岐阜・中津川で開催 スカパラ、The BONEZら出演の『中津川 WILD WOOD 2025』2日間を振り返る

12:00
レポート
音楽

『中津川 WILD WOOD 2025』

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僕が初めて中津川の地を踏んだのは2016年のこと。以来、コロナ禍のピークだった2年間と昨年を除けば毎年足を運び、駅周辺に何があるのか、国道19号のどのあたりが混むのか、ちょっとした裏道はどこか。いつの間にかそんなことまで頭に入っていた。都内在住なのに何故そんなことになったのかと言えば、それは大好きなフェスがあったからだ。だから、開催がなかった昨年はなんだか年中行事をスルーしてしまったような、大事な約束をすっぽかしてしまったような、何かが引っ掛かった心持ちのまま秋が過ぎ、気づけば年を越していた。そうして春を迎えた頃、嬉しいニュースが届いた。中津川で新しいフェスが始まる──。その瞬間に半年先の予定が埋まった。

2025年9月20日(土)早朝、家を出る。曇天。過去7度、本格的に雨が降ったのは1日のみという脅威の晴天率を誇るこの時期の中津川なのだが、予報にずらっと並ぶ曇りと雨のマーク。半分寝ぼけた頭で悩み抜いた結果、ポンチョは置いていくが長靴は持っていくという意味不明なチョイスに着地する。最寄り駅から在来線で品川へ向かい、のぞみ号で1本目のビールを流し込みながら名古屋へ行き、特急の「しなの」に乗り換えれば約50分後には到着。さあ、10年目の中津川だ。

中津川は野外フェス発祥の地/聖地と言われている。1969年に初開催された『全日本フォークジャンボリー』が、かの有名な『ウッドストック・フェスティバル』より1週間早く行われたことから、世界規模で見ても大規模野外フェスの先駆けと捉える意見もある。という背景もあり、今年新たに始まったフェスの名称は『中津川 WILD WOOD』という。街自体が自然豊かな上にキャンプもできるフェスなので、なかなかにしっくりくるネーミングだと思う。ちなみにこれは単なる名称変更ではなく、新たなフェスがこの地に生まれたということなので誤解のなきよう。……お前、何度も来てるって書いてたじゃねえか、以前に書いたレポも読んだことあるぞ、というツッコミが容易に想像できるのだが、自分でも「俺が書いたら新規感ないよな」と自覚しつつも「中津川のフェスなら俺だろう」という根拠のない自負のもと書いてる次第であります。何卒、ご容赦を。

『中津川 WILD WOOD 2025』 撮影=KAORE

1年間が空いたからなのか、初日がソールドアウトするほど集客がよかったからなのか、例年ならわりとスムーズに捕まるタクシーが全くおらずに肝を冷やしつつも、なんとか10:30頃に会場へ到着(来年以降に参加される方は、念のためタクシー依存は控えた方が良いかも)。早速、小雨が降ったり止んだりする場内を見て回る。会場となっている中津川公園は普段は運動公園であり、山の斜面に段々を作る形で広場や競技場が点在しており、フェス開催中はその最上部がキャンプサイト、下っていくと入場ゲートやショップエリアがあって、芝生の斜面を生かした形のステージ「Parklife」がその横あたりにある。さらに下っていくと飲食エリアやクローク・休憩所として一部開放されている建物脇に「Wonderwall」が設営されていた。平坦で足元が舗装されたステージである。そして最下段でいちばん広大な芝生のフィールドを有するステージが「Fools Gold」。洋楽リスナーならば既にお気づきのように、ステージ名はそれぞれブリットポップ期の代表的なバンドとその名盤から付けられており、最大のステージがオアシスじゃなくてストーン・ローゼスなあたりに制作スタッフの趣味嗜好が垣間見えるが、それもまた良し。なお、飲食エリアにあるトークやDJを楽しむミニステージ「Beautiful Ones」はスウェード、キャンパー向けの夜間ステージ「Star Guitar」はケミカル・ブラザーズの曲名である。

『中津川 WILD WOOD 2025』 撮影=KAORE

ということでライブへ。初っ端は最近気になっていたけど観る機会のなかったjo0jiをチョイスした。良い意味でラフで粗さを残したバンド編成での演奏が良かったし、佇まいに色気があるのも良し。途中でサバシスターに移動するも、いきなり雨が本降りになって一時退避。なお、この後は何度も雨雲が接近するものの結局ほとんど降ることはなく、今年も僕の長靴はバッグの重しとしてしか機能しなかった。いつものようにビールと、おそらく今年から登場したクラフトジン(美味い)なんかも注入しながら、神サイ→フォーリミと回る。RYU-TA(Gt)は地元が中津川だし、バンドとしても名古屋発だし、やっぱりここで観る彼らのライブは特別なものがある。なお、ステージ間の距離はさほど離れていないのだけれど、高低差がある上に向かい合う形になっていないから、音の干渉はほぼなかった。初日「Fools Gold」のみ、正面以外から観ると音量に物足りなさを感じたが、随時調整を図っていたようで2日目にはほぼ解消。そこまで人里離れたわけではないから騒音のケアなども大変なはずだが、現場の状況を見据えながらより快適な形を模索していたことは信頼に値すると思う。

