ミュージカル愛を目一杯詰め込んだハッピーな「宝箱」! ミュージカル『サムシング・ロッテン!』開幕レポート

16:01
レポート
舞台

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』取材会より         (C)ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり

画像を全て表示(19件)


2025年12月19日(木)東京国際フォーラムホールにて幕を開けた、ミュージカル『サムシング・ロッテン!』。ブロードウェイで2015年に初演、トニー賞で1部門受賞・9部門ノミネートを果たした大ヒット・コメディ作だ。日本では2018年に初演が、そして今回待望の再演が実現。初日を前に劇場で行われた取材会とゲネプロの模様をレポートする。
 

開幕直前の取材会ではニック役の中川晃教、ビー役の瀬奈じゅん、シェイクスピア役の加藤和樹、ノストラダムス役の石川禅、ナイジェル役の大東立樹、ポーシャ役の矢吹奈子と、演出の福田雄一が登壇。7年ぶりに同役での再演を果たした中川は「楽しい舞台というと一番に福田監督とご一緒した本作を思い出していました。ニック・“ボトム”ですが、この作品でまたトップになりたいと思います。この舞台で笑い納め、笑い始めをぜひ!」。同じく初演から続投の瀬奈は「夫のニックと弟のナイジェル、家族を守りたい気持ちが強まっています。今回も劇中でいろいろなことをやらせてもらっています(笑)」と、共に再演への意欲を語る。

初参加の加藤は稽古場が異例のスピード感だった驚きにも触れつつ「初めての福田組。アッキーさんとは勝手にバディを感じています。このふたりだからできるニックとシェイクスピアを」と意気込みを。かねてから福田の演出を熱望していたという石川も念願の初参加。「こんなに楽しい歌は歌ったことがない。何分もずっと口を開け続けているので歌い終わった後は吐きそうになりますが(笑)」と場を和ませつつ、ビッグナンバーを担う喜びを伝えてくれた。

「憧れのアッキーさんと瀬奈さんと家族になれるなんて、本当に幸せです!」という大東と、「稽古場からみなさんの自由な芝居を観るのが本当に楽しかった」という矢吹はフレッシュさが光る。稽古場ではアドリブのアイデアを話す大東に矢吹がダメを出すほほえましい光景も度々だったとか。

「初演では“名作ミュージカルの数々のパロディ”という部分に喜びを感じ演出をつけていた」という福田は、7年の時を経て「アッキーのニックのダメ感が増しているのが素晴らしい!」としつつ、「今回初めて本作の核ともなるニックとシェイクスピアの背負っているものの重さに気づいた」と、自身がより深く面白く作品作りに臨んだことを振り返っていた。

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』舞台写真          (C)ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり

ルネッサンス時代の演劇界にスポットを当てた本作、ふんわりとしたスカートが可愛い女性たち、カボチャパンツや大ぶりの帽子を身につけた男性たちの登場でオープニングナンバーから賑やかに華やかに。便利な機械が発明され、さまざまな芸術もより一層盛んな時代(一瞬登場する“スター”、シェイクスピアの姿を見逃さずに!)。その中でひとり苦悩しているのが…劇団存続の危機に直面している劇作家のニック。密かなライバル、時代の寵児となったシェイクスピアへの恨み節を素晴らしい歌声で響かせていけばいくほど、ニックのイケてなさが際立ち、悔しさが増していく。さあ、ここから“ヒット作を生み出し貧乏生活を抜け出すためのニックの悪戦苦闘の物語”の始まりだ。

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』舞台写真         (C)ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』舞台写真       (C)ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』舞台写真       (C)ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり

中川のニックは全身に“ダメ感”を纏い、妻への愛情や弟を守りたいという優しさや真面目さが常に裏目に出てしまうものの、内に燃える人生や演劇への情熱を決して失うことがない芯の強さを感じさせる。そんな兄を自身のペンで支えようとする大東のナイジェルは、書くことへの強い思いを抱く頼もしさと、いまだ残る少年の面影とのバランスが絶妙。また、周囲の空気に流されることなく新しい女性の生き方を体現する瀬奈のビーはとても魅力的。家族のため、自分たちの身の丈にあった幸せのために、まさに身体を張っての大活躍が頼もしい。

