振付家KAORIaliveとチーフプロデューサー石川聖子が語る、音楽座ミュージカルの新生「リトルプリンス」創作プロセス
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音楽座ミュージカル「リトルプリンス」
音楽座ミュージカルは1987年の旗揚げから一貫してオリジナルミュージカルを創作しつづけている。その作品群は常に「喪失と再生」をテーマに、観る人の心に訴えかける普遍的な哲学や理念を内包し、子どもから大人まで多くのファンに支持され、日本のオリジナルミュージカルを牽引している存在といえるだろう。2011年以来の劇場での再演となる「リトルプリンス」は音楽座ミュージカルの代表的な作品のひとつで、カンパニーは2025年を”リトルプリンスイヤー”と銘打ち、日本全国での上演の真っ只中。14年ぶりの再演をさらに進化させている立役者である振付家・KAORIaliveと音楽座ミュージカルチーフプロデューサー・石川聖子に新生「リトルプリンス」創作のプロセスを聞いた。
KAORIalive
ーー お二人の出会いはどんなきっかけだったのですか。
石川 2011年にある方に頼まれて新進振付家の大会に審査員として参加した時です。大勢の若手振付家の中でKAORIさんだけがピカイチに輝いていました。彼女の作品が唯一アートとして成立していたと私は感じました。こういう経験をしたのは人生で二度目です。一度目はH・アール・カオスの公演に伺った時。白河直子さんのダンス『春の祭典』を観て、終演後すぐに振付家の大島早紀子さんに会いに舞台裏に走りました。そのご縁があって1995年の「リトルプリンス」でヘビのダンスシーンの振付をしていただきました。
KAORIalive 聖子さんがわざわざ京都まで会いに来てくださって、一緒にお食事してお互いのいろんな話をしたのを覚えています。賞をいただけただけでも光栄なのに、その後も何年もご縁が続いて今、一緒に作品を創れているなんて奇跡ですよね。
石川 本当はすぐにでもご一緒したかったんだけど、カンパニーの製作陣の顔ぶれや演目のタイミングを図っているうちに14年も経っちゃった(笑)。でも、2016年から音楽座ミュージカルの代表を務めている相川タローとKAORIさんの相性は抜群だったし、KAORIさんご自身もはじめてお会いした時からまた一段と成熟されていて、今となってはベストなタイミングだったと思います。
KAORIalive 私もいろいろありましたから(笑)。ミュージカルの振付の仕事自体に悩んでいることがあった時期には相談に乗ってもらったりしていましたよね。ミュージカルのことについて悩みを打ち明けられるような人が身近にいなかったので、すごく助けられました。
石川 私って、物事をはっきり言ってしまうからか、友人が少ないのよ(笑)。そんな私に初対面から心を開いてくださったのがKAORIさんでした。
音楽座ミュージカル「リトルプリンス」稽古風景
ーー KAORIさんは音楽座ミュージカルの他作品もご覧になっていたのですか?
KAORIalive もちろん毎回観劇していますし、いつも大号泣しています。音楽座ミュージカルの作品を観ると心にダメージを受けるんです。映画やライブに行って「元気になった!」ということは多いですが、それを通り越してダメージを受けることってあまりないですよね。客席にいながら、私自身が丸裸にされているような感覚になって、そのあと二、三日は引きずっちゃう。でも最後にはシンプルに、今自分が生きていることに感謝できるんですよね。いつも気づきを与えてくれる作品だなって思っています。
石川 そんな風に感じてもらえているなら嬉しいです。人生は理不尽なことの連続で、自分の隣には常に大きな深い穴があいていて、いつそこに落ちてしまうか分からない。愛する人をある日突然亡くしたり、精神的、身体的に傷ついたり、思ってもみないことが起きますよね。そんな時に泣いたり喚いたりすることがあるでしょうけれど、そのあとには自分の足で再び立ち上がることが大事です。ミュージカルは架空の物語だけど、そこで語られることは真実なんです。避けて通れない問題と向き合って、存分に感じて心を鍛えていかないとね。どんなことがあっても必ず立ち上がれるというのが音楽座ミュージカルの唯一のメッセージです。
KAORIalive いいですね。
石川 そんな音楽座ミュージカルの理念を表現するのに、力強くて生命力がありながらも闇があるKAORIさんの振付がピッタリなのよ。私は、物言いははっきりしているけれど、表現するものは曖昧なものがいいなと思っているから。KAORIさんは誰の心にもあるモヤモヤした言葉にならないものを表現してくれるんですよね。普段どうやって振付をなさっているの?