jo0ji 撮影=ハタサトシ

サバシスター 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

神はサイコロを振らない 撮影=木下マリ

04 Limited Sazabys 撮影=ハタサトシ

午後は大盛況だったジュンスカから、SiMを観に行った。彼ら主催の『DEAD POP FESTiVAL』など野外で観たことはあったが、自然多めのロケーションを受けてだろうか、その時と比べて前半にレゲエ要素の強い曲を多めに並べ、後半に爆発力を持っていくライブ運びは流石。かつてのツアー以来15年ぶりの中津川だったそうだが、これからはちょくちょく観られることを願う。そんなSiMと盟友であるHEY-SMITHは逆に何度もここで観ているが、管楽器と野外のロケーションのマッチ具合って、通常のバンドサウンドとはまた違った趣があって無性にアガる。

JUN SKY WALKER(S) 撮影=TAWARA (magNese)

SiM 撮影=木下マリ

HEY-SMITH 撮影=鈴木公平

そしてここで本日最大の悩ましい裏被り事案、ナッシングスと奥田民生が全く同時刻にスタートという局面を迎えた。のんびり度随一の「Parklife」で観る奥田民生なんて極上のチルアウトが約束されているわけだが、ここはロック的ブチ上がりと個人的交友関係を優先。キラーチューン連発のセトリも良かったし、線路上への倒木の影響で会場到着が危ぶまれた一幕を明かした上で「フェス名のせいでは?」とオチをつけたMCにも笑った(不謹慎)。笑いと言えば外せないのがレキシ。個人的には久しぶりだったので、ついに光るようになった稲穂に驚きつつ、バリバリに上手い演奏によるグルーヴの洪水と数えたらキリがないほどの小ネタとアドリヴに大満足。最後はスカパラの華やかかつ盤石の演奏と、Omoinotake・藤井怜央&奥田民生&甲本ヒロト(ザ・クロマニヨンズでも普及のロックンローラーぶりにヤラれた)という豪華ゲスト陣との共演に燃え上がった。

Nothing's Carved In Stone 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

奥田民生 撮影=ハタサトシ

東京スカパラダイスオーケストラ 撮影=木下マリ、Viola Kam (V'z Twinkle)

2年ぶりのせいか単なる加齢と不摂生のせいか、地味に起伏に富んだ場内構造がかなり足腰に来ているが、まだ僕の初日は終わらない。初日の夜だけオープンするエリア「Star Guitar」はキャンプサイトの一段下あたりにあって、宿泊勢がふらっと遊びにいくのにちょうどいい場所にあった。スナックやガールズバーを思わせる店舗もあれば、マッチョの男子がカウンター内にずらっと並ぶ店舗もある。このフェスらしからぬ猥雑な雰囲気こそ中津川のフェスに帰ってきたことを何より実感させてくれる。新たな試みも多くあって、来場者参加型のカラオケも盛り上がっていたし、神戸のプロレス団体「DRAGON GATE」の試合を生で観ることもできて、大迫力かつエンタメ性も高い肉弾戦は多くの観衆を集めていた。その一歩奥へと明日を踏み入れると、ミラーボールの光の下で西寺郷太や須永辰緒のDJプレイにゆったりと身体を揺らすエリアも。80'sのディスコサウンドからテクノ/エレクトロ系統までがシームレスに流れ続け、ちょっと大人な年代にとっては無限にお酒が進んでしまう空間であった。

ホテルに戻ってひとっ風呂浴び、オフィシャルカメラマン氏イチ押しの岐阜タンメンのカップラーメンを食したところで記憶は途切れ、気づけば朝だった。なんとも言えない全身疲労はフェスを楽しみきっている証。ちなみに、あとで聞いたところによると深夜は豪雨だったらしいが、すっかり晴れている。2日目ももちろん午前中から会場へ向かう。ブレイク前にはこの会場でオープニングアクトを務めていたOmoinotakeがついにメインステージに立っているのはエモの極みなのだが、ここはあえてのw.o.d.。近作で感じる充実ぶりから期待値は相当高かったけれど、予想以上にキレキレでタフなライブを展開してくれた。そもそもバンドを始めたきっかけがウッドストック等の野外フェスに憧れたからという彼らはブラーも大好きとのことで、「Parklife」との相性は抜群である。

