毎年新作コントを作り続けるエレキコミック、第35回発表会『50』公演直前インタビュー~「最後は『75』で終われたらいいかな」
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エレキコミック(やついいちろう、今立進) (撮影:福岡諒祠)
やついいちろうと今立進によるお笑いコンビ、エレキコミックの第35回発表会『50』が、2025年9月19日(金)〜21日(土)、東京は新宿のシアターサンモールにて上演される。『50』は、やついと今立が共に今年50歳を迎えることに因んだタイトル。音楽は今回も曽我部恵一が担当する。開幕を目前に控えた稽古場で、エレキコミックのふたりに今回の発表会の構想や最近の興味について聞いた。
■幕間映像は「警察24時」的な衝撃作
——『50』は今の時点ではどんな発表会になりそうですか?
やつい かなり重たい内容になりそうですね。「50だな」って感じの内容になってます。
今立 節目ですからね。
——重たい内容……。ホワイトボードにネタのタイトルと順番が書かれていますが、「男の◯◯◯◯」とか気になります。
やつい でもこれはやらないかも。決まってないけどとりあえず書いてあるものもあります。でもたぶん、全部衝撃的な内容になるんじゃないでしょうか。
——幕間の映像の方はいかがですか?
やつい こっちも衝撃的な内容です。ほとんど「ザ・ノンフィクション」ですね。リアリティがあると思います。
今立 嘘はないし、ボケもまったくないです(笑)。
やつい 観る人によっては怖いと思うかもしれないです。ドキュメンタリーですから。「警察24時」的な面白さです。
——お笑いライブであのザワザワを味わえると……。
やつい コントとはまったく違う感じだと思います。
——おふたりは25歳の時に発表会『25』を開催されていますが、そこからお互いどのような変化がありましたか?
今立 僕らは大学の時に知り合って、(やついが)1個上の先輩で。ネタに関してもずっと引っ張ってもらってますし、信頼を置いてるので、関係性はあまり変わらないですね。
やつい (今立を見ながら)むくみましたよね、とにかく。昔の写真を見ると、すっとしてますから。
今立 まあ、酒の影響ですかねぇ。
——中野新橋でバーも経営されていますしね。
今立 そうです。バーのお客さんはライブにも来てくださるし、その足でバーに立ち寄ってくれるので、もうツアーですね(笑)。ありがたい限りです。
——25年前と比べて、お笑い業界の変化は感じますか?
やつい うーん、お笑い業界について、まったく知らないんですよね。
今立 僕らはずっと離島で過ごしてます(笑)。メインストリートにいないもので。今こういうネタが流行ってるからこの系統にしよう、みたいなことはないですね。
やつい それよりも僕は自然を見ちゃう。だって、コントって嘘だし作り物じゃないですか。
今立 俺たちもそれをやってるんだけどね(笑)。
やつい 必死にリアリティを求めても、「馬鹿みてえだな」って思っちゃう。山とか見た方が自然だなって。だからこそ、今回は映像もドキュメンタリーなんです。コントもその場で起きることを大事にしたいですね。
——普段観るものもノンフィクションが増えていますか?
やつい いや、そもそも観ないんです。もう何にも観ない。昔は、映画とか本とかに詳しくなりたくてたくさん観たり読んだりしてたけど、今はもうAIがあるから。どんなに詳しくなったってAIに勝てないなら、あとはもう楽しく生きようと思うようになりました。だから、何にも観ない。山の方がいいですね。
今立 自然の方がいいと(笑)。
やつい 自然とか、誰かに会いに行って話すとか、体験するとか。そういうことに時間を使ってるから、家でただ何かを観てる時間ってほとんどないんです。
——以前のインタビューでは、ネタ作りのためにあえて面倒くさそうな人に話を聞きに行くと答えていらっしゃいました。
やつい でも、自分からわざわざ変な人を探しに行くわけではないですよ。ただ、たとえば山に登ってる時とか、変な人に遭遇することがあるんですよ。ほぼ裸の人が向こうから歩いて来るとか。
——裸の人?
