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駒田一×東山義久×桐山照史が語る、ミュージカル『ミス・サイゴン』エンジニア役の深淵と「アメリカン・ドリーム」への渇望

2026.5.14
インタビュー
舞台

(左から)桐山照史 駒田一 東山義久

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ベトナム戦争末期のサイゴンを舞台に、ベトナム人少女・キムと米兵クリスの悲恋を描いた大ヒットミュージカル『ミス・サイゴン』がキャストを新たに4年ぶりに再演される。今回SPICEは、キムが働くキャバレーの経営者・エンジニアをトリプルキャストで演じる駒田一、東山義久、桐山照史にインタビュー。駒田は2014年から、東山は2020年から、そして桐山は今回が初めてのエンジニア役。キャリアも年齢も役者としての出自も異なる三人に、現時点での意気込みや作品の魅力を語ってもらった。

――実に4年ぶりの再演となります。新キャストの方々も増えましたが、改めて『ミス・サイゴン』の魅力はどんなところにあると思いますか?

駒田:とにかく音楽が素晴らしいです。クロード=ミシェル・シェーンベルクが手がけた音楽が物語を時にマイルドに、時に情熱的に表現していて、ミュージカルを初めて観るような方でも、心に来るものがあるんじゃないでしょうか。僕も、製作発表記者会見の歌唱披露を聴いて、泣きそうになりましたもん。

東山:思い出しましたよね、4年前を。

駒田:うん。内容がいまいち分からないという方も、音楽だけでも楽しめるはずなので、若い方にも観てほしいし、年配の方にも観てほしいです。ベトナム戦争を題材にしていることもあり、世代によって見え方が違うはず。そこも、この作品の面白さだと思います。

東山:『ミス・サイゴン』は、物語の中に敵が出てこないんです。登場人物の外側に“戦争”という大きな敵はあるけれど、その中で皆が懸命に生きている。エンジニアはエンジニアの、キムはキムの人生を、どんな手段を使ってでも生き抜こうとしているんですよね。それぞれの生命讃歌、人間讃歌だと僕は思っています。一人ひとりのキャラクターがどう生き抜いたかを見届けると、作品の素晴らしさ、面白さがもっと伝わるはずです。

――桐山さんは今回、初参加となります。現時点で『ミス・サイゴン』の面白さはどんなところにあると感じていますか?

桐山:すごくスピード感のある展開なのに、ドラマがすごく多くて。皆が皆、大きな思いや愛を抱えて動いているのに、その矢印が上手く重ならず、もがき続けている。その様子がお客さんに届いた時、面白いと感じてもらえるのかなと思っています。あとは、やっぱり音楽が素晴らしいというのはいろんな方から聞くので、早く稽古に入りたいです。音楽の力も上手く使いながら、エンジニアの感情を表現できるようになりたいです。

テナルディエとエンジニア、どちらもやっている役者って、僕しかいないんですよ。(駒田)

駒田一

――エンジニアという役の魅力を教えてください。

駒田:僕は、初演を観た時から「いつかエンジニアをやりたい」と思っていました。というか、エンジニアにしか興味がなかった。なぜかというと、お客様に直接語り掛けられる役だからです。第四の壁を取り払ってお客様と一緒に盛り上がるのが、役者として好きなんです。それから、僕は『レ・ミゼラブル』でテナルディエを演じたのですが、『レミゼ』でもテナルディエしか興味がなかった。共通点としては、エンジニアもテナルディエも、演出家に「その時代に道を歩いていて、石を投げたら当たるような存在だ」というようなことを言われたことがあるんです。つまり、その時代によくいた人物なんですよね。それで一つ自慢したい事があって。テナルディエとエンジニア、どちらもやっている役者って、僕しかいないんですよ。やったぁ!(笑)

東山:エンジニアはミュージカル好きの人なら誰もが目指す役。だから、稽古の最初はすごく緊張しました。いきなり歌の稽古で、皆の前でマイクを持って一人ずつ歌うんです。他の共演者の皆さんが、もう最初から完璧で。僕は自分の番が来る前日から緊張で吐きそうでした(笑)。でも、稽古を重ねて本番の舞台に立って「アメリカン・ドリーム」を歌っているときに見る景色はすごいんです。この光景を一人で見ることができるのは、なんて贅沢なことだろうと思ったし、プライドや責任感も感じました。さっき、一さん(駒田)が「テナルディエとエンジニアを演じたのは自分だけ」とおっしゃっていましたけど、それで言うとダンサー出身でエンジニアを演じたのも僕しかいないと思います。僕の幅を広げてくれた役としても、エンジニアは自分の中で大きな存在です。

――桐山さんが『ミス・サイゴン』のオーディションを受けるにあたり、クリスやジョンではなくエンジニアを志した理由は?

