エルガイムもZガンダムもゴティックメードも。『DESIGNS 永野護デザイン展』内覧会レポート
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『DESIGNS 永野護デザイン展』 ©️EDIT
メカアニメ界におけるデザインの巨匠・永野護の創造の軌跡に迫る大規模展覧会が、ついに東京にやって来た。『DESIGNS 永野護デザイン展』は2024年に埼玉・大阪・福岡などで開催され、各会場で絶大な人気を博した展覧会だ。今回の会場は池袋・サンシャインシティ。2026年1月12日(月祝)までの開催期間中は、氏のデザインを愛するファンたちで街全体が大いに盛り上がりそうである。
エントランスにある永野護の創作年表。ざっと見ていくだけでも、およそ40年間にどれほど多くの革新的デザインが生み出されて来たのかがわかる。
本記事では、開幕前日に開催されたメディア向け内覧会での写真とともに、展示の見どころの一部をご紹介する。
商業デビュー前の貴重な作例
展示風景 ©️EDIT
展示はデビュー前の作品から始まり、最新のデザインへと時代に沿って進んでいく。まず目を惹くのはSF雑誌主催の「第2回国際SFアート大賞」(1982年)の予選を通過し、『月刊スターログ』の裏表紙に掲載されたという作品「デス・アンカー」だ。暗い画面に浮かび上がるオペラカラー(蛍光ピンク)が妖しくも印象的。このオペラカラーは永野のお気に入りとのことで、会場のここぞというポイントでよく出会う色である。中央の悪魔的な存在の、マリオネットを操るかのような指先にもぜひ注目を。
展示風景 ©️EDIT
友人の紹介で、日本サンライズ(現バンダイナムコフィルムワークス)のプロデューサーにデザインを見てもらう機会を得た23歳の永野。本展では当時サンライズに提出されたというスケッチブックの中から、いくつかのデザイン画(複製)を見ることができる。「空母級ブリッジ(2.5km級戦艦)」に描かれた、暇な時間におしゃべりしているオペレーター女子が可愛い。コンソール上には彼女たちのコーヒー、タバコ、マニキュア、ファッション誌などが置かれており、どことなく昭和OLらしいイケイケな香りがする。キャプションパネルには現在の永野護からの「この絵を見せてサンライズに受かった!」とのコメントも添えられていた。
『重戦機エルガイム』の衝撃
続いて、展示は「サンライズ所属時代」のエリアへ。
展示風景 ©️創通・サンライズ
サンライズに入社した翌年には、新人にして『重戦機エルガイム』のメカニックデザイン&キャラクターデザインを一手に任されるという大抜擢を受けた永野。ここでは『重戦機エルガイム』に関連する大量のデザインおよび設定画、カラーイラストなどが展示されている。本作で永野が考案した「ムーバブル・フレーム(可動性骨格)」の機構によって、ロボットは外骨格から内骨格へ、いわば昆虫・甲殻類からヒトのような脊椎動物へと進化したと言えるだろう。
展示風景 ©️創通・サンライズ
メカのデザイン画(複製)も見応えがあるが、せっかくの機会なので原画の展示に注目したい。左のキャラクターイラストは、アニメ雑誌のために描き下ろされた最初期のものだという。主人公ダバ・マイロードのグラデーションカラーのジャケットや、アムの美脚を強調した超躍動的なポーズに目を奪われる。また、右は「エルガイムMk-Ⅱ」と額のクリスタルに封印されたファティマを描いたポスター用イラスト。
革新的なガンダムシリーズ
展示風景 ©️創通・サンライズ
サンライズ時代の展示エリアはさらに奥へ続き、永野がガンダムシリーズのためにデザインした作品が一挙に展示されている。
展示風景 ©️創通・サンライズ
中でも、『機動戦士Zガンダム』に登場する「ガルバルディβ」の原型デザインは手描きのインパクトが強い。永野が鉛筆を動かした手の強弱や、線の迷いの有無など、印刷物では伝わりづらい情報まで見てとることができる。
展示風景 ©️創通・サンライズ
書籍『GUNDAM WARS PROJECT Ζ』に掲載された永野版ゼータガンダム(百壱式)のイラストも、原画で見ることができる。ほぼペンのみで描かれた大作で、丁寧なハッチングで付けられた陰影には作家の機体への愛が滲んでいるようだ。
全方向に発揮されるデザイン力
展示風景 ©️サンライズ
展示はこのあとも、作品ごとの小セクションに分かれて続いていく。とりわけ『ブレンパワード』(1998年)のセクションは、アニメの作画指示書やイメージ画など、原画が豊富で見応えがあることを特筆しておきたい。
展示風景 ©️TEKKEN™3&Bandai Namco Entertainment Inc.
ゲームキャラクターのデザインに焦点を当てたセクションもある。永野による『鉄拳3』のアンナ・ウィリアムズの衣装のデザイン原画は、ハイセンスぶりがピカイチなので必見。サンライズ入社以前の氏がPARCOで4年間もアルバイトしていたことは本展で初めて知ったが、ゼブラ総柄のジャンプスーツにファーハット、プラットフォームのハイヒールとは……そのファッション感度の高さをまざまざと見せつけられるような一枚である。
圧巻の『FSS』表紙画展示!
