ゲームプレイのもう一歩先へ。『シリーズ30周年記念 幻想水滸伝I&II展 ~幻想博物館~』 興奮の鑑賞レポート
『シリーズ30周年記念 幻想水滸伝I&II展 ~幻想博物館~』
2025年12月6日(土)から2026年1月12日(月・祝)まで東京ドームシティのGallery AaMoで開催中の、『シリーズ30周年記念 幻想水滸伝I&II展 ~幻想博物館~』のレポートをお届けする。
徹底して醒めない幻想
まずお伝えしたいのは、この展覧会は一般的なゲームタイトルの展覧会とは大きく異なり、完全に物語の内側からの目線で構成されているということだ。わかりやすく言うなら、制作側・来場側の協同による超本気のロールプレイ(なりきり)に近い。『幻想水滸伝』の世界のどこかにある「幻想博物館」にて、トラン共和国・デュナン共和国の協力のもと実現した、“実際の”英雄たちの武器や装備、歴史資料などを集めた貴重な機会……それがこの展覧会なのだ。
エントランスでは、国立博物館あたりで掲げられていそうな渋いビジュアルがお出迎え。さらに、お決まりの展示物貸出元への謝辞なども掲示されており、ものすごくそれっぽい。
驚くべきことに、ボリュームたっぷりの展示の中で「ゲーム」とか「作品」といった単語はほぼ完全に排されている(『歴史資料』として展示されている制作当時のメモなどに見られるのみ)。大前提としてこの会場は物語の只中にあり、すべては実在の人物・本当にあった出来事なのだ。夢と現実とがつながる、ファンとしては大興奮の空間である。
クールなるイントロダクション
展示風景
展示の導入エリアで、数々の「紋章」が浮かぶ奥に佇んでいるのは……?
ルック等身大立像
クールな目で来場者を迎える、等身大のルック像だ! 石板には『幻想水滸伝Ⅰ』で仲間になる108星の名前が刻まれている。このルックの顔を見ていると「何? 何か用?」というセリフが聞こえてきそうである。本展ではほかにも等身大立像がいくつか登場するが、どれも今にも動き出しそうな“活きのよさ"なので、ぜひ近くで表情に注目してみてほしい。
幻想水滸伝Iエリア
展示風景
まずは『幻想水滸伝Ⅰ』の展示パートだ。改めて見ると、108星が勢揃いするビジュアルだけでちょっと胸が熱くなってしまう。
『幻想水滸伝Ⅰ』メインビジュアル
本展の見どころのひとつは、惜しみなく公開されるキャラクター原画の数々だ。メインビジュアルの原画は30年前に描かれたものとは思えないほど色鮮やかに保たれており、繊細なグラデーションを細部まで堪能することができる。荒くれ者・ビクトール推しの筆者は、たくましく塗り分けられたその上腕二頭筋にもう釘付けである。
展示風景
トラン湖の本拠地を描いたイラストの色使いには思わず息を呑んだ。数ある原画の中でも、会場で実際に見ることができて本当に良かったと思えた一枚である。
展示風景(右手には、親の顔より見たチンチロのサイコロもある)
そしてもうひとつの見どころは、圧巻の“実物展示"である。歴史を紡いだ各キャラクターが装備していた武器・防具などが精細に立体化され、展示されている。正直言って、想像していた数倍の物量があって衝撃を受けた。
展示風景
解放軍リーダーのバンダナと天牙棍。バンダナには戦場で火の粉を受けた煤汚れが残り、棍の先端(突く部分)や中央(握る部分)には劣化が見られたりと、非常に細やかな仕上げがなされている。ひとつひとつの展示品に担当学芸員からの格調高い解説文が添えられているのもまた、没入感を高めてくれているポイントだ。このエリアでは、ほかにもフリックの「オデッサ++」やカイ師匠&パーンの鉢巻などが見られて面白い。
歴史の1ページを目撃せよ
展示風景
こだわりの展示は続く。つい「うおお」と声が漏れてしまうほど心揺さぶられた、こちらの「ソニエール監獄の悲劇」の展示を見てみてほしい。仲間との別れとなる辛すぎるシーンが、“実物"のマント・斧で再現されたこの場の破壊力はすごい。空っぽのマントに、取り返しのつかない哀しみが漂う。
解放軍リーダー等身大立像
さらに奥へ進むと、解放軍リーダーの等身大立像が。
解放軍リーダー等身大立像
バンダナ、腰帯らの風になびく表現が非常に丁寧で、じっと眺めているとこちらまで風を感じるようだ。どの角度から見てもカッコいい「坊ちゃん」を前に、カメラのシャッターが止まらなくなってしまった。一緒に並んで記念撮影もできるので、ポーズを考えておくのが吉である。
展示風景
この章のラストは、『幻想水滸伝Ⅰ』のエンディングで流れる108星たちのその後で締めくくられている。歩いていくドット絵とあわせて、ひとりひとりの人生が続いていくのが感じられて感無量である。
幻想水滸伝IIエリア
展示風景
ここからは後半戦、『幻想水滸伝Ⅱ』のエリアへ。壁面には詳細な人物解説(もちろんこれも博物館風)や原画・複製原画が掲げられている。さらにモニターでは記録映像として名シーンのダイジェストが放映されているほか、多彩な協力攻撃の総まとめ映像も見ることができる。
『幻想水滸伝Ⅱ』メインビジュアル(部分)
『幻想水滸伝Ⅱ』メインビジュアルの原画を、せっかくなので接写してみた。飛行するむささびのフワフワ感まで、手に取るように伝わってくる!
