福田雄一&中川晃教が語る、「最高に楽しくてバカバカしいミュージカル」〜ミュージカル『サムシング・ロッテン!』対談インタビュー

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インタビュー
舞台

左から 中川晃教、福田雄一

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2025年12月から2026年1月にかけて、東京と大阪でミュージカル『サムシング・ロッテン!』が上演される。2015年にブロードウェイで誕生した本作は、ミュージカルやシェイクスピア作品のパロディシーンが演劇ファンの心をくすぐると話題に。2015年のトニー賞で9部門ノミネート、1部門受賞を果たしたコメディミュージカル作品だ。日本では2018年に初演され、今回7年ぶりの再演を果たす。

初演に引き続き演出を務める福田雄一と、主人公・ニックを演じる中川晃教に、ミュージカル愛がてんこもりの『サムシング・ロッテン!』の魅力を聞いた。

「僕のアッキーファン歴は結構長いんです」(福田)

ーーお二人の出会いはいつだったんですか?

中川:シアタークリエの楽屋口で立ち話をしたのが最初です。僕は『ジャージー・ボーイズ』(2016年)の舞台稽古をしていて、その少し前に福田さんがシアタークリエで作品(『エドウィン・ドルードの謎』)をやっていたので、たまたま来ていらっしゃったのかな。当時から福田さんのお名前は聞いていたので、ご挨拶させてもらったんです。まだ僕たちが一緒に仕事をするなんて何も決まっていないときでした。

福田:そのずっと前から「(井上)芳雄くんと熾烈な争いをしている、この歌の上手な方に会いたい!」と思っていたんですよ。僕のアッキー(中川)ファン歴は結構長いんです。最初はミュージカル『モーツァルト!』のCDで、ヴォルフガングの歌声に衝撃を受けて「これは誰?」と奥さんに聞いたら「中川晃教さんだよ」と。それから毎日のように車でアッキーの歌声を聴いていました。

中川:初めて一緒にお仕事をしたのは、WOWOWのミュージカル・コメディ番組『グリーン&ブラックス』(以下、『グリブラ』)ですよね。『グリブラ』は本当にいろんな人が集まって交わる、交差点のような番組でした。 

福田:『グリブラ』のアッキーがまあ〜自由で(笑)。基本的に台本を守っていただけないスタイル(笑)。僕、そうやって自由に遊んでくださる人が大好きなんです! きっと当時から、アッキーとコメディミュージカルをやりたいという想いはあったと思います。

福田雄一

中川:言い訳をさせていただくと(笑)、『グリブラ』は収録前夜に台本が届くんですよ。芳雄さんをはじめみなさんちゃんと覚えてくるんですけど、僕は不慣れで覚えきれなかっただけなんです(笑)。ノンストップで一気にやってカットがかかるまで撮影するスタイルだったので、緊張もしますし、とにかく必死でした。

福田:アッキーにはお笑いの素養が元々あったんだろうなと思います。決してウケを狙ってこないところに素質を感じるんです。僕はよく“笑いの押し売り”と言うんですけど「さあ笑ってください!」とされると、案外人は笑えないもの。アッキーはいつも自然体で楽しんで演じてくれるので、見ている人にも楽しさが伝わってくると思うんです。そこが僕にとってのアッキーの一番の魅力であり、信頼しているところですね。

「臆せず挑戦したいと思わせてくれる、大尊敬の演出家でありパートナー」(中川)

中川晃教

ーー中川さんにとって、演出家の福田さんとご一緒する醍醐味はどんなところにありますか?

中川:誤解を恐れずに言うと、いろんな意味で怖さがあります(笑)。というのも、福田さんは本当にすごい方。いろんなお仕事をされている中で、映画という一際大きなスケールの世界で戦っていらっしゃる方でもあります。そこが、福田さんと一緒に仕事をしたいと思う理由のひとつでもあるんです。ようやく『サムシング・ロッテン!』(以下、『ロッテン』)でご一緒できたとき、この1回で終わらせたくないと思いました。『ロッテン』というコメディ作品でなければできない俳優としての経験もきっとあります。怖さはあるけれど、そこに臆せず挑戦したいと思わせてくれる、大尊敬の演出家でありパートナーです。

ーー福田さんから見た、演者としての中川さんの魅力を教えてください。

福田:アッキーと『ロッテン』をやったとき、ものすごく人間味を出してくれることに驚かされました。それまではミュージカル俳優さんに対して、あまり人間味を感じさせないイメージを持っていたんですね。例えばミュージカルには『エリザベート』の黄泉の帝王トートのような、この世のものではない役もあります。それを観るお客さんたちは、夢を抱いていると思うんです。

