舞城王太郎のアナーキーでパンクな小説を舞台化 OFFICE SHIKA PRODUCE『世界は密室でできている。』観劇レポート

17:00
レポート
舞台

OFFICE SHIKA PRODUCE『世界は密室でできている。』(左から)笹森裕貴、糸川耀士郎

画像を全て表示(15件)


舞城王太郎が2002年に発表した青春ミステリー小説が舞台化された。OFFICE SHIKA PRODUCE『世界は密室でできている。』が2025年11月2日(日)まで、東京・新宿のシアターサンモールにて上演中だ。脚本・演出は、丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)。二度にわたって行われたゲネプロのうち、西川友紀夫役を笹森裕貴、番場潤二郎(ルンババ)役を糸川耀士郎、井上榎役を小田えりなが務めた配役〈D〉バージョンのレポートをお届けしよう。


 

■由紀夫とルンババ、二人の友情タッグが眩しいミステリー×青春劇

舞台美術は鉄パイプやロープなどの素材でデザインされ、パンキッシュなイメージを具現化しながらも、のんびりとした田舎の一軒家や、修学旅行で訪れる東京都庁に自在に姿を変化させる。舞城王太郎の作品を「アナーキーでパンクな雰囲気」と評する、脚本・演出の丸尾丸一郎のイメージを的確に表現したものだ。

福井生まれの舞城王太郎が書くネイティブの福井弁で、ナチュラルに芝居をする俳優たちに驚く。方言で会話するキャラクターの演技は、演じ手たちの舞台を数多く観ている人でもきっと新鮮に感じるだろう。

「※中学生男子の会話なので、しばらくご辛抱ください」の看板が出てくる多感な少年たちのやり取りは、客席の笑いを誘う。糸川・笹森の体を張った演技が見ていて気持ちいい。なお、以降の場面でも等身大な中学生男子の想像力にきっと笑わされるので、ぜひ会場で目にしてほしい。

そんな二人のもとに登場するのが、井上椿・榎の奇天烈な姉妹。福井、東京、大宮と目まぐるしいスピードで物語の舞台を変えながら、友紀夫とルンババは密室殺人事件に立ち向かう。観る者を飽きさせない展開だ。

(左から)小田えりな、岡部麟

時が経ち、中学生だった二人がいよいよ大学受験を目前とする頃、ルンババは家の中で鉄格子の密室に閉じ込められる。厳格な父・耕治と、どこか父の言いなりになっている母・サトエは、親友の友紀夫さえも遠ざけようとする。かつて同じように密室に閉じ込められたルンババの姉「涼ちゃん」が死んでもなお、父と母はこの態度なのだ。そんな耕治に怒りをぶつける友紀夫の感情の昂りが強く印象に残った。それを密室から眺めていたルンババが、「あいつなんであんなこと言ってくれるんやー」と嬉し泣きをした心情にも想いを馳せてしまう。

山本亨

友紀夫は明るいお調子者に見えて、ルンババに「おめえの密室は?まだ解決してねえで。」とストレートに言い切る男気にも近い芯の強さと、友人の繊細な心の傷に気づく思いやりを持ち合わせているのが、キャラクターとして魅力的だ。相対するルンババは、天才的な頭のキレで難事件を次々と解決する名探偵ムーブが観客をしびれさせる。

原作小説そのままに、登場人物や設定、世界観のクセの強さを押し出しつつも、俳優たちの芝居でグイグイと引き込んでいき、気づけば「ここからどうなるのだろう?」「この事件には一体どんなトリックが?」と前のめりな気持ちで観ていた。なお、劇団側からは「ぜひ原作を読んでご観劇いただくことをオススメします!」とのこと。句読点や改行が少なく、口語体で書かれる独特な舞城王太郎ワールドの疾走感が、どのように舞台化されているかを楽しめるだろう。


 