展示風景
傭兵団の獅子の旗の再現には、思わずニヤリ……。天井から吊り下げられたパネルは、人物たちの名台詞の数々だ。右に左に空中に、見るべきものが多くて嬉しい悲鳴である。ふと視線を動かすと、意外なところに忍者のキャラがいたりむささびが飛んでいたりするので気が抜けない。本展は解説パネルによる文字の情報量も多いので、時間に余裕をもって来場されることをおすすめする。
展示風景
さりげなく展示された「歴史資料」もまた、本展の重要な見どころのひとつだ。上の写真はシナリオについての回覧書類で、びっしりと書き込まれた手書きコメントからは製作チームが侃侃諤諤の議論を重ねている様子が伝わってくる。読み込んでいくと、製作陣の葛藤や無数のボツ案も確認することができた。回覧する全員がキャラクターや世界観に強い愛着を持っていなければ、こんな読めないほどの書き込みで一杯にはならないはずだ。作品に込められた想いの強さを改めて感じて、胸が熱くなる展示である。
“実物”の展示だから分かること
展示風景
『幻想水滸伝Ⅱ』のエリアでも、武器や装備品といった迫力ある展示品が用意されている。たとえばこちらは、原画で見たとおりのジョウイとナナミの棍。実際に目にすると、激しい戦いで打撃部分は摩耗しているものの、ジョウイって結構オシャレで高価そうな武器を持ってたんだな……と初めて気がついた。
展示風景
会場では他にもビッキーの「わわわワンド」や新同盟軍リーダーの頭飾り、軍師シュウの伊達男な衣装セットなど、豊富な展示物を見ることができる。中でも、特筆すべきはこの「星辰剣」だろう。完成度の高さもさることながら、キャプションが「星辰剣(レプリカ)」となっているのに感動した。確かに、“実物”の星辰剣だったらここでじっと黙って展示されているはずがない。それで博物館が“レプリカ”を用意したのだろう。このエリアだけ決戦時の戦闘曲が流れているのも心憎い演出だった。
展示風景
新同盟軍リーダーの凛々しい等身大立像も。奥にはマチルダ騎士団のふたりの衣装(実物)が展示されている。博物館長のコメントで後に知ったことだが、マイクロトフやシュウのような丈の長い上衣は、裾やお尻の部分に少しだけ乗馬による劣化がみられるのだそうだ。ぜひ会場で確認してみてほしい。
展示風景
なんと、ハイランド皇王の暗殺に使われたワイングラスまで展示されていてびっくり。これは美術品というよりむしろ証拠品なのでは……。よく見れば赤ワインに混ざって、明らかに色味も粘度も違う別の液体が注がれていたのが分かる。
豚の気持ちになりましょう
さて、いよいよクライマックス。狂皇子ルカ・ブライトの等身大立像の展示は、事前にニュースになっていたため訪れる前から楽しみにしていたポイントだ。決戦時の3つの部隊をイメージした3枚の紗幕を超えて、ついに対面のときである。
展示風景
ルカ・ブライトといざ向かいあうと、とにかく大きい。身体も、口も、マントも、それに多分声も、ものすごく大きい。「デカい」と表現した方が良さそうな、勢いのある大きさである。
ルカ・ブライト等身大立像
おすすめは、床に投影されている紋章のシルエットあたりに四つん這いになって(しゃがみ込んで)下から見上げるアングルだ。こんなにも豚の気持ちを忠実に再現させてくれるフォトスポットがあるなんて……! なお、この展示については「悲劇を多角的に検証し、歴史的教訓として伝えるため、その残虐な姿を等身大で再現したものである」と学芸員からのコメントが添えられていた。なるほど、我々はこの姿から決して目を逸らしてはいけない、のかもしれない。