KAORIalive 幼い頃からダンスに興味があったのですが、「何かになりきること」が大好きなんです。今でも振付をする時には台本を読んで、音楽を聴きながら役になりきって歌いながら創作しています。ミュージカルのように役柄が多くキャラクターの振り幅が大きいと、たまに今の自分が何者なのか分からなくなっちゃうくらいです。
石川 「リトルプリンス」だとどの役がいちばん得意?
KAORIalive ヒツジかなぁ……。
石川 ヒツジかぁ〜(笑)。物語の冒頭で王子が飛行士に「ヒツジの絵を描いて」とねだるのよね。たしかに、ヒツジのダンスはすごくセクシーでKAORIさんらしいかもしれない。
音楽座ミュージカル「リトルプリンス」
KAORIalive このシーンについてタローさんとお話ししたときに、ヒツジのコケティッシュなイメージもありつつ、イマドキの女の子のあざとさを入れられたらいいよねってなったんです。衣裳のフォルムも、脚の細さと丸みのある胴体の対比をしっかり出したほうがいいなと思って提案させていただきました。
石川 ただかわいらしいだけだと味気ないのよね。どんな役柄にもセクシーさって必要だと思います。そこがKAORIさんとタローさんが意気投合したポイントかもしれない。でも、うちの俳優にとってはKAORIさんの振付を踊るのは生半可なことではなかったようです。みんなKAORIさんに憧れて、ついていきたいという一心でがんばっていますよ。KAORIさんが何度も稽古してくださったおかげで俳優たちのスキルもこの期間で上がりました。
KAORIalive 音楽座ミュージカルの皆さんはいつも前向きでスポンジみたいにあらゆることを吸収してくださって、とても気持ちのいい現場です。振付に協力してくれたアシスタントのメンバーたちも感激していました。自分が出演していないシーンの稽古でも皆さん前から真剣に観ていらして、本当にカンパニーが一致団結して作品を創っているんですよね。
石川 そんな風に言っていただけるとありがたいです。でも、みんなすぐサボるから、そろそろ稽古場にいらして喝を入れてください。
KAORIalive 10月の名古屋公演の前に伺いますね!
ーー 春公演の「リトルプリンス」を拝見して、王子と飛行士が砂漠の真ん中で水を見つけるシーンが秀逸だと感じました。あの演出はどのようにして創られたのでしょうか。
石川 1993年から何度もこの作品を上演していますが、二人が水を見つけるシーンがうまくいったことがあまりなかったんです。朝倉摂さんの装置で上演したときに、砂漠を表現している砂幕を天蓋のように高く上げる演出があって、それもとても良かったのですが、今回のKAORIさんによる振付はさらにいいものになりました。
KAORIalive 紆余曲折ありましたが、音楽座ミュージカルだからこその見せ方に辿り着いたと思います。稽古半ばで煮詰まっていた頃、タローさんと新宿村のスタジオで何時間も水のシーンについて話し合ったことがありました。王子と飛行士の話をしていたはずなのに、どんどんスケールが大きくなっていって、宇宙の話にまで広がっていったんです。
石川 タローさんは話しながらどんどん横道に逸れていくからね(笑)。
KAORIalive その時も、「この話どこまで行っちゃうんだろう……」と思いながら聞いていたのですが、結果的にあの経験が今回の水のシーンを創りました。作中に、宇宙をはばたく渡り鳥たちがたびたび登場します。彼らが見ているのは王子と飛行士ですが、その先には広大な宇宙が広がっています。水のシーンではあえて二人の姿が見えないようにして、照明と効果で舞台上を雲海のようにしていただきました。
石川 見えないことで観客の想像力が何倍にも膨らみますよね。二人を見守る渡り鳥たちがあるタイミングで一斉に客席に視線を移す、あの瞬間に鳥肌が立っちゃう。渡り鳥の重層的なダンスもとても素敵です。
