市川團十郎「歌舞伎を観たいと思ってくださる方に届けたい演目に致しました」~『市川團十郎特別公演』 制作発表レポート

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市川團十郎

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歌舞伎俳優の市川團十郎が、2026年2月~3月に行われる『市川團十郎特別公演』制作発表会見を都内で実施した。

市川團十郎

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本公演で上演されるのは、『源氏物語~夕顔~』『素戔嗚大蛇退治(すさのおおろちたいじ)』『荒事絵姿化粧鑑(はなのえすがたけわいかがみ)』の3演目。

見どころを問われた團十郎は「源氏物語は久しぶりに勤めさせていただきます。最近こういうお役をしておりませんでしたので、その姿を見ていただくのが見どころの一つかなと思います」と語った。

『素戔嗚大蛇退治(すさのおおろちたいじ)』については「須佐之男命(スサノオ)が迦具土之舞(かぐつちのまい)を舞いオロチを退治する物語を舞踊化したものでございます。比較的どなたでも観やすい演劇に仕上がっていると思います」。また、『荒事絵姿化粧鑑(はなのえすがたけわいかがみ)』については「10月の京都・南座では『暫』の拵えが出来上がるまでを舞台上で体現しました。多くの方が「歌舞伎の衣裳ってこういう感じなんだ」と楽しんでくださったようでした。そこで今度は『景清』をご覧にいれることになりました。歌舞伎を初めて観る方にとって、優しい演目に仕上がるのではないかと思っております」と語った。

今回『景清』を選んだ理由については「『暫』は衣裳が重くて大変なんです。『景清』であれば、普通の衣裳でありながら十分面白いということ、そして新しく私が作ったパフォーマンスなのですが、津軽三味線が入るので面白くなるのではないかと考えました。『暫』は私自身の動きが制限されるので、新しい挑戦をしてみたいという思いもありました」とした。

市川團十郎

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今回の公演は、北は北海道、南は山口県まで、21ヶ所を巡る。自身の名前が入った石川県小松市の團十郎劇場うららから公演がスタートすることについて問われると「決して区別をしているつもりはないんですけども……」と前置きをした上で「父である十二代目市川團十郎は、ちょうど私ぐらいの年齢ぐらいから、石川県小松市に対して大変深い意識を持っていました。七代目市川團十郎が能楽作品の​『安宅(あたか)』を『勧進帳』という演目に作り変え、お話しの中に出てくる安宅の関があったのが​石川県小松市だからです」と深い縁を感じていることを語った。

十二代目市川團十郎は、『勧進帳』をいつか小松市で勤めたいと思いつつも病気で叶わなかった。しかし石川県からの指名で、團十郎劇場うららの設計デザインに携わったという。

私が團十郎になる折に、石川県やさまざまな方々のお力添えによって、劇場の名前が團十郎芸術劇場うららになりました。それ以降、私自身も小松市にお邪魔する機会が増えましたし、節目節目ではお伺いしたいという強い思いがある。父の思いでもあるのでつなげていきたい」とした。

市川團十郎

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今回の公演は長きにわたって続いているものだが、そのモチベーションとなっているものは何かと問われると「地方に住んでいる方は、歌舞伎を観たいと思ってもなかなか機会がない。私も若い頃は博多座で公演をすれば、九州全土からお客様が観に来てくださるものだと思っていたが、決してそうではない。さまざまな事情で地元を離れられない方に歌舞伎を観ていただきたいという気持ちが、現在までのモチベーションになっている」と答えた。

地方公演では、観客の喜び方がストレートで距離が近いと團十郎は感じているという。「かつて大好きだった先輩に、地方巡業に来てくださるお客様は反応がいいから、芸が荒れないように気をつけなさい​と言われたことがありました。そういったことを意識しながらも​お客様が歓迎してくださっている状況を受け入れて、集客につながっていくのがいい」と語った。

公演に向けて、改めて意気込みとお客様へのメッセージを求められると「今、歌舞伎が注目されている部分もございますので、普段観てくださるお客様に対してのアプローチ、そして初めて歌舞伎を観る方に対してのアプローチが共有している公演でございます。石川県小松市團十郎芸術劇場うららから、さまざまなところへお伺いし、最後の徳島県・あわぎんホールまで一生懸命努めたいなと思います」と力強く述べた。

市川團十郎

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フォトセッションのあと、続けて囲み取材が行われた。囲み取材で團十郎は、2025年を振り返り自分のペースで歌舞伎に向き合えたと語った。大きな話題となった映画『国宝』にも触れ「歌舞伎を題材にした作品が注目されたことは、歌舞伎俳優としてはとてもうれしいこと」とし、「改めて考え直すことや見直そうと思ったこともあり、今年10月の南座の公演はそういう思いで作らせていただきました」と述べた。その上で来年3月に行われる本公演も「歌舞伎を観たいと思ってくださる方に届けたいという気持ちで演目を並べました。今年は充実した1年だった」と振り返った。

プライベートでは、息子の八代目市川新之助と2人でアフリカを旅行したこと、娘の四代目市川ぼたんと新之助と一緒にハワイ旅行をした思い出にふれた。さらに温泉文化アンバサダーを勤めた関係で、多い時には1日8軒もの温泉を訪れたことにも言及し「多分ここにいる誰よりも温泉に入っていると思います。一番温泉に入った人間として胸を張って生きてきました」と笑わせた。

2026年に向けた抱負を聞かれると「今年と同じようなスケジュールになるので、歌舞伎と向き合う時間が多くなると思います。そうした時間と同じように、子どもたちとの時間も大切にしたい。寂しいけれど子どもが親と一緒にいられる時間は、親が思っているよりも短いといいますから。あと数年かなと個人的に思っています。忙しいですが子どもたちとは、歌舞伎や仕事ではなく、プライベートで思い出になる時間を来年も作っていきたいです」と語った。

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文=咲田真菜 

公演情報

『市川團十郎特別公演』
 
【演目】
一、『源氏物語~夕顔~』
二、『素戔嗚大蛇退治(すさのおおろちたいじ』
三、『荒事絵姿化粧鑑(はなのえすがたけわいかがみ)』
 
【出演】
市川團十郎/大谷廣松 市川九團次 片岡市蔵 ほか
 
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