冒険の始まりと、広がり
最後は「マルチメディア展開エリア」として、これまでに発売された『幻想水滸伝V』までのナンバリングタイトルのほか、これから展開される『幻想水滸伝 STAR LEAP』、舞台「幻想水滸伝-門の紋章戦争篇-」、アニメ「幻想水滸伝」などが紹介される。
展示風景
『幻想水滸伝Ⅰ』発売の2年前に作成された企画・草案書にはぜひ注目を。雰囲気の全く異なる『ルーンメイカー』という仮タイトルだったり、主人公が盗賊団のリーダーの息子だったりと、最初期の設定を垣間見ることができて興味深い。そして細部は違えど、すでにこの段階から「108人のキャラクター」「大きくなるお城システム」「一騎打ちシーン」といった本作らしい要素が登場しており、「大きな歴史の中で、多くの人々が考え、悩み、それぞれの答えをもって精一杯生きている」というストーリーの核心も明記されている。『幻想水滸伝』シリーズとはどんな作品なのかを、改めて教えてくれる資料だ。
展示風景
また、このエリアではゲストアーティストの漫画家・高屋奈月(代表作『フルーツバスケット』)と横槍メンゴ(代表作『【推しの子】』)による、シリーズ30周年を記念した描き下ろしのお祝いイラストも展示されている。両作家の『幻想水滸伝Ⅰ』『幻想水滸伝Ⅱ』への熱いメッセージと併せて、見逃さずチェックを。
愛と


を握りしめて
ミュージアムショップにて
鑑賞後はミュージアムショップへ。気になっていた「トラン共和国銘菓ぼっちゃん団子」(税込1300円)は、残念ながら内覧会時点では未入荷で対面できず……。けれど可愛いビクトール人形(税込3850円)や、幻想博物館オリジナルの世界地図柄エコバッグ(税込2200円)など、心をくすぐるアイテムが多数なので、ぜひ軍資金をたっぷり用意して臨みたいところ! ちなみに、グッズのラインナップは展覧会公式ホームページでもチェック可能だ。
東京ドームシティのビジョン広告では『幻想水滸伝Ⅰ』『幻想水滸伝Ⅱ』の名場面ダイジェストを放映中
本展はシリーズの大ファンの「幻想博物館」館長がKONAMIに企画を持ちかけ、約2年の構想を経て実現したのだという。これだけの規模の展覧会で、すべてを“本当のこと”だとするコンセプトを貫いたのは驚嘆すべきことである。それによって生まれた心の動きは作品をプレイした感動のさらに一歩先へ進んだものであり、個人的にはこういう鑑賞体験のことをこそ、没入と呼ぶのだと思う。そしてその没入感は、きっと同じ空間でそれを分け合う人が多ければ多いほど深まっていくはずだ。それってなんて幸せな現場だろう。今後もどうか、こういった情熱的な展覧会が数多く企画されていきますように。
『シリーズ30周年記念 幻想水滸伝I&II展 ~幻想博物館~』は、2025年12月6日(土)から2026年1月12日(月・祝)まで東京ドームシティ Gallery AaMoにて開催。と『幻想水滸伝』愛を握りしめて、会場へ!
(C)Konami Digital Entertainment
文・写真=小杉 美香
イベント情報
【前期】2025年12月6日(土)~12月24日(水)
【後期】2025年12月25日(木)~2026年1月12日(月・祝)
※前期・後期で展示の入れ替えあり
※開催期間中無休
会場:東京ドームシティ Gallery AaMo(東京都文京区後楽1-3-61)
時間:11:00~20:00(最終入場は閉館の30分前まで)
※12月6日(土)、7日(日)、27日(土)、1月12日(月・祝)の日時指定入場日は、閉館の20分前まで