2年ぶり開催! ピアニスト・石井琢磨×構成作家・新井鷗子に聴く『スタクラ 2025 in 横浜』~スタクラフェスの楽しみ方&受け継がれるその”カラー”とは?

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インタビュー
クラシック

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2018年、横浜赤レンガ倉庫で始まった『STAND UP! CLASSIC FESTIVAL(通称スタクラ)』。以来、コロナ禍や猛暑の影響を受けながらも、場所や形態を変え、工夫を重ねながら受け継がれてきたスタクラが、2年ぶりに帰ってくる。2025年10月4日(土)・5日(日)、 “次世代へ繋げる新しい都市型音楽祭”として、横浜みなとみらいホール大ホールで全5公演が開催される『イープラスpresents スタクラ2025 in 横浜―STAND UP CLASSIC―』を前に、10月4日(土)の2公演に出演する人気ピアニスト石井琢磨と、構成作家であり、横浜みなとみらいホール館長を務める新井鷗子氏に話を聴いた。

――『スタクラ 2025 in 横浜』のコンセプトを教えてください。 

新井:『STAND UP! CLASSIC FESTIVAL』は、2018年に日本最大級の野外型クラシック音楽祭として横浜で始まりましたが、私はずっと、いつかこのフェスティバルをみなとみらいホールでやりたいと思っていました。今回、初めてそれが実現するわけですが、そのコンセプトは立ち上がった当初から変わらず、「クラシックをもっと自由に、身近に、気軽に楽しめるものを」です。

――石井さんは過去にも何度か出演されていますが、このスタクラの魅力はどのようなところだと思われますか?

石井:僕は2022年の「in TOSHIMA」(※東京芸術劇場ほか池袋エリアの3会場にて開催)、2023年の「ONLINE」(※ライブ配信にて開催)に参加させていただいていますが、やはりお客様の熱狂というものが、普通の単発のコンサートとは違うと感じました。これは本当に、全然違う! 池袋の時は多くのお客様が2公演、3公演と会場をハシゴしてくださっていましたし、人数のエネルギーというものはあると思いますね。今回もみなとみらいホール×5公演でお越しくださる方が最大1万人になるわけで、そこにはすごいエネルギーが生まれると思うので、通常とは違う、高揚感のある雰囲気を味わえると思います。

――キャッチコピーの「次世代に繋げる新しい」というのは、具体的にどのようなところに表れているのでしょうか?

新井:子どもから大人までが楽しめるということを大事にしています。そして、みなとみらいホールのコンセプトが、「多世代育成」ということなんですね。小さいお子さんからご高齢の方までが、音楽を通して自由に交流することを目指していますので、子ども向け/大人向けと分けることなく、音楽を入り口にすべての世代の方々が交流できるような場を、このみなとみらいホールで作れたらと思っています。

――「多世代」って素敵ですね。5つの公演は、それぞれどのようなコンセプトで決まったのでしょうか?

新井:会場となる大ホールのお客様の入れ替えなどを考慮して、まずは最大5公演ということが決まりました。

簡単に各プログラムをご紹介すると、まず初日のオープニングは、高嶋ちさ子さんと石井琢磨さん、そして12人のヴァイオリニストの演奏とトークによる『ちさ子と琢磨のなるほどクラシック入門』。2公演目はクラシックの楽器を使いながら、アニメや映画など、いろいろなジャンルの曲が聴ける『アニメ・シネマ 名曲コンサート』で、これは『あなたの思い出リクエスト』のタイトルどおり、事前にSNSで募集するリクエスト曲を舞台上で演奏し、お客様との交流ができるような趣向になっています。

2日目は、まず漫画『ピアノの森』をテーマに毎年ツアー公演を行っている『「ピアノの森」ピアノコンサート』を音楽祭の中にもってきました。通常はピアノソロの公演ですが今回は『ピアノの森 Special』として弦楽五重奏を迎えます。次に、ショパンが32歳=1842年に作曲した曲を、今まさに32歳の世界的ピアニストである務川慧悟さんが演奏する『務川慧悟ALL CHOPIN』。最後はガーシュウィンの中のクラシックと、ラヴェルの中ジャズをクローズアップし、玄人の方でも楽しめる内容の『ガーシュウィンmeetsラヴェル』です。ラヴェルとガーシュインは実際にアメリカで会っていたんです。

