ショパン国際ピアノコンクール、本選出場者発表 日本からは桑原志織、進藤実優の2名が本選へ【現地レポート】

2025.10.18
レポート
クラシック

桑原志織、進藤実優

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世界三大コンクールとひとつとされる『ショパン国際ピアノコンクール』。2025年は10月3日より予選が開始しその動向が注目されている。SPICEでは、ワルシャワ現地より音楽ライター・朝岡久美子氏のレポートをお届けする。


10月16日の23時頃、3日間わたる第3次審査を終えて本選に出場する11名のコンテスタントの名前が発表された。通常は10名の予定だが、11名が本選に進む。
通過者の名前は以下の通り。(苗字アルファベット順)

1. Piotr Alexewicz(ポーランド)
2. Kevin Chen(カナダ)
3. David Khrikuli(ジョージア)
4. Shiori Kuwahara(日本)
5. Tianyou Li(中国)
6. Eric Lu(米国)
7. Tianyao Lyu(中国)
8. Vincent Ong(マレーシア)
9. Miyu Shindo(日本)
10. Zitong Wang(中国)
11. William Yang(米国)

上記11名が10月18日から三日間にわたって繰り広げられる本選で課題曲の幻想ポロネーズと任意のピアノ協奏曲(一番か二番のどちらかを任意に選択)一作品をワルシャワ・フィルハーモニーのオーケストラ伴奏で演奏する。日本からは桑原志織と進藤実優の二名が本選に進んだ。

桑原志織(C)K. Szlęzak/NIFC

進藤実優(C)W. Grzędziński/NIFC

本選での新たな試み~ソロ曲の課題曲追加がどう影響するか?

このコンクールの伝統として従来、本選審査ではオーケストラ伴奏でピアノ協奏曲一作品のみの演奏であったが、今年から本選の課題曲に「幻想ポロネーズ」が課されたのは実に画期的なことだ。

(まだ誰もが状況を読めていないが、恐らくオーケストラ団員がそろったところで出場者がソロ演奏で「幻想ポロネーズ」を弾き、その後、コンチェルトへという流れが予想されているが、これは実際に蓋を開けてみないとわからないというところが現状だ)

なぜ今回から本選課題曲として「幻想ポロネーズ」というショパン晩年期の大曲(1846年)が付されたかということについては、理由はいくつか考えられるが、両ピアノ協奏曲がショパン20歳前後の若き日の作品であることから、最後の審査段階において当曲一作品だけで演奏者を判断することについての意義が見つめ直されたというのが大きな要素と言われている。

加えて、ピアニスト・ピアノ教育者でショパンの音楽やこのコンクールについても長年にわたって研究している下田幸二氏によると、年々、出場者が若年化している中で(今大会の最年少出場者は16歳)ピアノ協奏曲の演奏には演奏経験がある奏者のほうが有利にはたらくということから、協奏曲との抱き合わせでソロレパートリーから「幻想ポロネーズ」が課された可能性があるともいう。(しかし、氏を含め、音楽ジャーナリストや評論家たちとこの件について話し合ってみると)それならばなぜ最晩年の「幻想ポロネーズ」一択になったのかが不思議でもあり、もし若年層の参加者への配慮であるならば、最晩年の 幻想ポロネーズ のみならず本来ポロネーズ全曲からの選択の余地を与えるべきではないか……などと、様々な思いが巡ってくるのも確かだ。いずれにせよ、極めて重量級のソロ作品の追加が各演奏者たちにどのように影響するかが、今年の大会の一つの注目点であることは間違いない。

中国系ピアニストたちの躍進

本選出場者の内訳をみると、地元ポーランド勢から1名、中国3名、日本2名、米国2名、カナダ、ジョージア、マレーシア各1名ずつとなっている。国籍について先入観的なものを持つのは音楽の世界、ことコンクールにおいては宜しくないが、それにしても興味深いのは、国籍こそ米国・カナダとなっているが、実際に中国系の出場者が計6名、マレーシア出身のVincent Ongを中華系と考えると(実際に言質は取れていないが、“温”という苗字と考えると中華系と思われる)実に出場者の半数以上の7名が中国系だ。ジョージアのDavid Khrikuliがどのようなバックグラウンドを持っているかというところではあるが、日本勢2人をいれると、ヨーロッパ系はポーランドPiotr Alexewiczのみとなる。

Piotr Alexewicz(ポーランド)(C)K. Szlęzak/NIFC

Kevin Chen(カナダ)(C)W. Grzędziński/NIFC

David Khrikuli(ジョージア)(C)W. Grzędziński/NIFC

Tianyou Li(中国)(C)K. Szlęzak/NIFC

Eric Lu(米国)(C)K. Szlęzak/NIFC

Tianyao Lyu(中国)(C)K. Szlęzak/NIFC

Vincent Ong(マレーシア)(C)W. Grzędziński/NIFC

Zitong Wang(中国)(C)W. Grzędziński/NIFC

William Yang(米国)(C)K. Szlęzak/NIFC

本大会最年少出場者で新星のごとくに顕れた(!)16歳のTianyao Lyuも見事に本選に進んだ。予選のステージでは演奏後に手でハートマークを作り客席を瞬く間に魅了した今大会のアイドルも三次予選でFazioliのフルコンを見事に制御し、堂々とソナタ第二番を聴かせた。本選では第一番の協奏曲を演奏する予定だが、その前にどのような「幻想ポロネーズ」を聴かせるかが楽しみだ。

ちなみに、桑原、進藤ともに本選では第一番の協奏曲を演奏する。第三次予選では手の故障により一日出場を後倒ししたEric Luは第三次予選のステージでも序盤は苦しそうではあったが、次第に本来の持ち味を発揮し始め、見事に本選に進んだ。

本選第一日目は現地時間10月18日の18時からスタート。日本人出場者のタイムスケジュールついては、進藤実優:10月19日 18時~(日本時間25時/翌1時~)/桑原志織:10月20日 20時10分~(日本時間27時10分/翌3時10分~)。本選ステージは20日まで毎晩続き、その夜に最終結果が発表される(日本時間21日早朝予定)。

桑原志織(C)W. Grzędziński/NIFC

進藤実優(C)K. Szlęzak/NIFC

文=朝岡久美子

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■ショパン国際ピアノ・コンクールHP(英語)https://www.chopincompetition.pl/en
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