アッキーが演じるニックは、売れない劇作家で「シェイクスピアなんて大嫌いだ!」と叫んじゃうような役。「いやいや、言うてもあなたかっこいいじゃん」と言われちゃったらそれまでなんです。でもアッキーはしっかりお客さんのところまで降りて、真実味をもってニックを演じてくれました。ミュージカル俳優さんで、ここまで降りてきてニックを演れる人は稀有なんじゃないかなあ。純粋に、アッキーのニックをもう一度観たいという気持ちが今回の再演に繋がったんです。

ーー近年のご出演作を観ていて気になったのですが、中川さんはいつのまにコメディセンスを磨かれたのでしょうか?

中川:僕、ミュージカルでのコメディ経験はそんなにないんです。大きい経験としては、吉本興業創業百周年を記念した舞台『吉本百年物語』(2012年〜2013年)があります。吉本興業の歴史を毎月演目を変えながら1年間、なんばグランド花月で上演していくというもので、僕は6月公演の座長を務めさせていただきました。吉本興業が初めて東京に進出して浅草のホールにアメリカのレビューを招聘した出来事を、ミュージカルにして見せるという作品。当然普段のミュージカルとは勝手も違いますし、初めてのことばかり。演出家の方が口頭でパパパっと演出をつけていくんです。正直「これで本当にミュージカルができるの?」と思ったこともありました。

でもこの経験が、ミュージカルの作り方はひとつじゃないんだと教えてくれたんです。僕は出自が音楽なので、お芝居に対するコンプレックスがあります。でもミュージカルにもいろんな作り方があることを知って、「自分はミュージカル界の中で誰も歩いていない道を歩いていきたい」と思えるようになりました。お笑いの中には、必ず核や実がないとダメだなとも思います。コメディ作品をやるときは、その実がはたして何なのかということを大事にしていきたいです。

「再演が決まって一番に顔が浮かんだのが、かずっきー。」(福田)

ーー今回のキャスティングで驚かされたのは、やはり加藤和樹さんのシェイクスピア役です。加藤さんと中川さんは共演も多いですが、本作ではどんな期待をされていますか?

福田:かずっきー(加藤)はとんだ天然ですよ!

中川:“とんだ天然”(笑)。

福田:本当にめちゃくちゃ面白い人。僕、最初はかずっきーには怖いイメージがあったんです(笑)。ちょっと顔が怖いでしょう(笑)。でも初めて『グリブラ』に出演してくれたとき、僕と一緒のコント&トークコーナーで一番饒舌で! 実は笑いがすごく好きな人なんだなあって。『ビートルジュース』の初演も観てくれて、「福田さんとコメディミュージカルをやりたいという気持ちがすごく強くなりました」という感想を送ってくれたんです。それもあって、『ロッテン』の再演が決まって一番に顔が浮かんだのが、かずっきー。きっと今回の稽古で暴れてくれるんじゃないかなと、すごく期待しています。

中川:僕も想像しているんですけど、今からニヤニヤしちゃいます(笑)。この作品を観るお客様は、この年末年始きっとハッピーになるだろうなあ。

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』ビジュアル

福田:シェイクスピアは1幕はバリバリのナルシストだけど、2幕からガチ崩れするんです。それをかずっきーが演じたら絶対に面白い! 2幕でかずっきーをどんな風に演出するかを考えるのがとっても楽しみです!

中川:2幕ではシェイクスピアが変装して、ニックの劇団に志願してくるストーリーなんですよね。初演のシェイクスピア役の西川貴教さんは子どもの設定でしたが、(加藤)和樹さんが何に化けてくるのかワクワクします! 和樹さんは、相手役が求めるものにうまく変わってくれるカメレオンタイプなんですよ。不思議なんですけど、核となる部分がしっかり通じ合った瞬間、ひとりではできないような芝居ができるんです。
今回は僕が落ちぶれた役で、和樹さんはその逆の優等生役を演じます。『フランケンシュタイン』の博士と怪物など、今までの共演では逆の組み合わせが多かった気がするので、それが鏡合わせになったときにどうなるんだろうというドキドキもあります。

ーー予言者ノストラダムス役の石川禅さんも、初めての福田組だそうですね。

福田:(石川)禅さんとは『エドウィン・ドルードの謎』(2016年)の楽屋でお会いして、「山口祐一郎をあんな風に演出する演出家は初めて見た!」と言ってくださったんです。そこで「いつかご一緒しましょう」と話して今に至ります。ノストラダムスの“のっさん”として暴れてくれると思いますよ。

中川:僕は初演を経験している分、新キャストの方々より1年先輩になるので頑張らないとですね!

