ゴッホ兄弟が持っていた歌川広重の版画が神戸に、ゴッホと浮世絵の関係を『大ゴッホ展』担当学芸員が解説(オフィシャルリポート)
神戸市立博物館(神戸市中央区)
11月26日(日)から2026年2月1日(日)まで、神戸市立博物館にて新たに「北斎と広重」とコレクションが展示されている。
『大ゴッホ展 夜のカフェテラス』を開催中の神戸市立博物館。ファン・ゴッホが浮世絵の影響を受けたことはよく知られるが、同展示では「夜のカフェテラス」とのつながりを想起させる歌川広重の版画がお披露目となる。神戸市立博物館の塚原晃学芸員からオフィシャルリポートが到着したので紹介する。
■ゴッホと浮世絵
「夜のカフェテラス」の作者、フィンセント・ファン・ゴッホ(1853〜1890)は、日本に強いあこがれを抱いていたことでも知られています。1880年代のパリでは、日本から輸入された美術品への嗜好、ジャポニスムが一世を風靡し、ファン・ゴッホも1886年のパリ移住と相前後して浮世絵版画に注目し始め、弟のテオとともに収集し、現在そのコレクションはアムステルダムのファン・ゴッホ美術館に伝存しています。
■北斎と広重
言うまでもなく葛飾北斎(1760〜1849)と歌川広重(1797〜1858)は、江戸時代後期の浮世絵を代表する絵師ですが、その名声は日本だけにとどまりませんでした。その浮世絵版画は、従来の西洋絵画には見られない、意表をついた構図と清新な色彩感覚により、特に1880年代のパリで広く愛好されるようになりました。ファン・ゴッホもその作品を敬愛し、「夜のカフェテラス」にも、歌川広重の作品からの影響が指摘されています。今回の展示では、神戸市立博物館所蔵品から、北斎・広重の浮世絵版画を紹介します。
■歌川広重「猿わか町よるの景」とは?
フィンセント・ファン・ゴッホの傑作のひとつ「夜のカフェテラス」。その基調となっているのは、夜空の青色と、カフェの黄色い灯りの対比で、西洋絵画の夜景表現としてはかなりカラフルな、斬新な表現が目を引きます。
この作品の構図は、歌川広重「名所江戸百景 猿わか町よるの景」の影響を受けたとも言われています。大通りのはるか奥に設定された消失点にむかって、町並みが直線的に収斂(しゅうれん)していく、線遠近法によって構図を組み立てています。その中に、藍色の空と、月に照らされた地面、その上を行き交う人々などが描きこまれています。
歌川広重画「名所江戸百景 猿わか町よるの景」安政 3 年 (1856) 以降 、 紙本木版色摺 、 神戸市立博物館蔵
ファン・ゴッホはこの版画について手紙で言及していませんが、「夜のカフェテラス」を描くにあたって、参照していたとしてもおかしくない要素を持ちます。
「名所江戸百景」は全120図からなる、広重の晩年を代表する揃物で、江戸で好評を博したばかりではなく、フランスでも画家たちが多く参照しました。そのうち、神戸市立博物館所蔵の「猿わか町よるの景」は後版(初版で人気が出た浮世絵版画を、版を新たにして増刷したもの)ですが、初版・初摺の風情をよく伝える良質な1枚です。本図の夜空の藍色に見える版木の木目は、ファン・ゴッホ兄弟が収集したとされる1枚(ファン・ゴッホ美術館蔵)と同一のものです。
神戸市立博物館 塚原晃 神戸市立博物館 コレクション展示室
ファン・ゴッホ兄弟も「猿わか町よるの景」の版画を所持していたとなると、いろいろと想像が膨らみますね。ファン・ゴッホの「夜のカフェテラス」と、歌川広重「猿わか町よるの景」をじっくり見比べる好機です。この機会にぜひ神戸へお出かけください。
神戸市立博物館 大ゴッホ展展示室
『大ゴッホ展 夜のカフェテラス』は2026年2月1日(日)まで神戸市立博物館にて開催。はイープラスにて販売中。
イベント情報
会期:2025年9月20日(土)〜2026年2月1日(日)
会場:神戸市立博物館
神戸展公式サイト:https://www.ktv.jp/event/vangogh/
コレクション展示(2025年11月26日〜2026年2月1日)
大ゴッホ展の入場券の提示で、一般200円、大学生100円でご覧いただけます。
(通常料金一般300円、大学生150円)
神戸市立博物館サイト:https://www.kobecitymuseum.jp/