稲垣吾郎、自分に合っていると感じる役柄とは 才人ノエル・カワード作『プレゼント・ラフター』に挑む心境を語る

インタビュー
舞台
19:00
稲垣吾郎

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劇作家、脚本家・演出家、映画監督であり、作詞・作曲も手がけ、自ら俳優・歌手として舞台に立つなど多彩な活躍で知られるイギリスの才人ノエル・カワード。1942年に初演された際にはカワード自身が主人公のスター俳優ギャリーを演じた『プレゼント・ラフター』が、稲垣吾郎主演で26年2月にPARCO劇場、~3月に京都、広島、福岡、仙台にて上演される。孤独と老いへの恐れを抱えるギャリーの家に、個性的な人々が次々と訪れ、巻き起こる騒動を描く作品だ。稲垣に作品への意気込みを聞いた。

ーー戯曲の感想をおうかがいできますか。

80年以上も前にこんな作品を書いて上演していたなんてすごいですよね。初演は1942年だけど、書かれたのは1939年で、当時イギリスは戦争中。そういう時代だからこそこういうコメディが必要とされたのかな、当時の人がどんな思いでこの舞台を観ていたのかなって想像してしまいます。演劇の中だからできる話ですよね。リアルでこんなことをやったら今の世の中、いろいろと大変ですからね。

稲垣吾郎

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ーー主人公、女性をお持ち帰りしちゃったりしますからね。

家がギャリーさんハウスみたいな感じで、共同生活しているわけじゃないけどそこにマネージャーとかいろんな人がやってきて。この時代の芸能人ってこんな感じだったんですかね。辛辣かつコミカルに描かれていておもしろいんです。ノエル・カワードの戯曲が基になった映画『逢びき』は昔見ましたが、彼についてもこれから勉強していこうかなと。半年くらい大エンターテインメント作品『ハリー・ポッターと呪いの子』の舞台に立っていましたが、ちょっと気分が変わる感じですよね。翻訳もののストレートプレイ、久々のPARCO劇場の舞台でわくわくしていて。以前、『ヴィーナス・イン・ファー / VENUS IN FUR』という翻訳の二人芝居に出たんですが、すごくおもしろかったんです。そのとき僕が演じたのは演出家で、オーディション会場で繰り広げられる、ちょっとSMみたいな関係性で、パワーバランスが変わっていく展開がスピーディーな会話劇だったんです。それもあって、シンプルな会話劇もまたやってみたいと思っていました。ウィットに富んだラブコメだし、僕に合ってそうですよね。プロデューサーだったらこれ、確かに僕にやらせます(笑)。あと、俳優という役が何かおもしろい。すごく自意識の塊で気分屋で神経質で、プライベートでも役を演じちゃう、そういうところも俳優としてわからなくもないし。

ーーご自身に合いそうと思われる理由は?

俳優の役で、どこか偏屈なところもあって、孤独でいたいんだけどちょっと淋しがりなところもあって、人にいい顔しちゃったり、ちょっと人たらしなところもあって。ラブコメで、ラブの部分もあるけれども、何か、すごく色恋ものっていうよりも、自分が人にモテていたいみたいな感じなんですよね、この人。そういうところ、わからなくはないなと思ったり。俳優ならでは、有名人ならではの孤独な部分っていうのも、僕自身は孤独はそんなに感じたりはしないんですけど、観る人が僕を投影しやすいというか、観やすい設定ではありますよね。自分のことを語るのは難しいんですけど、何だか、パブリック・イメージ的に稲垣吾郎に合いそうじゃないですか(笑)。逆にそこに落とし穴があるかもしれませんけど、稽古でゆっくり作っていければいいかなと。おもしろいですよね、このキャラクター。すぐイラッとしたり、すぐ機嫌が戻ったり、そういうところもかわいらしいし。誰にでも愛されたいあたりは、そういう俳優の性ってあるかもしれないし、わからなくはないです。自分にもそういうところはあるかもしれないですね。ギャリーさん、せっかちだしね。あんまり認めたくないけど、何か不思議と、すごく自分を見ているような感じがして(笑)、やられたって感じですよね。

ーー戯曲を読んでいて、早くも稲垣さんの声で聞こえてくる感じがしました。

最初に読むときはさすがにないですが、自分が演じることを念頭に読んでいると、自分でもそういうことはありますね。初めて本読みをしているといろいろと見えてくるものも多いですし。

ーー作品でおもしろいと感じられたポイントは?

