夢幻の世界、心の機微――髙木竜馬が音で描く、色とりどりの"Pictures"~ピアノ・リサイタルツアー東京公演レポート

2026.4.9
レポート
クラシック

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髙木竜馬は、いま最も充実した音楽活動を行なうピアニストのひとりである。こどものころから国内外で演奏活動を続け、ウィーンとイタリアで研鑽を積み、2018年にグリーグ国際ピアノコンクールで優勝。一躍脚光を集めた。現在は幅広く演奏活動を展開する一方で、京都市立芸術大学で後進の指導にもあたっている。

2026年3月には2枚目のアルバム『Pictures』がリリースされ、そのCD発売時期と前後して、『髙木竜馬ピアノ・ツアー2026』が2月から全国6か所で開催されている。3月29日(日)に浜離宮で行われたリサイタルを聴いた。

リサイタルで演奏された曲目は、ムソルグスキー「展覧会の絵」を軸に、アルバムに収められた作品も取り入れられている。彼がプログラムで述べているように、「絵画的な情景が思い浮かぶ、色とりどりの」作品が並ぶ。なお、髙木は前回名古屋公演からカワイSK-EXのピアノをホールに運び込んで使用している。

プログラム冒頭は、グリーグ「抒情小品集 第1集」より「アリエッタ」。心に秘めたものを静かにすくい上げていくのような、きめこまやかなアプローチが心に残る。髙木特有の重みを帯びたあたたかなサウンドが、ホールをゆっくりと包み込み、聴く者を夢幻の世界へといざなっていく。続いて、「ペール・ギュント 第1組曲」より「朝」。音楽は、朝の霧を思わせる柔らかな質感の音で始まる。細やかにコントロールされたタッチによって清々しい響きが漂い、同時に音の色合いは徐々に明るさを増してゆく。透き通るようなリリシズムにみちたグリーグ演奏であった。

続いて、5曲からなるラヴェル「鏡」から、髙木は2曲を披露した。グリーグにおける清々しい音の風景は、第2曲「悲しき鳥たち」では哀しみの滲む鳴き声へと変わる。その哀しみは、彼の微細なタッチが作り出す時の間によって、デリケートに表わされる。そして、第5曲「鏡の谷」。音の霧のなかから浮かび上がってくる2度のモティーフは、微かに揺らぎ、空気の流れにのってホールの隅々まで響き渡る。そのこだまするようなサウンドは、透明感に満ちた美しさを湛える。そして曲の終盤、髙木は黄昏の風景を静かに描き上げた。

音楽は、そのままドビュッシー「月の光」(「ベルガマスク組曲」より)へ入っていく。静謐が支配する中、髙木は音をクリアーに響かせ、夜のしじまを創り上げた。

リサイタル前半を締めくくるのは、ショスタコーヴィチ「24の前奏曲とフーガ」第24番。バッハの「平均律クラヴィーア曲集」にインスピレーションを得て書かれた曲集であり、ショスタコーヴィチの第24番は、バッハの第24番と同じくニ短調で書かれている。

これまでの夢幻の音物語から一転して、髙木はリアリティの世界を披露。「前奏曲」を、重厚な和音で凄まじく始める。激しく感情を吐露したのち、弱奏において悲嘆の情感を静かに綴った。フーガに入ると、音のラビリンスの内奥に迫っていく。モティーフを丹念に少しずつ重ね合わせ、作曲家のさまざまな想いをじっくりと織り上げる。曲の後半、さらに緊張度を高め、巨大な音の構築物を形成。そして、全身全霊を傾けてD(レ)の音を打ち鳴らし、演奏を結んだ。

休憩をはさんで、リサイタル後半の冒頭は、ラヴェル「亡き王女のためのパヴァーヌ」。前半のラヴェルと同様に、髙木は音の遠近を緻密に捉え、同時に多彩な色合いを生み出していく。そして、心地よいテンポで、典雅な趣をうっすらと漂わせた。

プログラムの締めくくりに、髙木はムソルグスキー「展覧会の絵」を置いた。彼は、「この作品を最初に弾いたのは16歳」と言い、「長く人生を共に歩んできた」とプログラムに記している。ウィーン音大時代に「展覧会の絵」の論文を執筆し、グリーグ国際ピアノコンクールのセミ・ファイナルでもその曲を取り上げるなど、彼にとって重要な位置を占める作品である。奇を衒うような表現はなく、作品の持ち味を最大限に引き出そうとする真摯な姿勢が心に残った。

画廊に展示された絵画の間を歩む情景が示された「プロムナード」は、多彩な表情に富み、ムソルグスキーの心を映し出しているかのようである。

最初のプロムナードののち、第1曲「小人」では、エッジの効いた打鍵でグロテスクな表情を抉り出す。音楽に深く没入し、作品が持つキャラクターを情感豊かに表現していく。その演奏は、深く繊細なタッチで、それぞれの曲の素顔をすぐれて視覚的に描き出す。第3曲「チュイルリーの庭」と第4曲「ビドロ」を続けて演奏し、対比させつつひとつながりにまとめ上げていた。その苦渋に満ちた最後の音が消えていくさまに、儚さを覚える。

髙木の生み出す音は複合的だ。明るいトーンであっても、同時に深い影を帯び、暗い音の中にも光を感じさせる。終曲の「キエフの大門」でも、壮麗に鳴り響く鐘の音に、深い翳りをまとわせる。ロシアのメランコリーを強く感じた。

アンコールは、シューマン「トロイメライ」。

弾き終えた後、髙木は「今日は出し尽くしたな……」と語った。その言葉が象徴するような、燃焼度の高い演奏を示していた。

取材・文=道下京子 撮影=山崎ユミ 

公演情報

髙木竜馬 ピアノ・リサイタルツアー2026 "Pictures"
 
出演:髙木竜馬
 
予定曲目
グリーグ:抒情小品集 第1集「アリエッタ」作品12-1
グリーグ:ペール・ギュント 第1組曲「朝」作品46-1
ラヴェル:『鏡』より 第2曲「悲しい鳥たち」、第5曲「鐘の谷」
ドビュッシー:『ベルガマスク組曲』より 第3曲「月の光」
ショスタコーヴィチ:24の前奏曲とフーガ 第24番 ニ短調 作品87-24
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ
ムソルグスキー:展覧会の絵
 
日程:
2月21日(土)岡山・岡山県立美術館ホール 終了
2月23日(月)徳島・阿南市文化会館・夢ホール 終了
3月21日(土)愛知・電気文化会館 ザ・コンサートホール 終了
3月29日(日)東京・浜離宮朝日ホール 終了
5月2日(土)千葉・千葉市文化センター アートホール
5月30日(土)京都・京都コンサートホール アンサンブルホールムラタ
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