KAORIalive お客様自身に王子の気持ちになってほしかったんです。いつも私が音楽座ミュージカルを観た時に「君の生き方はどうなの?」と問われるあの感覚を表現したかった。でも、こんなことって音楽座ミュージカルじゃないと提案できません。あれだって、稽古場でみんなに話す前はドキドキして、演出担当チームの(上田)亮さんに、「これで大丈夫かな……」とこっそり相談しました。
石川 音楽座ミュージカルを長年応援してくださっているお客様も、斬新な振付や演出にはじめはびっくりしながら、「とてもいいね」と言ってくださっています。感受性が豊かなお客様が多いんですよね。
音楽座ミュージカル「リトルプリンス」
ーー 一方で、ラストの「♪リミックス」のダンスナンバーはとても賑やかな印象でした。あえてギャップのある演出をされたのでしょうか。
KAORIalive 「リトルプリンス」では、王子、花、飛行士が最終的にどうなったのかは分からないまま終わります。観る人にとって捉え方は異なるけれど、希望を持って帰ってほしくて、ラストは明るく終わろうというのははじめからありました。「♪シャイニングスター」のメロディはもともと王子と花が歌う予定でしたが、飛行士も加わって三人で歌うべきだと思ったので、提案させていただきました。
石川 演出に関して、KAORIさんとタローさんとがかけあって創れたのがすごく良かったと思います。
KAORIalive タローさんは、「こうしてください」と決まっていることを話されるのではなく、「こういうイメージなんです」と、ご自身の中にある抽象的な事柄を伝えてくださいます。それで話が逸れていくことも多いですが(笑)、いろんなエピソードを聞けるのが嬉しくて。私は相手が話している時の息遣いや熱量も含めてインスピレーションが沸くタイプなので、タローさんや聖子さんはじめ音楽座ミュージカルのメンバーみんなと話しながら作品を創れたことがすごく楽しかったです。私の提案にもその場にいる全員が協力して、なんとか形にしようとしてくれるのがすごく嬉しいんです。
音楽座ミュージカル「リトルプリンス」
ーー 2026年「マドモアゼル・モーツァルト」でもKAORIさんが参加されるとのこと。次はどんな作品になるのでしょうか。
KAORIalive まだ全然お話ししていないので分からないですが、とても楽しみにしています。今度はどれだけ心がえぐられるんだろうって(笑)。
石川 またKAORIさんとご一緒できること、私たちもとても楽しみにしています。モーツァルトは女性でありながらその才能ゆえに男性として生きます。KAORIさんが得意とする「光と闇」を存分に表現していただきたいですね。
【振付:KAORIaliveインタビュー】音楽座ミュージカル「リトルプリンス」(原作:アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ『星の王子さま』)
【振付:KAORIaliveインタビュー】音楽座ミュージカル「リトルプリンス」(原作:アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ『星の王子さま』)
舞台写真撮影:二階堂 健・間野真由美
16歳からダンスを始め、京都の芸術舞踊団に最年少で選ばれ2000年にフランス招待公演に参加。
退団のあと国際交流基金アジアセンター主催のダンス事業で、日本を代表するダンサーとして東南アジアツアーに参加。海外でも積極的にワークショップを行う。
京都にSTUDIO DANCE ALIVEを設立。現在は振付家として活動。
アジア最大級の振付師のコンペにて最優秀作品賞など数々の大会で優勝を収める。
ミュージカルの振付以外にもファッションショーやコンサートの演出、CMの振付、審査員など幅広く活動し、
現在はアーティスティックスイミング日本代表オリンピック強化スタッフとしても活動している。