一つの場所で同時にいろんなことが起きて、同時にいろんな感情が渦巻いているのがおもしろいですね。気分も結構コロコロ変わっていく。バタバタ感もあって、観ている方はけっこう翻弄されてしまうようなところもいいのかなって。キャラクターがみんな、裏が含みとしてあるのもコミカルでおもしろいですね。言っていることも、皮肉ばっかりだったりしますからね(笑)。本音なのかどうか、わからない。主人公も日常なのにどこか演じているところもあったりして、「演じないで」って言われたり、自分でも演じているのか自問自答したり、そのあたりのおかしみですよね。ただ、会話のスピード感とか、難しいです。切り返しも感情の切り替えも早いし、登場人物も多いし、観る方には素直に笑ってもらえると思うんですけど、みんなで話し合って足並み揃えて稽古をしていかないと間違っちゃう気がするので、ハードルは高いかもしれないという思いはありますけどね。すごくぎゅっと詰まっている感じの作品で、膨大なセリフ量ですから。

稲垣吾郎

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ーーご自身でも、稲垣吾郎を演じてしまった、みたいなときってありますか。

ありますね。でも、それってみんなあるんじゃないかな。そこが人間らしいなと思いますし、それを無理に避けようとも思わないです。いろんな自覚があった方が人っておもしろいんじゃないかな。

ーー翻訳劇についてはいかがですか。

忠実に翻訳したとき、現代的な言い回しとしてどうなのかとか、日本人の感覚的にこうは言わないよねとかありますよね。ジョークの感覚とかも、イギリス人と日本人とでちょっと違うじゃないですか。『ハリー・ポッターと呪いの子』でも、言葉の響きがおもしろいから笑いが起きるのに、翻訳するとそのおもしろさが伝わらなかったり。でも、原文に敬意を払って、理解できないことも守ってまじめに粛々とやっていく、翻訳の縛りをマゾヒスティックに耐えて耐えていくことによって見えてくるものもあるので、そこはすごく楽しみですね。

ーー主人公は孤独感や歳を重ねることへの怖れにちょっと振り回されている感じがありますが、そのあたりご自身はいかがですか。

歳を重ねると誰でも、昨日の自分と違ったり、去年の自分と違ったりっていうことはありますからね。それを認めたくなかったり、認めざるを得なかったり。ギャリーさんの言っていること、俳優としてわからなくはないなと思います。でも、逆らえないものには逆らえないし、そこで努力してなるべく自分の理想を追い求めていく、常にその時の自分のベスト、自分を理想的な自分に仕立て上げていくっていう努力はしなきゃいけないと思う。孤独を抱えたりするからにじみ出る俳優の魅力もありますしね。幸せな人とか、何もかも満ち足りている人の演技はあまり観たくないじゃないですか。作品にしても音楽にしてもそうですよね。そうやってちょっと乾いてないといけないなって思う自分もいたりするので。主人公の孤独については稽古に入ってみないとわからない部分もありますけど、アフリカへ行くのがいやだとかダダこねるところとかありますが、そういう部分もおもしろいです。あれ、すごく僕っぽいですし(笑)。言いそうですから。人前ではポーカーフェイスで、言える人には言う、みたいな。人間味あふれてていいですよね。ノエル・カワードさんはこういう人だったんですかね。自分を投影して書いたみたいな感じですもんね。

稲垣吾郎

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ーー稲垣さんはちょっとひねくれたところのある役柄を多く演じられている印象があります。

