朝ドラ『ブギウギ』の澤井梨丘とOSK日本歌劇団の桐生麻耶、閉館となる大阪松竹座への想いを語る「うちは日本一の幸せな少女やな」
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桐生麻耶、澤井梨丘
『じゃりン子チエ』が11月15日(土)~11月25日(火)に、大阪松竹座で上演される。昭和の大阪を舞台に、ホルモン焼き屋の小学5年生チエちゃんと、その家族や周りの人々を温かく描いた人気漫画『じゃりン子チエ』(はるき悦巳・作)。シリーズ累計発行部数は3,000万部を超え、発売から約40年後の2019年度、および2023年度の『大阪ほんま本大賞』特別賞を受賞、アニメも度々放送されるなど長い人気を誇る。令和初の舞台化となる今回は、主人公の竹本チエ役に、朝のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』で主人公・花田鈴子(のちの笠置シヅ子)の幼少時代を溌剌と演じた澤井梨丘、チエの父・テツ役は波岡一喜、母のヨシ江役は三倉茉奈が扮する。そのほか桂南光、赤井英和、山本浩之、OSK日本歌劇団(以下、OSK)特別専科の桐生麻耶ら、大阪ゆかりのキャストが揃った。
左から桐生麻耶、赤井英和、三倉茉奈、澤井梨丘、波岡一喜、桂南光、山本浩之
澤井梨丘
三倉茉奈
9月25日(木)には、メインキャストやスタッフが出席する成功祈願祭が大阪・今宮戎神社で行われ、その後取材会が催された。まるで人間のような猫も登場する、昭和の人情コメディーをどう届けるのか。それぞれが意気込みを語った後、澤井梨丘と桐生麻耶の対談を実施。ミュージカル『ネバーランド年代記-クロニクル-』に主演するなど舞台でも活躍する澤井と、チエの飼い猫の小鉄に挑むOSKの圧倒的スター・桐生に、『ブギウギ』つながりの貴重なエピソードや、来年5月に閉館が決まった大阪松竹座への想いなどを語ってもらった。
澤井梨丘、桐生麻耶
■チエと小鉄の関係性を深めるふたりの縁
――先ほどの写真撮影ではとても打ち解けている雰囲気でしたが、澤井さんと桐生さんは『じゃりン子チエ』が初共演となりますね。
澤井:2年前、OSKさんの舞台を初めて観に行ったとき、桐生さんに一目惚れして、ずっと憧れていました。歌も踊りもお芝居も大好きなので、同じ舞台に立てるのが嬉しくて!! すごく楽しみです。
桐生:ありがとう! 嬉しいわ~。もうその言葉だけで作品を乗り切れます。
――『ブギウギ』にスポットを当てる場面も登場した、昨年の『レビュー 春のおどり』もご覧になりましたか?
澤井:はい、観に行きました。鳥肌がずっと立ったまま、すごすぎて途中から涙が出てきました。皆さんキラキラ輝いていて、楽しそう!って。
桐生:受け取るものが多いのは、感受性が豊かなのだと思います。そのとき舞台裏では、「澤井さんが来てるよ! 本物が来てるよ!」とみんなに話が回ってました。そういうのは早いので!
澤井:フフフッ(笑)。
澤井梨丘
――桐生さんは、OSKに縁のあるドラマ『ブギウギ』で澤井さんの演技をご覧になっていかがでしたか。
桐生:笠置シヅ子の子ども時代を演じているときももちろん素敵でしたが、レビューのシーンで「水のしずく」として踊っていたのが忘れられません。私も昨年、南座での『レビュー in Kyoto』で、「しずく」をやったのですが、こんなに印象が違うのか! と思いました(笑)。今回共演が決まり、劇団員のみんながうらやましがっていましたね。うちの劇団員も『ブギウギ』に出演していたので、この共演をとても喜んでくれています。
――朝ドラ『ブギウギ』で、翼和希さんたちと共演されたときの思い出などありますか?
澤井:撮影に入る前は、芸に厳しい方たちなのかなと思っていたのですが、お会いしたらとてもお話を振ってくださるし、優しくて。でも礼儀は正しく、私もOSKの皆さんのように、誰かに「すごい」とか、「礼儀正しい」と思っていただける大人になりたいなと思いました。
桐生:これからも、正さないといけないですね(笑)。先ほど『ブギウギ』で本格的に歌や踊りに向き合い始めたと澤井さんから聞き、私は中学生の頃、そんなこと考えてもいなかったなと。自分の時間を削ってでも芸事に向き合う「志」に感銘を受けました。年齢の差に関係なく、尊敬できるなと思います。
澤井:ハ~(感動のため息)。
桐生:テレビで観ていた方と実際にお会いして、不思議な気持ちにもなりました。ただ、ポスター撮影のとき、お隣でメイクをしてもらっていると、14歳なのにとてもしっかりしている部分と、等身大のやんちゃなところもあって。
澤井:へへ(笑)。
桐生:でもこういう場に一歩出れば、自分の名前に律しているのを感じて、忘れかけていた何かを思い出させてくれる存在でもあります。意味があって一緒に舞台に立たせてもらえるのだと思います。チエを守る、小鉄の役として。だから光栄です。
澤井:(感動して)泣きそうです……。
桐生:なんでよ、泣かんといてね(笑)。リスペクト!