■糸川耀士郎と笹森裕貴のW主演、交互配役が見どころ

今作の最大の見どころは、何といってもW主演を務める糸川耀士郎と笹森裕貴の交互配役だ。物語のメインキャラクターだから当然セリフ量は多く、板の上に出ている時間も長い。この無茶振りとも言えそうなオファーを受けて前向きに返答したというのだから、驚嘆する。

糸川耀士郎

糸川と笹森は、聞けば2020年に出演した2.5次元ミュージカル作品を機に親交を深め、その後も複数回にわたって共演を重ねており、お互いの個人イベントにもゲストとして呼び合うほど仲が良いそうだ。 今回のゲネプロでも、どう見ても台本にはない息の合ったアドリブや小芝居が頻発し、客席から何度も笑いが起きていた。気心の知れた二人だからこそ成せる技であり、絆の深さはもちろん、俳優としての強固な信頼関係とコミュニケーションが垣間見えた。

笹森裕貴

今作は歌唱シーンも多く、二人の歌唱力も存分に発揮されている。糸川のクリアで伸びやかな歌声、笹森のややハスキーな歌声が、物語を彩っていく。丸尾は公式パンフレット内のインタビューで「舞台化するなら小説とは違うカタルシスを出したい。それには音楽が強い武器となる」と考え、迷いなく音楽劇にしたことを伝えている。

(左から)田口愛佳(AKB48)、糸川耀士郎

一度でも観劇すれば、「彼は、相方の役をどう演じるのだろう?」と二人それぞれに興味が湧き、別バージョンが見たくなることは必然だ。なお、同じ役でも糸川と笹森でやや衣裳デザインに変化がある点も見逃せない。俳優の個性を引き立たせつつ、役らしさを表現した工夫とセンスが光る。丸尾が稽古期間のミニインタビューで語った「友紀夫とルンババが計4人いる」という言葉の通り、計4人の主人公を楽しみたい。


 

■実力派の他キャストやアンサンブルも見逃せない

真っ赤なスーツが印象的な、井上椿役の岡部麟は強い存在感で目を惹きつけた。友紀夫に「エキセントリック」と評される椿の破天荒な人柄を見事に表現し、舞台上に現れると絵が引き締まる。その椿に「風変わりな姉妹」として並び立つ、井上榎役の小田えりなも喜怒哀楽の多彩な表情に魅力があった。榎役はダブルキャストであり、田口愛佳(AKB48)の演技にも注目したい。

さらに、鹿殺しの劇団員でもある橘輝、厳しい父とデブのおっさんの2役を演じ分ける山本亨、ステージをオリジナルの振付で舞い踊るアンサンブルも、作品世界をしっかりと支えていた。キャスト全員の総合力で、充実感のある舞台となっていたのは間違いない。

ミステリー小説の枠を超える、純文学的な人間ドラマ。「密室」とは何か、人はなぜ「密室」を作るのか。その深層心理や揺れ動く感情は、人間の言葉や行動を巧みに描き出す演劇という媒体と好相性だったようにも思う。『世界は密室できている。』は11月2日(日)まで、シアターサンモールにて上演中。


取材・文=さつま瑠璃

公演情報

OFFICE SHIKA PRODUCE
『世界は密室でできている。』
 
■日程・会場:2025年10月24日(金)~11月2日(日)シアターサンモール

■脚本・演出:丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)
■原作:舞城王太郎『世界は密室でできている。』(講談社)

 
■CAST:
糸川耀士郎/笹森裕貴
岡部麟/小田えりな(Wキャスト)/田口愛佳(AKB48)(Wキャスト)/橘輝/山本亨 西出将之/大西彩瑛/ AYUBO /村井玲美/山本悠貴

 
■振付:平原慎太郎、大西彩瑛
■音楽:伊真吾
■主催:株式会社オフィス鹿
  • イープラス
  • OFFICE SHIKA PRODUCE
  • 舞城王太郎のアナーキーでパンクな小説を舞台化 OFFICE SHIKA PRODUCE『世界は密室でできている。』観劇レポート