『Red Bull BC One Cypher Japan 2025』世界レベルの1on1ブレイキンバトル日本決勝に800人が熱狂、ゲストライブでRHYMESTERが花を添える

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レポート
音楽

Red Bull Content Pool 撮影=Jason Halayko

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『Red Bull BC One Cypher Japan 2025』2025.08.16(土)横浜・大さん橋ホール

エナジードリンク「レッドブル」を発売している、オーストリアのレッドブル社が主催する、1対1でのブレイキン(ブレイクダンス)バトル「Red Bull BC One」。今年で22年目を迎えた伝統のある、そして世界屈指のダンサーが参加する世界最高峰の大会だ。

今年の3月には、パリオリンピックでB-Girl部門の金メダリストとなったAmiや、B-Boy部門で4位入賞を果たしたShigekixに加え、各国からのトップブレイカーが顔を揃え、Knxwledgeなどのアーティストも登場し、総合ヒップホップイベントとなった『Red Bull BC One World Final Kick Off Jam Tokyo』が開催。そして11月9日(日)に行われる世界最終戦『Red Bull BC One World Final Tokyo 2025』は両国国技館で開催されるなど、2025年は日本が大きな軸となって動いている。

その2025年シーズンの最終戦を控え、トータルで1000人弱が参加した、各地予選を勝ち抜いた14人、そして様々な大会を通して実力を見せる18人のダンサーが登場する(B-BOY・B-GIRLともに各16名)、世界決勝に向けての日本における前哨戦『Red Bull BC One Cypher Japan 2025』が、横浜・大さん橋ホールにて行われた。

Red Bull Content Pool 撮影=Jason Halayko

このイベントに先駆け、前述の Amiと、その姉で「Red Bull BC One World Final Tokyo 2025」に進出が決まっているAYUの囲み取材が行われた。

AYUは「ワールドファイナルという舞台は、ずっと自分の大きな目標。しかも日本開催の大会にワイルドカードとして選んでいただけたのは、本当に嬉しいことであり、プレッシャーも正直あります。でも、本番までにできることを積み重ねて、120%の力を出せるようにしたいです」と意気込みを話した。

過去に「Red Bull BC One」での二度の優勝経験を持つAmiは「「BC One」はカルチャーへの意識が強い大会だからこそ、「楽しもう」という気持ちが自分にはあったし、“自分の踊り”をしようと思っていました。(私が優勝した)世界決勝ではAYUが客席からメチャクチャ手を振ってくれているのが見えて、それで気持ちが落ち着いたし、いつもの自分に戻れたのを覚えていますね」と振り返る。

Red Bull Content Pool 撮影=Takayoshi Shimoda

また「一緒に住んでいた頃のように練習する頻度は減りましたが、顔を合わせれば一緒に踊ります。スタイルは違っても「かっこいい」と思うポイントは同じ。だからこそ「「いいじゃん」と言ってくれれば自信につながります」というAmiの言葉に、AYUも「お世辞を言い合う仲じゃないからこそ、素直な意見をくれるので信頼できます。また、実践形式の練習にも付き合ってもらえるから、そこでよりダンスを研ぎ澄ますことができる」とお互いへの信頼感を話した。

「オリンピック以降、ブレイキングへの注目度がとにかく高まっている中で、「カルチャーとしてのブレイキングが凝縮された「Red Bull BC One」が日本で見られるのは、本当に楽しみ。 「自分の強みは何か」と真正面から向き合って、お互いの長所のぶつけ合いが見られるのが、この世界大会の醍醐味だと思います」と話すAmi。AYUも「自分のこだわりであり、ストロングポイントのフットワークをより磨きたいし、 自分のすべてを出したいと思っています。ただ、そこをゴールにはしたくなくて、その日をきっかけに新しいスタートを切りたい。家族や仲間のおかげで今の自分があるので、感謝の気持ちを込めて踊りたいし、楽しんでいる姿を見せたいです」と大会への思いを語った。

