W主演の糸川耀士郎&笹森裕貴が自由に泳ぎ回るような作品に OFFICE SHIKA PRODUCE『世界は密室でできている。』稽古場レポート&丸尾丸一郎インタビュー
OFFICE SHIKA PRODUCE『世界は密室でできている。』稽古場より (左から)笹森裕貴、糸川耀士郎
入り組んだ物語と独特なスピード感ある筆致が魅力の作家・舞城王太郎が2002年に発表した青春ミステリー小説『世界は密室できている。』が、2025年10月・11月に舞台化。脚本・演出を劇団鹿殺し代表の丸尾丸一郎が手掛け、主人公の西村友紀夫とルンババを回替わりで糸川耀士郎と笹森裕貴が演じる。共演には岡部麟、小田えりな(Wキャスト)、田口愛佳(AKB48)(Wキャスト)、橘輝、山本亨といった実力派キャストが名を連ね、友情ありミステリーありの本作を彩る。間もなく稽古が中盤に差し掛かるというこの日、稽古場取材と丸尾へのミニインタビューを実施した。
丸尾丸一郎
この日は振付日。2020年東京オリンピックの開会式と閉会式でDirector of Choreography(総合振付家)を務めたことでも知られる平原慎太郎が、冒頭のシーンから順に各登場人物の動きをつけていった。平原と丸尾はこれが初タッグ。稽古が始まる少し前から、「いくつかアイディアを持ってきました」と平原が丸尾の元へ。短時間のやり取りではあったものの、互いの考えを共有しながら作品に落とし込むものをすり合わせていく、実にクリエイティブな瞬間を垣間見ることができた。
糸川耀士郎
笹森裕貴
まずはアンサンブルを中心に、平原が振付をつけていく。「密室の狭さを表現して」「この動きでミステリー要素を提示したい」など、動き一つひとつの意味を伝えながら完成形を目指す。1曲目の形ができあがると、演出卓から眺めていた丸尾が「いいですね」とニヤリ。続けて、丸尾と平原が友紀夫とルンババの位置に立ちながら微調整が行われていった。ここで主演の2人が立ち位置に入る。この日はまず、笹森が友紀夫、糸川がルンババとして動きを確認。伊真吾が手掛けたキャッチーでいて、どこか切なさが混ざる楽曲にあわせキャスト陣が動くと、一気に物語の世界観が立ち上がる。ステージ中央に立つこの少年2人に、これからどんな事件と冒険が待っているのかとワクワクさせられる、そんなナンバーに仕上がっていた。
同様に、2曲目の振付も順調に進んでいく。時折、丸尾から糸川や笹森に「立ち方にもっとキャラっぽさを出してみてもいいかも」「この歌詞の部分では、視線をどこに置くか決めておいてね」と、ヒントが出される場面も。丸尾からは主演の2人の役者としての魅力を存分に引き出したいという思いが伝わってくるのと同時に、彼自身が2人の芝居に期待を寄せていることが感じられた。丸尾の言葉を受けた2人も、軽く言葉を交わし意図を確認すると、次には丸尾の「いいね」というリアクションを引き出す。作品同様、小気味良いテンポ感で稽古も進んでいった。
主演を務める糸川と笹森は膨大なセリフ量を2役分こなすことになる。隙間時間に台本を取り出してセリフを確認したり、撮影した稽古場映像を確認しながら2人で細かな確認をしあったりといった姿に、親友役に挑む2人の掛け合い芝居をはやく観てみたくなった。楽曲だけでも想像力をおおいに刺激してくれたが、ここに芝居が入ってくることで一体どんな作品が生まれるのか楽しみでならない。
笹森裕貴
糸川耀士郎
脚本・演出 丸尾丸一郎ミニインタビュー
ーーまずは原作の印象についてお聞かせください。
僕らの劇団が上京して、共同生活していた頃かな。劇団員メンバーから舞城王太郎さんの作品をおすすめされて、最初に読んだのがこの『世界は密室でできている。』でした。筆が勝手に走っているような疾走感と、福井弁で語るキャラクターたちの生き生きとした感じと。作品からアナーキーでパンクな雰囲気が漂ってくるのですが、知らない間に涙がこぼれる場面もあって、すごく新しい感覚だったんですよね。その感覚を大切に、僕が面白いと思ったところを余す所なく脚本に入れたつもりです。
ーー稽古開始から約10日ほどとのこと。手応えはいかがですか?
