上野の森に冴羽リョウ現る! 作品史上最大の展覧会『シティーハンター大原画展』レポート

2025.12.5
レポート
アニメ/ゲーム
アート

『シティーハンター大原画展』

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世界中で多くのファンに愛され続けている、トレンディで“もっこり”で、最高にカッコいいアクションコメディ『シティーハンター』。『週刊少年ジャンプ』にて1985年から1991年まで連載された本作は、2025年にめでたく連載40周年を迎えた。その節目を記念した原画展『シティーハンター大原画展~FOREVER, CITY HUNTER‼~』が、2025年11月22日(土)から12月28日(日)まで開催中だ。

上野の森美術館の外壁にも、巨大な伝言板が!

会場となる上野の森美術館には、作者・北条司による手描きのモノクロ原稿やカラーイラストが一挙に400点以上も集結する。さらに会場では、原画の展示のみならず、作品を再現したフォトスポットや、オリジナルグッズショップも登場。誰もが名場面・名セリフに想いを馳せ、『シティーハンター』の世界に没入することができる胸熱企画なのだ。

新宿の街並みをイメージした導入部分。奥には「XYZ」と記された伝言板が。

この記事では、開幕前日に開催されたメディア向け内覧会での写真とともに、会場の雰囲気や展示の見どころをレポートしていく。なお、主人公の冴羽リョウのリョウは、けものへんに「僚」のつくりが正式表記である。

今こそ振り返りたい、始まりの物語

展示風景

展示は全7章で構成され、『シティーハンター』の物語と足並みを揃えて展開する。プロローグの伝言板を抜けた先、冒頭で来場者を迎えるのは記念すべき第1回のカラー扉絵である。新宿の街明かりを思わせる青〜紫のグラデーションが美しく、すでにこの時点で作品の持つ色っぽいムードが完成されているようにも思える。40年前に描かれたイラストにもかかわらず、作者の北条司によるテクニックの解説や、当時編集者からこんなふうに言われた、などのエピソードを語るコメントが添えられているのも興味深い。会場のあちこちに作者コメントが散りばめられているのは本展の大きな楽しみどころなので、小さなキャプションパネルを見つけたらぜひ注目してみてほしい。

展示風景より

こちらは後にリョウの最高の相棒となる、槇村香。初登場シーンでは男(イケメン)と間違えられるほどボーイッシュに描かれている。全336話の中で最も劇的なのは、彼女の変化とも言えるのではないだろうか。

展示風景より

何気ない一コマの背景でも、ホワイトを駆使して高層ビルの窓が描かれていたり、トーンを削って低い雲が表現されていたりと見どころが多い。こういった描き手の手作業の痕跡をはっきりと感じられるのも、原画展ならではの喜びである。

展示風景

序盤でもとりわけ印象的な、バディ・槇村との別れのシーンを展示する一角は、特別に雨音とともに鑑賞できるようになっている。名シーンのハードボイルドな空気に浸ってほしい、という思いを感じる心憎い演出である。

物語を彩る女たちと、レオタード

展示風景

さらに進むと、作中に登場する数々の依頼人たちをアイドル名鑑風にコレクションした展示エリアが。『シティーハンター』では主人公が基本的に美人の依頼しか受けないため、依頼人=各エピソードのマドンナである。抱えた事情も職業も様々な美女たちを、象徴的シーンの原画やカラーイラストで一気に振り返っていく。

展示風景より

例えばこちらは、“空とぶオシリ”の異名を持つ女子高生怪盗・麻生かすみのエピソード。テンポよく登場するレオタード姿のリョウにニヤニヤしてしまう。レオタードやタイツの質感を表現するためのトーンの削り作業は、「アシスタントがやりたがらない」ため常に北条司本人が手掛けたという繊細なテクニックなのだとか。作中で頻繁に出てくるピチピチした衣装には注目である。

展示風景より

数ある中でも個人的に大好きなレオタードシーンはこちら。レギュラーメンバーの女刑事・野上冴子のレオタード披露シーンである。バンッ! の効果音とともに溢れ出す自信が凄まじく、見ていると何故か元気が出てくる。