展示風景 ©️EDIT
いよいよ展示はハイライトとなる、永野作の漫画『ファイブスター物語(FSS)』のエリアへ。額装されたカバーイラストがずらりと並ぶ様子は、赤い絨毯も相まって美術館のようである。ここでは第1巻から2026年春発売予定の最新第19巻まで、すべてのイラストをじっくり堪能しよう。単行本サイズになってしまうと分からない構図のバランスや、細部の描き込みに注目だ。
展示風景 ©️EDIT
こちらはオペラカラーの衣装に身を包んだ第2巻のクローソー。長い手脚を持て余した人形のような佇まいは、どこかデルヴォーや金子國義を思わせるような……カバーイラストを順に見ていくと、冷たく暗い機械めいた雰囲気の画面から、全体に軽やかさや透明感を伴ったファンタジー色の強いイラストへ進化を遂げているように感じられた。
なお、この赤絨毯エリアの直前に『The Five Star Stories First Image』と第されたセクションがあり、同作に結実していく様々なプレ・イメージを集めた展示がされている。この東京展からの追加展示となるカラー原画(いずれも1984年〜1985年)3作品はそちらにあるのでお見逃しなく。
『FSS』を織りなすキャラクター、マシンたち
展示風景 ©️EDIT
美術館のようなエリアを抜けると、その先には『ファイブスター物語』の登場キャラクターやマシンを解説する一角が設けられている。ファティマのファッション変遷を紹介するパネルなどもあって眼福である。
展示風景 ©️EDIT
物語を代表する機体「L.E.D.ミラージュ」「ザ・ナイト・オブ・ゴールド」は、その最初期に描かれた原画を見ることができる。画面の端に書き込まれたサインには1986年の年記が……改めて、現在に至るまで続く『ファイブスター物語』の長い歴史を実感する瞬間である。ちなみにこれら初期のデザイン画はすべてBの濃い鉛筆で描かれているのだそうだ。
美しき立体造形物たち
展示風景 ©️EDIT
展覧会のクライマックスでは、永野デザインの粋であるゴティックメードらの立体造形物が一堂に集まった、圧巻の展示エリアが待っている。ガレージキット・プラモデル各メーカーの自信のアイテムたちの、完成体のご披露である。
展示風景 ©️EDIT
「帝騎マグナパレス ザ・ナイト・オブ・ゴールド」も「L.E.D.ミラージュ(+立体化不可能と言われたインフェルノナパーム!)」も、本当に立体化しているのを目の当たりにするとカッコ良すぎて笑ってしまう。中でもやはり写真中央の「ツァラトウストラ・アプターブリンガー」は白眉と言える存在なのではないか。切り立った透明なパーツで構成されるその姿は、美しい昆虫や鉱物の結晶のようだった。ちなみにお値段はボークス社のHPによると税込184,800円である。
展示風景 ©️EDIT
GTMの合間に、ファティマ・ラキシスのガレージキットも発見。やっぱり脚のラインとハイヒールに偏愛を感じる。
奇才の脳内を散歩する、稀有な体験を
残念ながら撮影不可だったが、会場ではこのほかにも劇場映画『花の詩女 ゴティックメード』のセクションがあり、作中のGTM初登場シーンを抜粋した映像展示が見どころである。
展示風景 ©️EDIT
そして最終エリアには「ファイブスター物語最新デザイン」として、壁面いっぱいを使った迫力あるイラストが。こちらは同作のデザインと解説を集めた書籍『DESIGNS7 ASH DECORATION』に掲載されている目玉イラストだという。物語中最大サイズのロボットである「デトネーター・ブリンガー」の勇姿は、やはり大きな展示でこそ輝きを増す。展覧会会場に足を運んだ人だけが楽しめるポイントなので、サイズ比較できる何かと一緒にカメラに収めたいところだ。
出口付近のメッセージボードには、製作スタッフやクリエイターたちからのイラストやメッセージが!
また併設のショップでは、展覧会オリジナルグッズが多数販売されている。グッズ化初のビジュアルを使用した商品もあるそうなので、新鮮な気持ちでショッピングに臨めそうである。
入場特典のピクチャーチケット(全9種ランダム配布)と、単行本第1巻そっくりのプレミアムクッキーボックス。中にはファティマたちの顔をプリントしたクッキーが(税込2,160円)。
展示の最後には、締めくくりとして永野護本人から来場者へのメッセージが掲げられていた。その中には「〜こういった展覧会は、作者の体と頭の中をたくさんの人が眺め、走り回っているかのような感覚にとらわれます」という言葉があった。なるほど、この展覧会は奇才・天才と呼ばれるレジェンドデザイナーの、脳内を駆け回れる稀有な機会なのだ。そこには一体どんな驚きやインスピレーションがあるのか。ぜひ足を運び、その目で確かめてみてほしい。
『DESIGNS 永野護デザイン展』は池袋・サンシャインシティ 展示ホールBにて2026年1月12日(月祝)まで開催。
文・写真=小杉 美香
イベント情報
DESIGNS 永野護デザイン展
川村万梨阿