髙木竜馬、 “人生の悲願”叶えたセカンド・アルバム『Pictures』&6都市ツアーへの想いとは?
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ピアニスト髙木竜馬が、ムソルグスキーの組曲「展覧会の絵」をメインとする、セカンド・アルバム『Pictures』を2026年2月18日(水)にリリースする。「展覧会の絵」は髙木が優勝を果たしたグリーグ国際ピアノ・コンクール(2018)のセミ・ファイナルでも演奏した大切なレパートリーであり、この曲をCDに残すことは「人生の悲願だった」と語る。2月21日(土)からは岡山県立美術館ホールを皮切りにアルバムの収録曲を中心としたリサイタル・ツアーを行う。セカンド・アルバムとツアーについて、髙木竜馬に話をきいた。
「一番大事な曲」を収録した渾身のセカンド・アルバム
髙木竜馬『Pictures』ジャケット写真
――この度、セカンド・アルバム『Pictures』を録音されました。
2枚目のCDを出せたことは率直に嬉しく、幸運だと思います。今回は、ムソルグスキーの「展覧会の絵」を核として、絵画や情景が思い浮かぶような作品を並べました。この曲は僕にとって「一番大事な曲」と言えるもので、それをCDに残すことは、人生の一つの大きなテーマであり、悲願であり、使命だとも思っていました。
加えて嬉しいのは、デジタル配信が増えている今の時代に「CD」という形で残せたこと。CDで育った世代として、これはとても大切なことで、夢でもあったので、それが叶って本当に幸せです。
――メインが「展覧会の絵」ということなのですね。「展覧会の絵」との出会いは?
たぶん、ホロヴィッツの録音だったと思います。魔改造されているホロヴィッツ版が始まりでしたが、ただ、アシュケナージやリヒテルの弾くムソルグスキーの原典版を聴いても、トーン・ダウンしている感じは全くしませんでした。むしろ、原典版の方が魅力的かもしれないと思うようになりました。
演奏は16歳のときからで、ホロヴィッツ版も弾きました。リサイタルでは何度も演奏していますし、コンクールでも弾きました。実は、ウィーン国立音楽大学の卒業論文も「展覧会の絵」の表現方法について書いているんですよ。すごく思い入れのある大切なレパートリーです。
――ウィーン国立音楽大学の卒業論文で取り上げようとされた理由は?
「作曲家についてや曲の分析は、すでに世の中に数多の論文が書き残されているので、自分にしか書けない唯一のアプローチが良いよ」と先輩方にアドバイスをいただいて自分にできることを考える中で、「曲の音楽的な解釈と、それに向けた実践的な表現方法及びその練習方法」からのアプローチに思い至ったんです。ちょうど、グリーグ・コンクールのセミ・ファイナルで弾いたばかりだったので、書きやすいと思い選びました。
「展覧会の絵」はムソルグスキーの“人間物語”
――ピアニストとして、「展覧会の絵」はどういう曲ですか?
ムソルグスキーにとって「展覧会の絵」は、突然変異的にできた凄い作品だと思います。
絵画を描いているので標題音楽的な部分が多いですが、個人的には、この作品はムソルグスキー本人の人間物語だと思っています。当時のムソルグスキーの心象風景が表され、彼の人生史も描いている。ムソルグスキーの作品の中で最も実を伴っていると言える、その理由は、友人ハルトマンとの関係に行きつくと思います。
この曲は、ハルトマンが亡くなって開かれた個展に展示された絵画からインスピレーションを得ています。ムソルグスキーは、ハルトマンが亡くなり、大きな悲しみをもつとともに、親しい友人として何かできなかったのか?という後悔や懺悔の念もあったに違いありません。人類の普遍のテーマである「自分以外の人の死への感情」に一番フォーカスしているのが「展覧会の絵」であり、だから僕はこの作品に一番心惹かれるのだと思います。
「プロムナード」は、絵を見てどう思ったかというムソルグスキーの心象風景で、いろいろな感情が描かれています。冒頭では亡き友人の個展の開催を喜び、「ビドロ」のあとでは虐げられた人への憐れみの心が表れていると思います。
全曲の核は「カタコンベ」~「死者たちとともに、死せる言葉で」です。カタコンベ(墓地)の絵には、地下の墓に骸骨が並んでいて、墓守とハルトマンが描かれているといわれています。ムソルグスキーがその絵を見たときに、骸骨が光を放って、彼に問いかけてきたといいます。そして、ムソルグスキーは、ハルトマンが自分の死を暗示していたのではないかと気づき、大きな衝撃を受けました。それが直接的な創作のインスピレーションにつながりました。
――「カタコンベ」~「死者たちとともに、死せる言葉で」が核なのですね。そのあとに、迫力のある「バーバ・ヤーガー」、「キエフの大門」で締め括られます。
「バーバ・ヤーガー」は日本の山姥のような妖怪で、箒で飛んで人を襲います。ムソルグスキーは神代の時代を大切にしていて、空想ではなく古事記のような国の礎となるものを、時代を越えて「展覧会の絵」に入れようとしたのだと思います。
「キエフの大門」では、大切な「プロムナード」のテーマが「プロムナード」以外で初めて出てきて、大門のテーマと結びつく。ハルトマン(注:絵画)とムソルグスキーの魂(注:プロムナード)がつながるのです。
――アルバムには、「展覧会の絵」以外にも収録されています。他作品について教えてください。
僕にとってグリーグは大事なので(注:2018年のグリーグ国際ピアノ・コンクールで優勝している)、グリーグの作品(「アリエッタ」と「朝」)を入れました。それから、ドビュッシーの「月の光」と「沈める寺」、そして、ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」は、天を思う曲調が「展覧会の絵」と世界観が似ていると思っています。