「“笑いと涙とミュージカル”、そんなエンターテインメント作品に」(中川)

ーー本作は「ミュージカル愛が詰まった作品」ということですが、どんなところに魅力を感じますか?

福田:そもそもなぜ僕がこの作品をやることになったのかというと「『サムシング・ロッテン!』は福田さんがやるべきだと思います」と、何人かのプロデューサーから同時に勧められたから。どんな話なのか聞いてみたら、売れない劇団の座長が予言者に「これから流行るのはミュージカル『オムレット』だ」と言われ、必死にオムレツのミュージカルを作る話です、と。こんなアホなミュージカルあります?(笑)あまりにも敷居が低いからこそ、やりたいと思ったんですよね。だってこの話、シェイクスピアの『ハムレット』を『オムレット』に勘違いしていることさえわかれば、小学生だって楽しめるでしょう? 最高にバカバカしくて楽しいミュージカルだと思います。

中川:ルネッサンスを舞台に、これだけ面白い作品を作り上げられたのはミュージカルだからこそなんでしょうね。「酒と泪と男と女」じゃないですけれど、“笑いと涙とミュージカル”、そんなエンターテインメント作品になっていると思います。ミュージカルというものの中に、笑いがあって涙もあって、それこそが人生なんですよね。

福田:何より僕は、アッキーが演じるニックのような主人公が大好き。『ロッテン』は、柳楽優弥くん主演の『アオイホノオ』(テレビ東京、脚本・監督:福田雄一)のミュージカル版だと思っていて。このドラマは漫画家を目指す主人公・焔モユルが、ライバルである庵野秀明を意識し過ぎるあまり迷走する話。ニックもシェイクスピアという天才に勝つために、なぜかミュージカルというわけのわからない答えを導き出して勝負しようとします。僕、正論を言う熱い男はあまり好きじゃないんですが、明らかに間違った方向に熱い男は大好きなんです。『勇者ヨシヒコ』シリーズ(テレビ東京、脚本・監督:福田雄一)で山田孝之くんが演じる勇者ヨシヒコも「魔王なんかどうでもいい」というセリフをよく言います。勇者なのに(笑)。ニックも、そんな風に間違いを繰り返しながら突っ走る、愛すべき主人公なんです。

中川:そんな主人公がヒット作を作ろうと奮闘するストーリーの中に、ミュージカルの名曲の数々が散りばめられていたり、セリフにパロディが込められていたりするんですよね。するとミュージカルを愛するお客様たちは段々「この作品、私が観ないで誰が観るの?」という気持ちになっていくと思うんです。今は7年前よりもいろんな方々が劇場へ足を運んでくださるようになってきていると思うので、そういう方にも「何これ面白い!」と、ミュージカルに興味を持ってもらえたら嬉しいですね。

福田:基本的には、何も心に残すことがない作品だと思うんですよ(笑)。感動したとか、心に刺さったとか、別にないじゃないですか(笑)。ただひとつあるのは、ダメなやつが必死に頑張ってなんとかなりましたという王道ストーリー。それをミュージカルというエンターテインメントで贅沢に楽しめるなんて、年末年始にピッタリなんじゃないかなと思います。

取材・文=松村蘭(らんねえ)

公演情報

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』
 
出演:中川晃教、加藤和樹、石川禅、大東立樹(CLASS SEVEN)、矢吹奈子、瀬奈じゅん
       
岡田誠、高橋卓士、横山敬
植村理乃、岡本華奈、岡本拓也、神谷玲花、小山侑紀、坂元宏旬、髙橋莉瑚、高山裕生、茶谷健太、横山達夫、吉井乃歌、米澤賢人、小林良輔(スウィング)、七理ひなの(スウィング)
 
作詞・作曲:ウェイン・カークパトリック、ケイリー・カークパトリック
脚本:ケイリー・カークパトリック、ジョン・オファレル
 
演出:福田雄一
翻訳・訳詞:福田響志
 
【東京公演】
日程:2025年12月19日(金)~2026年1月2日(金)
会場:東京国際フォーラム ホールC
 
【大阪公演】   
日程:2026年1月8日(木)~12日(月)
会場:オリックス劇場 
   
公式HP http://www.s-rotten2526.jp
公式X  @s_rotten2526    
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