世界が認めたクラシックギタリスト・猪居亜美が語る、ロックとクラシックの交差点

2026.2.13
インタビュー
クラシック

猪居亜美

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4歳から、父・猪居信之氏にギターの手ほどきを受け、大阪音楽大学に進学後は藤井敬吾、福田進一の両氏に師事し、同大学を首席で卒業した猪居亜美。2022年、世界最高峰のクラシックギター国際コンクールである「第39回GFA(Guitar Foundation of America)ギターコンクール」で、日本人として35年ぶりにファイナリストとなり4位に入賞を果たした。

国際的に高く評価されるクラシックギター界のホープは、ロックミュージック、特にメタルへの敬愛と造詣が深いという横顔も持つ。音楽専門誌「音楽の友」で連載する「猪居亜美のGuitar’ s CROSS ROAD」で、世界をまたにかけるレジェンドバンド・LOUDNESSの高崎晃氏と対談。自らが著した楽譜集ムック『クラシック・ギターで描く、ロックの世界』では、独自のサウンドで音楽ファンから支持される3ピースバンド・MUCCのミヤ氏と対談するなど、ロックファンからの信頼も厚い。

そんな比類なきギタープリンセスが、2月7日、クラシック作品集『BLACK ROSE』と、ロックカバー集『RED ROSE』を同時リリースした。2月21日には、それらの作品を携えたリサイタル『CLASSIC・ROCK同時アルバムリリース記念公演 猪居亜美 CLASSIC×ROCK 2026 ーThe Two Rosesー』(以下、『CLASSIC×ROCK 2026 ーThe Two Rosesー』)を浜離宮朝日ホールで開催する。活躍の場を広げる彼女に、アルバムへの思いやリサイタルへの意気込みを聞いた。

ーーまずは、同時リリースしたクラシック作品集『BLACK ROSE』とロックカバー集『RED ROSE』ついて、どのような作品かお話しいただけますか?

クラシックとロックを2枚同時リリースは、ずっとやりたかったので実現できてとてもうれしいです。当初は「クラシックは白、ロックは黒」というイージーな発想でスタートしたのですが、演奏楽曲を決めレコーディングした音源を改めて聴いてみたら、「クラシックにはロックの雰囲気があり、ロックにもクラシカルな要素がある」と感じたのです。実際に、ロックアーティストでクラシックの素養を持つ方は少なくありませんから、ありきたりな「クラシック=白、ロック=黒」ではなく、もっとふさわしい色で表現すべきだと思い、赤と黒が浮かびました。また、私のギターのロゼッタ(サウンドホール周りの装飾)にバラのマークが付いているので、『BLACK ROSE』『RED ROSE』が相応しいなと思いました。

ーーバラは、強くて美しい女性をたとえるのにも使われますから、才色兼備でロックを愛する猪居さんにぴったりなタイトルだと思います。

ありがとうございます(照れ・笑)。今回取り上げさせていただいたアーティストや楽曲は、たとえばネオクラシカルというジャンルを切り開いたギタリストのイングヴェイ・マルムスティーンなど、クラシックがキーワードになっています。クラシック出身でロックに転身した方や、クラシックは通っていないもののクラシック楽器で演奏したときに美しい旋律になりそうだと感じたものを厳選しました。
今回は全てのアレンジを自分で手がけました。ロックのクラシックギター・アレンジというと、メロディーと伴奏、コードだけといった形になりがちですが、曲の中で重要なギターリフやベースライン、ドラムのビート感などを1つのアレンジに込めることを意識しました。オリジナル楽曲のファンが聴いても満足していただけるよう心を砕きましたので、ぜひじっくりと聴いていただきたいですね。

ーークラシック作品集『BLACK ROSE』には、どのようなこだわりが詰め込まれていますか?

こちらは、どこかロックを感じさせる楽曲を選びました。私の師匠である藤井敬吾先生の「羽衣伝説」も収録していますが、藤井先生もロック好きですし(笑)、そのためか「羽衣伝説」には、ロックっぽいリフが入っていたりするんです。
また、イタリア出身の作曲家であるマリオ・カステルヌオーヴォ・テデスコの「悪魔の奇想曲」は、ロックにも多大な影響を与えたイタリアの作曲家、ニコロ・パガニーニへのオマージュとして書かれたものです。私の1stアルバム「Black Star」などで、パガニーニの「カプリス」を収録しているので、私からのパガニーニへのオマージュも込められると思い、今回はテデスコを弾くことにしました。

ーー猪居さんのアルバムを手にしたことがきっかけとなり、音楽の世界がぐっと広がりそうです。

もし、そうだとしたらすごくうれしいですね。私のコンサートに足を運んでくださる方は、普段はロックを愛聴している方が多いのかなという印象です。そうした方に、クラシック曲の演奏を聴いていただくと、とても反応が良く、ロックとクラシックは相性がいいのかなと感じています。事実、先日大阪で行った本アルバム記念公演で、藤井先生の「羽衣伝説」を演奏したところ、たくさんの反響をいただきました。実は、演奏前は18分もある長尺の曲なので、少し不安もあったのですが、終演後にたくさんの方が「羽衣伝説が特に良かった」と言ってくださり、手ごたえを感じました。