澤井梨丘
――チエ役は大きなお役だと思うのですがいかがですか。
澤井:すずちゃん(『ブギウギ』の花田鈴子)をやっていたとき、みんなに「チエちゃんもやってほしい」と言われていたので、お話をいただいたときは「まさか本当にチエちゃんをできるなんて!」と、とても嬉しかったです。チエちゃんは明るくて、私に似ているなと思うところもあるのですが、私はチエちゃんのようにしっかりはしていないし、こんな出演者の方々の中に、私がいていいのかなと少し不安な気持ちもありますが、精一杯がんばります!
桐生:チエの台詞の量が、尋常じゃないんだよね。
澤井:はい。
――台本を読まれての印象や、作品の世界観についてぜひお聞かせください。
桐生:時代とともに失われつつある、いい意味での「おせっかい」や人情が詰まっています。人間本来が持っているものだと思うので、私は猫の役ですがそこを大事にしていきたいです。今はネットで買い物をして、置き配にしてと、誰とも会わないで生活していこうと思えばできる世の中ですが、舞台関係のお仕事は必ず人と接するもの。だからこそ、そこは大事にと思っています。
澤井:私はアニメ版で見ていたシーンを、実際に自分が演じられるのが楽しみで仕方がないです。チエちゃんになりきって、天真爛漫に演じたいです。
桐生麻耶、澤井梨丘
――チエと小鉄の関係は独特だと思うのですが、どのように感じますか?
澤井:なんて言うんやろう、小鉄はチエにとって第二のお父さんみたいな存在。拾い猫やけどずっとそばにいて、チエちゃんのことを守ってくれてる神様みたいな感じなのかなと思ってます。
桐生:うわぁ! 猫は飼い主を選べないけど、小鉄に関してはそうではなくて、チエがちゃんと面倒をみてくれるしね。実際に演出を受けて動いてみないと、どうなるか分からないですけど、ふたりの場面が結構あり、チエの悩みを聞き、「がんばっていこうや」と励ますような場面も。人間と猫、というのを超えて表現できたらいいなと思います。正直、最初に猫役だと知ったときは驚きましたが、『じゃりン子チエ』の小鉄は、アニメや漫画をご覧になった方にとって、すごく心に残っていると思うのです。そこのイメージは崩したくないですね。
桐生麻耶
――取材会で演出家の村角太洋さんが、「アニメを観ていたときから小鉄は渋くて、大人っぽく見えた。誰よりもどっしりとした存在に作り上げられたら」とおっしゃっていましたね。
桐生:そうなるように演じないといけないなと思っています。先ほどスタッフの方とも話してたのですが、結構私は小心者なんですよ。
――舞台では全然そのように見えないです!
澤井:(笑顔でうなずく)。
桐生:いえいえ(笑)。ボブさん(村角)を信じて、皆さんを信じて、楽しみながらやりたいです。
■大阪松竹座閉館に向けての率直な気持ち
桐生麻耶、澤井梨丘
――この舞台は来年5月に閉館が決まった大阪松竹座の「さよなら公演」として上演されます。OSK日本歌劇団の大先輩、『ブギウギ』の主人公・笠置シヅ子さんも立たれた由緒ある劇場で、桐生さんにとっても特別な劇場かと思います。
桐生:私たちOSK日本歌劇団は2004年に『春のおどり』で、66年ぶりに大阪松竹座に戻ってくることができました。閉館と聞いたときも今も、ちょっと受け入れられないというか、実感がないのが正直なところです。
――いろいろなことが蘇ってきますか?
