技法「引き染め」を用いているのだそう。布が乾いた後にもう一度水をつけて滲ませることで、独特のニュアンスが出るという。また、染めものは出来上がりが環境によって左右されるので「その日の記録をとるような感じです。雨の日は少しにじみが強くなりますし、晴れている時は乾くのが早いので、はっきりした線が出る」のだそう。季節や自然の移ろいが織りなす唯一無二のテキスタイル。その瑞々しさに心奪われた。

美しい和紙200枚を詰め放題

続いて『紙博』へ。徳島から参加したアワガミファクトリーの目玉は、『紙博』初おろしとなる型染め和紙。アワガミファクトリーで漉いた和紙を京都の工房で染めたもので、伝統的な色と柄からは高級感が漂う。これまで御朱印帳などに加工していたが、その工房の廃業に伴い和紙単体としても販売しているそうだ。二度と生産されない貴重なものだが、よりどり10枚で1,000円という値段に驚いてしまった。こうした一期一会のアイテムに出会えるのも『紙博』の醍醐味だ。

製品を仕上げる際に出た端紙を利用した、和紙の「詰め放題」も大人気。詰め放題という言葉を聞くと反射的にテンションは急上昇! シンプルなものから鮮やかな色のもの、手染めや織ったり揉んだりしたものなどを好きなように袋詰めできる。おまけに、用意された透明の袋には約200枚入るという太っ腹さ。思わず近くのお客さんとともに赤字を心配したほどだ。コースターにしたり、カードとして使用したり、使い道を考えるのも楽しい。私もしっかり詰め放題を満喫して数えてみると、なんとびっくり300枚! 我ながら、うまいこと入れたなぁ。

繊細で芸術的なはんこたち

Sirusu(シルス)ははんこを中心に、文具などの雑貨を制作する滋賀県の工房だ。ノスタルジックな雰囲気で、絹糸のような繊細な線が特徴。デザイナーのささきあやこさん曰く「はんこ屋さんと同じ機械を使っているのですが、外注するとどうしてもここまで細かくすることができない。絵を描いて台木を切って印面を作るところまで全部自分のところでやっています。ギリギリの調整をして出来上がったものを量産しているので、種類が多いんです」。納得のラインナップだ。

ブースではささきさんによる押印の実演も行われていた。「上下を逆さにしたり重ねて押すなど、同じはんこでも工夫次第でいろんな楽しみ方ができます。付箋の端に押すだけでもかわいいですよ」とささきさん。はんこひとつでこんなにも心躍るのかと驚きの連続だった。また、この時使われていたのは事務用の黒インク。できるだけ気軽に使ってもらえるようにという思いからだそう。買った後のことも考えてくれる作り手の気持ちに心が和んだ。

世界で一つだけのノート

最後は大阪・空堀商店街にある、世界で一冊のオリジナルノートを作れるエモジを紹介。表紙と中身の紙を選ぶと、その場でオリジナルのミニノートを作ってもらえる。リングの色や位置も選べて、悩む時間が楽しい! 作業は1分ほどで、あっという間にできあがる。「以前の『紙博』でスタンプ帳として使いたいという要望があったので、はんこ用の紙も用意しました」と店主の早馬一雄さん。小さめサイズのノートなので、お仕事やアルバイトのメモに使うケースも多いのだとか。

ノートを選んでいた二人連れのお客さんは「以前から店舗に足を運んでみたいと思っていたので、こちらに出展されていて嬉しい!」と興奮気味に話してくれた。オリジナルノート作りのほか、スタンプ帳や御朱印帳、缶に入ったメモ帳など個性的な商品も。また、ブースに置いてあるラブレターポスト用に作られた張り子素材の赤いレトロポストも目を引いた。

お裾分けで思わぬお宝をゲット

買い物のほかにもお楽しみが盛りだくさん。自宅でラッピングした紙もの・布ものを持ち寄って交換できる「紙ものお裾分けっこ」「手芸素材お裾分けっこ」は常に大反響。倉敷在住の女性は、お裾分け用の3袋を片手に吟味。「置いて行かれた瞬間にゲットしました」というその手には、20個以上のマスキングテープがこれでもかと詰められたセットが! 好きな人にはたまらないお宝だ。どんなものに出会えるかはタイミング次第。この、運命的な出会いは癖になりそう。

その女性は来場の決め手を、前売券のノベルティだと話していた。そう、ノベルティが豪華なのも『紙博』『布博』に欠かせないエッセンス。今年は前売券の購入者を対象に、『紙博』メインビジュアル担当のトビマツショウイチロウさんがデザインしたはんこと、『布博』メインビジュアルを担当した点と線模様製作所・岡理恵子さんによるポストカードの2点セットがプレゼントされた。

会場中央には「メインビジュアルのすべて」と題したコーナーが設けられ、トビマツさんと岡さんが手がけた原画やオフィシャルグッズを展示。入場口付近のオフィシャルグッズの販売ブースは常に長い列ができていた。

『布博』では、はじめての試みとして「京都布博コレクション」と題したファッションショーを開催。出展者がコーディネートしたファッションを纏ったスタッフがランウェイを歩く姿はかっこよく、また微笑ましくもあり、観客からはあたたかい拍手が送られた。なおこのステージの背景や『布博』と『紙博』の仕切りには、YUI MATSUDAの布が使われていた。

そのほか、700個以上のはんこを好きなだけ押すことができる「はんこ押し放題スポット」、ポストの帽子をかぶった“ポストさん”にスタンプを押してもらう「ポストさんを探せ!」など、ここにしかないコンテンツで来場客をもてなしてくれる。お腹がすいたら、手紙舎が運営するブース「手紙舎/TEGAMISHA BREWERY」のルーロー飯や自家醸造のクラフトビールでお腹を満たせるのも嬉しい。

夏バテ解消? “かわいい”の力は無限大!

日々の猛暑で夏バテ気味だったはずが、ここに来た途端、ブースからブースへどこまでも歩けるほど元気が出てきた。そこで子どものころの思い出がふと蘇った。手芸好きの祖母の家で、キラキラしたビーズをいつまでも眺めていた時のこと。近所のファンシーショップで時間を忘れて、シールやメモ帳を選んでいた時のこと。幼いころの自分が「もっともっと楽しもう!」と言ってくれている気がした、お盆のひと時だった。「“かわいい”があるだけで生きていける。」って、こういうことか! 私たちを生かしてくれる“かわいい”に、来年も必ず会いに行こう。

取材・文=井川茉代 撮影=川井美波(SPICE編集部)

イベント情報

『紙博 in 東京 vol.11』

開催日:2025年9月19日(金)・20日(土)・21日(日)
時間:9:00~17:00 ※21日のみ9:00~16:00
場所:東京都立産業貿易センター台東館 4階南側・5階・6階・7階展示室
入場料:前売り券(特典付き):1,400円/当日券:1,700円
※小学生以下無料
主催:手紙社
  • イープラス
  • 布博
  • 生活に「かわいい」をひと匙、思わず童心に返る『紙博 & 布博 in 京都』で出合った紙ものと手芸作品