桐山:おっしゃる通り、最初はクリスやジョンのオーディションを受けるのかなと思っていました。前回の舞台を観劇してみて、エンジニアってもっと歴を重ねないとできない役だと思っていたので。それでもいろんな方とお話する中で「エンジニアが似合っている」と言ってもらえて、シフトチェンジして。細かいところはこれから稽古を通じて掴んでいきたいですが、個人的に、自分とエンジニアはずる賢いところが似ていると思っていて(笑)。僕、お母さんの前で見せる顔と、友達の前で見せる顔と、アイドルとして見せる顔、それぞれ違うんです。エンジニアもいろんな顔を持っていて、それは役を掴めたらめちゃくちゃ楽しいだろうなと思っています。1個の役なのに、5個くらいの役をやっている感覚になるんじゃないかと。

「アメリカン・ドリーム」という曲は、妄想と野心が半音ずつ膨れ上がる様子を表している(東山)

東山義久

――エンジニアは代表曲「アメリカン・ドリーム」にもあるように、アメリカに憧れている経営者です。エンジニアにとって、アメリカとはどのようなものだと捉えて演じていますか?

駒田:「アメリカン・ドリーム」の歌詞に出てくるまんまですよね。運転手付きのキャデラックや葉巻、博打、グラマーな女性……。実際に行ったことはなくて、雑誌とかで見て知っているだけの知識だから、本当はアメリカってそれだけじゃないのに、夢を見ている。

東山:エンジニアは誰よりも少年なのかなと思います。彼の頭の中だけにある理想のアメリカ、そこに行けば、自分は他の奴らとは違うって証明できると思い込んでいるというか。「アメリカン・ドリーム」という曲は、同じメロディが半音ずつどんどん上がっていく構成になっているんですが、それがアメリカに対するエンジニアの妄想がどんどん膨らんでいく様子を表しているんですよね。

駒田:あとはお金だよね。自分が見てきたアメリカ兵たちがクラブで気前よくお金を払ってくれるから、アメリカに行けば儲かるぞと思い込んでいる。多分そんなことはないんだけどね(笑)。

――桐山さんは今の話を聞いていかがですか?

桐山:本当に今お二人がおっしゃってくれた通りというか、自分の中で人伝に聞いたアメリカの話がどんどん脚色されて大きくなっていて、エンジニアはその根拠のないアメリカに対して、目をギラギラさせているんだなと。……すみません、まだ台本すらもらっていないんで、現時点では「どんなセリフがあるんだろう」って想像しているくらいで、あまり細かいことが言えないんですけど(笑)。

駒田:でも、その想像もヒントになるかもしれないね。

――改めて、エンジニアの先輩として駒田さん、東山さんから桐山さんに向けて伝えたいことはありますか?

東山:僕は一さんほどの回数、演じているわけでもないし、4年前はコロナ禍明けですごく厳しい状況だったから、今回は桐山くんと一緒の立場だと思っています。だから教えることなんて何もなくて。桐山くんがエンジニアとして新しいことをやってくれるからこその2026年版になると思うので、僕が彼の姿から勝手にいろいろ盗んでいきたいです。

駒田:僕も先輩から「お前はお前のエンジニアを作ればいい」と言われてきたので、言いたいことはそれだけです。前回、(伊礼)彼方にもそう言いました。だって、ここ(駒田)とここ(東山)が同じ役を演じるんですよ!?違って当たり前じゃないですか。ここ(駒田)とここ(桐山)はちょっと似てるかもしれないけど。

東山:いやいや、髪の色から違うじゃないですか(笑)。

桐山:(笑)。

駒田:結局は自分のエンジニアを作ればいいだけ。もちろん、動線とか出入りとか間とか、そういうのは全部教えるつもりです、惜しみなく。板の上のことは教えることはできないですから。