桐生:まだ蘇らせていないです。気持ちが追いつかないので、たぶん5月を過ぎてから――ではないでしょうか。本当に成長させ続けてくれた場所です。お衣裳さんや床山さん、裏方さんなど、松竹座でなければ出会えなかった方たちが、限りなくいらっしゃるので。
澤井:そうなのですね。
桐生:自分にとってプラスになることや、芸事についてたくさん教えていただきました。まだその途中なのに……という思いがあるのですが、まずは感謝の気持ちが大きいです。まだあまり考えられないですし、どうにかならないかなという思いもあります。言うのは簡単ですが。
桐生麻耶
――OSKの皆さんも、そういうお気持ちなのでしょうか。
桐生:時間がない、と言っています。松竹座で続けてきた『春のおどり』を、まずは劇場を探し、来年は違う形でできるようにしたいですし、また新しいお客様に出会えるようにがんばらなければと。そのためにも、まずはこの『じゃりン子チエ』に力を注ぎたいです。
――澤井さんは大阪松竹座の舞台には初めて立たれますね。
澤井:松竹座に立てるなんて、うちは日本一幸せな少女やな、と思いました。
桐生:(笑顔でガッツポーズ)。
澤井:でもさよならしないといけない。できることなら何回も何回も松竹座でお芝居をしたいけど、そう思うと悲しいです。
桐生:取材会で澤井さんがおっしゃっていた、「松竹座に立てるのが、悲しいけど嬉しい」という言葉、本当に一番シンプルで、一番伝えたい言葉だと思います。私も外部の公演で出演できることは、本当に嬉しいです。
桐生麻耶、澤井梨丘
――出演者の皆さんにとって、様々な思いが溢れる公演となりますね。ぜひ作品の細かい見どころも伺えたらと思います。取材会で脚本を担当されたわかぎゑふさんが、「小鉄とジュニア(アントニオJr.)の決闘を、格好いいシーンにしたい」とおっしゃっていましたが、やはり名場面だと思いますか?
澤井:一番好きなシーン! それを見るのが本当に楽しみです。
桐生:どうなるんやろう! ジュニアを演じられる中林登生さんは運動神経のいい方ですし、2幕の冒頭なので、お客様の心をしっかりつかみたいです。チエが最後、励ましてくれるしね。
澤井:フフフ。
――昭和の大阪が舞台ですが、そのあたりはいかがですか。
澤井:めちゃくちゃ大阪らしさが詰まっているし、大阪弁やし、皆さんに『じゃりン子チエ』の世界に一緒に入って楽しんでいただきたいです。
桐生:構えず観れて、引き込まれるよね。敷居の高さなんて、吹き飛ばすくらいの。
澤井:はい、大阪の人はみんなフレンドリーで親しみやすいですよね。観てくださった方が、大阪を好きになってくれるんじゃないか、と思ってます。
――澤井さんは大阪ご出身。桐生さんは栃木ご出身ですが、大阪にこられてもう長いでしょうか。
桐生:はい。阪神・淡路大震災があった年(1995年)の4月に日本歌劇学校(現在のOSK日本歌劇団研修所)に入学しました。もともと私は大阪が好きで、大阪体育大学に入りたかったのですが、家族に「遠すぎるからだめ」と反対されて、東京女子体育大学へ入った経緯があります。それくらい大阪の街の空気や、人が好きです。
澤井:へー!
桐生:大阪の人たちの温かみ、いわゆるおせっかいさや、「まぁ、えっか」みたいな気質を、猫なりに表現できたらと思います。
――舞台で大阪弁を話されたことは?
桐生:そこ、触れないでおこうと思ったのに!(一同笑) 『近松TRIBUTE』(2022年)で一度大阪弁を話したのですが、聞く人みんな違うアドバイスをくれて、本当に厳しいんですよ。「あかん」のイントネーションも、上がり下がりが少しずつ違ったり。実は今日も大阪出身の子に習ってきたのですが、3人ともアプローチが違う。
澤井:えー!
桐生:(澤井さんに)だから「そこちゃうで」と導いてね。取材会ではアドリブの話も出てきたし、怖くて仕方ないですが、「ニャー」としか言わないでいいか、と思って(笑)。
澤井梨丘
――チエと小鉄の会話はそんな感じですよね(笑)。澤井さんはこの舞台で課題はありますか?
澤井:元気にチエを演じられたらと思うのですが、「澤井梨丘」が出すぎないように、チエちゃんなりの元気を表現したいです。あと声が小さいと言われるので、遠くまで聞こえるような声と、滑舌をがんばりたいです。
波岡一喜
――博打とけんかが好きだけれど、どこか憎めないテツという父親への思いは?
澤井:チエはテツに対してよく怒ったりするけど、嫌いやったら何も言わないし、好きやから叱ったりする。テツにもいいところ、絶対に一個はあると思うし、尊敬していると思います。
桐生:「一個ある」っていうのが好き(笑)。しかも、テツに似てるから「小鉄」なわけで。
澤井:はい!
桐生:フクザツですが、ひたすらチエを守ります!
――では最後に読者にメッセージをお願いします。
澤井:本当に大阪らしさが詰まっている、温かく楽しくてほっこりした、涙ありの舞台になっているので、ぜひ皆さん観に来てください。
桐生:「人はひとりじゃないんや」と思える作品です。忘れた何かを取り戻そう、というメッセージもあると思うので、それをはたから見ている猫として、しっかり伝え演じたいです。とても人気のある原作で、そのイメージで観に来られる方が多いと思うのですが、「観てよかった」と感じていただけるよう、お稽古に励みます。
桐生麻耶、澤井梨丘
取材・文=小野寺亜紀 撮影=ハヤシマコ