ーープログレッシブ・ロックには、20分を超える長尺曲もあったり、展開も大きかったりしますから、ロックファンと親和性が高いのかもしれません。

そうかもしれませんね。MCで私が音大に通っていた経緯や藤井先生が恩師であることなどをお話しすると、「音大に通っていたんですか?」とか、「音大の先生もロックが好きなんですね」といった驚きや親しみをこめた声が聞かれました。今までいろんなところで、私の歩みなどをお話ししてきたとつもりでしたが、改めて自分のルーツなどをお話したことをお客様に喜んでいただけたのもよかったですね。
過去というと、私はロックバンドでエレキギターを弾いていた時期があったんです。同じギターでもクラシックとは全くの別物で、クラシックと同じようにはエレキギターを操れませんでした。ある種の挫折を味わいながらクラシックギターの世界に戻ってきた私が、人前で大好きなロックの名曲を演奏できることに純粋な喜びを感じます。その演奏を聴いたロックファンの方から、「ひずみが全くないからこそ、原曲の旋律の美しさが際立つ」と言っていただけると本当に演奏してよかったなと感じます。

ーーロックとクラシックという、異なる畑の両方に身を置いたからこその気づきや実感なのですね。

ええ。雑誌などの対談で、ロック界の方々から直接お話を伺う機会に恵まれていることも、多くの気づきや発見につながっています。ご本人が語ることで、「こうしたところを大事にされているんだな」と分かりますし、そこを大切にしたながらアレンジすることができるんです。
LOUDNESSの高崎さんと対談させていただいたときは、私のカバーを聴いて「あの曲、あんなにええ曲だったんだなと改めて思った」と嬉しそうにおっしゃって。すごく感激しましたし、クラシックギターの力を借りてロックのすばらしさを伝えることも、自分だからできる役目なのかなと感じるようになりました。

ーー21日の『CLASSIC×ROCK 2026 ーThe Two Rosesー』は、どのような公演になりそうですか?

先に行われた大阪では、昼夜の2回公演だったので、昼と夜で曲を変えてアルバム収録曲を余すことなく演奏しました。21日は、1回きりの公演ですので、アルバム2枚分をぎゅっと濃縮した内容になると思いますし、有名な曲をただ並べるだけでなく、ストーリーや関連性を感じられる選曲にしたいですね。
私の公演に来てくださるお客様は、豊富な音楽知識をお持ちの方も少なくないので、曲同士の関連性や物語が感じられるととても喜んでいただけるんです。ほかにも、この先につながるような、たとえば、アルバム曲以外の新しい挑戦や可能性を感じられるものなども取り入れられたらいいなと思っています。

ーークラシックとロックの垣根を飛び越えつつ、音楽的な知的好奇心も満たされる公演になりそうですね。

ありがとうございます。私のリサイタルには、「クラシックギターのコンサートに初めて来ました」というお客様が多いので、クラシック曲に関しては、「クラシックギターって、こんなところがかっこいいんですよ」と感じていただけるような曲を演奏したいと思っています。
私をきっかけに、少しでもクラシックギターに興味や関心を持っていただけるのは喜ばしいことですし、さらにもっと好きになっていただけるようなセットリストだったり、演奏、MCを心がけたいですね。

ーーでは最後に、2026年の目標や挑戦したい夢についてお話しいただけますか。

このクラシック・ロックシリーズも4年目になり、この夏には初めてのゲストとして宮本笑里さんをお招きした公演『Twin Roses』が決まりました! あこがれのバイオリニスト・宮本さんと共演できる喜びと、クラシックギターとバイオリンの共演でどんな音楽が生まれるのか、いまから楽しみでなりません。
このほかにも「ROSE」シリーズとして、いろんなチャレンジをしていきたいなという気持ちもあります。ここ最近は、海外での公演にお声をかけていただく機会も増えているので、日本を飛び出して猪居亜美のクラシック×ロックを奏でたいとも思っているんです。
21日の『CLASSIC×ROCK 2026 ーThe Two Rosesー』は、そうした私の新章を予感させる内容になると思います。クラシックが好きな方、ロックが好きな方、どちらも満足感のあるプログラムを組んでいるという自負がありますし、生音だからこそ感じられる素晴らしさや、私が届けたい思いを体感していただけると思います。「ロックとクラシックってこんなに近づけるんだ、こんなに仲良くできるんだ」という発見やワクワク感を体験しに、ぜひ、会場に足をお運びいただきたいですね。

 

取材・文:橘川有子

公演情報

『CLASSIC・ROCK同時アルバムリリース記念公演 猪居亜美 CLASSIC×ROCK 2026 ーThe Two Rosesー』
 
日程:2026年2月21日(土) 14:00(13:30開場)
会場:浜離宮朝日ホール

出演:
猪居亜美(ギター)

価格
全席指定・税込:プレミアムシート¥7,500(前方席・直筆サイン入ポストカード付)、A席¥6,000

公演に関するお問い合わせ
Mitt
TEL:03-6265-3201(平日12:00~17:00)
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