金川真弓(ヴァイオリン)インタビュー バッハの無伴奏ソナタ&パルティータ全曲演奏に初めて挑む
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金川真弓(c)Kei Osada
近年目覚ましい活躍をみせる気鋭のヴァイオリニスト金川真弓。
この3月7日(土)・8日(日)に彩の国さいたま芸術劇場で、ヴァイオリニストにとって特別な作品である「J.S.バッハ 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ&パルティータ」の全曲演奏に初めて挑む。2日間にわたって行われる全曲演奏の構成や想いを聞いた。
バッハは人生においてずっとともにある存在
――今回、バッハの《無伴奏ソナタ&パルティータ》全曲演奏に初めて挑まれるということですが、これまで機が熟すのを待っていたのでしょうか?
私はふだん、わりといろいろな時代やスタイルを混ぜたプログラムをつくることが多いため、ひとりの作曲家にフォーカスしたプロジェクトは珍しいんです。でもやっぱりバッハは人生においてずっとともにある存在ですから。
私の師であるコリヤ・ブラッハー先生は、数年前に初めて無伴奏バッハの全曲演奏に取り組んだのですが、そのときに「初めての全曲演奏はもうちょっと若いときがいいよ」とアドバイスされたので、それ以来、機会があれば取り組もうと考えていました。私にとってはひとつの到着点というよりは、階段を一段上がるという感じです。
――3曲のソナタと3曲のパルティータを2日かけて弾くわけですが、演奏順はどのように決められましたか?
1日3曲ずつ弾くと通常のリサイタルより演奏時間が短くなりますし、どういった順番にするかはなかなか悩ましい問題です。ほかのヴァイオリニストたちがどうされているかも調べてみましたが、皆さんいろんな組み合わせがあり、なかには6曲を1日で弾く方もいて、とても想像できません(笑)。最終的には、それぞれの曲のエネルギーを思い起こしながら、どういうふうに組み合わせたらいちばん良いかを考えて決めました。
基本的には、2日間でひとつの「山」になるように構成しました。比較的馴染みやすいト短調のソナタ第1番とホ長調のパルティータ第3番を1日目の最初と2日目の最後に置き、1日目の最後にシャコンヌの入ったニ短調のパルティータ第2番、2日目の最初にいちばん長いフーガのあるハ長調のソナタ第3番として、そこにピークをもってくるようにしました。
コンサートのエネルギーの流れというのは何回かやってみないとわからないところもありますが、こうしたアイデアで組んでみて、音楽のエネルギーを感じていただければと願っています。
――6曲、それぞれに思い入れがありますか?
そうですね。それぞれの曲の自分とのつながりは違いますけれど、どの曲も思い入れがあります。ホ長調のパルティータ第3番は小学校3年生の頃に初めて習った無伴奏バッハで、学校の講堂でみんなの前で弾いたときにすごく緊張したことを覚えています。また、ハ長調のソナタ第3番はベルリンの音大でブラッハー先生に最初に学んだバッハでした。パンデミックのときには時間があったので、いちばん弾いていなかったパルティータを取り出して時間をかけて練習したのも糧になっています。
好きなところまで行けるそれが無伴奏の醍醐味
――最近では、バッハを弾くうえでモダン楽器の奏者も歴史的な奏法を取り入れていますが、金川さんはどんなアプローチをお取りですか?
たしかに私のまわりにはバロックをたくさん弾いている友人もいますし、私自身もある程度は歴史的な奏法に触れてきました──バロック・スタイルの弓やガット弦を用いたり、顎当てなしの楽器を弾いてみたり。当時の楽器で弾くと、これらの曲がもともとそんなにたやすく弾ける曲ではなかったことを実感します。歴史的なボウイングとか指遣いとかを試しつつ、モダンの楽器で弾くうえで理にかなったものを選ぶというのが私のスタンスだといえます。
でも、最終的にはいろんな弾き方をしても伝わる音楽だからこそ何百年も残ってきた音楽ですし、こう弾くべきというよりは、自分にとってそのときにいちばん訴えるものを弾きたいと思っています。
――無伴奏のリサイタルにはどんな心構えで挑んでいますか?
無伴奏のプログラムを弾くと、ソロ・リサイタルをメインに弾くピアニストへの尊敬が200パーセントになりますね(笑)。ひとりで何十分もの間ホールでのエネルギーを保つというのは大変なことです。最大4つの音しか弾けないヴァイオリンはピアノに比べて楽器の制限が多いですし。でも、ほかの奏者と演奏するときにはない自由、その瞬間にどの方向に行っても好きなところまで行ける点が無伴奏リサイタルの醍醐味でもあります。
――これまで彩の国さいたま芸術劇場の音楽ホールでは、小菅優さんとのデュオ、そしてエトワール・シリーズ プラスPart.1 の弦楽三重奏と2度ご登場いただいていますが、どんな印象をおもちですか?
とっても好きなホールで、室内楽にとても合うホールだと感じます。個人的には、ホールの温かい感じの木の色が好きですね。私、けっこう色に影響されるんです(笑)。ドイツではハウス・コンサートの文化が強いので、学生時代にはよく目の前にお客さんが座っているリビングルームで弾くことがありましたが、日本の木のホールの響きはほかでは経験できない気持ち良さがありますね。彩の国さいたま芸術劇場の音楽ホールでバッハを弾くのを今から心待ちにしています。
取材・文=後藤菜穂子(音楽ライター)/埼玉アーツシアター通信Vol.119より