KERA&緒川たまきによるユニット「ケムリ研究室」最新作のヒントを初参加の瀬戸康史と共に探る

インタビュー
舞台
2026.1.16
左から 緒川たまき、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、瀬戸康史

左から 緒川たまき、ケラリーノ・サンドロヴィッチ、瀬戸康史

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ケラリーノ・サンドロヴィッチ(以下、KERA)が緒川たまきと組み、2020年に旗揚げした演劇ユニット“ケムリ研究室”。これまで『ベイジルタウンの女神』(初演2020年、再演2025年)、『砂の女』(2021年)、『眠くなっちゃった』(2023年)と、多幸感あふれるファンタジックコメディから繊細で緻密で一味違う文芸作品、異色の近未来SF劇というように毎回趣向を変えながら二人ならではの世界観を追求してきたこのユニットの最新作が『サボテンの微笑み』だ。今回は「ナイーヴな人たちの小さな物語」というキャッチコピーのもと、濃密な会話劇となる。そのビジュアル撮影の現場にて、KERAと緒川、さらにキャストの瀬戸康史にも加わってもらって、新作舞台が果たしてどんな作品になりそうか、そのヒントを探ってみた。

――まずはKERAさんと緒川さんにお伺いします。ケムリ研究室の最新作『サボテンの微笑み』は純粋な会話劇になるとのことですが。現段階の構想などを教えていただけますか。

KERA:映像を使った演出やステージングで転換する演劇が私の作品のデフォルトのように思われるようにもなってきて、それが当たり前みたいになるのもつまらないなと。一旦ここで使わないでやってみよう、と実は2年前くらいに決めていたんです。

緒川さんとは常日頃からケムリ研究室について話しているのですが、今回は少人数で小さい空間でやろう、あまり外へ外へと広がっていかない“小さな話”にしようということになったんです。話したのはもう3年ぐらい前ですけどね。大きな事件が起きたり、破天荒な出来事や意外性を追うものではなく、小さな喜びや悲しみや悔しさ、そういうところを見つめるものにできないかな、と。

緒川:これまで映像やステージングに力を借りていたことを考えると、頼れる部分を失うことにはなるんですが。その代わり、軽い身支度で創作する楽しさを見つけられそうですし、そのことはむしろ、この作品を立ち上げるにあたってプラスに働くんじゃないかなとも思うんです。

また少人数なだけに、KERAさんの得意とする大勢の群像劇とは少し違う風合いが出てくるんじゃないかという期待もあります。

キャストの皆さんの持ち味が一層濃く盛り込まれることになっていくでしょうから、このシンプルな作りであることを大いに楽しみにしていただきたいですね。

KERA:ちなみに今の時点では、瀬戸はまだなぁぁんにも知らないんですよ(笑)。

瀬戸:そうなんです、だからまだ勝手に予想することしかできません(笑)。

KERA:そんな瀬戸にも少し内容を伝える意味でも、どんな話になりそうかを説明させていただくと。まず時代設定は大正から昭和初期を考えてます。過去に自分が手がけて緒川さんも出てくれた岸田國士の短編作品をコラージュした舞台(“岸田國士一幕劇コレクション”)をやった経験が活きてくるだろうと思っているんですけど。

――『犬は鎖につなぐべからず』(2007年)と『パン屋文六の思案』(2014年)ですね。

KERA:最近の僕の作品は、近未来の話でも昔の話でも戦争の影が落とされているものが多かったんですが、今回は岸田國士作品のように、どこかあっけからんとしたものにしたい。岸田戯曲って明るい印象の作品が多いんですよ。昭和の戦争がまだ影を落とす前、大正・昭和のモダニズムの時代だということを考えると『キネマと恋人』(初演2016年、再演2019年)はその頃の物語だったかな。

緒川:はい。ギリギリ戦争の影のない昭和10年頃のお話でした。

KERA:西暦でいうと1930年代のあたりで、その頃だと本当ならちょっと日中戦争がかぶってはくるんだけど、当時の記録フィルムとか見るとみんな笑顔なんです。

緒川:その当時って、基本的に人のありようが陽気なんですよね。

KERA:幸せの求め方が、がっついていない。みんな、小さなことに喜びを見出している。そんな印象を受ける。

緒川:自分でいることに自信を持っている人たちがいた時代だという印象もあります。

KERA:情報がそれほど手に入らないからこそ、いろいろなことに煩わされずにいられたんじゃないかな。そういう時代を背景に“一杯飾り(一つの場面の舞台装置を全幕通して使うこと)”で、つまり、僕としては久しぶりに舞台転換なしでいくつもりです。