東山:共有して揃えるということもしないですしね。

駒田:うん。なのでもう観て盗んでもらうというか、参考になるようなことを拾ってもらって、照史なりに解釈したものを演出家と相談して。じゃあ照史はこういうエンジニアだねという稽古になると思う。僕もそういうふうにやってきたから。僕から「お前の芝居はこうだ」とか偉そうなことは言えませんよ。僕なんかまだまだだから。なので、皆で作り上げていけたらと思っています。僕はね、仲良くなれると思っているんで。照史がどう思っているかは分からないけど……。

東山:仲良くしてあげてください(笑)。

桐山:いやいや、もう仲良いと思ってましたよ!(笑)

稽古で自分なりのエンジニアを作っていくのもすごく楽しみです(桐山)

桐山照史

――桐山さんはお二人の言葉を受けて、いかがですか?

桐山:もう、本当に心強いです。グランドミュージカルも初めてで、違う畑に入らせていただいている感覚ですし、この役をやりたかった人もたくさんいると思うんですよ。それこそ、坂本昌行くんにも出演することが決まった時に「お前、エグいな!」と言われて。

東山:あぁ~。坂本くん、めちゃくちゃ似合いそうだね。

桐山:なのでこれからも色々話を聞いてみたいですし。そもそも、照史は照史なりに、一さんは一さんなりに、って自分で作っていく感じの稽古を受けることも今まであまりなかったので、稽古で自分なりのエンジニアを作っていくのもすごく楽しみです。

駒田:もちろんキャラクターのベースはあるけどね。それをどう処理するか。0から1を作るんじゃなくて、1を3にも4にも10にもできる。

桐山:そうですね。稽古中に色々相談させてもらって、自分の中でたくさん考えていきたいです。まずはもっともっと時代背景を頭に叩き込まないとなと思っています。

駒田:そういうのも大事だね。ひょっとしたら、スクールで映像とか見せてもらえるかも。毎回あるんですよ、戦争の歴史を勉強する時間みたいなのが。今はYouTubeとかでもいっぱい出てくるしね。いい時代ですよね、参考資料がいっぱいあって……でも、ベトナムにも行ったんだもんね?

桐山:行きました、2月に。もちろん当時とは色々違うと思いますけど、やっぱり温度感というか、湿度というかを肌で感じられたのは良かったですし。あとはネオン街を見て、こういうところで一生懸命みんな体を張って働いていたんだろうなとか想像して。これからもっと勉強していきたいです。

――桐山さんは、お二人から盗みたいことはありますか?

桐山:これまでミュージカルには何回か出させていただいているんですが、製作発表で歌を歌うのも初めて。初めてのことばかりなので、もう、ほぼ全部盗みたいです。

駒田:あ、楽屋に財布置いてあるよ(笑)。

桐山:アカン、アカン!(笑)でも多分、お芝居のこともそうですけど、稽古場の居方とかコミュニケーションの取り方とか、エンジニア役以外の方からも学べるものはたくさんあると思うので、全体を見て勉強させてもらいたいなと思っています。

取材・文=井上明日香 撮影=iwa

公演情報

ミュージカル『ミス・サイゴン』
 
オリジナルプロデューサー:キャメロン・マッキントッシュ
作:アラン・ブーブリル/クロード=ミッシェル・シェーンベルク
製作:東宝
 
出演:
エンジニア:駒田 一/東山義久/桐山照史(交互出演)
キム:屋比久知奈/清水美依紗/ルミーナ(交互出演)
クリス:甲斐翔真/小林 唯(交互出演)
ジョン:チェ・ウヒョク/金本泰潤(交互出演)
エレン:エリアンナ/加藤梨里香(交互出演)
トゥイ:岡 シモン/吉田広大(交互出演)
ジジ:則松亜海/藤森蓮華(交互出演)
 
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2026年~2027年 公演情報
 
【東京公演】
2026年10月・11月
東京・東急シアターオーブ

 
【全国ツアー公演】
2026年12月
大阪・梅田芸術劇場 メインホール
福岡・福岡市民ホール 大ホール
2027年1月
静岡・アクトシティ浜松 大ホール
北海道・札幌文化芸術劇場 hitaru