展示風景より

ピチピチした衣装の話ばかりで恐縮だが、その質感へのこだわりは女たちの魅力が凝縮されているポイントなので、どうしても見てしまう。ブロードウェイのミュージカル映画をイメージしたというこのカラーイラストでも、依頼人のダンサー・次原舞子のタイツに釘付けである。また、背後のダンサーの色塗りも隙のない細やかさ。改めて、多忙を極める週刊連載のスケジュール中でこんな扉絵が生み出されていたなんて衝撃である。

なんと等身大! 喫茶「キャッツアイ」にリョウが登場

展示風景

そして本展の大きな見どころのひとつは、クラウドファンディングによって実現した「喫茶キャッツアイ」および「そこでくつろぐ等身大の冴羽リョウ」の展示だ。なんと横に座って、またはカウンター内に入って一緒に写真撮影も可能。リョウの隣に腰掛けると、胸板や筋張った手首のたくましさが感じられてクラクラである。

ふたりの微妙な関係に胸が高鳴る

展示風景

展示中盤にさしかかると、リョウと香の関係性に焦点が当てられていく。特に人気が高いという「第249話 都会のシンデレラ!!」の原画エリアは、紗幕を使った気合の入った演出で彩られ、バックには汽笛の効果音が流れて気分を盛り上げてくれる。

展示風景より

作者自身が「自然と少女漫画っぽくなっちゃった」と語るこのエピソード。せっかくのチャンスなので、香の瞳に映るリョウの優しい目の、その瞳の奥まで……印刷に乗り切らないであろう微妙な筆使いまで、ムードに浸りながらじっくりと鑑賞したい。

展示風景

原画展ならではの注目の鑑賞ポイントがもうひとつ。「第300話 おまえへの……」の展示エリアで見られる、リョウの発した「愛」の文字の下半分が消えた衝撃の原稿だ(手作業で切り取られた「愛」の写植にぜひ注目を)! ふたりがついに真のパートナーとなる感動的な瞬間に、肝心なセリフを噛んでしまうリョウ。どんな銃撃も外さないのにココは外すんだ……という、リョウの想いの強さや人間らしい緊張が現れた名シーンである。このあとの「あ……」「あっ」「あ?」といった「あ」の文字だけを使ったやりとりの連続は、漫画ならではの演出として、作者がここぞというシーンのために温めてきた表現方法なのだそうだ。

決戦、そして……

展示風景より

いよいよ展示は終盤のエピソードに入る。因縁の相手との対決シーンの、躍動感あふれる見開き原稿には特に目を奪われる。勢いよくすれ違いながら撃ち合う一瞬の、音も風も煙の匂いも、一枚の絵の中に凝縮されているようだ。集中線の中に溶けていく両者の手の残像がカッコいい。

展示風景

そして戦いのあと、展示室の奥には「第316話 生きる約束!!」の原画とともに、リョウと香のガラス越しのキスシーンが再現されている。作中屈指の名シーンであり、このシーンが一番好き、という人も多いのではないだろうか。

展示風景より

そして展示は物語のフィナーレへと続いていく。豊富なカラーイラストや、香の気分で「リョウの目になって照準を合わせるフォトスポット」など、見どころが多い。最後の敵を倒したあとの、光さす湖畔で寄り添うふたりの見開き原稿もまた、必見である。最後の最後まで気が抜けないので、個人的には鑑賞時間は2時間以上見積もっておいた方がいいのではないかと思う。

シティーハンターよ永遠に

展示風景

展覧会の最終エリアには、北条司によるカラーイラストのメイキング動画や、一万字に及ぶロングインタビューが公開されている。これがまた、いずれもびっくりするほど骨太な展示なのである。薄いカラーインクを塗り重ねて柔らかなグラデーションを作る技法や、メリハリを意識したカメラワーク(画面構成)、連載当時の正直な心情など……『シティーハンター』の創造の核心に迫る情報が満載だ。ぜひ気合いを入れ直して、がっつり向き合ってみることをおすすめする。