公演情報
(原作:アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ『星の王子さま』)
■会場:Niterra日本特殊陶業市民会館 ビレッジホール
■日程:2025年
10月2日(木)13:00開演〈貸切〉
10月3日(金)13:00開演〈貸切〉 / 18:30開演*
★王子役=森彩香、*王子役=山西菜音を予定しています(キャストは変更になる場合がございます)
■料金
SP席 13,200円
SS席 11,000円
S席 9,900円
A席 6,600円
■会場:IMM THEATER
■日程:2025年
11月14日(金)19:00開演*
11月15日(土)12:00開演*
(中高生によるダンスイベントがございます)
11月15日(土)17:00開演 ★
(終演後にサタデーナイトフィーバーのイベントがございます)
11月16日(日)13:00開演 ★
(終演後に吹奏楽コンサートがございます)
★王子役=森彩香、*王子役=山西菜音を予定しています(キャストは変更になる場合がございます)
■料金
SP席 15,400円
SS席 13,200円
S席 12,100円
A席 7,700円
U-25席 1,100円
※U-25席はご観劇日当日25歳以下の方のみご購入いただけます。舞台の一部が見えづらい、場面によってご覧になりにくい場面がある可能性がございます。会場にて身分証の確認をさせていただく場合があります。
はつかいち文化ホール ウッドワンさくらぴあ 大ホール
■日程:2025年
11月29日(土)11:00開演★
11月29日(土)16:00開演★
(終演後に吹奏楽コンサートがございます)
★王子役=森彩香、*王子役=山西菜音を予定しています(キャストは変更になる場合がございます)
■料金
SS席 11,000円
S席 9,900円
A席 6,600円
■共催:(公財)廿日市市芸術文化振興事業団(広島公演)
■後援:廿日市市・廿日市市教育委員会・廿日市商工会議所(広島公演)
■注意事項
※全公演とも、全席指定・税込。
※5歳未満のお子様の入場はご遠慮ください。
※開場時間は開演の40分前を予定しています。
※車椅子での観劇、介助犬を伴っての観劇など対応しております。
■文化芸術パートナー: 町田市
■製作著作・主催:ヒューマンデザイン
■公式サイト:https://ongakuza-musical.com/works/littleprince
★東京公演:11月15日(土)ソワレ・11月16日(日)マチネ・広島公演
王子 森 彩香
飛行士 安中淳也
花ほか 岡崎かのん
キツネほか 泉 陸
ヘビほか 上田 亮
黄花ほか 酒井紫音
王様ほか 清田和美
実業屋ほか 新木啓介
呑み助ほか 北村しょう子
うぬぼれ屋ほか 小林啓也
点灯夫ほか 大須賀勇登
地理学者 五十嵐 進
渡り鳥ほか 兼崎ひろみ
渡り鳥ほか 木村弥素子
渡り鳥ほか 後藤さつき
渡り鳥ほか 姫本梨央
渡り鳥ほか 藤原しおり
渡り鳥ほか 毎原遥
渡り鳥ほか 生島稜大
弟ほか 山西菜音
*名古屋公演・東京公演:11月14日(金)ソワレ・11月15日(土)マチネ公演
王子 山西菜音
飛行士 安中淳也
花ほか 岡崎かのん
キツネほか 小林啓也
ヘビほか 上田 亮
黄花ほか 毎原遥
王様ほか 清田和美
実業屋ほか 新木啓介
呑み助ほか 北村しょう子
うぬぼれ屋ほか 泉 陸
点灯夫ほか 大須賀勇登
地理学者 五十嵐 進
渡り鳥ほか 兼崎ひろみ
渡り鳥ほか 後藤さつき
渡り鳥ほか 酒井紫音
渡り鳥ほか 野田ゆかり
渡り鳥ほか 姫本梨央
渡り鳥ほか 藤原しおり
渡り鳥ほか 生島稜大
弟ほか 森 彩香
2025.9.10 時点
※稽古の進行状況等によりキャストは変更する場合がございます。