グリーグの「アリエッタ」と「朝」は、初めてのレパートリー。「朝」は作曲者自身による編曲です。リサイタルやCDでは、まず、心を落ち着かせるような温かい曲、そして、誘うような曲から始めたいと思い、「アリエッタ」とともに最初に据えています。
ドビュッシーの「月の光」は、弾くたびにいい作品だなと毎回新鮮な感動を覚えます。月を見ている人の人生を映しているようで、月に照らされている人はどういう気持ちなんだろうとか、月を通して波及するいろんな作用に心がいきます。ピアノで弾く際に美しくなるように書かれていて、弾いていて心地よい作品です。
「沈める寺」はリサイタルでは弾かないのですが、神話を基にしていて、ファンタジック。海って、引きつけられるテーマですよね。壮大であり、海底にはどんな世界が広がっているかまだまだ未知数。そんな世界観に心が惹かれます。
ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」は、ラヴェルは特定の名前こそ出していませんが、故人のために書かれたのではないかと思います。現代の喧噪から離れ、時空を越えた感じ。ノスタルジックで、最も大切な記憶を思い返すような曲です。
6か所を巡るツアー。生だからこそ感じられる熱を届けたい
――2月21日からのリサイタルでは、アルバム曲を中心としつつ、収録曲以外からも演奏をされますね。
演奏会の前半は、一日の時の流れを感じていただきたく、グリーグの「朝」からラヴェルの「鐘の谷」の夕暮れ、そしてドビュッシーの「月の光」までを並べました。リサイタルで加えたのはラヴェル「悲しい鳥たち」「鐘の谷」(「鏡」より)そしてショスタコーヴィチの「24の前奏曲とフーガ」です。
「悲しい鳥たち」「鐘の谷」は、リサイタルのプログラムでは特に好きな作品で、深い部分に共鳴するので弾きたいと思いました。「悲しい鳥たち」はタイトル以上のとんでもなく深い世界が描かれています。人間の深い感性、心情に入り込む曲に惹かれている凄い作品だと思います。「鐘の谷」も人の心の深いところに入り込んでいく曲です。
そして、ショスタコーヴィチの「24の前奏曲とフーガ」は前半の最後として演奏します。強靭で荘厳、僕の大好きな曲です。人類史のなかで偉大な作品の一つでしょうし、ショスタコーヴィチの最高傑作であり、彼の作品のなかでもモニュメンタルな作品だと思います。
演奏する第24番は、「24の前奏曲とフーガ」における24曲目、すなわち最後の曲としての役目を一番果たしている曲。弾いていると見たことのない風景が見えて、めちゃくちゃ深い所に行き着きます。特にフーガではとんでもない世界が形成されます。ごうごうと鳴り響く鐘のエッセンスもあって、これは「展覧会の絵」の「キエフの大門」ともつながります。弾いたことはありますが、もう一度ツアーでちゃんと勉強したい、演奏したいという思いと、あのカタルシスを味わいたいという思いもあって、プログラムに入れました。リサイタル前半のメインであり、気合いが入りますし、一番聴いていただきたい曲です。
――今回のツアーでは全国6カ所でリサイタルをされますね。
それぞれに思い入れのある大切な場所です。岡山は、先祖代々のお墓があるゆかりの地で、美術館のホールで「展覧会の絵」を弾くのは夢でした。阿南は、石井琢磨さん、藤川有樹さん、宮田森さんと4台ピアノによる演奏会をしたときに温かく迎えてくださった場所。また戻って来られるのがうれしいです。名古屋は、いつも来てくださるお客様もいらしてアットホームな感覚に包まれます。電気文化会館で弾くのを楽しみにしています。そして東京は浜離宮朝日ホール。最近、「好きなホールは?」ときかれることが多いのですが、僕は浜離宮朝日ホールとサントリーホールが好きです。浜離宮朝日ホールでの特別な時間は、ホールそしてお客さまの力によるものです。千葉は地元ですから、セカンド・アルバムという成果を持って帰れるのはうれしいです。演奏で故郷に錦を飾れるように一生懸命がんばります。京都は、近年、京都市立芸術大学で教えている大事な街。学生や新しく知り合った人に聴いていただけるのが本当に楽しみです。
――改めてアルバム、そしてリサイタルについて読者の方へメッセージをお願いします。
セカンド・アルバム『Pictures』は、響きの素晴らしいサラマンカホールにShigeru Kawaiを入れさせていただいて、ディレクション兼エンジニアの国崎裕さん、調律は深田素弘さんにいらしていただき、本当に理想的な形で録音できました。3日間缶詰で大変ではありましたが、幸せでした。最初に通しで録音を聴いたとき、「夢が叶った」とボロボロ涙が出ました。そんな思いのこもったCDです。自信をもって、僕の「Pictures」ですと出せるものができたという自負はあります。一人でも多くの人に聴いていただきたいと思います。
そして、CDで聴いていただけるのはうれしいですが、やはり、生のコンサートで聴いていただくのが演奏家のゴールです。自分で弾いていても、CDと生とは違うと感じますし、生の演奏は毎回毎回違います。お客さまがいらして初めて完結するのが演奏会です。生でしか発せられないもの、熱があります。そういうものが出せたらいいなと思います。
CDを買ってくださって、その先に演奏会にも来てくださったら、これほどうれしいことはありません。皆様のお越しをお待ちしています。
――ありがとうございました。
【コメント動画到着!】髙木竜馬 ピアノ・リサイタルツアー 2026“Pictures”
取材・文=山田治生 撮影=奥野倫