ショパン国際ピアノコンクール、第二次予選通過者が発表 日本人出場者は3人が第三次へ【現地レポート】
(C)K. Szlęzak/NIFC
世界三大コンクールとひとつとされる『ショパン国際ピアノコンクール』。2025年は10月3日より本選が開始しその動向が注目されている。SPICEでは、ワルシャワ現地より音楽ライター・朝岡久美子氏のレポートをお届けする。
5年に一度、ワルシャワで開催されるクラシックの音楽コンクールの最高峰『ショパン国際ピアノコンクール』。今年は中国勢の出場者数が圧倒しており、その躍進ぶりに目を見張るが、日本人出場者、特に女性ピアニストたちの活躍ぶりも大いに話題になっている。第二次出場者40名から半数の20名が第三次予選に進む。
撮影=朝岡久美子
10月9日から12日まで、4日にわたって繰り広げられたショパン国際ピアノコンクールの第二次予選が12日の22時近くに終了。約一時間の審査員による協議を経て23時を過ぎた頃、第三次予選に進む通過者の名前が発表された。審査員長のギャリック・オールソン氏が広報スポークスマンのアレクサンダー・ラスコフスキー氏とともにホールのホワイエに姿を現すと、予選通過者20名の名前が読み上げられた。第二次予選は40名によって競われており、その半数が通過できる。
日本人出場者のうち、通過者は桑原志織、進藤美優、牛田智大(ともはる)の3名。14日からソナタとマズルカが必須課題となる約60分に近いプログラム構成で第三ラウンドに挑む。
桑原志織(C)W. Grzędziński/NIFC
進藤美優(C)K. Szlęzak/NIFC
牛田智大(C)W. Grzędziński/NIFC
日本人以外の通過者にも目を向けると、個性派揃いでレベルの高いコンテスタントを送り込んでいる地元のポーランド勢は4人中3人が通過。そして最も人数が多かった中国からも6名が通過し(国籍は違うが中国系を入れるとさらに多い)、第三次予選でもその人数は最多となっている。他はカナダ2名、韓国2名、米国2名が選ばれている。また、マレーシアからの参加者やジョージアからも各1名ずつノミネートされており、全員で20名となる。
通過者たちについてさらに見てみると、まずは第一次・第二次予選ともに会場を美音と強い意志のある芳醇な音で満たし、聴衆を興奮の渦へと誘った桑原志織、第二次予選でエチュード(練習曲)作品10全曲を驚異的なテクニックで弾きあげ聴衆の度肝を抜いたケヴィン・チャン(カナダ)、前回2021年のファイナリストでもあるイ・ヒョク(韓国)、12日の予選最終日に登場し、ショパンの音の世界の深遠へと果敢に飛び込んでゆく渾身の演奏で客席から大ブラヴォーも飛び出した進藤美優、そして同じく最終日に登場し、壊れそうなほどに繊細でナイーブな音でショパンの心情をみずみずしく表現した牛田智大(ともはる)などはあらゆる角度から注目株といえるだろう。
Kevin Chen, Canada(C)K. Szlęzak/NIFC
Hyuk Lee, South Korea(C)W. Grzędziński/NIFC
また、演奏される機会の少ない超難曲「コンサート用アレグロ」に「幻想即興曲」を合わせるというユニークなカップリングで大胆に勝負し、土曜日の夜に集った聴衆を大いに楽しませてくれたポーランドのピョートル・パヴラクや第二次予選でも非の打ちどころのない演奏を聴かせ、このままメジャーレーベルデビューも即実現しそうな実力者 ピョートル・アレクセイヴィチ(同じくポーランド)など、聴衆からも高い評価を得た名実ともにトップに輝くにふさわしいコンテスタントばかりだ。
Piotr Pawlak, Poland(C)K. Szlęzak/NIFC
Piotr Alexewicz, Poland(C)W. Grzędziński/NIFC
昨日、ポーランドの文化大臣が今年のコンクールについてコメントを出しており、今回の戦いが実力者たちの均衡する実にハイレベルなものであること、そして、ショパンの音楽に対する多様なアプローチの可能性や広がりについても触れ、「ショパンがいかに幅広く、そして時代を超えて人々の心に生き続け、インスピレーションを与え続けているか」ということの意義について語った。確かに中国勢の躍進ぶりもさることながら、マレーシアやジョージアなど、より多様な地域の出場者たちが増えることによって、さらにショパンの音楽が新たな時代へと幅広く紡がれていくことの可能性が開かれてゆくに違いない。それらの要素を加味することもまた、今年のコンクールの一つの方向性のようだ。
第二次予選ではショパンらしさという点でプレリュードとポロネーズに課題曲の焦点があてられたが、第三次予選ではソナタとマズルカを通してさらにショパンらしさとポーランドらしさの両方の要素が求められることになる。日本人出場者を中心とした第二次予選の模様については改めてレポートする。
■通過者一覧は以下の通り(苗字のアルファベット順)
1. Piotr Alexewicz, Poland
2. Kevin Chen, Canada
3. Yang (Jack) Gao, China
4. Eric Guo, Canada
5. David Khrikuli, Georgia
6. Shiori Kuwahara, Japan
7. Hyo Lee, South Korea
8. Hyuk Lee, South Korea
9. Tianyou Li, China
10. Xiaoxuan Li, China
11. Eric Lu, USA
12. Tianyao Lyu, China
13. Vincent Ong, Malaysia
14. Piotr Pawlak, Poland
15. Yehuda Prokopowicz, Poland
16. Miyu Shindo, Japan
17. Tomoharu Ushida, Japan
18. Zitong Wang, China
19. Yifan Wu, China
20. William Yang, USA
文:朝岡久美子