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』舞台写真       (C)ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』舞台写真       (C)ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり

実はこの物語の行方を大きく左右しているのは、ニックが心の迷いから訪れてしまった預言者・ノストラダムスの“実力”かも。彼の脳裏に「MUSICAL」の文字が浮かび、ニックもその新しさに共感、新作のインスピレーションを授けてしまうのだから。このシーンでのノストラダムス=石川のパフォーマンスは圧巻! アンサンブルとの華麗な連携も見事に、さまざまな名作ミュージカルのパロディを雑なくらい(笑)矢継ぎ早にお披露目していく。ワンフレーズ、ワンシーン、あの振り付けをひと踊り…観客の目を一瞬たりとも離さない、なんとも贅沢な時間である。

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』舞台写真       (C)ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』舞台写真       (C)ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』舞台写真       (C)ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』舞台写真       (C)ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり

可憐でちゃんと自立心を持ち合わせているポーシャはポエム好き。ナイジェルとは彼の書いたソネットが縁で出会い、やがて心を通わせていく。「好きなもの」について語り合い分かち合うふたりの純愛はとても澄み切っている。矢吹の凜とした歌声は恋する乙女の弾む心そのもの。どちらかというと女性がリードするカップル、応援したい。

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』舞台写真       (C)ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』舞台写真       (C)ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』舞台写真       (C)ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり

そして——満を持してキラッキラに登場するシェイクスピアだって1ミリも負けていない! 登場するや舞台上は一瞬にしてオールスタンディングのライブハウス! パワフルでセクシーで自信満々でファンサもたっぷり、シェイクスピアのカリスマ感に、ロックシンガー加藤和樹のエッセンスが並々と注ぎ込まれていく。スタンディングは禁止だが、観客もぜひ“心のペンライト”を振って盛り上がろう。

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』舞台写真       (C)ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』舞台写真       (C)ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』舞台写真       (C)ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり

一幕も佳境、まさに役者が揃った舞台上で、物語は後半に向けてググッと大きく動いていく。ここから何が起こるのか!?  人間、必死になればなるほど他人から見れば滑稽なことに全力を尽くしてしまうもの。芸術を愛し、演劇を愛し、好きな人たちを大事にしたいと願う人々は、予想外のカオスへと突入。俳優たちの見たこともなかったような表情、初めて聞く「声」、要所要所で絶妙に織り込まれる時事ネタや、あのミュージカル、このミュージカルへのパクリ…もとい、愛の溢れるオマージュ。一流のカンパニーだからこそ成立する上質な演劇の要素がギュッと詰まった(もはやこぼれ落ちているくらい)宝箱のようなハッピーな時間は、日常のストレスなんて軽く吹き飛ばしてくれるルネッサンスな別空間。ミュージカルから幸せを貰いたい人、ミュージカルの楽しさに浸りたい人はぜひ劇場へ。

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』舞台写真       (C)ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』舞台写真       (C)ミュージカル『サムシング・ロッテン!』製作委員会/岩田えり

 

取材・文=横澤由香

公演情報

ミュージカル『サムシング・ロッテン!』
 
出演:中川晃教、加藤和樹、石川禅、大東立樹(CLASS SEVEN)、矢吹奈子、瀬奈じゅん
       
岡田誠、高橋卓士、横山敬
植村理乃、岡本華奈、岡本拓也、神谷玲花、小山侑紀、坂元宏旬、髙橋莉瑚、高山裕生、茶谷健太、横山達夫、吉井乃歌、米澤賢人、小林良輔(スウィング)、七理ひなの(スウィング)
 
作詞・作曲:ウェイン・カークパトリック、ケイリー・カークパトリック
脚本:ケイリー・カークパトリック、ジョン・オファレル
 
演出:福田雄一
翻訳・訳詞:福田響志
 
【東京公演】
日程:2025年12月19日(金)~2026年1月2日(金)
会場:東京国際フォーラム ホールC
 
【大阪公演】   
日程:2026年1月8日(木)~12日(月)
会場:オリックス劇場 
   
公式HP http://www.s-rotten2526.jp
公式X  @s_rotten2526