多いですね。そう見えるんだろうなとも思うし、でも、そんなに思慮深くないし、シンプルな人間だから嘘をついているみたいで申し訳ないなと思ったり。おだやかに、考えすぎないで生きているところがあるのに、何か、眉間に皺寄せてる役が多い。でも、口ではそう言っていても本当はそういういうところもあるのかなと思ったりするからおもしろいですよね、自分を客観的に見るっていうのは。特に演劇って、コメディだって悲劇だって喜劇だって、だいたい主人公が苦悩するからおもしろいんじゃないですか。そこはちゃんと苦悩が似合う人間でないといけないのかなと思ったり。確信犯的に客観視して楽しむ、そういうところが僕にはありますね。どこか冷めた自分がいないといけないのかなと思ったり。でも、熱くなって無我夢中な人間に人は感動したりもするし、心を奪われたりもする。そういう俳優が評価されたりもするので、自分はダメなんだなと思ったりもします。来世ではそういう俳優になります(笑)。でも、そういう役が来る傾向、そういう役を演じさせてみたいって思ってくれることが本当にありがたいし、そうでないと始まらない仕事ですからね。この役、稲垣さんをイメージしてたんですっていう言葉をいただくと、本当にうれしいです。

ーーノエル・カワードはおしゃれな人としても有名だったそうで、今回の主人公もガウンを17着もっていたりする人です。

あれを僕に言わせるのがおもしろいですね。僕もガウンは着ますけど、17着はさすがにもってません(笑)。ノエルさんって部屋着もすごくこだわっていたみたいで、そういうところは見習いたいですよね。部屋で人が見てないといいやってなったりするから。資料を見ると、劇作家であり、作詞作曲とかすごくいろんなことをやっていて、バイタリティを感じますよね。ポール・マッカートニーとかデヴィッド・ボウイとか、イギリスの俳優さん、アーティストたちが、ノエルさんのことを尊敬しているみたいですよね。

ーー今回久々にPARCO劇場の舞台に立たれます。

新しくなってから立つの、初めてなんですよ。前の劇場には20代のころから立っていて、思い出があって。新しくなってからも観に行ってて、いい劇場だなと。PARCOも好きでよく行くんですが、飲食もアパレルもあって、すごく生き生きしてるなと思いますね。『プレゼント・ラフター』はラブコメディで、おしゃれな感じで、すごくPARCO劇場っぽい作品ですね。

稲垣吾郎

稲垣吾郎

 
スタイリスト:黒澤彰乃
ヘアメイク:金田順子

 
 

取材・文=藤本真由(舞台評論家)  撮影=福岡諒祠

公演情報

PARCO PRODUCE 2026『プレゼント・ラフター』
 
作 ノエル・カワード
翻訳 徐賀世子
演出 小山ゆうな
出演 稲垣吾郎/倉科カナ 黒谷友香 桑原裕子 望月歩 金子岳憲 中谷優心 白河れい/浜田信也 広岡由里子
 
ハッシュタグ #プレゼント・ラフター
 
■東京公演
日程:2026年2月7日(土)〜2月28日(土) 
会場:PARCO劇場(渋谷PARCO 8F)
入場料金(全席指定・税込):12,500円/
※未就学児入場不可
一般発売日:発売中
に関するお問合せ:サンライズプロモーション0570-00-3337(平日12:00~15:00)
公演に関するお問合せ:パルコステージ 03-3477-5858 https://stage.parco.jp/
 
■京都公演
日程:2026年3月4日(水)〜3月8日(日)
会場:京都劇場
入場料金(全席指定・税込):12,500円
※未就学児入場不可
一般発売日:2026年2月8日(日)
お問合せ:「プレゼント・ラフター」京都公演事務局 0570-055-099(12:00~17:00 ※土日祝は休業)
 
■広島公演
日程:2026年3月14日(土)〜3月15日(日)
会場:JMSアステールプラザ 大ホール
入場料金(全席指定・税込): 12,500円/U-306,000円 ※観劇時30歳以下対象/要身分証明書(コピー・画像不可、原本のみ有効)、当日指定席券引換
※未就学児入場不可
一般発売日:発売中
お問合せ:キャンディープロモーション  082-249-8334 (平日11:00~17:00)
 
■福岡公演
日程: 2026年3月20日(金・祝)〜3月22日(日)
会場:福岡市民ホール 中ホール
入場料金(全席指定・税込): 12,500円
※未就学児入場不可
一般発売日:発売中
お問合せ:BASE CAMP 092-406-7737(平日12:00~17:00)
 
■仙台公演
日程:2026年3月28日(土)〜3月29日(日)
会場:電力ホール
入場料金(全席指定・税込):12,500円
※未就学児入場不可
一般発売日:発売中
お問合せ:仙台放送 事業部 022-268-2174(平日11:00~16:00)
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