やつい いたんですよ。そういう人がいたらスルーしないで「なんでそんな格好してるんですか?」って話しかけてみる、くらいのことです。シンプルに人間として興味があるから、ちょっと面倒くさいなとも思うけど、やっぱ聞いとくか、みたいな感じです。それがコントになっているかと言えば、別になってないですけど(笑)。
——創作物より現実の人や自然の方に興味をお持ちなのですね。
やつい 自然って何にも教えてくれないし、別に面白いこともないんですよ。ただ、「疲れた」「お腹が減った」「おにぎりがおいしい」とか、そういう生きる体験みたいなものをリアルに感じるし、それがすげえ気持ちいいわけですよ。山に行くと「これで十分だな」って気分になる。「別に戦う必要ってないな」と思えて、すべてがどうでもよくなってくるし、嫉妬みたいな感情もなくなります。人と比べる気持ちがなくなるんですよね。
——それはなぜでしょう?
やつい 山に行くと、すごく早く登る人がいるわけですよ。一方、僕は自分のペースで登るから遅い。でも、結論は一緒なんです。山登りは頂上まで登って、降りてくるだけ。早く登る人とゆっくり登る人って、結局10分も15分も違わない。だから、急いでもしょうがない。おじいちゃんおばあちゃんもゆっくり登って楽しんでる。山登りをする一日で得ているものは、結局は早くても遅くても一緒じゃないですか。そういうのを体験すると、「人と比べても意味ねえな、どうせ死ぬのに」みたいな気持ちになります。
——そういう気づきがあったんですね。
やつい なんでしょうね。もう50だし、寿命も見えてきたからかな。
——え、寿命ですか?
やつい タレントとしてですよ。70歳を超えて活動している人たちはいても、新作を作り続けている人ってほとんどいないじゃないですか。ミュージシャンでも、70歳を超えててバリバリ新作出してツアーしてる人もいるにはいるけど本当に少ないし、新作よりも結局昔ヒットした曲が求められるわけですよね。そうなってくるともう、自分との戦いじゃないですか。きっと70歳で現役の人たちには「誰かに負けないぞ」みたいな気持ちはもうなくて、自分が作りたいから作ってると思うんです。僕もそれと同じで、人と比べる気持ちはなくなったけれど、お笑いはずっと好きだから、とにかく作り続けようと。だから僕らの今のコントは、70歳のミュージシャンが作ってるアルバムみたいなことですよ。
今立 50にして?(笑)
やつい ウケなくていいとは思ってないし、自分さえよければいいと思っているわけでもないけれど、誰にどう見られたいとか、ブランディングしようとする気持ちはなくなりましたね。
——ちなみに、何歳まで新作を作り続けたいですか?
やつい 70歳くらいかなと思ってるけど、75歳までできたらすごいですよね。『25』から『50』と来て最後は『75』で終われたらいいかな。『100』はさすがに無理だと思うから。
今立 そうね、それは無理だな(笑)。
やつい 生きている可能性はあっても、コントは無理でしょうね。できても15分ぐらいだと思う。しかし、誰が観に来るんだっていう(笑)。そこまでやったらテレビも来るかもしれないね。
今立 それこそドキュメンタリーだよ、普通に。バラエティーじゃないです。
やつい やっぱり『75』で終わりましょう。そうすると、今で3分の2が終わったことになりますね。よし、あと25年で終わり。と言いながら、もしかしたら10年で終わるかもしれないし、来年で活動30周年だから「もういいや」と思うかもしれない(笑)。
今立 いやいや、まずはキリよく『60』を目指しましょうよ。
——他のインタビューでの「長生きして他の芸人に勝つ」という発言が印象的でした。
やつい 冗談なんですけどね。文字になると本気っぽくなりますよね……(笑)。
——すいません、今回の記事もそんな感じになっちゃうかもしれません!…と言いつつお聞きしますが、寿命で勝つために心がけてることはありますか?