庭はあるかもしれませんけど、基本的には屋内、一つの部屋の中での話になると思われます。その部屋に住んでいるのは、赤堀(雅秋)くん演じる兄と、緒川さん演じる妹。その部屋を訪れる人々との交流が描かれていく、ということになるかと。特に大きな事件がある予定ではないですけど、でもわからないですね、書き始めてみたら全然違ったりして(笑)。

緒川:みんな、感じ悪かったりしてね(笑)。

KERA:ま、緒川さんはもちろんのこと、瀬戸もこの段階でのあらすじがさして当てにならないことは既にわかってるとは思うけど。

瀬戸:いやいや、そんなことは(笑)。

KERA:とりあえず、ライトなムードの物語になると思います。

瀬戸:なるほど!(笑)

KERA:そして今回は瀬戸康史と、瀬戸さおりちゃん、実の兄妹に出てもらうというのが画期的です。マネージャーさんに「兄妹での共演って、ナシなんですか?」と聞いたら「全然アリです」と言われて、だったら面白いなと思って出ていただくことにしたんですけど。だけど、いざキャスティングして役柄を考えてみると、そのまま兄妹役を演じてもらうのはなんだか悔しい気がする。だからと言ってカップル役にしてしまうと、なんだかちょっと観ているお客さんにフィルターがかかってしまうだろうし。だから今、7人の相関図を何度も書いては、ああでもないこうでもないと配役を悩み中です。

――瀬戸さんとしては、今のお話を聞かれてどう思われていますか。

瀬戸:ということは俺ら本当の兄妹は、今回は兄妹役で出ることはないってことですよね?

KERA:うん、そうだね。

緒川:今のところはね(笑)。

KERA:最後の最後に実は兄妹だった!なんて展開も、ゼロではないけど(笑)。

瀬戸:それはすごく面白いな、と思います。そして、僕がこれまでKERAさんとご一緒した作品はシアターコクーンだったりKAAT(神奈川芸術劇場)だったりで大きめの劇場だったのが、今回はシアタートラムというすごく小さな空間で、出演者も少人数でということなので、とても新鮮でワクワクしています。

――瀬戸さん兄妹以外のキャスティングについても、お伺いしておきたいのですが。

KERA:まず、鈴木慶一さんとはそもそも80年代からのお付き合いになる大先輩で、僕とは“No Lie-Sense”という音楽ユニットももう10年以上一緒にやっていますし。僕が監督した映画(『1980』)などにも出ていただいたりしていたので、どこかのタイミングでぜひ舞台にも出ていただきたいなとは思っていたんです。最近では慶一さん、映像の仕事もいろいろされていましたしね。

――それで、今だ!と?

KERA:そう思ってお声がけしたら、2026年は慶一さんが所属されているバンド、ムーンライダーズの50周年で、記念のアルバムを作ったりライブがあったりする、大変な年だったという。

緒川:ですから「2026年は無理だよ」と仰られたら、引き下がるつもりでいたのですが。

KERA:ありがたいことに「やる」と言ってくださって。

緒川:前向きに考えてくださるのなら、きっとここがいいタイミングだったということなのかな、と。

KERA:だけど、いざ公演が近くなってきたらセリフの量に不安を感じていらっしゃる様子だったので「いや、そんなに喋る役ではないですよ」と言っておきました(笑)。

緒川:「決して負担はかけませんから」というお約束になっております!(笑)

KERA:赤堀とは、もう何作品も一緒にやらせてもらっていて。僕、もともと作・演出家でもある役者さんに出ていただくのが大好きなんですよ。これまで、赤堀のほかにもマギーとか根本(宗子)とか宮藤(官九郎)とかにも出てもらってきましたけど。

緒川:木野花さんもね。

KERA:作・演出をやっている人間が座組にいてくれると、味方がいてくれるようでなんだか安心できるんですよね。それに赤堀は何しろ芝居がうまいし、存在に説得力がある。あと今回のキャストの顔ぶれで面白いなと思ったのは、緒川さんは清水伸さんと慶一さんとさおりちゃんとは初共演だけど、それ以外の方々とはご一緒した経験があって。でもキャスト同士はそれぞれ、共演経験がほとんどないんじゃないかなと思うんですよ。

