屋比久知奈×清水美依紗×ルミーナ、ミュージカル『ミス・サイゴン』三人のキムが語る強さ
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(左から)ルミーナ 屋比久知奈 清水美依紗
4年ぶりに再演される大ヒットミュージカル『ミス・サイゴン』。ベトナム戦争末期のサイゴンを舞台に、キャバレーで働くベトナム人の少女・キムと、米兵・クリスの愛と別離を壮大な音楽に乗せて描く。今回、キムを演じるのは屋比久知奈、清水美依紗、ルミーナの三人。2022年以来再びキムを演じる屋比久と、今回が初参加となる清水、ルミーナに、役柄や作品について聞いた。
――先日、製作発表記者会見も行われましたが、率直に今、作品に向かう心境を教えてください。
ルミーナ:始まる! って感じです。
屋比久・清水:(笑)。
清水:本当だよね。去年、(ルミーナと一緒に)舞台をやっていた時に「『ミス・サイゴン』まであと1年あるね」なんて話をしていたんですが、気づいたらもう製作発表で。怖い! という気持ちはあるけれども、同時にワクワクも混ざっています。
屋比久:製作発表で久しぶりにキャストの皆さんにお会いできて嬉しかったです。でも、めちゃくちゃ緊張しました。あとは、この三人で歌えて嬉しかったです、本番では一緒に歌えないから。
清水:そうだね。
ルミーナ:出演することができて光栄な限りです。成長した姿を見せられたらと思います。
――清水さん、ルミーナさんは今回、初参加となります。
清水:ニューヨークにミュージカルを学びに行ったとき、初めて授業で歌った課題曲がキムの「命をあげよう」だったんです。そのときからキムという役は私の中で特別な存在で、いつか演じたいと夢見てきました。なのでまだ、夢のような気持ちです。
ルミーナ:10数年前の自分のSNSを見返していたら、『ミス・サイゴン』を何回か観劇していて「(キムは)いつか絶対にやりたい役」と書いてありました。今こうして出演が決まり、大先輩の皆様や心強い二人と一緒にできることが幸せです。大切に、キムとして生き抜きたいと思います。
この作品の登場人物は皆、すごくできた、正しい人間ではないんです(屋比久)
屋比久知奈
――屋比久さんは2020年、2022年に続いての出演です。
屋比久:この作品、そしてキムという役は、私の沖縄出身というルーツも含めて、自分の大事なコアとして強く残っていました。なので、またこうして参加できること、キムとして生きられることを嬉しく思っています。ルミと美依紗という、とても頼もしい、新しい風にきっと刺激を受けると思うので、私自身もまた新たな気持ちで、精一杯務めさせていただきたいです。
――キムという役柄の魅力について教えてください。
屋比久:個人的にキムは、初めて観たときも初めて演じたときも、苦労なく気持ちの理解ができた役でした。なので今回も、その自分の感性を信じて生きていきたいと思っています。キムに限らず、この作品の登場人物は皆、すごくできた、正しい人間ではないんです。そもそも戦争という、絶対に正しくないものがテーマだからこそ、その中で生き抜いていかないといけないキムは、決して理想的な女性ではないと思う。でもその人間くささこそが彼女の魅力で、大事にしていきたいと考えています。
清水:“人間くささ”、そうですね。登場人物それぞれの人間くささと音楽が結びついたとき、人間の弱さや強さにメロディーが重なり合い、『ミス・サイゴン』の世界が生まれているのだと感じます。キムという役は、最初はすごくピュアな存在として登場しますが、物語の中でいろんな経験をして、子どもを産み、生きるために多くの選択を重ねながら、少しずつ変化していきます。その時々の心情は、実際に舞台の上でキムとして生きてみないと分からないことも、きっとたくさんあると思うので、これから演じていけることがとても楽しみです。
ルミーナ:キムは、本当はすごく愛を受けて育った子なのではないかと思っています。お母さんや家族を大事にする描写があるので。もちろん、今回の演出家がどんなキムを表現したいかは、まだ自分はお話ししていないので分からないんですが。愛を知っているからこそ、人を愛することができる。戦争という環境を一人で生き抜き、大事なものを守り抜く芯の強さ。そういうところが魅力だと思っています。
キムは、人間らしさ、泥臭さを強さに変えて生きている(清水)
清水美依紗
――キムはすごく強い女性だと思うのですが、その強さの根源は何だと思いますか。
屋比久:個人的に、キムはあの環境にいるのにすごくピュアだなと思っていて。そのピュアさ、真っ直ぐさが強さなのかなと、今この質問を受けて考えました。
清水:稽古が始まったらまた印象が変わるかもしれませんが、現時点で私が感じているキムの印象は、“自分を信じる力”が強い女性だということです。もちろん繊細なところもあるんですが、強くあるべきときには強くなれる。その人間らしさや泥臭さを、自分の強さに変えながら生きている人物なんだなと感じています。
ルミーナ:キムはすごく素直で正直な子だと思っています。そしてその素素直さは、親からもらったものなのかなとも。家族をすごく大切にする子だからこそ、家族を失った悲しみから立ち直らないといけない、どうにか自分は生きていかないといけないという強さが生まれていくのかなと今は思っています。稽古が始まったら、また変わるかもしれないんですけど。