それぞれ初級、中級、上級のような形にはなっていますが、全公演がクラシック初心者でもコアなクラシックファンでも十分楽しめるものです。そういう意味で、ファンの方々もこの音楽祭を通して自由に交流できる、そんなコンセプトで構成しました。

――石井さんが出演される2公演は、トークも面白そうですね。音楽を並べるだけではなく、そこに少し導きがあると演奏会はより楽しめるようになりますね。

石井:僕が担当させていただく2つの公演は、先ほどコンセプトで「クラシックをもっと自由に」と新井さんがおっしゃっていたように、「自由に聴いていいんだよ」というメッセージを第一に掲げたいと思っています。やはり「どう聴いていいかわからない」というのはたくさんの方が思っていらっしゃることで、それは経験の量やガイドラインが引かれていないことが理由だと思うんです。そういう方でも楽しめるようにするためのエッセンスの一つが、言葉だと思っています。

たとえばフランス料理のコースを食べる時も、これから出てくる料理やワインの説明などがありますよね。格式が高くなればなるほど、料理の説明はスタッフの方、なんならシェフが出てきて必ず行います。これはクラシック音楽にも同じことが言えて、「説明があったらわかるよね」ということで、今回新井さんが台本を書いてくださったので、そこは一番の売りですね。

――説明やお品書きって大事ですし、楽しいですよね。

石井:言葉の力と音楽の力を掛け合わせれば、伝わり方が2倍になると思います。たとえトークがなくても、それを補完するためにプログラムノートがあるので本当にゼロというわけではないのですが、特にトークは人となりも出るので、その意味でも楽しめるのではないでしょうか。料理だって、どんなシェフが作っているのかわかるだけで、やっぱり味は変わるんですよね。まさしくそういうことを、音楽で実感してほしい。どんどんコアになっていけば、プログラムノートやコンセプトから想いを馳せることもできると思うので、ここから入って、より深いところにいっていただけたらと思いますね。

――構成作家さんが台本を作られる際、アイディアマンの石井さんから何か提案などがあったのでしょうか?

石井:いやいや、先ほど新井さんの書いてくださった台本を拝見したのですが、完璧です!

新井:いえいえ、台本はあくまでも目安で、言わばジャズの楽譜のようなものです。そこに演奏家の方々がアドリブを入れて聴かせるように、自由に肉付けしていただき、膨らませていただくものだと思っています。

石井:今回は、僕のやりたいことを詰め込んだというよりは、高嶋ちさ子さんと共演させていただくだけで化学反応が生まれると思うので、その化学反応を僕自身が楽しみにしているところはありますね。どんなことが起きるんだろうって、若干、戦々恐々としていますが(笑)、すごく楽しみです!

――このようなイベントの企画において、最も大事にしていることはどのようなことですか?

新井:やはりカラーでしょうか。全部バラバラのようでいて、イベントのカラーがトーンとして整っていて、それが貫かれていること。それは本当に直感的で絶妙なトーンなのですが、キャスティングも含めてそれが守られているかはすごく気にしますね。

スタクラの場合は、「クラシック音楽の本質的な魅力を伝えることに確固たるポリシーを持っている」そしてそれを「幅広い方々に楽しく気軽に聴いてもらえるような工夫をされている」そんなアーティストが出演しています。ですから、クラシックの王道の魅力を損ねてまで楽しくすればいい、という考えではなく、魅力はしっかり守りつつ、楽しく聴かせようとしている人が集まっているんです。2018年から積み重ねてきたスタクラのカラーを損なわないように、なおかつ、そこにちょっと新しいテイストを入れて、という点は工夫のしがいがありましたね。