Red Bull Content Pool_RHYMESTER 撮影=Jason Halayko

「Red Bull BC One Cypher Japan 2025」は客入れが終わり、会場の明かりが落ちると、ヒップホップユニットであるRHYMESTERがサイファーサークルに登場。宇多丸が「上がっていけますか「Red Bull BC One」。これはB-Boy、B-Girlに向けて作った曲だぜ」と会場に呼びかけ、大きな歓声を浴びながら「B-BOYイズム」を披露。日本を代表するブレイキングアンセムの披露に、会場一体感は一気に高まっていく。また、B-Girl AYUやB-Girl Amiなどがサークルに登場し、楽曲に乗せて踊るなど、この日ならではのスペシャルな展開が繰り広げられる。Mummy-Dの「B-BOY ハンパなく ナンバーワン」というリリックには彼らを取り囲む360度の観客から大きな合唱があがった。そしてDJ JINがヒップホップの国家と言われるIncredible Bongo Band「Apache」につなぎ、ショーを盛り上げた。

Red Bull Content Pool 撮影=Takayoshi Shimoda

MC KENTARAWとMC CRUDEにMCはバトンタッチ。この日のバトルに登場するダンサーが呼び込まれ、会場には熱気とともに緊張感も広まっていく。登場するブレイカーも、緊張の面持ちのもの、笑顔のもの、仲間に手を振るもの、俯き集中力を高めるものなど、それぞれが様々な表情をみせる。出場者がサークルから降りると、この日のジャッジであるCHENO(タイ)、BETA(アメリカ)、Hong 10(韓国)の3人が紹介され、DJ GABAWASHのかけるビートに合わせ、彼ら自身もダンスを見せるという、エクスクルーシブな時間も記憶に残る。

そしてスタートしたバトルは、世界屈指の大会に挑むチャレンジャーたちのバトルだけあり、それぞれの持ち味や自己表現を提示するスタイルウォーズが繰り広げられ、華麗なムーブやフリーズが決まるたびに会場からは大きな歓声があがる。また、下は16歳から上は46歳という幅広い世代性も特徴と言えるだろう。ユースならではのフレッシュで軽やかなムーブがあるように、同時にベテランならではの豊富なスキルの引き出しとタイトなパフォーマンスがある。RHYMESTER宇多丸氏の歌詞の言葉を借りれば、"年齢はただの数字に過ぎない"(スチャダラパーからのライムスター「FOREVER YOUNG」)。その意味では各個人が持つオリジナリティを提示し、それを武器に「自分自身を、肉体を通して表現することの尊さ」がダイレクトに伝わってくるからこそ、ブレイキンは誰しもを感動させる力を持つのだろう。そして、それが今回のイベントでもしっかりと伝わってくる。

B-Girlの準決勝は、他の世界大会でも好成績を残している16歳の俊英・HIYOと、「Red Bull BC One Cypher Japan 2023」でも優勝を果たしているYasmin。一回戦、二回戦とも、完勝で勝ち上がった二人の対決は、HIYOが先手を取り、落ち着いた小気味よいムーブと大技を見事に組み合わせる。Yasminは後半のエレクトロ・ファンク的なトラックに対して、ロボティックな動きをしっかりと組み合わせ、Yasminが勝ち上がった。

続くは、数々の大会で優勝を果たしたCocoaと、Sapporo Cyperを勝ち上がったKAEDEの一騎打ち。これまで笑顔で戦ってきたKAEDEも、この試合ではやや緊張の面持ちを感じさせたが、ビッグムーブで存在感をアピール。そして初手からパワームーブを決め、その後も引き出しと連携の豊かさで見せたCocoaが勝利した。