――確かKERA・MAPの『あれから』(2008年)で、赤堀さんと萩原さんは共演されていますね。

KERA:そうだった、そうだった。ということは、すごく久しぶりの共演になるのか。聖人も僕の作品には何本も出てもらっていて、特にさっき言っていた“岸田國士一幕劇コレクション”には2本とも出てくれているから心強いです。さおりちゃんと清水さんとは、今日の時点では実はまだあまり話をしたことがないんですよ。清水さんは大根仁監督の『地面師たち』に出られているのを観た時に、なんだかずっと彼ばかり目で追ってしまっていた。そうしたら、ニトリのコマーシャルに出ているあの人だ!と気づいて。俺が以前から「この人、面白いよね、器用そうじゃない?」って言ってたの、覚えてる?

緒川:覚えてますよ(笑)。

KERA:「ふくふくや」という劇団に所属されているというので、舞台も観に行かせてもらいました。さっきちょっと本人に聞いてみたら、ニトリのコマーシャルのイメージに準じた三枚目のキャラクターを演じることが比較的多いそうなので、だったら今回はそうしたイメージとは違う役がいいのかな、と思いました。まだわからないけどね。そして、さおりちゃんにはどういう役を演じてもらうか、今回女性は2人しか出ないのでどんな感じにしたらいいかなと悩んでます。でも彼女は次から次へと舞台出演が続いていますし、かなり振り幅のある役をやっていらっしゃるので、今回ご一緒できることはすごく楽しみにしているんですよ。

――瀬戸さんは、この共演陣の顔ぶれについては今、どんな思いがありますか?

瀬戸:いやあ、もう本当に初めましての方ばかりなので。

KERA:そうか、萩原とも初共演なんだっけ?

瀬戸:そうなんですよ。チラッとご挨拶程度はさせていただいたことありますけど。

――初めましての方と、兄妹がいる座組というのも。

緒川:なかなか面白い経験ですよね(笑)。

――瀬戸さんはケムリ研究室の公演はご覧になっていますか。

瀬戸:はい。最初の『ベイジルタウンの女神』を拝見しています。

KERA:2作目の『砂の女』も観てなかったっけ?

瀬戸:あ、それも観ていますね。

――ケムリ研究室の公演に出るとなると、他のKERA作品ともちょっと違う感覚なのかなと思いますが。

瀬戸:確かに、なんだかスペシャルな感じがします。KERAさんだけでなく、たまきさんの視点が加わってくるわけで、またちょっと違う方向からの演出になりそうですし。月並みな意気込みになりますけど、今回もなんとか期待に応えられるようにがんばりたいと思っています。特に自由な発想で取り組みたいというのは、自分としては毎回大切にしている部分でもあるので、この作品を通してまた改めて、その自由な発想の大切さを感じられそうだと思っています。

――ちなみに、現時点では瀬戸さんはどんな役になりそうでしょうか?

KERA:うーん、具体的にはまだまだですが、とはいえ役どころとしては限定されると思うんですよね。つまり赤堀と緒川さんの兄妹がいて、二人とも独身で。となると、それぞれに恋愛の相手がいるわけですから。

――そういう話になりそうなんですね。

KERA:今、考えているのは構造的にはできるだけ月並みな物語にしたいのでね。

――そこから想像すると、緒川さんの恋人になる可能性が高い、と。

KERA:なんとも言えない。もしかしたら聖人と瀬戸が……。

――二人共、お相手候補になるのかもしれない?

KERA:いや、まだわからないな。慶一さんかもしれないし。

――それはそれで面白そうです。果たして本番ではどんな設定になっているか、今から楽しみにしています!

取材・文=田中里津子

公演情報

ケムリ研究室 no.5 『サボテンの微笑み』
 
【作・演出】ケラリーノ・サンドロヴィッチ
【出演】緒川たまき 瀬戸康史 瀬戸さおり 清水伸/
    赤堀雅秋 萩原聖人/
    鈴木慶一

 
【公演日程】2026年3月29日(日)〜4月19日(日) シアタートラム
【東京公演一般発売】2026年2月14日
※4~5月 兵庫・豊橋・北九州・新潟公演あり

 
【お問い合わせ】キューブ 03-5485-2252(平日12:00〜17:00)
【企画】ケムリ研究室(ケラリーノ・サンドロヴィッチ+緒川たまき)
【製作】キューブ
 
公演の最新情報はこちら→ https://www.cubeinc.co.jp/archives/theater/kemuri-no5
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