さらに、今回はアーティストにとっても「初挑戦」となる試みを、それぞれの公演に必ず入れたいと思っていて、このスタクラの企画だからこそ出来たことがたくさんあります。例えば高嶋さんと石井さんの初共演にしてもそうですし、『ガーシュウィンmeetsラヴェル』では、上野耕平さんにラヴェルのヴァイオリン・ソナタ 第2楽章《ブルース》をサックスで演奏していただき、世界初演を迎えます。このように、普通の単発のコンサートではなかなか難しいけれど、フェスだから実現できるということが大いにあると思うんですよね。

お客さんがここで初めて新しい曲に出会ったとか、クラシックの魅力に気づいたとか、そんな出会いを作ることが出来たらフェスティバルは成功だと思います。

――会場や、その周辺の雰囲気も音楽祭を彩る大きな要素で、コンサートだけではなく、その前後の時間を丸ごと楽しむことも音楽祭の醍醐味ですね。

新井:みなとみらいホールは、雨が降っても濡れない駅直結のホールで、利便性が高く、これは結構重要なポイントですね。近くには横浜中華街や、港の見える丘公園、おしゃれなカフェやレストランもたくさんあります。公演と公演の間に、中華街でお食事したり、港の見える丘公園を散歩したり、本当に飽きる時間が1秒もないほど遊ぶところがたくさんありますので、ぜひ横浜観光とコンサートをセットでお楽しみいただけたらと思います。

――ご来場くださるお客様にメッセージをお願いいたします。

石井:5公演、どれも楽しめるコンサートですので、1公演のみならず、2公演、3公演と聴いていただけたら、よりクラシックを好きになるチャンスが散りばめられていると思います。それぞれのコンサートでアーティストが変わりますので、複数の公演を聴いていただくことで、同じ曲であってもアーティストによって出す音の違いを楽しめると思いますし、それこそがクラシックの真骨頂でもあると思います。これほどたくさんのアーティストが出演する2日間は、実は日本にあまりないので、そこは存分に楽しんでほしい。ぜひたくさんの方に来ていただきたいですね。

新井:5公演というと、一見それほど多い感じはしませんが、みなとみらいホール大ホールは2000席ありますので、5公演で最大1万人、とてつもない数の方がこの客席に集うことになります。そのフェスの雰囲気を楽しんでいただきたいですね。それでいて、みなとみらいホールは非常に音響がよく、日本でも指折りのアコースティックを誇るホールですので、小さい編成でも、ピアノ1台でも、すぐそばで聴いているような響きを味わえますし、3階の奥の席の方でも、室内楽的な細かいところまで十分楽しむことができます。このスタクラを通じて、ぜひクラシック音楽にしかないアコースティックな音の素晴らしさを堪能していただきたいと思います。

取材・文=正鬼奈保 撮影=中田智章

公演情報

『イープラス presents スタクラ 2025 in 横浜 ーSTAND UP! CLASSICー』
 
開催日程:2025年10月4日(土)・5日(日)
会場: 横浜みなとみらいホール 大ホール(横浜市西区みなとみらい2-3-6)
 
◆ 各公演券
10月4日(土)「ちさ子と琢磨のなるほどクラシック入門」
10月4日(土)「あなたの思い出リクエスト 〜アニメ・シネマ名曲コンサート」
各公演 全席指定 5,500円(税込)
 
10月5日(日)「ピアノの森 Special」
10月5日(日)「務川慧悟 ALL CHOPIN(オール ショパン)」
10月5日(日)「ガーシュウィン meets ラヴェル」
各公演 全席指定 4,500円(税込)
 
※未就学児のご入場はご遠慮願います。
※当日は、撮影用のカメラが入る可能性がございます。
※客席内での飲食はご遠慮ください。
※やむを得ない事情により、曲目等が変更となる場合がございます。
 
主催・企画制作:イープラス
協力:横浜みなとみらいホール(公益財団法人横浜市芸術文化振興財団)
 
公式サイト: https://standupclassicfes.jp/
お問い合わせ:stacla-info@eplus.co.jp
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