やつい 結局、働かないことですよね。寝ないで頑張ったり、きついスケジュールで働いたりしない。休むし、遊ぶ。自分の時間を完全に確保して、合間に働く。そして生きていく。
——理想的な生き方です。
やつい それで成立するんですよ。たとえば、もっとお金がほしいとか、もっと人気になりたい、もっと知られたい、とか考えるとダメだけど、あと20年楽しく生きて、別にお金にも困らないってところなら全然できますよ。できない人もいるかもしれないけど、結局は目指してないからできないのかなと思いますね。
——なるほど。
やつい 誰かに認められたいって、みんな思うじゃないですか。でも、別に認められなくても生きていけますし、嫌な仕事は断ればいいわけじゃないですか。そこでお金がもらえなかったら違うところで稼げばいい。嫌な人と仕事を続ける方がストレスですよね。
今立 ストレスは大敵ですからね。
やつい その考え方でずっとやってきたのが我々なんで。今はノンストレスな状態です。
■映像で伝わりきらない爆発力を現場で感じて
——今年の夏のベストライブ『経年変化』では、色んな芸人さん(ラブレターズ、ジェラードン、ダウ90000、ランジャタイ、ナイツ、鬼ヶ島)をゲストに呼ばれていましたね。
やつい さっきお話したように、普段は他の芸人さんのネタもあまり観ないのですが、来てもらった人はみんなすごく面白いんですよね。特にランジャタイの国崎くんは、あれだけしゃべってあれだけ早く動いて息が上がらないって、身体的にすごいことですよ。表現の持久力があると思った。めちゃめちゃ走り回りながら声量も出せたら面白いけれど、俺はできないですね。かなわない。前はあれくらいのスピード感でやれてた気もするけど。
——登山が趣味で、百名山踏破を目指しているほどのやついさんでもそう感じますか?
やつい 別に体力があるわけじゃないから、ゆっくり自分のペースで登ってる感じですね。
——私は本当に体力がないので、最近高尾山を登った時に最初のきつい坂だけで息切れしました。
やつい ああ、それってアスファルトの道ですか?
——そうです。
やつい その道は高尾山を登るルートの中でもいちばんしんどくて、どんなに登山してる人でも嫌いな道ですよ。
——そうなんですか!?
やつい 高尾山は自然研究路4号路がおすすめです。楽しく登れるから、山のことが好きになりますよ。アスファルトと違って、地面が凸凹していて、そういう道を歩くと足の裏の筋肉がめっちゃ鍛えられるんですよ。で、足の裏の筋肉が鍛えられると、足のむくみがなくなります。
——おお!
やつい 登山を始めてから「足が細くなりましたね」って言われるようになりました。
——やついさんのお話を伺っていると山に行きたくなってきます。
今立 その前にまず『50』をお願いします(笑)。配信もありますが、できたら会場に来ていただいて生で観てほしいですね。
やつい 面白さって絶対生で観た方が伝わるんですよね。まあ、つまらない時のしんどさも生ならではですけど(笑)。
今立 それはそうねぇ。
やつい YouTubeと違って途中で消せないから。そこはちょっとネガティブポイントかもしれないけど、面白い時は映像では伝わりきらない爆発力が出るから。
今立 会場の熱気とか、一体感とかね。
やつい 音楽のライブも、演劇も、全部そうですよね。ライブで観たことより楽しいことってないけれど、つまんない時も本当につまんないから(笑)。
今立 お互いにね、やる側もね。こっちも途中で止められないから。
やつい それでも僕はライブが好きです。同じものをスマホで観たとして、頭では面白さを理解できても笑うところまではいかない。ライブに行くと、体で感じるから面白さもつまらなさもダイレクトに来るというか。
——現場に足を運ぶことを大切にされているのですね。
やつい もうそれにしか興味がないですね。
今立 ただ、地方や海外のお客さんにも観てもらえるから配信もやってはいますけれどね。
やつい それより、この段階においても完成していないから、本当にできるのかなっていう(笑)。
今立 そうね、いつもよりちょっと遅いかな。
やつい ……だから、うまくいかないかもしれない。
——そんな!
今立 記念的な回なんですけどね。
やつい そういうもんですよね。いいものになりそうな回なのにうまくいかない人生だなって。
今立 それも僕らっぽいよね(笑)。
取材・文:碇雪恵 写真撮影:福岡諒祠
公演情報
9月19日(金)19時開演
9月20日(土)13時開演/17時開演
9月21日(日)13時開演/17時開演
※開場時間は開演の30分前
■会場:シアターサンモール
■料金:※全席指定
一般席 5,600円
学生割引 3,300円(要学生証の提示)
※未就学児は入場不可
Streaming+/アーカイブあり
2025年9月19日(金)19:00~9月28日(日)23:59
視聴券:3,000円
申込み:https://eplus.jp/elec