【2025年をプレイバック!】音楽祭ならでは! 一期一会のコラボや試み続く『スタクラ 2025 in 横浜』2日目をレポート
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2025年10月4日(土)5日(日)横浜みなとみらいホール 大ホールにて『スタクラ 2025 in 横浜 ーSTAND UP! CLASSICー』が開催された。今回の公演では、同ホールの館長も務める構成作家の新井鴎子氏とともに、初年度から続く「クラシックを、もっと身近に、もっと自由に!」のコンセプトを受け継ぐ全5公演を展開。二日目には、『ピアノの森 Special』『務川慧悟 ALL CHOPIN(オール ショパン)』『ガーシュウィン meets ラヴェル』の3公演が行われた。音楽祭ならではの初共演やチャレンジングな企画が続いた各公演の模様をお届けする。
二人のピアニストが弦楽五重奏とともに
ショパンのピアノ協奏曲二題を奏でる豪華版!
『ピアノの森 Special』
『ピアノの森 Special』
日程:10月5日(日)11:00開演(約80分)
出演:髙木竜馬(ピアノ)、ニュウニュウ(ピアノ)、東亮汰(ヴァイオリン)、橘和美優(ヴァイオリン)、 川本嘉子(ヴィオラ)、矢部優典(チェロ)、吉田秀(コントラバス)
ナビゲーター:naco(厳選クラシックちゃんねる)
『イープラス presentsスタクラ 2025 in 横浜―STAND UP! CLASSIC』開催二日目の午前中トップバッターの公演は、『ピアノの森 Special』と題されたコンサート。ピアニストの髙木竜馬とニュウニュウがそれぞれに ショパン ピアノ協奏曲 第1番と2番 を休憩なしに連続して演奏するというエキサイティングな試み。「スタクラ」というクラシック音楽のフェスならではの破格な企画だ。
ショパン ピアノ協奏曲は第1番、第2番ともにオーケストラ伴奏以外にも様々な形の伴奏での演奏形態があるが、ピアノ+コントラバスが加わっての弦楽五重奏版で、しかも二人の奏者が連続して両コンチェルトを演奏するという試みは実にユニークだ。共演の弦楽五重奏メンバーも東亮太(Vl)、橘和美優(Vl)、川本嘉子(Va)、矢部優典(Vc)、吉田秀(Cb)という手堅い布陣で、満を持しての企画であることがうかがわれる。
東亮太(Vl)、橘和美優(Vl)
川本嘉子(Va)、矢部優典(Vc)、吉田秀(Cb)
前半、まずは髙木竜馬がピアノを務める第2番からスタート。ピアノが弦楽器の後ろに配置される室内楽スタイルであることからも、“協奏曲としてのピアノ”の存在よりも、むしろ室内楽としての要素が求められることは間違いない。賢明な髙木はその点をしっかりと押さえており、普段の“コンチェルティスタ”としての顔とは一味違い、アンサンブルとしての“音の立て方”を終始貫いていた。結果的に髙木のみならず5人の弦楽奏者たちが一丸となってこの作品がいかに室内楽的な魅力をも持ち合わせているということを見事に証明してくれた。また室内楽編成での演奏によって別の視点からこの作品の完成度の高さと独自性を味わわせてくれた感があり、この演奏会に遭遇できた喜びが大いに感じられた。
髙木は第一楽章冒頭から優美で女性的なたおやかさを持ち味である精緻なピアニズムとともに聴かせる。第二楽章 ラルゲットの(ピアノが牽引する)冒頭部分の旋律の得も言われぬ美しさは、弦楽五重奏版だからこそよりいっそう親密なものとして感じられる良さがあった。髙木が奏でる伸びやかで情感あふれるメロディラインと、それに寄り添うように伴走する5人のアンサンブルが生みだす響きは、この日のこの瞬間にしか味わうことができない一期一会の至極の美しさだった。
髙木竜馬
第2番の演奏が終わり、次なる第1番演奏との間にナビゲーターの厳選クラシックちゃんねるnacoが登場し、この企画が『ピアノの森』という一色まこと氏原作の漫画のストーリーに基づいたものの拡大版であることを説明。そして、実際にかつてNHKが放映したテレビ・アニメ・バージョンで髙木とニュウニュウが演奏を担当したキャラクター(人物)の名称などを紹介。二人が奏でている曲がどのようなシチュエーションで演奏されたのか、それぞれの人物はどんな性格で、どのような役回りなのか、とういうような詳細の情報までも伝えていたのがよかった。『ピアノの森』に触れるのが初めての聴き手でも十分に企画の意味を理解できたことだろう。
厳選クラシックちゃんねるnaco
後半はニュウニュウがピアノを務める ショパン「ピアノ協奏曲 第1番」。若き中国出身のピアニストは髙木とは対照的に協奏曲としての作品らしさを全面的に押し出し、その力強く、骨太な、しかし艶のある美音で終始、音楽の流れを牽引していた。どの楽章においても5人のベテラン奏者たちに後ろから語り掛けるように、身を乗り出すようにはたらきかけ、指揮者のような役割をも果たしていた。
このピアニストはとにかく感情の表現の起伏が驚くほどに豊かで、ともするとこの作品の助長になりがちな部分すら魅力的に聴かせてしまうという天才的な持ち味を存分に発揮していた。また、大きく手を振り上げたり、指揮をするしぐさを見せるなど、時折見せる派手なアクションも実にカッコよく決まっており(!)、あたかもアニメ『ピアノの森』 のキャラクターでニュウニュウが演奏を担当したパン・ウェイそのものになり切っていたようにも感じられらた。聴いても良し、見ても良しというこの若きピアニストの持ち味が多分に感じられる好演だった。
ニュウニュウ
最後は、『ピアノの森』のストーリーにおいて印象的な場面で演奏され、重要な役割を果たしている一曲「茶色の小瓶」がニュウニュウ編曲による4手・弦楽5重奏によるスペシャルバージョンで演奏された。スイングも聴かせたジャジー(ジャズ風)な構成で、しかしヴィルトゥオーゾ・ピアニストであるニュウニュウ本人の手によるものだけに、ピアニスティックな部分や、叙情的で渋みのあるラプソディックな要素も凝縮されており、この魅力的な企画を締めくくるにふさわしい粋な演奏を聴かせてくれた。
取材・文=朝岡久美子 撮影=奥野倫