めちゃくちゃ面白いと思う。今はミザンス(立ち位置や動線)が一通りついた状態で、笹森くんが友紀夫、糸川くんがルンババという配役でラストまで作っているところですが、僕は稽古を見ながら笹森くんと糸川くんの魅力をビシバシ感じています。笹森くんはとにかく思い切りの良さがある。それがすごく気持ちいい。一方で、糸川くんはすごく慎重。慎重というとネガティブに聞こえるかもしれないけれど、そうではなくて、彼は表現することの怖さを知っているからこそ、すごく考えるんじゃないのかなと。
2人とも僕が言ったことへのレスポンスも素晴らしいので、ここから新しい課題をどんどん与えていって、お客様には新しい2人をお見せしたいですね。パンクでアナーキーな作品の世界を、2人が自由に泳ぎ回るような作品にしたいなと思っています。
ーー実際に稽古が始まったことで改めて感じたことや、新たな発見はありましたか?
まず思うことが、ミステリー作品として謎解きをするので、そもそもセリフ量が多いし、1人で語るセリフも多いんですよね。友紀夫もルンババも。それでいて、1人が2役やる。僕の好奇心に2人ともよく付き合ってくれているなと(笑)。そのうえ、1人語りってすごく難しいんですよ。自分の気持ちを言葉にしているのか、謎解きを誰かに語っているのか、そこを使い分けないといけない。だから、読み合わせのときに2人には、「会話の部分の心配はないけれど、モノローグについてはすごく努力しないといけないと思う」と伝えました。2人とも、立ち稽古に入ってから、突破口が見えてきたんじゃないのかなというのを感じています。
糸川耀士郎
ーー原作はミステリーであると同時に、ルンババと友紀夫の友情も印象的でした。
こういう親友の役をいつか2人で演じてみたいという思いがもともとあったらしいんですよ。それが叶うということで、2人にとってはすごくエモい共演だと言っていました。僕自身、ルンババと友紀夫の友情を意識していましたが、それ以上に笹森くんと糸川くんはお互いのことを思って演じてくれているんだなと感じています。
ーーお二人は回替わりで配役が逆になります。かなり違った友紀夫とルンババが出来上がりそうですか?
全然違うと思う! 読み合わせで1度だけ、笹森くんがルンババ、糸川くんが友紀夫の配役でやってもらったんですが、そのときの友紀夫がすごく魅力的だったの。とくに物語を引っ張っていくための緩急が素晴らしいなと思ったんです。そうしたら翌日、笹森くんが友紀夫を演じる稽古では、よく1日でこれだけモノローグを自分のものにしたなと驚くほどの芝居を持ってきてくれて。やっぱりWキャストって、絶対にお互いのことを意識するじゃないですか。これから逆の配役での稽古に入っていくので、2人がお互いの芝居を見てどんな友紀夫とルンババを演じるのか、僕自身もすごく楽しみにしています。
笹森裕貴
ーーでは最後に、公演を楽しみにしている読者へのメッセージをお願いします。
原作はミステリーあり、中学生の思春期な恋あり、友情あり、そして自分自身を閉じ込めている密室から逃げ出そうとする青春ありで、とにかくいろんなものが詰まっている作品です。そんな作品を糸川くんと笹森くんが本気で面白いと感じながら、熱望していた関係性で共演しているとあって、2人とも多幸感にあふれているんですよ。それはきっとお客様にも感じ取っていただけると思います。
原作はありますが、友紀夫もルンババも演じ方は自由だと思っていて。僕からは絶対に守ってほしいこととして「友紀夫とルンババのキャラクター性を離して、ちゃんと演じ分けをしてほしい」ということを伝えました。なので、友紀夫とルンババが計4人いることになりますが、それぞれどんなキャラクターになっているのか。お客様にも劇場で楽しんでいただけたらと思います。
取材・文・撮影=双海しお
公演情報
『世界は密室でできている。』
2025年10月24日(金)~11月2日(日)シアターサンモール
原作:舞城王太郎『世界は密室でできている。』(講談社)
脚本・演出:丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)
振付:平原慎太郎
糸川耀士郎 笹森裕貴
岡部麟 小田えりな(Wキャスト) 田口愛佳(AKB48)(Wキャスト) 橘輝
山本亨
主催 株式会社オフィス鹿
税込・全席指定 U-25 4,000円 / U-18 1,000円 / バリアフリー
※先行販売特典、パンフレットは、公演当日に公演受付でお渡しをさせていただきます。