さらに現地で嬉しい驚きだったのは、『シティーハンター』を愛する各界クリエイターたちから寄せられた「40周年お祝い色紙」の数々だ。TM NETWORKからの熱いメッセージや、井上雄彦の描く冴羽リョウなど、非常に贅沢な展示となっているのでお楽しみに。

展示風景より

最後には「最終巻モーションコミック(漫画に生き生きとした動きを持たせたムービー)」や「スペシャルシアター」といった映像展示も。「スペシャルシアター」では TM NETWORKの名曲「Get Wild」に乗せて、たっぷりと物語の余韻を楽しもう。『シティーハンター』のアニメでイントロが聞こえてきたときのように、この『シティーハンター大原画展』もまた、この曲で美しく自然にエンディングを迎えるのである。

超充実のオフィシャルグッズに感動

公式版画(税込¥66,000〜¥165,000)、複製原画3Pセット(税込¥4,620)

オフィシャルグッズストアの充実ぶりもまた特筆すべきものがある。中でも、珠玉のカラーイラストを版画化したものの受注販売や、何度でも眺めたい名シーンの複製原画3Pセットには心惹かれる。複製原画セットには「ガラス越しのキス」「リョウのバースデー」「墓場の決闘」などの印象的なシーンのほか、「槇村秀幸セット」「野上冴子セット」などもあるのが嬉しい。

オフィシャルグッズストア

本展で展示された原画+一万字インタビューを収録した分厚い図録(税込¥3,850)は、ファンならぜひ手元に置いておきたい一冊。特に心に残ったイラストを気軽に自宅に持ち帰れるよう、ポストカードもかなり網羅的に作られている。さらに展覧会オリジナルグッズとして、定番のアクリルもののほか「100tハンマー型マドラー」(税込¥1,210)「(喫茶キャッツアイの)コーヒー風バスパウダー」(税込¥660)、「もっこりステッカーコレクション」(税込¥400)などなど、茶目っ気たっぷりのアイテムが豊富に揃っている。自分の来場記念だけでなく、『シティーハンター』好きの誰かにもプレゼントしたくなるラインナップだ。来場前に気になる方は、展覧会公式サイトのGOODSページをチェックである。

マグネットシート(税込¥660)

個人的にグッと来たのはこちら。よくポストに投函されている広告マグネットシートを模した、「SAEBA商事」「喫茶キャッツアイ」「解体屋(槇村香)」のマグネットシートである。さりげなく、冷蔵庫なんかに貼ってニヤニヤしたいアイテムだ。

お腹いっぱい大満足

『シティーハンター大原画展~FOREVER, CITY HUNTER‼~』は、正直言って、どこをハイライトとして紹介したらいいのか悩むくらい、見どころ満載・出し惜しみなしの展覧会だった。このレポートで触れたのは内容のほんの一部に過ぎない(例えばフォトスポットひとつとっても、このほかに「射撃場」「100tハンマー」などがあった)。『シティーハンター』という魅力あふれる作品があって、それを愛するファンたちがいて、ガッツみなぎる展覧会関係者がいて、それで実現した幸福な機会なのだろうと思う。しかも会場はこれだけ作品愛に満ちているというのに、とにかく絵そのものが美しいため、もはや『シティーハンター』を知らなくても楽しめそうなのがすごいところだ。

展覧会描き下ろしイラストを使ったフォトスポットも

『シティーハンター大原画展~FOREVER, CITY HUNTER‼~』は、上野の森美術館にて、2025年12月28日(日)まで開催中。


文・写真=小杉 美香

イベント情報

『シティーハンター大原画展~FOREVER, CITY HUNTER‼~』
開催期間:2025年11月22日(土)~12月28日(日)
開場時間:10:00~17:00 (最終入場 16:30)
会場:上野の森美術館(東京都台東区上野公園 1-2)
当日券:一般 2,900円 小・中学生 1,100円