屋比久:ちょっと頑固というか。こうと決めたら「こうです!」って感じ。
ルミーナ:自分を貫く強さはあるよね、すごく芯のある子というイメージです。
――製作発表では三人で「命をあげよう」を歌唱されました。現時点で、歌うときの心構えや、歌ってみた感想などあれば教えてください。
屋比久:何度歌っても慣れないです。慣れないというか、常に緊張するし、常に不安で。でも、毎回本当に必死で歌っています。もちろん事前にしっかり音を当てられるように練習するんですが、本番になって気持ちが入ると、正直もうそれどころじゃないというか。だからと言って、気持ちが入りすぎて歌が崩れるのも嫌なので……。とにかく必死に歌い続けるしかない楽曲です。私は二人(清水・ルミーナ)がソロでフルで「命をあげよう」を歌っているのをまだ聴いたことがないので、それが楽しみです。二人の歌を聴いて刺激を受けることもきっとあるだろうから、早く聴きたいです。
清水:もともと英語の歌詞で歌っていたので、日本語で歌うと本当に難しいんです。もちろん日本語には日本語の良さがあるのですが、英語に比べると情報量が少なくなる分、気持ちと歌を結びつけることがすごく難しいと感じていて。感情が昂っていくにつれて、メロディーにうまく乗せられなくなるという壁も、オーディションの時点ですでに感じていました。でも、だからといって気持ちを抑えすぎてしまうのも違う気がするんですよね。
屋比久:うんうん。
清水:でもその必死さがきっと人間くささに繋がるんだと思うので、一生懸命歌います。
ルミーナ:本当にお二人の言う通りです。息子のタムを守るという強い想いが、お客様に伝わるように歌えたらいいなと思います。『ミス・サイゴン』の音楽自体、もうすでに完成されているものなので、音楽を信じて、自分が何を伝えたいかを意識していけたらと思っています。
今も世界のどこかで起きている。それを認識するだけでも違うと思う(ルミーナ)
ルミーナ
――ご自身が思う、作品の見どころを教えてください。
屋比久:音楽はこの作品の一番の強みで、私が感動した部分でもあります。毎日生きるために一歩一歩という人間のエネルギーや、群衆の声が合わさったときの力を感じます。私は毎回、歌稽古の第一声目でそれを感じて、胸に来る瞬間があります。
清水:私はクリスとの結婚のシーンが一番幸せなんじゃないかと思うので、そのシーンが一番好きです。このカンパニーの皆さんと一緒に人間臭さを見つけ、「愛のために、自分の子どものために命をあげるってどういうことだろう」と深く掘り下げながら演じていきたいです。
ルミーナ:きっとお客さまは、観劇後にすごく心が重くなると思います。決してハッピーな気持ちで外に出られる作品ではないのですが、それぞれのキャラクターは最善の選択をして人生を生きています。その人生が壮大な音楽、壮大な世界観を通じて生々しさもありつつ見えてくるのが、作品の魅力だと思います。
――『ミス・サイゴン』という作品を通して伝えたいメッセージはありますか。
清水:やはり、今の世界情勢を強く重ねてしまいます。『ミス・サイゴン』の中で描かれているような戦争が、今この瞬間も世界のどこかで現実に起きている。私たちが暮らす日本は平和ですが、こうしている間にもどこかで誰かが命を落とし、誰かが涙を流しながら苦しんでいて。その現実を決して忘れてはいけないと思いますし、だからこそ、この作品を責任を持って届けていきたいと思っています。
屋比久:今、美依紗が言った通りですよね。戦争のニュースを見て衝撃を受けるけど、日本はありがたいことに平和で、どこか他人事に感じてしまう自分もいて。でも、キムという人間を生きることで他人事じゃなくなる経験ができる。それは観ているお客様も同じだと思うんです。観劇を通じて作品の中で起きていることを体験して、一人ひとりが「戦争は良くないよね」「平和がいいよね」と身をもって思うことで、何か変わるかもしれないと思っています。と同時に、音楽や芸術の素晴らしさを感じてもらえたらいいなとも思っています。素晴らしい芸術がメッセージを伝える手助けをしてくれる、それが芸術の強さだと思うので、私は必死にやるだけです。
ルミーナ:残念なことに、『ミス・サイゴン』で描かれている物語は、映像も残っているくらい最近の話なんですよね。また、同時に今も『ミス・サイゴン』のような状況が、世界のどこかで起きている。それを認識するだけでも違うと思うし。観る方によっていろんな解釈があると思うので、皆様の心でそれぞれ感じていただけたらなと思います。
取材・文=井上明日香 撮影=荒川潤
公演情報
作:アラン・ブーブリル/クロード=ミッシェル・シェーンベルク
製作:東宝
エンジニア:駒田 一/東山義久/桐山照史(交互出演)
キム:屋比久知奈/清水美依紗/ルミーナ(交互出演)
クリス:甲斐翔真/小林 唯(交互出演)
ジョン:チェ・ウヒョク/金本泰潤(交互出演)
エレン:エリアンナ/加藤梨里香(交互出演)
トゥイ:岡 シモン/吉田広大(交互出演)
ジジ:則松亜海/藤森蓮華(交互出演)
2026年10月16日(金)~11月29日(日)
東急シアターオーブ
2026年12月
大阪・梅田芸術劇場 メインホール
福岡・福岡市民ホール 大ホール
2027年1月
静岡・アクトシティ浜松 大ホール
北海道・札幌文化芸術劇場 hitaru