B-Boyの準決勝は、「Red Bull BC One Cypher Japan 2023」で優勝経験もあるNICOLASと、「Red Bull BC One World Final Kick Off Jam Tokyo」にも登場したharuto。ハードなブレイクビーツに乗せ、独特の浮遊感のあるダンスで攻めるNICOLAS、タイトなフリーズを決めたharutoの戦いは、harutoが勝利を収めた。

続くは「Red Bull BC One Cypher Japan」で3度の優勝を果たしているNORIと、様々な大会で好成績を残しているAisatsuの対決。ビートのスタートから約40小節もの間、お互いに目をそらさずに、相手の出方を待ったこの試合。先行したAisatusは軽やかにムーブを決める。結果は、タイトなビートキープとクリアな技で魅せたNORIがベテランの妙味を見せ、18歳に立ちはだかった。

Red Bull Content Pool 撮影=Jason Halayko

B-Girl部門の決勝はYasmin対Cocoa。ビートが始まると真っ先に仕掛けたのはYasmin。ラテンダンスのようなしなやかな上半身のダンスからフットワークに移行し、バリエーションの豊かさを見せる。一方、ヘッドスピンからきっちりとビートに合わせて止めるチェアなどのクリアな技や、ラストの3ラウンド目までバトルっ気を見せたCocoaに軍配があがった。

Red Bull Content Pool 撮影=Jason Halayko

B-BOY部門はNORIとharutoが激突。奇しくも昨年の決勝と同じ顔合わせとなった決勝は、ファーストラウンドからしっかりとスキルのバリエーションを見せるNORI、冷静に自身のスキルをタイトに提示するharutoという、気力と体力を振り絞った、死力を尽くした対決が展開され、観客の熱気も最高潮に。そしてharutoが去年の雪辱を果たした。

Red Bull Content Pool 撮影=Takayoshi Shimoda

優勝者インタビューでは、

「Red Bull BC One」に最初に出た時に僕が負けたのがNICOLASさん、ライバルであり仲間であるTSUKKI、昨年の決勝で敗れたNORIさんと、今日は思い入れのある対戦相手が多かったので、それがやる気に繋がったし、感情の部分が反映されて、いいムーブに繋がったと思います。ただ、決勝になると尻下がりになってしまう部分があるので、弱点を克服するために、追い込みや練習を決勝までに重ねたい。ファイナルは夢の舞台であり、僕の師匠のKAZUKI ROCKさんや、僕も所属しているBODY CARNIVALのISSINくん、石川の仲間でありライバルのHiro10も行っているので、僕だけが取り残されていたという気持ちも正直ある。だからこそ、このチャンスをしっかりと掴みたいと思います」とharutoは語った。

Red Bull Content Pool 撮影=Jason Halayko

Cocoaは「練習に付き合ってくれたり、セコンドについて応援してくれた仲間や、ご飯を作ってくれたお母さん、ケアしてくれた方々のお陰で、今日は最後までベストコンディションで踊れたと思うし、感謝の気持ちが凄く大きい。今日はいつもより緊張してしまった部分はあるけれども、応援してくれた人たちの気持ちを思い出して、一つ一つのバトルに集中して、丁寧にできるように心がけました。この流れに乗って「Red Bull BC One Last Chance Cypher Tokyo 2025」もしっかり勝ち進んで、世界大会に進出したいと思います。その為にもいろんなことにチャレンジして、日々の積み重ねを大切にして、万全の状態で「Last Chance cypher」に挑めるように調整したい。世界大会に挑戦するチャンスを貰ったので、それに向かって出来ることを全力でやっていきたいですね」と話した。

Red Bull BC One World Final Tokyo 2025

優勝者の2名は、11月7日(金)に東京で開催される「Red Bull BC One Last Chance Cypher Tokyo 2025」への出場が決定した。そこから11月9日(日)に両国国技館で開催される世界大会「Red Bull BC One World Final Tokyo 2025」の出場権をかけてどのような戦いを見せるのか、期待して待ちたい。


取材・文=高木"JET"晋一郎

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