Omoinotake 撮影=TAWARA (magNese)

w.o.d. 撮影=ハタサトシ

その後、水カンからグリム、チリビへとハイペースで移動しながら観て回り、いずれもすっかり晴れた秋空へと陽性のヴァイブスを放ちまくっていて最高。昼時にあらためて場内を巡ると、曇天だった1日目と比べキッズエリアが大盛況。近藤康平氏と子どもたちによるライブペインティングやビニールプールでマスを掬うブースなど、微笑ましい光景がたくさん。ついでに、腕もしくは頭から冷水をかけてもらえる、というだけの謎ブースも気温上昇に比例して繁盛している。近年、複数の夏フェスが開催時期をずらしたりするほどの酷暑問題が存在するが、そのシンプルかつユニークな対策と言えるかもしれない。

⽔曜⽇のカンパネラ 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

GLIM SPANKY 撮影=ハタサトシ

Chilli Beans. 撮影=木下マリ

昼食後は「Fools Gold」のバニラズからスタートする。前回この会場で観た時はベースのプリティが休養中だったので、満を持しての完全体でのステージ。その間で何回りもスケールの増した姿に思わずグッときてしまう。続くDragon Ashも僕がここで観るのはたしか大トリを飾った年以来だから、かなり久々。逆にこちらは変わらないことによる安心感と素晴らしさを強く感じるライブで、かつてキッズだったであろうお父さんに肩車された子どもたちの夢中になっている姿に、世代を超えてロックバンドのライブが響き継承されていくロマンを見た。夕刻のOriginal Loveからiriという、いずれもフルで観たいライブを名残惜しくもハシゴで数曲ずつ観て、再び「Fools Gold」へ戻るとトワイライトタイムの完璧なシチュエーションでACIDMANが登場。「輝けるもの」「sonet」など近年リリースされた楽曲が多めで、宇宙にまつわるMCから披露したのが「季節の灯」だったりと、間もなく新作も控えるバンドの意欲的なモードを感じられるセトリであった。

go!go!vanillas 撮影=木下マリ

Dragon Ash 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

Original Love 撮影=TAWARA (magNese)

iri 撮影=ハタサトシ

ACIDMAN 撮影=Viola Kam (V'z Twinkle)

「Parklife」トリの木村カエラで一向に褪せないカラフルとキュートに撃ち抜かれた後は、いよいよ大トリのThe BONEZ。ライブの詳細はBARKSのレポに記されているのでぜひ読んでほしいのだが、それを書いたライターと翌朝一緒に帰京する際にも「The BONEZのライブがいかに素晴らしかったか」をひとしきり語り合ったほど。前柵とステージの間の空間(カメラマンやセキュリティがいる場所)に数十人の子どもたちを入れ、そこへ視線を送りながら歌うJESSEと子どもたちの眼差し、その後ろのすし詰め状態で熱狂する大人たち、全てがひとつの光景として共存している奇跡──個人的に決して忘れることはないだろうし、日本のフェス史にだって刻まれるべき瞬間だったと思う。

木村カエラ 撮影=木下マリ

The BONEZ 撮影=ハタサトシ、Viola Kam (V'z Twinkle)

ということで、まとめ。2日間観て回って感じたこと。ひとつは人選のバランスが良かったと思う。「いま観たい」と「いつになっても観たい」がちゃんと共存できていたことはとても大きく、それによってどっちつかずになることもなく、双方しっかりと熱いオーディエンスを集めていた。もっと言えば、J-POPにカテゴライズされるアクトも生粋のライブハウス上がりのバンドもいたけれど、両者の差異を気にせず楽しむ観客がほとんどだったように見え、そこに音楽シーンやフェス文化自体の成熟を感じたりもした。オフィシャルMC・みのの起用も、若い世代と洋楽からの影響も大きい僕らのような世代間のバランスをとる絶妙な一手だったに違いない。そしてもう一つ、スピリチュアルなことを言うつもりはないが、やはり野外フェスの聖地・中津川の空気には音楽がよく馴染む。新たなコンセプトと設計でスタートしたばかりなのに、アーティストもオーディエンスも、いつも以上に余計なものを取っ払ってネイキッドな状態で音楽と対峙できる空間が醸成されていたのは、場の持つ磁力のような何かを感じずにはいられなかった。

来年以降、『WILD WOOD』がどのような方向に舵を切るのかはまだ分からない。よりフレッシュな顔ぶれになったり、多彩なジャンルが登場する場となるかもしれないし、かつて中津川で名演を繰り広げた面々が帰ってくるのかもしれない。どういう形態となるにせよ、「あの空気」さえ失われることがない限り、中津川のフェスの歴史はこれからも着実に刻まれていくだろうし、そうなることを自ずと信じられる『中津川 WILD WOOD 2025』だった。


文=風間大洋